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自分でつくらな

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事業を自分ではじめる。

雇われて働いている人にとって、それは自分とはほど遠いことのように感じるかもしれません。私もずっと他人事だと思っていました。

けれど日本仕事百貨の取材を通していろいろな人の話を聞いていると、その考え方は変わってきたように感じています。

自分でなにかをはじめることは特別なことではなくて、より自分に合う生き方を見つける手段なのかもしれません。

今回紹介するのは、大阪の西南端に位置する岬町

大都市大阪のイメージとは異なり、レジャーが楽しめる海岸線と、町の7割を占める山林に囲まれた町です。

ここで自分の事業を立ち上げながら、町のことを一緒に考えていく仲間を募集することになりました。

具体的には人が集まるゲストハウスやカフェなどの場所を立ち上げる人。人を受け入れる空き家探しと移住の仕組みをつくっていく人。そして豊かな自然のなかで、農漁業に関わる人。

「まちづくりエディター」という制度を利用して、最長3年間、ここで報酬を得ながら事業をつくっていくことになります。

この町では、最近さまざまな自治体が取り組んでいる“まちづくり”の活動がまさにはじまろうとしているところ。

誰かがつくった土俵ではなくて、自分ではじめてみたい。そんな人にはいい土地なんじゃないかと思います。

  

東京から岬町に行くには、関西国際空港を使うのが近道。

空港からは40分ほど電車に乗れば、岬町に行くことができる。

「せっかくなので、空港の近くまで迎えに行きますよ」

そう連絡をくれたのが、岬町役場の新保(しんぽ)さん。取材前から丁寧に連絡をもらっていたのがとても印象的だった。

「正直に言うと、安直な考えで公務員になったんです。でも和歌山のリノベーションスクールに参加して、地元である岬町もなんとかしたいと思うようになりました」

リノベーションスクールとは、3日間ほどのワークショップを通して、空き家を活用した事業プランを練っていくもの。

和歌山市では2014年から定期的に開催されていて、これを機にゲストハウスや飲み屋ができるなど、町の風景が変化しつつある。

「自分の町もなんとかしていかんとあかんなって。ずっとまちづくりの仕事をしたいと思っていて、ようやく地方創生に関わる部署にやってきたんです。なにせはじめてのことばかりなので、思うようには進まないんですけどね」

岬町には遊園地やゴルフ場、ヨットハーバーなどのレジャー施設があるものの宿泊施設があまりないため、大阪の中心部から来ても日帰りで帰ってしまう人が多いそう。

人口は1万6000人ほど。ここ数年で大きな企業の撤退が進み、じわじわと人口も減り続けている。

もともとは漁業が盛んな漁村で、兼業農家として野菜を育てる人もいた。最近は高齢化に伴い耕作放棄地も増えてきた。

「大阪市内に通うベッドタウンということもあって、今まではなんとなくやってこれた町だったんです。もちろん人口が減っていくのは仕方ないところもあるんですが、何もしないわけにはいかなくて」

「飲食店はありますが、夜9時をすぎると飲める場所もないんです。人が集まるような場所があれば、なにかはじまるきっかけになるんかなと思っていまして」

「まちづくりエディター」になる人は、最長3年間、報酬をもらいながら自分の事業をつくっていくことになる。

今回特に募集したいのが、具体的にはゲストハウスやカフェなどの業態で町に開いた場をつくること、そして空き家の利活用を進めていくような不動産事業を行っていくこと。

自分の事業をつくるときに意識してもらいたいのは、町のこと。

「つながっていないだけで、おもしろい活動をしている人は点在している町なんですよ。だから空き家を活用して、人が集まれるような場所をつくる。そういうスタートアップを一緒に連携しながらやってみませんか、と考えています」

新保さんがやろうとしていることはなんとなく想像できた。けれど空き家のリノベーションや起業支援をしている自治体はほかにもたくさんある。岬町ではじめる理由って、なんなんだろう。

「岬町って、ワークショップやりますって言っても、小難しいことやっとるなっていう感じで(笑)。やりたいことやないものは、自分でつくらなあかんと思っていまして」

「飲み屋もなければ町の中心になるコミュニティもない。まだなにもはじまってないところやからこそ、プレイヤーになれるし、自分がやりたいことをできるっていう場所だと思っています。真っ白なキャンバスに絵を描いていくみたいに、一緒に動く仲間を増やしていきたいんです」

口数の少ない新保さんが、畳み掛けるように続ける。

「せっかく来てくれるなら、僕はプライベートを犠牲にしてでも応援するつもりです。そうじゃないと来てくれた人に申し訳ないし、僕もそうしていきたいんです」

「なんか急にたくさんしゃべってすみません、恥ずかしくなってきてしまった(笑)」

熱い想いを持っている人がいるのは心強い。事業のことも、町のことも、一緒に考えながら進んでいく相談相手になってくれると思う。

  

人が集う場の拠点候補となる物件は、すでにいくつか出てきているそう。

もともと古い旅館だったという物件を新保さんと一緒に掃除して、使えるように整備しているのが江端さん。大阪大学の4年生で、岬町をフィールドにまちづくりの研究をしているそうだ。

この春には大学院に進学し、引き続き岬町のまちづくりに関わっていきたいと考えている。岬町に来ることになったきっかけは、昨年開催されたまち歩きワークショップだった。

「漁村だったこともあって古い路地や井戸、石壁などが残っていて。海も近くて山もあるっていう立地がいいなって。流れる空気がゆったりで、ここでなにかやりたいなって思ったんです」

江端さんの所属しているゼミは、昨年度から岬町のまちづくりをするための取り組みを続けている。江端さんはその担当として、定期的に岬町に来ているそう。

今は空き家の状況や町の様子を調査して地図に記す活動と平行して、イベントを企画。駅舎を利用した「ミサキノ酒場」というイベントには800人もの人が集まり、地域の人とつながるきっかけにもなった。


最近は通うだけでなく、二拠点居住をするような取り組みもはじめているところ。

「『住み渡り』って呼んでいるんですけど。岬町に来るときには町の人の家に泊まらせてもらうんです。いろんな方の家にお邪魔して話をすることで、この町の魅力をさらに見つけて行きたいと思っています」

もともとまちづくりについて学びたかったという江端さん。関西でもおもしろい取り組みをしている地域はたくさんあるなか、どうして岬町を選んだんでしょう。

「うまくいっているところを見て学ぶのも大事なことですよね。わたしは縁のあった人と一緒に、自分がやりたいことが言える立場で関われるのがいいな、と思って」

「成功している町を側で見るだけではなくて、自分も1つの力として実践でやってみたいなと思って飛び込みました」

  

自分ではじめられるというのは魅力に感じる一方で、不安に感じる人もいるんじゃないだろうか。

そう考えながら話を聞きにいったのは、岬町で家具をつくっている弓場(ゆば)さんのアトリエ。もともと美容室だった建物を、すべて自分でリノベーションしてつくった場所。

今の仕事にたどり着くまでには、自動車整備やパティシエ、奈良で人力車を引いていた経験もあるんだそう。

「自動車整備をして、僕は自然のもので仕事をしたいと思うようになりました。次はパティシエになったんですけど、そこでも僕なりの考えがあって」

「すごく上手にケーキができても、お客さんから帰ってきたお皿にはなにも残っていないんです。当たり前なんですけど、悲しくなって。それで、ものを残したいという想いが強くなりました」

遠回りをしているように見えるけれど、自分に合うものを探りながら進んできた。

宮大工の仕事にも憧れがあったものの、地方に泊まり込みで働く生活は自分には合わないと感じたそうだ。

「外に出ずに木に触れる仕事って考えて、家具にたどり着きました。1年間職業訓練で勉強したあと、アルバイトで貯めた100万円で材料と機械を買って。当時の家についていたカーポートを作業場にしてはじめたんです」

最初のお客さんは、様子を見に来た近所の方だったそう。それから口コミで仕事が続くようになり、少しずつ拠点を大きくしながら岬町にたどり着いた。

「仕事はどこでもできると思っているんです。お向かいのおじちゃんも、家の改装をしてるときから応援してくれてて。最初は、言葉がわからなくて大変でしたね。口調が強いから、最初は怒られてるのかと思いました(笑)」

アトリエを構えたのは3年前。和歌山に抜ける通りに面していることもあり、通りすがりに気になって立ち寄ってくれる方も多いそうだ。

「家具職人としてふつうに就職していたら、この仕事の大変さや独立のむずかしさを痛感してできなかったかもしれませんね。ちょうど20年なんですけど、とりあえずご飯は食べられています」

「自分でこういう仕事をするようになって、価値観が変わりました。たとえばお給料をもらうのと、自分でつくってお金をもらう感覚ってやっぱり違って。お金の欲はきりがないってわかってきました」

自分でどれくらい働くのかは、自分で自由に決めればいい。

20万円分の生活をしたいなら、月に20万円稼ぐ仕事をする。100万円の生活がしたいなら100万円稼ぐ。

「上を見たらきりがないですよね。それやったら僕はお金じゃなくて、自分の心を満たす時間を増やすほうが楽しいっていうのは、やりだしてわかるようになりました」

ほかに弓場さんのなかで大きく変わったことは、人と比べなくなったことなんだそう。

「自分しかできひん仕事をやってるから、比べようがないですよね。ものでも場所でも、同じものをつくってる人はいないじゃないですか。こだわって自分の仕事をしているので、すごく頑固になりましたけどね。どうだろうね」

横で話を聞いていたパートナーの前田さんは、ステンドグラスを使った作家さん。

これまでは都心で働きながら、空いた時間でステンドグラスをつくっていた方。弓場さんの生活に影響されて独立を決めたそうだ。

「こういう生き方もあるんだって。需要があるかはわからなかったんですけどね。でも、いつ死ぬかわからないと思って。町の人が買っていってくれるのはうれしいですよ」

「ここは海と山がほんまに近くて、いいなと思って。朝は海風が、夕方になると山からの風が降りるので気持ちいいんです。ここはツバメの通り道になっていて、季節になるとどこの軒先にもツバメが巣をつくるんですよ」

岬町では、あたらしい風が吹きはじめているようです。

気になったらまずは、新保さんに会いにいってみてください。きっと、歓迎してくれると思います。

(2017/11/14 取材 中嶋希実)

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