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地方で生きるパスポート

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「地方で努力してるとね、地方でしか使えない共通パスポートみたいなのを手に入れられるんです。それがあればどこの地域に行っても活躍できる。欲しくないですか、その強烈なパスポート。この7ヶ月間はそれを身につける時間です」

これは株式会社あわえの山下さんの言葉です。

MCS3_秋祭り参加_2016 日本の地方を元気にする。

株式会社あわえは、そんな企業理念をもって徳島県にオフィスをかまえた会社です。

あわえを立ち上げて4年。あわえはWebデザインや映像編集、ライティングといった技術を、プロから学びながら地域で働く研修事業“クリエイターズスクール”を開催してきました。

今年も開催されることが決まっています。

今回はそんなクリエイターズスクールに参加する人の募集ですが、期間を終えたスクール生は、希望によってはあわえのメンバーとしても働くこともできるそうです。

スクールでは技術の習得ができる上に、地方で働く上で必要な「パスポート」の取得方法も学べます。

地方で暮らすことに興味のある方、地域の課題を解決してみたいという方。自分の力を試す、またとない機会だと思います。



徳島空港から車を走らせること1時間少々。

山を越えると現れる、こじんまりとした町が美波町。窓を開けると、かすかに海の匂いがする。

あわえのオフィス「初音湯」は、海沿いに民家がならぶ狭い路地にある。

私があわえを訪れるのは今回で2度目。なかに入ると、「お元気でした?」「お昼行きましょう!」とスタッフのみなさんがぞろぞろ出てきてくれた。

IMG_6531 この人懐っこい感じが、なんともあわえらしいと思う。

お腹を満たして、お話をうかがったのは取締役の山下さん。4年前に代表の吉田さんと一緒に、あわえを立ち上げた方。

もともとWebデザインを生業にしてきた。在宅勤務の延長でどこででも仕事ができる仕組みを考え、この美波町にやってきた。

IMG_6526 あわえの仕事は、地域で仕事になりそうな芽を見つけては、行政や全国の企業に提案すること、というとわかりやすいかもしれない。あわえが提案した仕事に関わる移住者はどんどん増えているそうだ。

「今回のスクールは7ヶ月間。僕らは技術を教えます。でも本当は、技術を使う意味を考えられる、そんな力を持った地域ブランドのクリエイターを育てたいと思っているんです」

“技術を使う意味”を考えられる人。

わかるような、わからないような。すると、パソコンを開いてある映像を見せてくれる。

「たとえば、第三回のクリエイターズスクールでは、消防団員を募集するための映像をつくったんです」

見せてくれたのは、消防訓練と団員のインタビューシーンがなめらかに交差するプロモーションビデオ。

自治体がつくりがちな単調なものではなくて、リズムよく町民の生きた言葉が使われている。インタビューされる移住者と地元の団員が、入り混じって協力している様子が感じられるような構成だ。

「美波町の消防団は移住者も受け入れていて、地元の隊長が彼らの面倒をみてるんです。内も外も関係なく人を受け入れる、というのが美波町の能力」

「このときは、消防団の映像を通して美波町の能力が伝わるような映像を企画しました」

動画編集_講義風景 町の能力を伝える企画。もう少し詳しく知りたいです。

「僕はどのまちにも必ず能力があると思っていて。地域で生きるクリエイターは、その能力を正確に理解して、どうしたらそれを分かりやすく伝えられるかを考え続けないといけないと思っています」

技術を使うもっと手前を考えるということ?

「そうそう。地方って、本当はいいものなのに見せ方が下手なせいでマイナスに見えてしまっていることがすごく多いんです。そこを切り替えてあげるだけで、移住やビジネスの問い合わせがくることがある」

地元の人たちでさえ気づけなかった地域の能力が、実は都会に劣らないものだと伝えることができれば、もっと地方に目を向けることもできるかもしれない。

「たとえばインターネット回線に頼らなくてもいい独自の通信ネットワークを開発した企業さんがいるんですけど。500円玉大のデバイスでネットワークにつなげられるその技術の活かし方を、都会では見つけられなかったんです」

「でも高齢化の進む地域でなら “見守りチップ”みたいなかたちで実用化への実証実験ができるかもよって提案してあげる。地方の持っているもので都市の企業の課題解決もできるっていうことです」

つくりたいのは、地方に目を向けるきっかけになるクリエイティブ。

大浜海岸 「そういうものをつくるには必要なことがあるんです。それがまちの人たちとの関係づくり。それがつくれないと、地域の本当の姿や能力、抱えてる問題はわからないし、まちの人に協力もしてもらえませんから」

「クリエイターズスクールで学んでほしいのは、技術だけじゃないんです。まちにどっぷり浸かって、まちの人たちと関わってほしい」

美波町の人たちが移住者をこころよく受け入れてくれていることや、消防団にどんなパーソナリティの人たちがいるのかは、町民と交流していないとわからないこと。

「もし違う地域でものをつくることになったとして、最初はきっとよそ者扱いを受けるんです。でも、地元の方とお話しするときに『それ美波町でも僕ら経験しましたよ』みたいな話をするだけで、あ、こいつわかってるなって、ちょっと打ち解けたりできる」

静岡の港町で仕事をしたときのこと。美波町のある漁師と仲が良いと話をしたところ、実はその漁師の船が出入りする港だったらしく、すぐに仲間に入れてもらえたこともあったそう。

まちの人たちとの関わりこそが、地方で生きるためのパスポート。

あわえの皆さんはとにかく町の人として生活し、交流していくことを大事にしているそうだ。



クリエイターズスクールでは、座学での講義や技術指導をある程度済ませたら、そのあとは実地で学ぶ機会を多く取る。

1年前に、クリエイターズスクール生からあわえのスタッフとなった小川さんにもお話を聞かせてもらいます。

IMG_6550 奈良出身の28歳。いずれは地元にもどって本屋さんをやりたいという夢を抱いているそう。

「カリキュラムは毎年変わっていますが、僕ら2期生のときはodoriを舞台に、ブランディングのための冊子や映像をつくったりしました」

odoriというのは、以前日本仕事百貨でもご紹介した美波町の産直レストランのこと。地域産業の出口支援として、あわえがプロデュースしたお店です。

2回目のスクールは4ヶ月という短い期間だったものの、小川さんはこの仕事の面白さにのめり込み、美波町に残ることを決めた。

「地元の生産者さんは美味しいものを採ってくるプロではあるけれど、それを伝えるプロではないんです。こういう地域には伝える技術が必要だっていうことは自然と感じられましたね」

動画撮影_MCS3_2016 スクール終了後も、odoriの企画・運営を担当。1年以上odori漬けの生活をしている。

「美波町にはodoriの仕事をやりたくて残ったけど、最近は仕事ばっかやと結構しんどいなって思ってて」

「すぐそばにきれいな海があるけど、僕は釣りもサーフィンもそんなに興味ないし。だから最近は気分転換に畑仕事をはじめたところなんです(笑)」

これが実は仕事に役立つこともあるのだそう。

小川さん自身が畑仕事をするなかで感じた、虫の駆除方法といった疑問を話のタネにすることで、生産者の方との距離が近づくことがあった。まさか畑仕事がパスポートだったとは。

「ほんまにリアルな話、スクールのときは、本当はこうしたいという生産者さんのリクエストを聞くところまではいけなかったんです」

「でも自分も畑仕事はじめましたよ、みたいにしてコミュニケーションを取り続けたら、ようやく目を見てしゃべってくれるようになった感じはあります」

価値観も年齢も違う地域の人との関係づくりは、簡単にできることではありません。

けれど、たとえばお祭りや会合など“出役(でやく)”と呼ばれる地域ならではの役割を引き受ける、そういったところから突破口が見つかることも。

小川さんも町内の総会で一度あいさつをしたところ、どんどんまちの人とのコミュニケーションが増えていったのだそう。

仕事、趣味、そして出役のバランスをうまく取れることが、地域で生きていくためには求められること。クリエイターズスクールはそれを学ぶ時間と言えるのかもしれません。



この4年間であわえが美波町でつくってきた仕事はいくつもある。

たとえば企業のサテライトオフィス誘致、odoriのような地場の産物をつかった6次産業化の仕組みづくり。

特殊な技術を持つ企業を美波町に呼び、都会ではできないような事業の実証実験を行うといったこと。

まだまだあわえの事業としては道半ばな部分も多いけれど、今までつくってきた仕組みをパッケージにして、全国に売っていく取り組みもはじまっている。

そんなあわえのこれからを引っ張っていくだろう新メンバーが、酒井さん。

ご家族と一緒に美波町へ移住、大手広告代理店からあわえにこの春転職しました。広報のプロとして、スクール生にもさまざまなことを教えてくれる存在になりそうです。

IMG_6545 「過疎化の進む地方って、日本や世界の最先端の課題を持った地域だと思うんです。そこでの誠実な解決策をあわえは事業として成り立たせようとしてる」

「そんなの誰もやっていないブルーオーシャンだし、大きなチャンス。あわえの取り組みはものすごい面白いことだと思います」

奥さまとまだ小さなお子さんを連れての移住だったけれど、あわえへの転職に迷いはなかったそう。

「今回“クリエイターズスクール”っていう名前ではあるんですけど、ある程度自分でスキルを身につけたら、自分で課題や地域の力をさがしに行って、それを自分で表現して、発信して、っていうことをどんどん行っていってほしい」

講義風景_MCS3_2016 「大学のゼミみたいなイメージですね。もちろん間違った方向に行っていたら僕たちスタッフで軌道修正はしていきますよ」

あわえの仕事のかたちもどんどん進化しているから、自分から新しい事業の芽をさがしにいける人がこれからは必要とされています。

スクール期間を大いに利用して、地域のなかでのびのびと力を試してほしいと思います。



取材した日の晩はちょうど、美波町の阿波おどりの練習の日。

取締役の山下さんやあわえスタッフの方が参加されるということで、見学させてもらうことにした。

地元でも有名な踊り子のグループらしく、息ピッタリで感動する。

そのなかで移住者とは思えないほど堂々と踊っているみなさんを見て、地域で生きるクリエイターについて話してくれた山下さんの言葉を思い出しました。

IMG_6600 「地方ってね、何のため、誰のためのクリエイティブなのかを常に考え続けられる。そんな懐の深いクリエイターを育てることができるんです」

まちの人たちとじっくり関わることができるからこそ、何のため、誰のためのクリエイティブなのかが見えてくる。技術だけではないんです。

美波町でパスポートを取得できたら、きっとどこでも活躍できる。技術がまだない人でも、すでにある人でも、どちらでも構わないそうです。

美波町経由でパスポートを取得して、自分の活躍できる場所を見つけてください。

(2017/6/20 遠藤沙紀)