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人を信じるということ

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

失われた身体の一部や機能を補完する道具のことを、補装具という。

たとえば杖や補聴器、車いすも補装具です。

僕はこれまで車いすのことを、ないものを補うための道具だと思っていました。

けど、『車いす工房 輪(りん)』の浅見さんは、そうじゃないという。

車いすは、もとからある人の可能性を引き出すものなのだと。

車いすは大きく分けると『手動』と『電動』の2種類があります。

車いす工房 輪では主に電動車いすを扱い、大手メーカーがつくる既製品をお客さんに合わせてカスタムメイドしたり、1から組み立てるオーダーメイドも行っています。

今回募集するのは、お客さんとの打ち合わせから車いすの制作、納品後の修理・メンテナンスまで、すべて一貫して手がける人。

たとえ技術職を経験したことがなくても大丈夫。まずは代表の浅見さんに付いて回り、修理を覚えることからはじめられます。

スキルや経験以上に、この仕事に共感してくれる人を求めています。

 

輪の事務所は東京・東村山駅から歩いて10分ほどの場所にある。

もともと倉庫だった建物を改装し、中に工房も設けられている。

「中2階ではミシンで縫製をしていて、クッションのカバーなどもその人に合わせてつくっています。2階は倉庫で、緊急の修理にもすぐ対応できるように自分たちが販売している車いすの部品をストックしているんです」

事務所を案内してくれたのは、代表の浅見さん。

「電動車いすに乗るのは、基本的に重度の障がいを持つ方です。ただ障がいと一口に言っても、症状は人によって全然違うし、生活スタイルも人それぞれです。機能が限られた既製品の中から選ぶよりは、本当に自分に合うものを一緒につくっていきましょうと、これまで10年間つくり続けてきました」

浅見さんが輪を創業したのは2007年。その前は、墨田区にある同業者の『さいとう工房』で7年間修行をしていた。

いわば暖簾分けのような形で独立したのだが、さいとう工房や輪のように電動車いすを一人ひとりに合わせてつくる会社は、実はとても少ない。

輪でもお客さんを受けきれないほどニーズはあるのに、全国で数社ほどしかいないという。

理由は単純で、小売に比べ圧倒的に手間が多く、商売として儲かりにくいからだ。

「つくるのは難しいし、売ったあともメンテナンスが続きます。ハイエンドの電動車いすだと仕入額だけで数百万円もするので、経営するにも資金繰りが大変です。普通だったらやらないのが正直なところなんですね」

「けど、私はこの仕事を天職としてずっとやっていこうと決意しました」

それはどうしてですか?

「この仕事は自分がちゃんと責任を持ってやれば、お客さんの人生が変わることもあるというか。人の人生を変えられる力のある仕事なんです」

浅見さんが以前、電動車いすをつくったお客さんの話をしてくれた。

生まれてから20年間ずっと病院のベッドの上で生活をしている人。病棟でほかの人が電動車いすに乗って自由に動き回っている姿を見て、自分もああなりたいとずっと思っていたのだという。

「その方は気管切開をして人工呼吸器を付けているので、ほとんど身体を動かすことができません。なので最初は身体のどこを使えば正確に操作ボタンを扱えるのか、見つけ出すことからはじめて」

「1回でうまくいくことはまずないです。その方が本当はどれだけのポテンシャルを持っているのか、予測して試すということを何回も繰り返していきます」

打ち合わせを重ねていくうちに、唇と舌を使って正確に操作できることがわかった。

そこで操作ボタンを口元まで伸ばすように設計。ほかにも車いすのスピードが速いと心拍数が上がって身体に負担がかかってしまうため、動作を緩やかにしたりと、一つひとつの課題をクリアしながら1年がかりで電動車いすを完成させた。

今ではその人が病院の中庭をひとりで動き回るのが、当たり前の光景になっているという。

「病院の先生たちはその方を赤ちゃんのころから知っているので、まさかあの子がひとりで車いすに乗るなんて!って。ご両親もそこまでできるようになるとは思ってなかったみたいです」

「けど、それは電動車いすが可能にしたというよりは、本人がもともと可能性を持っていたからで。その人が持つ可能性を信じて諦めなければ、花は開くんです」

くしゃみで骨折してしまうほど骨が弱かったり、体重が100kgを超えていたり、全身の筋肉が骨化する難病を抱えていたり。

障がいや疾患によって電動車いすをつくるためのアプローチは大きく異なるため、決まった答えはなく、お客さんが納得しない限り完成しない。

ものづくりの技術以上に、いかに根気強く取り組み、諦めないかが重要だという。

「とあるお客さんを好きになるのに、10年かかったことがあります(笑)もうワガママだし、こだわりすぎて無謀な注文をするし、とてもじゃないけどやってられないよっていうお客さんで」

「毎月1回の打ち合わせが10時間もかかるんですよ。その方の細かい要望を叶えるためだけに新しい機械も導入しました。やり場のない憤りを感じながらずっとやっていて。けど10年経って、その方のことが好きになったんです。その人のことが分かって」

分かって?

「その方にとっての電動車いすって、ただの乗り物でも生活の道具でもなくて、その人自身を表す生き様なんだって。だから一切妥協できないんですよね。それが分かったら、その方が言っているのはワガママじゃなくて、その人そのものなんだと思えて」

「結果的にその方の要望に応え続けることで私の技術は上がったし、道具が増えて引き出しも増やせた。長い目で見ると、その方は自分をつくってくれてるんだって思えるようにもなったりして」

断ることならいくらでもできたかもしれない。けど、浅見さんはそうしなかった。

浅見さんが諦めないのは、きっと人の可能性や人自身を信じているからなのだと思う。

「ずっとお付き合いしていた手動車いすのお客さんが、突然うちオリジナルの電動車いすを買ってくれたりするんです。最初はどうしてか分からなかったけど、あとで振り返ると、ずっとその方に向き合ってきた結果なのかなって」

「そういうのって読めないことです。だから、こういう人はお客さんじゃないとか、これは儲からないとか、そういうことじゃなくて。一人ひとり大事にしっかり向き合っていくしかないんですよね」

浅見さんは手先が器用なことよりも、コミュニケーション力のほうがこの仕事では重要だという。

たとえものづくりの経験がまったくなくても、浅見さんが一から教えてくれる。失敗したってそこから学んでいけばいいというスタンスだから、ゆっくりでも着実に覚えている環境だと思う。

ゆくゆくは1人で1台丸ごとつくれるようになり、打ち合わせから納品、その後の修理まですべて担当できるようになってほしいそうだ。

浅見さんは、どんな人に来てほしいですか?

「年齢とか性別にこだわりはなくて、障がいを持つ方とひとりの人間として普通に向き合えるかが唯一の条件です」

「障がいを持つ人に対して上から目線でやってあげなきゃとか、逆に下から目線でかわいそうみたいな感じで関わるのが、私は好きじゃなくて。普通に人として対等に接せられるか。それさえできれば、あとは時間をかければどうにでもなりますよ」

 

今いるスタッフの人たちも、みんな未経験からこの仕事をはじめている。

近々ご家庭の事情により退職予定の山田さんは、今年で入社6年目。以前は居酒屋などのアルバイトを転々としていたそう。

「最初は何も分からなかったです。浅見さんがお客さんのいる現場へ修理に行くのについて回ることからはじまって、工具の名前も分からないまま『ドライバー取って』『これですか?』って感じで」

新人はまず修理を覚えることからはじまる。

ただ修理といっても、タイヤ交換から故障の対応まで、やることの幅は広い。

とくに故障に関しては、そのお客さんの車いすでしか起こりえないことがあったりするし、緊急の場合もある。事前にしっかり勉強してから臨むというよりは、実践しながら学んでいくことになりそうだ。

「つい最近は、曲がったアームをお客さんの家の前にある河原で叩いて直すことがありました。車にある工具じゃ直せなくて、けどその日中には車いすに乗れるように現場で何とかしなくちゃって」

多少メッキは剥がれたりするかもしれないけど、乗れないよりはずっといい。

臨機応変に現場で対処するというのは、浅見さん流だ。

「『電話で直す』っていうのも浅見さんに教わりましたね」

電話で直す?

「お客さんから車いすから変な音が鳴るんだと連絡があったとき。電話で詳しく聞くんですけど、大したことではないと判断したら一旦そのまま様子を見てもらうんです」

「最初はてっきり、どんなことにも対応するんだと思ってたけど、問題なく解決しているのを目の当たりにすると、それでいいんだなって。ただ、それってお客さんとの信頼関係がないとできないことで、浅見さんが言うなら大丈夫だろうっていうのが大きいんですよね」

その信頼関係を築くためにも、日々の会話やコミュニケーションが欠かせない。

「浅見さんって、ずけずけと聞くんですよ」と話すのは、入社2年目の三浦さん。前職はヘルパーを務めていた。

「お客さんに、手はここまで動きますか?なんて、自分がヘルパーだったころは絶対に聞けなかった。あのころは利用者さんが何の障がいを持っているのか知らないくらい、とにかく自分は利用者さんの手足でした」

「けど、ここは手足をつくる仕事というか。だから対等じゃないとダメだと思うし、引いてられない。遠慮しちゃうと、たぶん良い車いすにならないと思うんです」

突然に修理の連絡が来たり、お客さんの体調の変化で打ち合わせが延期したり。

予定通りに事が進まないのはこの仕事の大変なところだけれど、ちゃんと人の役に立つものをつくれるというのは、三浦さんにとって大きなやりがいだという。

「あと、すごく頭を使って悩むことができます。自分で触ったり、測ったり、書いたりするのは全部アナログだし、一個ずつ自分で考えないと答えは出てこない」

「ヘルパーのころは受け身だったし、もっと昔はパチンコ屋で働いたこともあったんですけど。悩める仕事って楽しいですね」

諦めるのって簡単です。けど一度でも諦めてしまえば、そこですべてが途切れてしまう。

諦めずに、人を信じ続けるこの仕事もまた、生き様のようなものなのかもしれません。

(2017/11/22 森田曜光)

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