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「大きくなったら何になりたい?」小さいころの答えは、とてもシンプルだったような気がする。
ぼくは、宇宙飛行士になりたかったです。友だちは野球選手だったり、スーパー戦隊のヒーロー、花屋さんもいました。
そのなかで「ケーキ屋さん」と答えた人もきっと多いはず。甘くておいしいケーキをつくれる人になりたい。そんな夢を追って専門学校に進んだり、お店に飛び込み修行して、現実に叶えた人もいると思います。
ただ、実際にはとても体力のいる仕事。朝早くから仕込みがはじまり、重たい材料を運んで、作業は夜遅くまで続く。クリスマスやバレンタインの季節は、ほとんど眠れないこともあるそう。
どんな仕事も楽しいことばかりではないけれど、正直ケーキ屋さんがそこまで大変だとは想像していませんでした。
一度は挫折したお菓子屋さんの道を諦めきれない人、健やかにお菓子づくりの仕事を続けたい人へ。東京・学芸大学にある焼き菓子とジャムのお店「Maison romi-unie(メゾン ロミ・ユニ)」のパティシエになりませんか。
今回は洋菓子やパンの製造経験がある方の募集です。
東急東横線の学芸大学駅から西口商店街を進み、ひとつめの交差点を右に曲がる。歩いて3分ほどでメゾン ロミ・ユニのロゴが見えてきた。
四角くて白い建物の1階が店舗、2階が焼き菓子をつくるアトリエになっている。
店内には焼き菓子やジャムがずらりと並ぶ。扉を開けたとたん、ふわっと甘い匂いに包まれた。
2階のアトリエでまずお話ししたのは、菓子研究家のいがらしろみさん。
9年前にこのお店をつくった方だ。
小さいころ、お母さんに買ってもらった一冊のレシピ本。誕生日でも、クリスマスでもないのにつくったショートケーキを、家族3人でほおばる。
そのうれしさが忘れられなくて、お菓子づくりに目覚めたんだそう。
短大生になり、フランス菓子店でアルバイトをはじめたろみさん。そのままパティシエとして働きはじめたものの、1年で挫折を味わう。
「20キロのバターを毎日運んだり、とても体力のいる仕事で。私に向いてるのこっちじゃないと思って、お菓子をつくる仕事は諦めました」
パティシエとしてはやっていけない。けれども、お菓子を自分でつくるワクワクや、みんなで一緒に食べる楽しさをもっと伝えたい。
目指したのは、“菓子研究家”という肩書きだった。
1年のパリ留学から帰国後、フランス料理学校での事務職を経て独立。当時住んでいた鎌倉で、手づくりジャムのお店「Romi-Unie Confiture(ロミ・ユニ コンフィチュール)」をオープンした。
その4年後、学芸大学に「Maison romi-unie」をオープン。鎌倉で手づくりしたジャムに加え、焼き菓子の製造・販売もはじめる。
「もともと焼き菓子が好きだったんです。それに焼き菓子は時間が経ったほうがおいしいものもあるし、2〜3週間変わらずおいしく食べられたりもする。それだけつくるって決めれば、みんな無理なく働けるじゃない!っていう。そういう感じでやっています」
ろみさんの考え方は、どんなことでも“自分たち”から発想されている。
スタッフが健やかに働けることもそうだし、お菓子のつくり方もそう。
年に1回、10月ごろに次の一年間の大まかなメニューを考えるらしいのだけど、そのときも「自分が食べたいもの」から考えることが多いという。
「つくるからには、食べておいしいものをつくりたいじゃないですか」
それってつまり、自分がひとりめのお客さん、というか。
「そうかもしれません。それにね、スタッフが食べたいって言うものは、やっぱりお客さんにも人気があるんですよ」
「バターや粉はお菓子によって使い分けています。ジャムも全部手づくり。それも“こだわっていてかっこいいから”とかではなく、それでつくると本当においしくなるよ、っていう裏付けがあるからなんです」
ロミ・ユニのお菓子は、どれもシンプル。「つくって楽しい」ことまで考えているから、レシピ本でつくり方を紹介しているものも多いそう。
手の込んだお菓子もいいけれど、素朴でおいしいお菓子ならいつでも気軽に食べられる。
「どちらかといえば、バースデー用ではなくてお茶のおともみたいな。おしゃべりしながら食べるのにちょうどいいようなお菓子がいいんですよね」
1階の店内を見回すと、家の形をしたパッケージや手描きのイラストもさりげなくかわいい。
「ホワイトデー、うちのをあげると株上がるよ」
そう言って、いたずらっぽく笑うろみさん。お店にも、その親しみやすい雰囲気が滲み出ているような気がする。
「毎年お客さまが増えているんですよ。しかも常連さんが増えていくっていう感じで。それは本当にすごくうれしい。いつもありがたいなあって思いながらやっています」
でも、これからの季節はきっと大変ですよね?
「そうなんです。クリスマスがあって、バレンタインがあり、ホワイトデーがきて、っていう怒涛の半年を送るので。今回は即戦力になってくれる人に来てほしいんです」
普段は残業はないものの、繁忙期は、全員で時間内に終わるように少し踏ん張らないといけない場面も出てくる。
ただ、目の前の繁忙期を乗り越えるための助っ人募集、という形にもしたくないという。
「長く続けるほど、やっぱり感覚的な部分で経験がプラスされてくるんですよね。お菓子もおいしいものが安定的にできるようになってくる。10年、20年と積み重ねていけるといいなっていうことは、一緒に働くみんなに対して思ってます」
お菓子づくりの道を諦め、菓子研究家として歩んできたろみさん。独立してから、気づけば15年が経っていた。
もちろん大変なことはあっただろうけど、挫折を味わったからこそ感じられる楽しさもたくさんあると思う。
「『ああ、わたしお菓子好きだったのになあ…』って諦めちゃう人が世の中にたくさんいるのを知ってるんですよね。そういう人に、ぜひうちで働けばいいのに!っていうことをすごく伝えたいです」
そんなろみさんと一緒に働いているのは、どんな人たちなんだろう。
ロミ・ユニに加わってもうすぐ8年目になるという、アトリエ長の知念さんに話を聞いた。
沖縄出身の知念さん。以前はケーキ工場で働いていたという。
「自分で希望して焼きの作業を担当してたんですけど、あとはみんな男性で。人がすっぽり入れるぐらいのボウルとかを混ぜるんですよ。これはいつか腰がやられて立てなくなるなって、身の危険を感じました(笑)」
そんなとき、たまたま広げた雑誌の1ページに目が吸い寄せられた。
「カトル・カールっていうお菓子の写真でした。シンプルでかっこよかったんです。なんだかすごく気になって」
さっそく通販で取り寄せてみると、今まで食べたことがないほどのおいしさに驚いたという。
それがロミ・ユニとの出会いだった。
「旅行がてらお店にも行ってみたら、すごく雰囲気がよくて。ちょうどスタッフ募集の情報を見つけたんです。受かるわけないと思ってエントリーするのを迷っていたんですけど、思い切って応募しました」
すると、面接の連絡が。
そこからはあっという間で、面接当日に内定をもらい、1週間後には引越しを済ませて働きはじめていたそう。
「いつか飽きがくるのかなと思っていたんですけど、そんなことはなくて。食べればやっぱりおいしいし、つくるのも楽しいですね」
バターだけでも有塩・無塩や発酵バター、産地によってもさまざまな違いがあるし、フルーツケーキに使うはちみつを変えた途端、急に売れたこともあった。
1階がお店になっているので、試行錯誤の結果がすぐに見えるという面白さもある。
「ふわっとした雰囲気のお店ですけど、量は結構つくっているので体力がいりますね。材料の粉とかも大きくて力がいりますし」
自分の作業だけでなく、横目でほかの人の動きを見ながらテンポを合わせたり、シフトによってその日ごとに違う作業を担当したり。淡々とした作業が基本だけれど、その都度考えて動く場面も多いという。
また、月に一回ほどのペースでイベントも開催。スコーンとジャムのイベントや、1日限定でチョコ屋さんになる「ジュール・ド・ショコラ」など、普段にはないお祭りのような空気感も楽しいそう。
「いそがしい時期には早番と遅番で分担して働くときもあるんです。遅番で出勤したときに、早番の人がクッキーを焼いてる匂いがしてくると、ああ、しあわせだなって」
学生時代のアルバイト先がつらくて、過去にはお菓子の匂いがきらいになったことも。
「でも今は、やっぱりいい匂いだなって思えるようになった自分がいて。友だちが『おいしいね』って言ってくれたときに、『でしょ?』って胸を張って言えるのも、またうれしいんですよね」
そう笑顔で話す知念さん。「よかったねえ」と、ろみさんもしみじみ。
お菓子もお店も、みんなで愛情を注いでつくっているんだな、ということが伝わってくる。
「わたしは、ものを大切にする人が多いなって思います」
そう話すのはパティシエの加藤さん。
専門学校を出てケーキ屋さんで働いたあと、カフェや販売の仕事を経験。やっぱり好きなことを仕事にしたくて、ロミ・ユニのパティシエになった。
「道具もそうですし、材料もしっかり最後まで丁寧に使っているのを見て、いい職場だなって。入ったときに思いました。日常の感覚が活きている、というか」
日常の感覚。
「フルーツケーキに入れるフルーツも、お店で乾燥させて、シロップやお酒に浸けたものを使っています。そうやって手間を惜しまないところが好きなんです」
手が込みすぎてもいないし、かといって機械的でもない。
当たり前のことを当たり前にやっているという感じ。
でもそれを続けていくのは、案外難しいことだと思う。
スタッフは今のところ全員女性。出産・育児のために休暇をとったり、子育てをしながら働いている人もいる。
「大変だと思いますけど、周りにそういう方がいるとイメージしやすくて。お母さんになっても続けられるんだなっていう安心感はありますね」
「みんな真面目なんですよ」と、ろみさん。
「真面目でかっちりしているので、品行方正な人じゃないと意外と続けられないよね」
「でも…」と知念さんが応える。
「メリハリというか。仕事するときはバッとやって、昼休みはくだらない話もしますよね(笑)」
お昼は各自お弁当を持ち寄って、みんなでわいわい話しながら食べるんだそう。
「昼間も『あそこの生地の混ぜ方こうだと思うんですけど…』とか、ちょっとめんどくさい(笑)。そこらへんは気が抜けないと、リラックスできないしね」
取材を終えてふと、みなさんアトリエの外に出たあとの姿が想像できるなあと思いました。
自然体というか、素直というか。だからこそ、あの心地いい空間が生まれているのかもしれません。
お菓子づくりの楽しさにじんわりと満たされるこのお店を、ぜひ一緒につくっていってください。
(2017/10/25 中川晃輔)