※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
モノを売り買いする以上の関わり合いを育んでいる場所があります。「ここは人と人や、人とモノ、人とまちをつなぐ雑貨店なんです」
そう話すのは神楽坂プリュスの安(あん)さん。今回は、安さんたちと一緒にお店をつくっていく仲間を募集します。
小さなカフェとギャラリー、雑貨ショップが併設された店内では、アイディア次第でいろいろなことに挑戦できるはず。
自分ならどんなことができるだろうと想像しながら、続けて読んでみてください。
神楽坂通りを上っていくと、1階が服屋さんの建物の2階にプリュスを見つけた。
大きな黒板には手書きの文字とゆるくてかわいいイラストが並ぶ。
エレベーターで2階に上がり、扉が開くとそこはもう店内。
奥でスタッフと打ち合わせをしていた安さんに、お話を伺います。
まずはこのお店の特徴から教えてください。
「このお店は、基本的に全部棚貸し、スペース貸しで運営しています。アンテナショップ的な役割をしているのが特徴ですね」
「たとえば今はおいしい東北というテーマで、宮城の食品メーカーさんが品物を置いています。棚に並んだ商品を通して、宮城のことを神楽坂の人に伝えていくんです」
ほかにも、窓側にあるカフェスペースでは手打ちパスタやアロマミストづくりなど、さまざまなワークショップが行われ、奥のギャラリーでは先日グアテマラの手仕事展が開かれたそうだ。
棚に並ぶ商品は、棚貸しとはいえ、どんなものでもいいわけではないという。
「ここに置いているのは、普通の本物なんです」
普通の本物?
「たわしや文房具、お醤油とか。どれもものすごくとんがったものじゃなく、普通のもの」
そう言われて店内を見回すと、日本仕事百貨でもおなじみの木村硝子店さんのグラスや、ヤマロク醤油さんのお醤油が目に入る。
確かにどれもいいものだけど、手が出ないほど高価なものでも、すごく個性的なものでもない。
「どの商品も、モノの先に何かがある。もしかしたらそれを売っているのかもしれません。たとえば、この100ミリサイズのお醤油はね、高橋万太郎くんっていう子が全国の醤油蔵をまわってつくったものなの」
「蔵元とちゃんと話して、わかり合った上でやっている。私もそう。棚を借りる人とは絶対に会って話すし、顔が見えるっていうのかな。作り手の顔が見えるものじゃないと、ここには置かない」
ただモノを売るというより、モノの先にある想いや価値観を伝える。
そんな気持ちのこもったお店だからこそ、日々さまざまな人が集い、つながりが生まれていく。
神楽坂に暮らす人たちや働く人がお茶をしにきたり、自分がおいしいと思うものを紹介してくれる人もいる。
ときには、東京で商売をしたいという地方の会社の人が商品を持ち込むことも。
たとえば京都のあんこ屋さんが持ってきた商品を食べたプリュスのお客さんたちからは「パッケージがださい」「おいしくない」と、忌憚のない意見が飛んだ。
その結果、商品の味やパッケージ、ホームページまですべてを一新することにつながったそう。
「直にまちの人たちと接することは、ダイレクトマーケティングにもつながるんですよね。その出来事が縁で、今度はここであんこカフェを開こうと話しています」
お店を訪れた人同士が知り合うことも、プリュスで棚を借りた人が神楽坂にお店を出したこともある。
このお店が地域の人たちに愛されていることが想像できるし、安さんは本当に人との関わりを大切にしているんだと感じます。
では、なぜこんなお店が生まれたのか。
棚貸しでいろいろな商品が揃うお店の構想を思いついたのは、神楽坂にある陶器メーカーのショールームで働いていたときだという。
「毎日お店に来る地元のお客さまたちが、こんなお店があったらいいねっていう話をしていて。それを聞きながら、お店を訪れる人にとっても、売り手にとっても一番良い小売のあり方は何かを考えていたんです」
その後、安さんは独立し一人で陶器のお店を開く。
そのときにお世話になったのが、現在の神楽坂プリュスの母体である、株式会社ニューハウスという不動産会社だった。
「お家賃がどんどん上がるので、チェーン店ばかりがくるようになったんですね。そうなると、神楽坂のまちがつまらなくなっちゃう。ニューハウスのみなさんは、それをなんとかしたいと思っていたんです」
安さんの新しい発想とまちを良くしたいという想いが重なり、トントン拍子で神楽坂プリュスのオープンが決まったという。
「ここまで続けてこられたのはご縁が大きいですね。本当に人が足りなくて困ったときも、近所の方が2時間くらいなら働くよって助けてくれて」
何が原動力になっているのかたずねると「本能でやっているかな」と笑う。
「理屈じゃなくて。『あなたが言った通りだったからまた買いにきたの』とか『美味しかった、またくるね』って言われたらすごくうれしい。自分が何かやるよりも、人が笑顔になったり楽しそうなのがすごく好きなの」
すべては顔の見える相手に喜んでもらうために。そういう関わりこそが、安さんの求めていることなんだと思う。
そんな安さんと一緒に働いているのが、澤田さんです。
接客や商品の仕入れ、売り場のディスプレイやワークショップなど、経験がないことにも幅広く挑戦している。
もともとは安さんが以前働いていた陶器メーカーの大阪支店で働いていた。安さんからの熱烈なアプローチを受けてここにやってきたそうです。
「前職の頃から、安さんは大きくコンセプトから外れていなければ『やってみたらいいじゃん』ってまかせてくれるんです」
「だからここでも何かおもしろいことをさせてくれるんじゃないかなと思って、はるばる大阪からきました」
実際に働いてみてからも、その印象は変わっていない。たとえば、と教えてくれたのは澤田さんが仕入れた「ごはんジャー」という商品のこと。
陶器製のおひつだから、そのまま冷蔵庫にも入れられるし電子レンジで温めることもできる。利便性はもちろん、なによりもこの商品を使う人の暮らしに想いを巡らせたという。
「今は安い食品保存用の容器が売っているけど、やっぱり味気ないじゃないですか。ごはんも、おひつからよそって食べたほうがおいしいし、生活も豊かになるんじゃないかな。そういうものを、この土地の人は求めているんじゃないかなと思ったんです」
「安さんともプリュスのコンセプトにあっているか、しっかり話し合って。意見に納得してもらえたので、棚に並ぶことになりました」
結果的に、ごはんジャーは連続して仕入れるほどの売れ筋商品になった。
プリュスでは、澤田さんのように自分で考え、行動できる姿勢が重要だと思います。なぜなら、ほとんど安さんからの指示は出ないから。
たとえば商品がなくなっていたら品出しをしたり、POPをつくったり。
ルールや指示があるからというよりも、それぞれが「こうしたらいいんじゃないか」と自分の考えを提案しながら動いている。
自身の素朴な疑問やお客さんとの何気ない会話がアイディアにつながって、仕事にも活かされていくといいます。
「この薄いガラスはどうやってつくっているんやろとか、あのお醤油はどこの地域のなんやろとか。気になることは、搬入のときに直接聞くことができます。すべての商品にエピソードがあるので、それをお客さんにお話しして買ってもらったときはすごくうれしいです」
「いろんな人やモノを知ることで、自分の世界も広がっていきますね」
新しく入る人も、仕入れの仕事に挑戦できるとのこと。展示会に足を運んだり、メーカーの人に直接話を聞いたりしながら新しい商材を見つけてほしいそうです。
自分が仕入れた商品への反応も、お店で直に伝わってくるので、きっとやりがいにつながると思います。
澤田さんの話を、隣でうんうんと頷きながら聞いていた古庄(こしょう)さんにもお話を伺います。
オリーブオイルソムリエの資格を持ち、プリュスでワークショップの企画などを担当している。
「安さんは世の中の流行とか、情報をキャッチするのがすごく早いし、思ったらすぐ行動。私は思っていてもなかなか行動しなかったりするから、見習わなきゃと思います」
だけどここでの経験を経て、やりたいことが見つかったとうれしそうに話す。
そのきっかけとなったのが、企画から講師までを担当した「かぼす胡椒づくり」のワークショップだ。
かぼす胡椒とは、柚子胡椒のかぼす版。古庄さんの出身地である大分では、昔から食べていたものだけど、東京では知らない人も多かった。
「毎年実家から山ほど届くかぼすを使って、みんなでつくってみようと思ったのがはじまりです」
とはいえ、これまで誰かに料理を教えたことも、企画をした経験もない。事前準備はとても大変だったといいます。
「頭の中でシミュレーションしたり、何度も試作しました。お金をいただくからにはちゃんと伝えたいので、やっぱり緊張します」
「でも、生活に根付いた料理がこんなに簡単につくれるっていうことを伝えたくて。気を張らずに参加できる低料金に設定しました。大変だからもう次はいいやと一瞬思うけど、やりはじめたら楽しくて。終わる頃にはまたやろうって思うんです」
やるほどに、次はこんなことをやってみよう、そういえば自分にはこんなこともできたと引き出しが増えていく。
たとえ失敗しても、安さんと一緒に改善策を考えながら次の企画につなげているのだという。
プリュスでは、こんなふうに自分でギャラリー展示やワークショップの企画をすることができる。
気になる作家さんがいたら自分で交渉をしに行ったり、やってみたいことがあればワークショップにしてもいい。
自由にできるからこそ大変なこともあるだろうけど、古庄さんのように楽しめる人ならきっと自分も成長しながら働いていけるんじゃないかな。
そしてなんと、かぼす胡椒は今後商品化される予定だ。
きっと近い将来、プリュスの棚に並ぶと思う。今から楽しみですね。
「そうですね。ワークショップをしなかったら、たぶんやろうと思わなかったんです。やってみたいと思ったことは、自分なりに考えて提案していけばプリュスで挑戦できると思います」
プリュスで働く人たちは、ここで人やモノとのつながりを育みながら、自分なりにやりたいことを見つけて、世界を広げている。
その姿はなんだかとても健やかで、楽しそうでした。
自分にも何かできるかもしれないとワクワクしたら、まずはお店を訪れて安さんたちと話してみてください。
(2017/9/8 並木仁美)