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取材で地域を訪ねると、さまざまな課題を前にしながらもポジティブに、自分にできることをかたちにしようとする人たちに出会う機会があります。個々の活動規模は小さなものだから、なかなか広まらないかもしれないし、すぐに効果があるとも限らない。
それでも、話してくれる表情はいきいきとしている。
表立っていなくても、まちを元気にしようと種を蒔く人たちが、地域のなかにはきっといると思います。
今回訪れたのは、長野県・筑北村。
ここで、地域おこし協力隊を募集します。
活動の第一歩として取り組んでほしいのは、地域で活躍する人たちを取材し、情報発信をすることでまちの課題や資源を「見える化」すること。
取材をきっかけに、その土地に暮らす人たちのことを知り、一緒になって解決したり挑戦できることを考える。
そんなふうに関わることで、空き家物件の調査や移住コンシェルジュとしての入り口づくりや地域のコミュニティづくりなどの活動にも活かしていく。
何より、さまざまな声に耳を傾けながら、地域の人との関係性を築いていくことは、自身の3年後の仕事や暮らしをつくっていくことにもつながるはずです。
筑北村に暮らし、自分にできることをはじめた人たちに会いに行ってきました。
地域で活躍している人たちを紹介する取り組みは、すでにはじまっていて、筑北村のホームページから見ることができる。
どんな人たちに会えるんだろうと楽しみな気持ちで、東京から長野へ向かった。長野駅からは篠ノ井線に乗り換えて、40分ほどで西条(にしじょう)駅へと到着。
木造駅舎が懐かしい雰囲気を醸しだしている。
だけど意外にも大きなまちへのアクセスはいいみたい。長野や松本へは電車で20分~40分ほどで行ける距離。
そこからは車に乗り換えて、最初の取材場所へ。
北アルプスを一望できる標高800mの東山という集落で、兄弟三人で農家を営んでいるのが、一ノ瀬さん。写真右から、長男の賢一さん、次男の幸司さん、三男の浩之さんです。
畑は、全部でテニスコート約20枚分にも及ぶ。年中途切れず野菜を出荷できるようにと、白菜、キャベツ、白ネギ、にんじん、長芋にアスパラ、レタス、セロリなどを季節に合わせて栽培している。
この日は、にんじんとキャベツの収穫をしていて、軽トラックには出荷用の箱が山積みになっていた。
「白菜なんかは1箱に6個詰める。500箱は出荷するから3000個収穫するのも大変。腕はパンパンですよ!」
豪快な笑顔でたくましく話してくれたのは、長男の賢一さん。
筑北村では東京都に住む中学生を対象に農村体験を実施していて、一ノ瀬さんたちの畑も受け入れ先のひとつ。今年は雹(ひょう)による被害と重なり叶わなかったけど、年に一度は受け入れたいと思っているそう。
「受け入れは手間がかかるところもあるけど、楽しいね。一緒に作業してもらうことで『土に植わってるところなんて初めて見た!』とか、まったく違う視点の言葉が聞ける」
「うちの娘3人は、農業を身近に感じてくれているんだよね。帰ってきて手を洗ってすぐに、食卓でセロリを生のままかじってる。野菜だけじゃなくてちゃんと飯食えよ!って感じでさ (笑)」
東京ではそんな体験は難しいと思う。だから一緒に活動することで、筑北村のことも、農業がどういうものかということも知ってほしい。
そうして、自分たちが生まれ育った場所を守っていきたいと賢一さんは話してくれた。
続いて、「坂井ちょっとやる会」のみなさんにもお話を伺う。自分たちのなかから生まれる“何かしてみたい”という気持ちをかたちにしようと活動をはじめたそう。
写真左から副代表の若林さんと、メンバーの一人、萬井(よろずい)さん。
「12年前に旧坂井村、旧坂北村、旧本城村が合併していまの筑北村になりました。合併前はよく公民館に集まって、趣味や音楽、スポーツなどのサークル活動をして賑やかでした。でも、合併後は集まりもなくなっていってね」
そんななか、地域に暮らす人たちの拠点になる「里の駅」構想が提案された。
構想をきっかけに、地域ごとのリーダーが中心になって、里の駅でどんなことをしたいか一軒一軒家をまわってヒアリングしたり、ワークショップを行ったりしたそう。
しかし、里の駅構想は道半ばで断念することになる。
「久しぶりに集まると、すごく楽しくて。ここで終わらせてしまうのはもったいない。ちょっとずつでもいいから何かやっていかないかって話になったんです」
そうして「坂井ちょっとやる会」が立ち上がった。
小さいお子さんを育てるお母さんたちの息抜きも兼ねた「親子料理教室」を開いたり、薬剤師である代表を先頭に薬草も育てているんだとか。
育てた薬草は健康茶にして直売所で販売している。ほかにも、薬草をつかったカレーや天ぷら、ピザなど料理のレシピも開発中。
いつかは、健康をテーマにした食べ物屋さんにも挑戦したいそう。
「ただ、発想はたくさん思い浮かんでも、なかなか地に足がつかなくて…」と苦笑いの若林さん。
隣に座る萬井さんも、反応する。
「この前、同じくらいの人口規模の山村地域で、且つ軌道に乗りはじめた地域おこしグループのところへ視察に行ってきたんです。見ていると、私たちは本当に素人で、レベルが違うな…と思って帰ってくることが多いですね」
それでも、視察するなかで大きなヒントになったことがあるという。
「自分たちが活動を楽しんでいると、興味を持ってくれる人も増えていく。そこだね。私たちが引っ張っていくというよりも、住民のなかに入って、一緒に楽しんでいる状態をつくることがいいのかなって思う」
振り返ると、萬井さんがこの会に入ったきっかけも、里の駅構想が進んでいたときに、関わっていたお母さんたちが楽しそうに活動している姿を見たからだった。
そんな機会をもっと地域のなかに増やして、一緒に楽しんでいけたらきっと地域も変わっていく。
「年配の方でも、ぐいぐい引っ張っていくようなパワーのある人は村のなかにもいるの。だけど、結局ポツ、ポツ…と点在している状態だから。ちょっとやる会が受け皿になることで、点をつなげて広げられるよねって考えているんです」
一緒に地域で活動をしていくなら、どんな人がいいだろう。
そう聞いてみると、二人とも地域おこし協力隊として活動している青木さんを思い浮かべた様子。
「青木さんにはいろんな面で助けてもらっていて。イベントをやるときにつくってくれたチラシとか、すごく素敵なんですよ」
話していくうちに膨らみすぎたアイデアを、きちんと現実に落とし込んでくれる貴重な存在なのだそう。
「ちょっとやる会の皆さんの話し合いは現実的じゃない部分も多いので、そういうときは正直に言っていますけど。発想の種がたくさんあって、とにかく面白いです」
そう話す協力隊の青木さん。
今年4月から協力隊に加わり、若林さんや萬井さんと同じ坂井地区に暮らしている。
「僕自身、大きく掲げられたスローガンのなかで、『みんなこうしよう!』じゃなくて、『私はこう思う』『いや俺はこうだ!』と言えるような団体がいくつも点在しているほうが個性的でいいというか。それだけ興味の幅が広がるのかなと思っています」
この間は、ちょっとやる会の代表の方から、自宅の庭にピザ釜をつくりたいから設計をしてほしいとお願いをされたそう。
「建築の大学を出たから設計できるし、僕も興味があるんです。ピザ釜づくりのワークショップもできたらいいですねって話しています」
そんなふうに仕事が生まれていくのを想像すると、聞いているこちらも楽しくなる。
青木さんは長野県長野市出身。中学生のころから田舎で暮らすのが夢だったそう。地域おこし協力隊の制度を知ったのは、大学2年生のころにWWOOFという活動で岡山や沖縄の農村に滞在していたとき。
協力隊として、筑北村に来てみてどうですか?
「土壁の古い家も残っていますし、西条駅も木造の古風な感じで。景観を大事にしているんだろうなと、僕は思います」
今は先輩隊員の仕事を引き継ぎつつ、主にHPやSNSをつかったPR活動や村内のイベントのポスターデザインを手がけたり。新しく入る人と同じように、村民へのインタビューをすることもある。筑北村内外の人を集う「朝さんぽ」というイベントも行っているそう。
最近では、村に3つある駅の1つ、冠着(かむりき)駅にいる猫に、住民票ならぬ「ニャン民票」を贈るという、遊び心ある試みもした。
基本的に屋内で仕事をする時間が多いぶん、地域のイベントや行事には積極的に参加しているそう。
「はじめは閉鎖的なイメージがあったけれど、一度仲良くなると開放的に接してくれる人が多いです」
日々の仕事と並行しながら任期を終える3年後に向けて、起業する計画も立てている。
これまで学んできた建築の経験を活かして、人が集える小さな拠点をセルフビルドして、運営していくつもりだ。
「拠点をつくって活性化するのはもちろんですけど、そこでお金を稼ぐということが目標です。3年後は誰も面倒を見てくれないので。自分が食べていくための術として、できることをやっていこうと思っています」
村に移住した人のなかには造形作家さんも多く、ギャラリーとして拠点を貸し出したり、ライブハウスのように音楽を演奏できるイベントを開いたりしたいと、アイデアを話してくれた。
自分の好きなことやスキルを活かしながら、地域にも還元していく。新しく入る人にも同じように関わってもらえたらと思います。
この村の人たちと関わりながら、どんな仕事をつくっていくことができるだろう。
何か少しでも思い浮かんだら、挑戦してみてください。
(2017/11/13取材 後藤響子)