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ここから芽吹いて

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農業に携わりながら身を立てたい。今回の記事は、そんな夢を持つ方にぜひ読んでほしいと思います。

舞台は埼玉県小鹿野町(おがのまち)。

町を囲う山々と集落の間に清流が流れ、昔ながらの文化が息づく。その一方で、東京都心からのアクセスがよいところ。美しい景観を求めて毎年多くの観光客が訪れます。

今回は、そんな小鹿野町のフィールドを活かして、農業分野で独立を目指す地域おこし協力隊を募集します。

すでに活動をはじめた協力隊もいる小鹿野町。いったいどんな活動になるのか、ひと足先に町を訪れてお話を伺ってきました。



池袋駅から乗った西武線の特急電車は、2時間もしないうちに終点の西武秩父駅に到着。ここから先は車に乗り換えての移動になる。

賑やかな秩父市からひと山越えたところが小鹿野町。町の奥へさらに進むと、あたりはだんだんと山里の景色に変わっていく。

13年前、小鹿野町と両神(りょうかみ)村が合併してできたのが今の小鹿野町。もともと両神村だった町の西側は、険しい山並みを挟んで群馬県に接している。

この日訪ねたのは町役場両神庁舎。ここには地域おこし協力隊が所属することになる、産業振興課が入っている。

「小鹿野の農業で、それ一本で生計を立てていけるほどの生産ができているのはきゅうりくらい。ほかの農業でも町を盛り上げたいと思っているところです」

そう話してくれたのは、産業振興課課長の坂本正明さん。

小鹿野の特産物は、1年を通してハウスでつくられているきゅうりなのだそう。

味が濃くてみずみずしい小鹿野のきゅうりは、平均価格の3割増しで取引されるブランド品。

そのほか全国に出回る枝物といわれる花木(かぼく)や、こんにゃく芋にいんげんなど、町の特産品はたくさんあるものの、農家の高齢化により農業の担い手は少なくなっている。

「何かひとつ新しい事業をつくるなりして、この町の農業をレベルアップさせられたらと思っているんです」

町として今はさまざまな挑戦をしているところ。たとえば、農業の担い手育成塾を開いてみたり、町外向けに特産物の宅配販売をはじめてみたり。

昨年からはじまった農業担当の地域おこし協力隊も、その取り組みのひとつだ。

今回の協力隊にはどんなことをしてほしいのでしょう

隣で話を聞いていた坂本旭(あきら)さんが話に加わってくれた。正明さんと同じく、産業振興課で働いている。

「これをしてほしいというのは敢えて明確にしていません。農業の分野でやりたいことがあれば、町の資源を活かして自由にやってほしいと思っています。だからやりたいことを持っている人がいいでしょうね」

昨年の協力隊募集の際には、実はいくつかの任務を用意していた。ところが、集まった応募者の多くが、すでにやりたいことを持っている人たちだった。

そこで、小鹿野町は協力隊の仕事の方向性を変えることに。町から仕事をお願いするのではなく、隊員たちの「ここでやってみたい」という思いをサポートすることにした。

「町としては3年後の独立を目指してもらいたいので、任期中はしっかりとサポートするつもりでいます。町にはこういう素材があるけど、あなたならどう活かしますか?っていう問いかけをしたいですね」



どんな活動になるのだろう。

すでに活動をはじめている地域おこし協力隊の太田さんに話を聞いた。

「自分はえごまを育ててみたいと思って応募しました」

太田さんは移住してきてまだ1年足らず。すでに自分で育てたえごまを商品化して販売まで行っている。

小鹿野町に来る前は、都内でお菓子職人をしていた。そこで食用油に興味を持ち、自分でえごまを輸入してその油を販売する仕事ををはじめたのだそう。

当時取り扱っていたえごま油は、100g2000円と決して安くなかったけれど、買ってくれる人はそれなりにいた。

だから、原料のえごまを国内の農地を使い自分の手でつくることができれば、さらに価値の高い商品にできるんじゃないか。自然とそう考えるようになっていった。

そんなあるとき、友人を訪ねるために小鹿野町を訪れる機会があった。その際に、町役場の職員から協力隊についての話を聞かされたという。

「空いている畑を使って何でもやっていいよって、ふんわりした話をされたんです。畑なんて触れたことさえなかったんだけど、やってみようって。面白そうだと思いました」

昨年の春に着任してから人生初のえごまの栽培をはじめた。そのえごまを使った“えごま茶”や“炒りえごま”といった商品が生まれ、今はwebでの販売もスタート。秩父市などの催事でも評判が良く、地元の直売所でも少しずつ売れはじめている。

1年目にしてはずいぶん順調そうに見える。けれど、実際は試行錯誤の繰り返しなのだそう。

「無計画にはじめてしまったので、うまくできたとは言えないです。天候が読めなくて、えごまが思うように育たないこともありましたしね。いろんな人のサポートがあって、どうにか商品にできたという感じです」

畑や、お茶をつくるための乾燥機など、町にあるいろんな資材を貸してくれたり、えごまを育てたことのある農家さんを紹介してくれたり。実際の農作業のお手伝いまで町役場の職員や町内の人が関わってくれている。

知らない土地で経験のないことに挑戦するのは、不安も多いはず。でも、自分の夢をサポートしてくれる人がいるなら、勇気が湧いてくる。

「昨年のえごまは課長がいなきゃつくれなかった。今年はひとりでやってみないと」

基本的な活動は本人の裁量に任されているものの、毎日役場には顔を出すことになる。困ったことがあればそのつど職員に相談ができるという。

やりたかったえごま栽培のほかにも、太田さんは積極的に町のための活動をしているそう。

たとえば、町内の生産者さんと町の農産物の未来を話し合う「直売所 未来会議」を主催。ほかにも、さまざまな農産物を使った商品開発を行っている。さらに、小鹿野町の魅力を発信するwebマガジンのライターもしているのだとか。

「正直、町自体に思い入れはそんなにありませんでした。でも、自分の活動はたくさんの町民の方が関わってくれて成り立っているんです」

「東京にいたときはひとりで生きていたように感じていたけれど、小鹿野にいると、ひとりで生きているわけではないんだなって実感します」

飾らない言葉の節々に、お世話になっている町の人たちへの想いがにじみ出る。

「ちゃんと考えた結果なら、やりたいことが途中で変わってもいいと思うんです。やっぱり事業化が難しそうだからえごまをやめて狩猟をやりますって言い出しても、小鹿野町はそれを許してくれるところだと思う」

「だからこそ、この町では自分の意志を持っていないと。何をすればいいのかが、わからなくなっちゃうと思います」

ここまでお話を伺っていて不思議だったのは、さまざまな挑戦をしている太田さんを批判する町民がいないこと。都会からやってきた新参者だというのに、地域にちゃんと自分の居場所をつくれているように感じる。

そう伝えると、太田さんが活動するときに気をつけていることを教えてくれた。

「急がない、ということを意識しています」

急がない。

「自分が何をしたいと思っているのかを、やってみる前に必ず周りに知ってもらうようにしてるんです。どんなに小さなことでも、関係が無さそうな人に対しても。何をやるかよりも、どういう進め方をするかというところで溝は生まれていくのかなと思います」

一見非効率な手順が、こういう地域では大事にされている。小鹿野町の協力隊が、SNSに毎日のように活動内容を載せていることにも納得がいった。



豊かな農資源があれば、それを狙う動物たちが集まってきてしまうもの。

今回の協力隊の仕事にはないけれど、小鹿野町で有害鳥獣対策に取り組んでいる星さんにもお会いしてきました。太田さんと同期の協力隊です。

福島県に生まれ育ち、都内で製造業やタクシー運転手などさまざまな仕事を経験してきた方。移住を考えたきっかけは、2011年に起きた原発問題だった。

「農作物の風評被害がやっと収まったと思ったら、今度は鳥獣害で農家さんが苦しめられてると知って。ふるさとである福島に、鳥獣害対策を通していつか恩返しができたらと思って」

ゆくゆくはビジネスとして成り立つ狩猟産業の仕組みをつくりあげ、全国で活躍するハンターを育てる立場になりたいという夢を持っている。

さまざまな農作物をつくっている小鹿野町は、鳥獣害対策に積極的に取り組んでいる。夢に挑戦するにはぴったりの町だった。

着任後3ヶ月ほどは、先輩ハンターについてまわって勉強した。その後は自ら罠を仕掛けたり、農家さんから連絡が入ったら現場を調査して一緒に対策を考えるというスタイルで仕事をしている。

高齢化する各地のハンターは、農業の傍ら狩猟をやらざるを得ない人が多いため、負担が大きいと不満を漏らす人が多いそう。星さんはそういったハンターたちのモチベーションを高めていくことも、若いハンターの役目だと思って活動している。

「まずは小鹿野町、ゆくゆくは全国の農村を良くしていこうという気持ちで狩猟産業に携わりたいんです。この想いを大事にしたいから、自分で事業を立ち上げたい」

はっきりとした口調から、星さんのモチベーションの高さが伝わってくる。

日々の仕事について聞いてみると、一転して頬がゆるんだ。

「すごく自由度が高くて楽しいですよ。休みの日も罠を見回りに行ってしまうくらい」

「もっと使いやすい罠がほしいと思ったら、町の木工所を借りてつくることができて。私はものづくりも好きなのですごく楽しい。ここでは、いろんな経験をさせてもらえます」

この日は、課長である正明さんとかぼちゃの収穫に行く予定だと教えてくれた。こちらもいずれ、ポタージュスープとして商品化を目指しているとのこと。

自分の活動を自由に進めながら、さまざまな仕事を体験できるのが小鹿野町の地域おこし協力隊。今回の募集について、最後に星さんがこんなことを話してくれました。

「目指すのは就農でも起業でもいい。なんでも真面目に取り組める人なら、チャンスがいっぱい転がっていると思います」

お話を伺った2人とも、自分の夢をしっかりと持ちながら、仕事を楽しんでいる様子が印象的でした。

これから小鹿野の町が色づく春がやってきます。のどかで自由なフィールドを活かして、どんなことができるでしょう。

(2018/1/11 取材 遠藤沙紀)

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