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島の未来に種をまく

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「大人が面白がっているところを見せるのが一番いい教育だよ、って言った人がいて。たしかにそうだなと思うんです。楽しんでない人から授業を受けても、説得力がないし。だから僕らが自分自身で魅力をしっかりと伝えられるような関わり方をしていきたいと思います」

魅力ある高校づくりによって全国・海外から学生を募り、教育を通じて地域活性化を目指す「高校魅力化プロジェクト」。

全国でもいち早くこの取り組みをはじめた沖縄の離島、久米島では2015年に町役場が運営する町営塾が誕生しました。

島に住む高校生を対象に、進学に向けた教科指導に加えて、社会で生き抜く力を養うための課題解決型授業を行っています。

開校から3年目を迎え、教科指導は指導方法や教材も揃い、安定してきているそう。

今後は、もっと子どもたち自身がやりたいと感じていることをサポートできるように、地域の人との関わりを生んだり、他の高校とも連携したり。活動の幅を広げていきたいところ。

今回はそんな久米島で、高校生対象の町営塾の講師スタッフを募集します。

教員免許などはなくても大丈夫とのこと。まずはぜひ読んでみてください。



久米島までは、那覇空港から飛行機に乗りわずか30分で到着。フェリーで行くことも可能ですが、冬は海が荒れて船がとても揺れるので、おすすめしません。

さっそく町営塾へ。ちょうど学校を終えた子どもたちが勉強に来ているところだった。

最初にお話を聞かせてくれたのは、町営塾スタッフの平山さん。

大学と院で教育の勉強をして、小中高の教員免許も取得。ただ、学校現場を見ているうちに、そのまま教員になることに迷いはじめてしまったそう。

「1年くらい茨城県で小学校の学習支援員をやったんです。先生たちは本当に忙しくて、あまりゆっくり生徒と話す時間が取れていないように感じました。私がやりたかったこととちょっと違うなって」

「あと、いろんなことを同時に要領よくできるタイプじゃないので、『私、先生に向いているのかな?』とかいろいろと不安になってしまいました」

そんなときに高校魅力化プロジェクトを展開する株式会社Prima Pinguinoの藤岡さんに出会う。

「地域を存続させるには教育が大事だ」という藤岡さんの考えに刺激を受け、平山さんはこれまで一度も来たことがなかった久米島へと飛び込むことに。

実際に来てみてどうでしたか?

「進路対策がメインかなと思ってきたんですけど、高校生でも中学校の内容の復習からはじめる子もいます。高校3年生になったら、大学受験のために1年間勉強をすることすら常識じゃなかった。それはこちらに来て知ったことですね」

大学進学だけが必ずしも幸せではないけれど、本人の希望なら出来る限り応援したい。

久米島の高校生たちの遅れをいかに取り戻し、大学進学までつなげるか。難しさを感じることもあるという。それでも毎年少しずつ、島の進学率は上がっている。

一方で生活の面ではいいギャップもあったのだとか。それは地域の人たちが予想以上にあたたかく迎え入れてくれたこと。

「あるとき知らないおじさんが訪ねてきて。初対面の私に獲れたてのマグロを持ってきてくれたんです。ご近所さんだって後から知りました(笑)外からきた人もすごく入りやすい雰囲気があると思います」

その言葉通り、なんと久米島には地域おこし協力隊が17人もいる。今回入る人も、地域おこし協力隊として久米島町に雇用されることになります。

役場の移住定住係が率先してイベントを企画しているのも、溶け込みやすいポイント。平山さんも農家さんと農業体験をしたり、博物館の学芸員が主催する古文書を読むサークルに参加したのだそう。

普段の主な仕事は、放課後にやってくる高校生たちに個別指導形式で数学・英語・化学などさまざまな科目の勉強を教えること。

さらに通常の教科学習とは違った学びも企画している。たとえば、取材の前日には高校生と町の大人が集まって「島の未来を考える会」が開催された。

きっかけはある高校生の一言。

「町の現状がよくわからない、とその子が言うんです。毎月発行する塾の広報誌を書いている子なんですけどね。じゃあ実際に聞いてみよう!と、役場や地域で働く方と直接意見交換をしました。島の財政についてとかシビアな話も出ましたよ」

「大人が何をしているか、自分たちがどう動けばいいのか、高校生は何も知らない。でもきちんと島の状況を知れば、将来島に戻ってきて仕事をつくることも現実的に考えられるようになるかもしれない。島の将来のために種まきするような気持ちでやっています」

ほかにも、塾では情報収集能力やディスカッション能力、将来の方向性を身に付けるための授業「ちゅらゼミ」を開催。教材やゼミの内容はすべてスタッフ独自で作成している。

前回は「聴く力」をテーマに傾聴スキルを学び、「コンサルタントになろう!」と題した会では久米島のお土産が書かれたカードを使って、マーケティングや経営視点の初歩を学んだ。

生徒が将来について考える機会をたくさんつくり出しているのは、きっとこの塾の大きな特徴。

教科指導と合わせて、しっかりと子どもたちに寄り添う時間がとれるように思う。

「そうですね。面談も年5回ありますし、進路以前のもやもやも話してくれる子が多いんです。勉強やる気出ないとか、進学費用大丈夫かな?とか。ぽろぽろっと悩みが出てきたりして。思っていた以上に密なコミュニケーションがとれているかな」

「今いる子たちが自分の目指す進路を実現するまで、しっかり見届けたいと思います」



町営塾には、教育の仕事の経験がないなか飛び込んで、子どもたちと一緒に成長している人もいる。

日本仕事百貨を通してスタッフに加わった麓(ふもと)さん。

NPO法人カタリバの活動に参加したことをきっかけに、教育に興味を持ったそうだ。

「指導経験がまったくなかったので、高校魅力化プロジェクトのなかでも立ち上がったばかりのところに関わるのは不安でした。すでに走り出していたのが久米島だったんですよね」

「最初の研修で、模擬授業をやってみたんですがもうボロボロで…不安すぎて声もちっちゃかったし。あの時に一度、心が折れましたね(笑)」

最初は先輩スタッフの教える姿を見ながら、指導の仕方を学んでいったという麓さん。自分でも勉強を続け、4月に入り6月には現代社会の授業を任されるようになった。

「試行錯誤を続けていたら、成績が徐々に上がっていく子もいて。同時に小論文の指導をしていたんですが、子どもたちが書いている内容が変わっていくのを感じると、少しずつ自信につながっていきました」

「だから教科指導したことないっていう人がいたら、なんとかなるって僕は言いたいですね。スタッフ同士でサポートもしあっているので、安心してきてほしいなと」

1年目は、まわりの先輩に追いつくことで手一杯だった。2年目を迎えて、考え方にも変化が生まれているそう。

「それまではまわりに教えてもらった指導方法を実践していたんですが、さらに自分なら何ができるのかを考えるようになりました。生徒に対して自分はどんな状態で接したいか、その子にどんなふうになってもらいたいかを考えています」

具体的にはどういうことでしょうか?

「たとえば、生徒との関わり方がすごく変わったんですよね。気軽に思っていることを話せる関係をつくりたくて、塾のロビーに出て漫画やアニメの話をしてみたりとか。教え方も『この言葉の意味わかる?』って同じ認識を持っているのか根本から確認するようにして」

小さなことからでも、自分の頭で考え試してみる。すると、だんだん生徒たちから自然と声をかけられるようになった。

「明日数学教えてほしいんだけど、先生います?って前日から声をかけてもらったのはすごくうれしかったですね」

麓さんの言葉からは、充実した毎日を送っていることが感じられる。

一方で、協力隊の任期は3年間。そのあとのことはどう考えているんだろう。

「やっと自分なりの関わり方を考え始めたところなので、3年後のことはまだ決めていません。そこは生徒たちにも伝えていて。『僕も将来のこと考えているんだよね』とか、『考えるの難しいよね』っていう話も結構します。自分の話もしつつ、生徒から話を聞きたいなと思うので」



スタッフ一人ひとりが試行錯誤を続けて、第二の変革期を迎えている久米島の町営塾。島にはその姿を見守り、サポートする人もいます。

商工会会長の嘉手苅(かてかる)さん。高校魅力化プロジェクトの立ち上げ段階から関わってきた方で、島唯一の高校、久米島高校の卒業生でもあります。

「この島はね、教育の島なんですよ」

教育の島、ですか。

「学問で身を立てるっていう気持ちがすごく強いんです。農業とか漁業で生計を立てているから、子供たちにはこういう苦労はしてほしくないという親の思いがあって。私が子どものころは、財産を売ってでも教育に投資していました」

その思いに応えるように、昭和13年から17年にかけて久米島高校は県内の進学率で5年間トップを守り続けた。島出身者には教育者も多いそう。

そんな背景もあって、久米島高校の生徒数が減り続け伝統ある園芸科が廃科の危機に陥ったときも、ピンチをバネにして島は一つになった。教育を継続していこうと、高校魅力化プロジェクトの立ち上げを決める。

「ただ誤解してほしくないのは、定員を満たすためにこの取り組みをやっているわけではないっていうこと」

「僕らはこの取り組みを通して、最終的には人のブランドをつくりたいんだ」

人のブランド。

「出身はどこですか?と聞かれたら、誇りを持って久米島と言えるような人をつくりたい。特産品をつくったり、何をするにも資本は人だと思うから。それを誰かに期待するんじゃなくて、自分たちでやっていく」

「この事業は人づくりの見本だよね。教育で人を育てていくことは、島の未来をつくることだと思う」

協力隊の任期は決まっているものの、嘉手苅さんは島での起業などその後の活動もサポートしていくと話してくれた。島の未来のために動き出した人がたくさんいるから、きっと安心して入っていけると思う。



最後に町営塾スタッフの平山さんの言葉を。

「今、久米島が抱えている課題って、諦めちゃうこともできるんです」

「子どもたちの学力が上がらないことも、生徒数が減っていることも、『しょうがないね』って言ったらそこで終わっちゃう。でも、『いやいやそうじゃなくてさ』って、一緒になって島のことも子どもたちのことも考えてくれる人に来てほしいです」

教育の力で着実に変わり始めた久米島の未来。

この島の未来のため、地道に種をまくような仕事だと思いました。

興味を持ったら、ぜひ久米島の人たちに会いにいってみてください。

(2017/12/19 取材 並木仁美)

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