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人生に逢う

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何を想い、どんなことを考えているのか。

ひとりの話をじっくり聞いていると、まるでその人の人生そのものに触れるような感覚が生まれてくる。

そこで感じ得た想いや価値観は、自分の世界を広げたり、本当に大切にしたいと思うことに気づかせてくれるような気がする。

今回は、そんなきっかけを生む編集者の募集。

medium01 「あの人のごちそう」「暮らしの道具」「扉を開けたいお店」「私を楽しむ仕事」…

nice things.は“生活に寄り添うこと”をテーマに、様々な人の在り方を平熱で伝えている雑誌。
読者はまるでその場にいるかのような感覚で読み進め、何かを受け取る。

nice things.は人に出会う雑誌なのだと思う。それは読者はもちろん、働く人にとっても。
これから単行本の出版や空間運営など、雑誌以外の編集を行い、取材先で出会った人たちと有機的につながりながら、出版社としての伝える価値を高めていくそう。

nice things.編集者と空間プランナーを募集します。

東京・表参道駅から歩いて10分ほど。

根津美術館を越えた先、西麻布の住宅街のなかにnice things.出版元である株式会社ミディアムのオフィスがある。
1階はギャラリースペース、2・3階は雑誌別の編集デスクとなっている。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA もともとミディアムは「Ollie」「PERK」「GRIND」といったストリートのファッションやカルチャーを伝える雑誌を多く出版してきた。
nice things.を創刊したのは2年前。表紙やテーマ、写真ひとつをとっても、これまでの雑誌とはまったく異なる雰囲気なのがすぐに分かる。
どうしてnice things.をはじめることにしたのだろう?
はじめに代表の谷合(たにあい)さんに話を伺った。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA ミディアムは来年で30周年を迎える。

今から約30年前、谷合さんは東京の小さな専門誌の会社で働いたあと、25歳という若さで独立。

自身が五島列島から上京してきた経緯もあって、“海を越える”つながりで当時は海外取材の雑誌を刊行していたという。

「そのときはいかに自分たちのオリジナリティをもって、媒体づくりをするかってことが重要だったと思います。ただ、そうやってものをつくって継続していっても、なかには失うものが出てくるわけです。当時の雑誌も今はなくなってますから」

「なぜ失うかといえば、基本的には経済的に成り立たなくなったからです。でも、経済的に成り立たせればそれで済むかというと、そうではない問題があって。業界全体が抱えている問題点なんですね」

雑誌を単にお金儲けのビジネスと捉えている出版社が非常に多いことも、問題のひとつだと谷合さんは話す。

広告ありきの企画や売るための編集で、そこには自分たちの主義主張が存在しない。そういった雑誌はトレンドが去った瞬間に読まれなくなってしまい、廃刊や休刊につながっていく。

また、インターネットやSNSによって情報価値が薄まり、情報を得る手段としての雑誌の魅力は年々低下している。

マーケットがどんどん縮小していくなかで、自分たちがつくりたいものをつくっているだけでは、活字業界の未来を思い描くことはできなかった。

「それから雑誌って何だろうって。社会の中で雑誌が担うべきこと、雑誌が何をやれるのかっていうことに、向き合わざるを得なくなってきたんです」

medium04 たとえば音楽ライブへ行けば、好きなアーティストの歌に酔いしれることができると思う。映画を観ても、ストーリーや映像美に感動することができる。

けど、雑誌ってそれほどじゃない。エンターテイメント性が抜群に高いわけでもなく、生活に欠かせないものでもない。簡単な情報を伝えるだけならインターネットでいい。

雑誌がやれること、できること、存在意義とは何だろう?

谷合さんは「まだ結論は出ていない」という。移り変わる時代に合わせて変容しながら継続発行するという雑誌の性質上、簡単に答えは出せない。

そのなかでも、途中段階として導き出したひとつの答えがある。

それがnice things.だった。
「今の世の中は消費社会でものが溢れ、ものを大事にしないことが増えています。でも、ものって本来は人間の生活を豊かにする存在です。そしてものには、値段やブランド名といった表層的なことじゃなくて、つくり手や生活者の想いや背景があります」

「それは多くの人にとって拾いきれないことなので、我々がつくり手や生活者に寄り添い、情報ではなく感覚として伝えていこうと。それを読者が感じ取ることによって、その人にとって大事なものになったり、生きることについて考えられるようになっていけたらいいなと思うんです。心の豊かさっていうのは、そうやって育まれていくのかなと思うんですよ」

medium05 nice things.には毎号20組ほどの人たちが登場する。
地域や職業も本当にいろいろだが、自分らしい生き方をしている人。巻頭テーマに沿いながらも、書かれている話は人によって様々だ。

一見バラバラなように見えて、すべて「生き方」を捉えているという点で共通している。

そこには溢れかえった情報とは違う、生々しい手触りがある。

ファンがついたことで無理な広告をする必要がなくなり、逆に今では自分たちがいいと思う広告だけをなるべく掲載しているという。

「nice things.では“生き方”を貫きたいんです。そのために原稿や写真では余計な加工をしないで、なるべく素のままを伝えることを大事にしています」
「じゃあ聞いたことをそのまま伝えればいいかというとそうではなくて、nice things.は取材する自分たちもそのテーマを考えてみましょうよってスタンスなんです」
自分たちも?

「そうです。暮らしがテーマなら、自分にとっても何が基準で大事なものは何なのか。最初から結論付けるのではなく、そういう頭を持ちながら取材先へ行って感じたことを伝えていきたいんですよね」


谷合さんはnice things.の取材を「ライブ」と表現することがあった。
決まった答えはないなか、言葉を交わしながら目の前の人から感じ取れたものを編集し、伝える。

「生き方とか人生にこだわりたいというより、みんなただ好奇心があるというか。知りたいから聞いていることが多いと思います。私は取材へ行くと、その人自身の生い立ちが気になってしまうので、それで取材が長くなってしまうんですけど。やっぱり人自身に興味があるんです」

そう話すのは、nice things.編集者の北村さん。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA 人がどんなことを考え生きているのか。そこに関心がなければnice things.の仕事ははじまらない。
というのも、nice things.では編集者たちが自ら取材候補者をリストアップするからだ。
毎号のテーマは編集長を兼務する谷合さんが決め、それに沿って編集者たちは自分が気になる人や以前の取材先からの紹介で候補を挙げる。

集まったなかから最終的に谷合さんが約20組を選定すると、編集者6人がそれぞれ取材に行きたいところを4〜5件選び、スケジュールを調整して自社のカメラマンとともに現地へ赴く。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「ハタノワタルさんといって、京都の黒谷和紙漉き師の方に取材させていただくことがありました。和紙をつくっている風景を見てみたかったし、普段見れない仕事は気になるので、行きたいと手を上げたんです。それで仕事場だけではなく、ご自宅にもお伺いさせていただきました」

自宅にも?

「暮らしの場からも、その人が見えてきたりするんです。なので取材は半日がかりになることが多くて。その間はずっと話を聞くんですけど、私の場合は取材の半分くらいが雑談ですね(笑)」

人として向き合うからこそ、引き出せるものがあると思う。個人的につながり、取材後も関係は途切れず続くこともあるという。

北村さんは以前まで自分の編集したものが形になることにやりがいを感じていたけれど、最近は取材先の人から感謝の言葉が届くことが何よりもうれしいそうだ。

もともと「nice things.な生活を送るタイプではなかった」という北村さん。いろんな人との出会いによって、自分の価値観や生活のスタイルが徐々に変化してきた。
medium08 今まで培った経験やネットワークを活かして、これからは新たな取り組みがはじまる。

ひとつが単行本の出版で、もうひとつが空間運営。

詳細を話してくれたのは、nice things.編集者の田中さん。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「先に空間の話をすると、大阪市の北浜駅近くの川沿いに築90年以上の木造2階建てがあって、その建物を運営されている方から、2階をnice things.が使わないかというお話をいただいたんです」
「ここのオフィスにもギャラリースペースやキッチンがあって、これまでも雑誌で取材させていただいた方々や読者さんをお招きして食事をしたりするイベントをやっていたんですけど、これからは2つのスペースを使って出版社だからこそできることをやっていこうと思っています」

取材先の作家さんに実際に来てもらって物販をしたり、読者が記事に登場する人と対談できるようなイベントを企画したり。編集によって場に価値をつけていく。

「書籍に関しては、たとえば僕が以前取材した方で、岩手に移住された谷匡子さんという挿花家の方がいて、すでに本を出されているんですけど、出版社に依頼を受けて出す本ではなく、自分で出したい企画があるそうでした」

「花の生け方よりも、岩手で感じる雪の冷たさとか、四季の移ろいのなかで心に浮かんでくる言葉や風景を伝えていきたいとおっしゃっていて。マーケティング的に必要とされる本ではない、その人自身に寄り添いながらつくる本って、うちができることのひとつだと思っています」

出版という文化が続いていくために、雑誌だけではなく書籍やお店もやっていくのだという。

medium10 田中さんはnice things.の編集を一旦離れ、今後は空間運営をメインで担当する。
そこで今回の募集となる。

代表の谷合さんは、社会人経験も文章を書いた経験も一切問わないという。それよりも価値観や想いに共感してくれる人のほうがnice things.には合っている。
北村さんも田中さんも今年で26歳。もともと実務経験ゼロだった。

「取材の仕方や文章の書き方は、誰からも教わっていないです。手取り足取りとはいかないし、仕事も基本的に忙しいので、自分で考えて動ける人じゃないと」と北村さん。

先輩の取材に3回ほど同行したら、あとは実践しながら学んでいく。

話の聞き方から取材にかける時間、文字起こしの方法、文章の書き方、写真の選定、紙面の構成まで、すべて担当する編集者に委ねられ、それぞれ独自の仕事の仕方があるようだ。

個性を発揮できる一方で、個人の力量がとても問われる環境だと思う。自律しながら周りと調和が取れるバランス感覚のある人でないと難しいかもしれない。

「素直で、仲よくなれる人がいいなと思います。うちの編集部は一緒にご飯へ行ったり、たまに休日も遊ぶくらい仲がいいので」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 人に出会い、感じ、伝える。

ここで働く人自身にとっても世界が広がったり、本当に大切にしたいと思うことに気づくきっかけになると思います。

(2017/9/26 森田曜光)

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