求人 NEW

村とリスタート

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「任期の3年間を振り返ったとき、『この村に来てよかったな』と思えるような時間にしてほしいんです。村での活動を通して、自分の居場所をつくったり、自分にはどんなことができるのかを試したり。この村と一緒に成長していってもらえればいいなと思うんですよ」

そんな言葉が印象的な取材でした。

今回の舞台は、高知県・馬路村

県の東に位置する、小さいながらも「ゆずの村」として全国区の知名度を誇る村です。

今回はここで、地域おこし協力隊として村をPRしていく人を募集します。

今でも知名度は十分な馬路村。けれど、今の人気がずっと続く保証はどこにもない。そこで村は、新たな魅力を一緒に考え、伝えてくれる人を探すことになりました。

いわば「ゆずの村」のリスタート。村を育てながら、自分も育んでいくような仕事だと思います。



高知駅から1時間ほど電車に乗り、安芸駅へ。馬路村は、ここからバスでさらに1時間のところにある。

太平洋を横目に進んだバスは、しばらく走ったところで進路を山へと変える。川底まで透き通った清流を眺めながら曲がりくねった山道を登っていくと、のどかな里山の風景が見えてきた。

ここが今回の目的地・馬路村だ。

信号機や高い建物がないため、とにかく空が広い。道路沿いには大きな一軒家が並び、その側には柚子がなっている。

ゆったりとした空気を感じながら、役場へ向かう。今回募集する人の拠点にもなる場所だ。

まずお会いしたのは、今回の募集を担当している川合さん。

こちらの質問に、丁寧かつ的確に答えてくれる方。出身は東京とのことだから、きっとこれから村へやって来る人たちのことも親身になってくれると思う。

席に着くと、村の特産品のゆずジュース「ごっくん馬路村」を用意してくれた。和やかな雰囲気で取材がスタートする。

「馬路村は人口820人ほどの小さな村です。でも、小規模ながら知名度が高いんですよ。それはこれらの特産品が村の広告塔となってくれているからです」

なかでも代表的な商品が、この「ごっくん馬路村」や「ぽん酢しょうゆ・ゆずの村」。ほかにも、魚梁瀬杉(やなせすぎ)を代表する良質な木材を活用した曲げわっぱやバッグなど、木製品の人気もとても高い。

商品の広がりにともなって、村の知名度も自然に高まってきたというわけだ。

「村には『特別村民』という公式ファン制度があるんですが、登録されている方も全国各地にいて、村の人口を上回るほどなんですよ。よく気にかけてくれてもらえる環境にあると思いますね」

するとますます気になるのが、今回の募集する地域おこし協力隊のこと。

順調に見える馬路村が、どうして村のPRを担う人を探しているのだろう。

「実は、商品は充実していても、村そのものの情報はどうにもうまく売り込めていないんです。いざ村を訪れようと思っても商品以外に何があるのか分からないし、生活するイメージなんてもっと湧かない、という声もよく耳にします」

その昔、ほかの自治体に先駆けてポスターやパンフレットをデザインしたことにより、いち早く村のPRに成功してきた馬路村。以来「堂々たる田舎」というキャッチフレーズのもとアナログ方式でPRを続けてきたものの、いつのまにかデジタル時代に取り残されるように。

さらに、生活のお知らせ情報はすべて村内放送でまかなえてしまうため、SNSなどの情報ツールを利用する人もほぼいない。そんな状況から、ほかの自治体と比べてデジタルの情報発信スキルが「周回遅れ」だという。

「正直、役場のホームページも最低限しか更新できていません。移住希望者向けに用意したページやSNSも、うまく活用しきれていないのが実情です」

知名度の高さに安心してはいられない。いま馬路村は、新たな一歩を踏み出す時期を迎えている。

「僕も2年前から東京から引っ越してきましたが、この村はいざ暮らしてみれば自然も豊かだし、生活環境も不便じゃない。商品はもちろん、住んでも観光してもいい村なんです」

「それだけに、今の状況は非常にもったいない。今の馬路村には、何よりも伝える力が必要なんです」

今回募集する人は、まず移住者の目線で馬路村を発信していくことが大きな役割になる。

まずは、SNSを用いた村のPRから。写真や文章で村での生活や発見を自由に表現していくことになるだろうから、それに興味がある人だといい。

さらにSNSに限らず効果的なPR方法も一緒に検討していく予定だ。スキルアップのために必要となる研修や出張なども依頼があればほぼすべて応える心算だし、提案や相談も遠慮なくしてほしいという。

やる気と努力次第で、自分のスキルも磨いていける環境は用意されている。その先で「ゆずの村」にも新たな印象が生まれるだろうと、川合さんは考えている。

「協力隊を一方的に利用しようとは思っていないんです。むしろ協力隊員の体験がそのまま村の力にもなると思っているから、この村をうまく使って、自分の興味があることや得意なことを伸ばしてもらいたい。自分を育てながら、村も育ててください」



ところで、新しく入る人はまずはどんなところから村を知っていけばいいだろう。

この質問に答えてくれたのが、同じく村職員の西岡さん。ふるさと納税や林業を担当している方だ。

「村の様々なところにアプローチするきっかけとして、ふるさと納税の仕組みを使うのが最適だと思っています。まずはそこから一緒にやっていきましょう」

ふるさと納税とは、自分の故郷や応援したい自治体に寄附ができる制度のこと。お礼として特産物を用意している自治体もあり、馬路村でも3年前から返礼品をはじめた。

現在のラインナップは、ほとんどが馬路村農協と木工所「エコアス馬路村」の商品。ただ、それだけに頼るのではなく自分たちでも馬路村をよく表すような返礼品を増やしていこうと企画もはじめている。

その第一歩となったのが、昨年度からはじまった“馬路米”だ。

「先入観なしに馬路村らしさを考え直したとき、思い浮かんだのがお米だったんです。馬路村には、個人が自家用につくったお米が大量にあって。いい水と大きな寒暖差のおかげで、冷めても美味しいお米ができる」

馬路村といえば柚子の印象。米はまったく思い浮かびませんでした。

「そうなんです。販売する目的でつくっていないのでまったく知られていないんですよ。このままではもったいないし、お金に変えていける方法としてふるさと納税の仕組みを使うことにしました」

はじめての取り組みであったものの、実際に口にした人からは「馬路にこんなに美味しいお米があるなんて」と想像以上に大きな反響が届いた。来年度に向けて生産者からも期待の声が上がっているという。

納税額が増えればうれしい。ただ、一緒に取り組みたい目的はそれだけではない、と西岡さん。

「ここにあるものをどう活かしていくか。村に埋もれている資源として何を見つけ、どんな形にしていくか。このプロセスを通して、村のことを知ったり、自分の得意な分野を伸ばしていければいいと思うんです」

「一方的じゃなくて、双方向的な関係というか。この活動を通して自分なりのお金を生み出す方法や生業をつくる術を見つけられたら、その人にとっても村にとってもいい影響があるんじゃないかなって思っています」



現在、馬路村ではすでに3人の協力隊員が活動している。

そのうちの一人、西尾さんを紹介してもらった。昨年の4月から、村内の魚梁瀬(やなせ)地区をフィールドに活動している方だ。

「協力隊になる前に、馬路村を訪れたことがあって。もともとファンだったのもありますし、何より村の雰囲気が自分にしっくりきたんですよね。きっかけがあったらここに住んでみるのもいいかも、と思ったときに協力隊の募集を見つけました」

まずは村の人に顔を知ってもらうところからはじめたという西尾さん。村に溶け込むのには、そんなに時間は要らなかった。

「ここは、誰か一人と知り合えば、その人の知り合い五人くらいまでつながるんです(笑)すごく新鮮な野菜を分けてもらうことも多くて。生活面でも、村内全域でネットが使えるし、毎日宅配の車が来るので十分に生活していけますよ」

ただ、村内にはコンビニもないため、ほしいと思ったときにすぐにものが手に入る環境ではない。そういったことも含めて、村のことを受け入れることができる人がいいと思う。

そして気になるのが活動環境。馬路村では、協力隊はどう受け止められているのだろう。

「ひいき目抜きで、すごく活動しやすいですね。村の人も役場の人も協力隊を守ってくれる。自由だけど、放任ではないんです。ほかの地域の協力隊と話していても、すごくバックアップしてくれいるんだなって感じます」

「だからこそ、ちゃんと責任感を持って活動しないといけない。やっぱり協力隊は地域の人とのつながりがあってこそ。人付き合いを大切にできる方であれば、きっといい居場所になると思いますよ」



とはいえ、はじめての土地で暮らすのは勇気のいること。慣れない生活に疲れたり、地元の人には相談しにくいこともあるかもしれない。

そんなときには、この方を訪ねてほしい。2年前にご夫婦で村に移住し、村で唯一のパン屋をはじめた前田さんだ。

パン職人として働いていた経験もあった前田さん。仕事で村を訪れたときに空き店舗となったパン屋を発見し、「やってみないか」と持ちかけられたそう。

お店は小規模ながら、パンのほかにもコーヒーやイートインスペースがある。今では働き盛りの若者からおばあちゃんまで、幅広い世代が前田さん夫婦とパンを目当てに店を訪れて、大切なコミュニティの場にもなっている。

「皆、優しいです。『毎日来るね』と言ってくれたおばあちゃんが本当に毎日来てくれたり、体力的にも精神的にもきつくなって週休を1日増やしたときには『そのほうがいい、ゆっくりして』と口を揃えて心配してくれたり」

「自分らは、村に支えられてるなって。だから新しい人が来るなら、同じように歓迎したいし、ここにも来てくれたらうれしいよね」



最後に、担当者の川合さんがこんな話をしてくれました。

「協力隊としての任期は最大3年間です。その後も希望すれば住み続けてもらえるよう、こちらとしても最大限サポートしていきます。もし馬路に来てくれるのなら、せっかくつながった縁なので大切にしたい」

「繰り返しになりますが、完璧じゃなくていいんです。ここで活動するなかで、村と一緒に成長していければいい。やる気さえあれば、大歓迎です」

(2018/01/18 取材 遠藤真利奈)