※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
「多様なもの、自分が把握しきれないものと関わることによって、人ってもっとすごくなれるんじゃないかなと思うんです。そういうことを、創作行為のなかでは意識してやっていくことが重要なのかなと」はじめに決まったプランに縛られずに、関わる一人ひとりの考えを取り込みながらつくる。そうすることで、想像もしていなかったかたちを生んでいく。
自発的に、偶発的に、空間をつくる人たちがいます。
株式会社グリッドフレームは、美容院や飲食店など様々な店舗の内装を設計から施工まで一貫して手がけるアーティスト集団。
特徴は、空間づくりの過程にあります。
基本設計となるのは、コンセプトストーリーと大まかなパース。2つをバトンに、詳細設計・制作を担うそれぞれが20%ほどの変更の自由度を与えられながら、試行錯誤を積み重ね、リレーしていく。
はじめに決まったプランに対して正確に密度を高めていく方法がある一方で、スタッフ一人ひとりが本質から捉え直し、イメージを増幅させていくような方法だと思います。
多様な考え方が反映されることで、結果としてどこにもないような空間が生まれる。
今回は、設計スタッフと制作スタッフを募集します。
表参道駅を出て、根津美術館のあるほうへ歩いていく。
坂を下っていくと、落ち着いた雰囲気の住宅街に入る。
右手に曲がった細い通りに、グリッドフレームのオフィスはありました。
オフィスには自社工場で制作した壁面や家具、いろんな素材のサンプルなどが並んでいて、こだわりが伝わってくる。
グリッドフレームの空間づくりはどんな考えから生まれたのか。代表の田中稔郎さんに話を伺う。
きっかけは、大学時代に遡る。
「発展途上国といわれるところでダムや橋をつくる仕事がしたくて、大学では土木工学を学びました。将来自分が仕事をすることになるかもしれない土地に行ってみようと、一人旅をするようになって」
いちばん日本とかけ離れたところに行きたいと、最初に選んだのはアフリカ。
「日本にいるときは引っ込み思案な性格だったのが、向こうでは自分からまわりの人に対して働きかけることが自然とできたんです」
「場所が違うというより、そこにいる自分が違うなという感覚があって」
けれど、日本に戻ってくるとそれまでの自分に元通り。
「日本では、共同体のなかで意思が抑制されている部分があるように感じて。そこから自由になりたいと思いました」
このころから田中さんは、どうすれば人は自由になれるのかという問いと、空間との関係性について考えるようになる。
大学を卒業して入社したゼネコンでは、土木課で現場監督を務めた後、つくる意味から携わりたいと建築課に異動。海外留学制度を使ってアメリカに渡り、3年間建築について基礎から学んだ。
そこで、人生の礎となるテーマに出会っていく。
「ニューヨーク州の外れにあるバッファローという街が研究のフィールドでした。昔は鉄工場で栄えた街が廃れて、街全体がスクラップのような感じになっていたんですね」
建築模型をつくるためにくず鉄を集めに行ったりと、日常的にスクラップヤードへ足を運んでいた田中さん。
「通っていたら、だんだんスクラップヤードが面白い場所だなと思いはじめて」
「そこにいると、3つの視点が交錯しながらモノを見ている感覚があったんです」
一つは、高級車であったりファミリーカーであったり、かつてそれがどういう機能を与えられたものかを見ている視点。
二つ目は、捨てられる前の機能や意味にとらわれず、一緒くたに捉える視点。
三つ目は、機械に叩かれたり引きずられたりして変形した様子や、雨によって表面が錆びて変出した質感に向けられる視点。
「三つ目の視点は、誰が見ても一般的にそうだという『多対一』の関係性ではなくて一対一で向き合うからこそ、発見できるもの」
「もとはどういう価値を与えられていたというところから自由になることで、誰に対してもひらいているという空間の条件が、スクラップヤードにはあるんじゃないかと考えたんです」
すでにある価値観から解放され自由になった素材たちを用いることで、空間のデザインも、自由でひらかれたものになっていく。
スクラップヤードからヒントを得た田中さんは、研究を深めた。
「ただ、スクラップのような無秩序なものが膨大に自分のまわりを取り囲んだら、人は恐怖や不快感を感じるもの。そこに秩序を与えるものとして、グリッドをかませてみることにしたんです」
そうしてつくりあげたのが、2枚の格子の中にあらゆる素材を挟んでできるシステムパーツ『グリッドフレーム』。
「四角の中に無秩序だったものがトリミングされて目に映る。そうすることで一枚一枚の写真を見るようにピントを合わせることができる。すると、空間として対応することにつながります」
自分の外側で無秩序に広がるものと自分を、紐づけるような存在なのだと思う。
独立当初は什器や壁として用いられたけれど、現在はモノとしての形から離れ、軸となるコンセプトが残っている。
「うちが本質的にやりたいのは、『外部性を内部空間にもってくる』ということ。フレーミングして、普通は中にないようなものを導入して、そこにいると頭が活性化するという空間をつくっていくことを目指しています」
「重要なのは、一人の創作という形で閉じていかないようにすることだと思っていて」
その考えは、「創造性の連鎖」と表現するように、設計・制作・施工とリレーしていくなかで体現されている。
一体どんなふうに仕事をしていくのだろう。
ここで、あるビューティーサロンのプロジェクトを教えてくれた。
「オーナーさんは、探偵もの映画『濱マイクシリーズ』がお好きで、話し方も何か企んでいるような感じのする方。美容室に見えない美容室をつくってほしいとおっしゃいました」
オーナーとの対話から練られたコンセプトストーリーは、扉を開けるところからはじまる。
足を踏み入れると、店内は地下鉄のトンネル型をしている。国家機密レベルの非常事態が起こったとき、エリート官僚が避難する通路という設定だ。
照明は、地下鉄の明かりをイメージして制作スタッフが自社アトリエでつくったもの。鏡も、空間のイメージがより豊かになるようにあえて割ったものを置いている。
外観は、放射能も遮断するかのような重厚な壁面に仕上がった。
美容室という役割を超えて、訪れた人は想像力を掻き立てられそう。
「空間をつくることによって、空間づくりに関わる方やその場所を訪れる方にも、なんらかの形で一対一の関係性を築くきっかけをつくれないかなと思ってやっています」
「そのためには前提として、うちのスタッフ自身が、一対一の関係性を身に沁みて感じていること。グリッドフレームという会社で実現していきたいことが、スタッフそれぞれが実現してきたいことの集積じゃないと、創造性の連鎖の意味がない。そういう感覚はすごくあります」
いい仕事をしたい。そのための積み重ねが、ひらかれた空間につながる。
「世の中で省かれているのが試行錯誤の部分なんじゃないのかな?と思っていて。基本的にはわかっているものをつくるということが多いというか」
「でも、僕らはまだ形になっていないものでも、とにかく自分たちがすごいと思うものをつくりたい。大事にしているのは、冒険してみるということ。自社工場があるのだから、アイディアが浮かんだときにはまず手を動かして形にしてみたらいいと思うんです」
こんなプロジェクトもあった。
代官山にあるアパレルブランドのフラッグショップを手がけたときのこと。
ブランドコンセプトのキーワードは、『大地、風、自由』。
最初は、商業施設のなかにあるお店だという点も考慮して、控えめのプランを提案したそう。
「けれどもクライアントさんと話しあった結果、インショップであるということをとっぱらってつくるとどうなるか、思い切って挑戦しましょうということになりました」
そこで、スタッフ全員が集まり、スケッチから練り直した。
話し合うなかで、風が吹いている様子や、植物が地面に根を下ろし新たに芽吹いていくイメージを、什器によって再現する方向に変化していったそう。
挙げられたスケッチ案から、絡み合うような有機的なラインが地面の隆起を再現する案と、流線型の細いラインと太いラインを組み合わせた案を軸に据えた。
そこから、今度は実際に試作品をつくってみたという。
一人ひとりの思考と、それを形に落とし込む技術。いろんな角度から試行錯誤を積み重ねた。
最終的に、野性的なイメージと繊細さが融合した空間ができあがった。
「それぞれの創造力を通して、生命が移ろいゆくような力を感じたプロジェクトでした」
「いつもそうなんですが、できあがりを見に行ったときに『おお!』と思わされるのがとても楽しみで。自分自身もそう思ってるし、スタッフ全員が、自分がつくったと思える空間にならないと意味がないだろうなと思っています」
続いて、スタッフの方にも話を伺う。
5年目の堀純子さんは、ロゴや看板などのデザイン制作と、事務的な仕事を担当している。
今年4月に産休から復帰したばかりだそう。
以前は広告の仕事をしていたという。大学での建築関係の経験を活かしたいと考えていたとき、グリッドフレームの求人を見つけた。
「独特なデザインをする会社だなと思って。真っ黒くて闇があるというか。でも妙にそこに惹かれた部分があって」
働いてみてどうですか。
「他社さんにはなかなかない自由度の高いスタイルでありつつ、責任を伴うものです。それに応える難しさはあります」
「それでもできあがったとき、『ここだけは自分が手がけたんだぞ』っていうちょっとした自信も持てます」
現在オフィスに勤めるのは5人、工場は2人。少ない人数で全力疾走しているような感覚だそう。
どんな人に来てほしいか、最後に田中さんに聞いてみました。
「僕らは本質的なところできちっとつくりたいものをつくっていこうとしている。普通ならそんな面倒くさいことしないよ、と思うようなことをどうやって成立させていくか。一緒に考えていける人が来てくれるとうれしいですね」
「ただ、そのためにはベースとなる実力がないと難しいです。自分が任されているところが、このプロジェクトのすべてを追っているという感覚が必要なのかな」
それぞれの思考と技術を積み重ねた先に、まだ見ぬものが生まれていく。
ぜひ、多様性の一つとして、その一翼を担ってください。
(2017/06/03 後藤響子)