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里山と地域と未来と

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

地方の自然環境を守りたい。持続可能な社会をつくりたい。

そんな想いを持って仕事を選ぶとき、今はさまざまな選択肢があると思います。

都心の企業のCSR部で働く人もいれば、NPOでゴミを減らすための取り組みをする人もいる。直接山に入って、林業に関わる人も。

今回お会いしたのは、地域に根ざしたホテルを運営しながら、里山の豊かさを伝えていくことを仕事にしている人たちです。

里山ホテル ときわ路」は茨城県の県北地域にある宿泊施設。

「里山3.0」というビジョンを掲げ、宿泊だけでなく、里山の自然を活かした体験やアクティビティを開発、提供してきました。

さらなる挑戦を続けるため今必要になっているのが、より骨太な運営体制をつくっていくこと。

そこで、スタッフがより安心して働けるようにマネジメントしたり、宿泊や体験のオペレーションをより深く考えたりしていく人を募集することになりました。

常に新しいことを仕掛け続ける組織のなかで、柔軟に、そして積極的に旗をふっていくような人を求めています。

  

里山ホテルがある常陸太田市へは、上野駅から常磐線に乗ると2時間ほど。今回はドライブがてら、車を走らせて向かうことに。

車窓の景色は、郊外の住宅街から一面の田んぼへ。

低い山々の稜線が見えてくると、県北(けんぽく)と呼ばれる地域に入ったことがわかる。

ナビに従って坂道を上っていくと、2匹のヤギが出迎えてくれた。

「里山ホテル ときわ路」は1980年に国の保養所として建設された場所をリノベーションした宿泊体験施設。

2003年の特殊法人改革の際に一度閉館。その後、東京でIT企業が買取り、ホテルとして運営を再開したのが2008年のこと。

2011年の震災で半壊の被害を受けたのを機に方向転換して、「里山3.0」というビジョンを掲げ運営してきた。

藤野さんは2014年からマーケティング担当として参画。今は取締役として経営にも携わっている。

アメリカで環境学を学んだあとに就職したのは、企業のCSR活動をサポートするベンチャー企業。その後転職をして、6年ほど星野リゾートで働いた。

「環境と共生し持続可能な社会を実現するためには、その重要さを多くの消費者に伝える必要があると考えたんです。説教くさくなく、自然環境の楽しさとか大切さ、繊細さを感じられる場所。運営のノウハウからマーケティングまで、いろいろな学びと経験をさせていただきました」

そんな藤野さんに声がかかったのが、大きな変革期を迎えている里山ホテルでの仕事だった。

「二つ返事でやることを決めました。正直、順風満帆な組織から船出したばかりの小船に乗り移ることに、不安がなかったわけではありません。それでも自分のこれまでの蓄積を社会のために活かすには、ここがドンピシャだと思って」

里山ホテルがある場所は、とくに人気の観光地が近くにあるわけではない。

多くの地方と同じように高齢化や過疎化が進み、純粋な宿泊施設として運営していくことには限界が見えていた。

この場所が生き残るためのキーワードとして打ち出したのが「里山3.0」というビジョン。

人が適度に里山に入り燃料や食料を得ることで、森ものびのびと育成する関係ができていた時代を1.0。

木材を輸入に頼り、人が出入りすることがなくなった結果、水害や土砂崩れなどの災害を防ぐために、お金をかけて保全する対象となっている里山を2.0。普段の生活から里山が切り離されている今の状況もここにあると言える。

「里山3.0」はさらに1歩先の、これからの人と里山の関わり方。

「最先端のアイディアや現代の人の営みと、自然を融合して里山とともに生きる。そうすることで、モノによる豊かさだけでなく、心の豊かさをも同時に大切にすることにも気づけると思うんです」

これからの里山との関わり方を模索するため、里山ホテルではさまざまな体験やアクティビティに参加することができる。

地域の人材を活かして開催する「宙(そら)ガール星空トーク」や、森から集めた素材でつくる「森のワークショップシリーズ」。

地域産業である農業の楽しさや大変さを体感してもらうための自家菜園「里山ポタジェ」や、地域の広大なアウトドアフィールドへの出発点として気軽に楽しめる「里山グランピング マッシュルームキャンプ」。地元野菜の素材の良さを味わってもらうレストランの運営など、ソフト面・ハード面での挑戦を続けてきた。

「地元の方々と連携し、地域の魅力を前面に押し出した取り組みもはじめています。こだわって農業をされている方や、森林インストラクターの資格を持っている方がいたり。とてもおもしろい地域なんですよ」

里山をフィールドに、のびやかに生きる人たちの暮らしに触れる機会をつくる。

昨年は、森に粘土を探しに行くところからはじめる陶芸体験も地元陶芸家と企画。

アウトドアを楽しみつつ実践的なサバイバルを学べる「ブッシュクラフト」のワークショップなども、今後増やしていく予定なんだとか。

次から次へと出てくるアクティビティの話は、聞いているだけでなんだか楽しそう。

開催される自然体験を求めて、首都圏から家族連れのお客さんが増えているそうだ。

「アクティビティを通して一緒に楽しさや大変さを体験することで、相互理解も深まります。コンセプトは、里山体験を通じて家族の絆が深まるホテル。フィールドを地域全体に広げながら、もっといろいろな体験を具体化していきたいですね」

さらに今年はワーケーションオフィスの開設や、森をつかったアクティビティ開発の拡充も予定。

常に新しいことに取り組んでいるんですね。

「観光業においては矢継ぎ早に、尖った、かつ筋立てがしっかりしているコンテンツを提案し続けていかないと、飽きられたり埋没したりしてしまうんです。結果として、どんどん変わる現場のオペレーションを整えることが、後手後手になってしまっていて。今回入る方にはこの部分をお願いしたいと思っています」

今回募集する人の肩書きは「総支配人」。

大きな肩書きにびっくりするかもしれないけれど、特に宿泊施設で働いた経験などは必要ないそうだ。

それよりも、組織の立ち上げやプロジェクトマネジメントの経験が活かせる仕事とのこと。

総支配人という名前だからと言って、ホテルの運営をすべて丸投げするわけではない。マーケティングや営業の役割を担う藤野さん、そして人事や総務など管理系を担当している堀田さんと3人体制で、ともに経営を考えていきたい。

  

堀田さんは藤野さんにとって「なんでも知ってる、頼れるお父さん」みたいな存在なんだとか。

堀田さんが里山ホテルにはじめてきたのは2013年。入社する前に、どんな場所なのか泊まりに来てみたそうだ。

「最初にここの施設にきたときの印象は『なかなか難しいな』って。直感は間違っていませんでしたね(笑)」

さまざまな取り組みを続けてきた結果、2014年に2割だった稼働率は右肩上がりに。

今は、堀田さんと藤野さんを合わせて10名の社員とパートスタッフで運営をしている。

稼働率が高くなるなら、社員を増やしていくことになるんでしょうか。

「必ずしも人を増やすのがベストな方策だと思っていません。状況がめまぐるしく変わるなかで、オペレーションを工夫してお客様に満足のいくサービスを提供する。そして効率的な働き方を両立するためにできることが、まだあると考えています」

藤野さんと堀田さんは現在つくば市に住んでいることもあり、毎日ここに来るわけではない。そのため、日々のオペレーションは現場のスタッフを中心に組み立ることになる。

総支配人として入る人には、この部分をしっかりと支えてもらいたいと考えている。

今は藤野さん、堀田さん、そして東京のIT企業オーナーで日々経営について考えているところ。現場はオーナーからの資金的な支援もあって事業が成り立っている。

繁忙期以外の宿泊客を増やすためにも、今後は館内の改修もしつつ、経営の安定化を図りたい。

いい方向に向かっているとはいえ、簡単なことではないと思う。

「総支配人に一番意識してもらいたいことは、お客さまの期待を超える満足度を提供することです。チェックインからチェックアウトまでの滞在の時間をデザインしていくこと。演出家みたいな仕事だと思います」

演出家ですか?

「はい。スタッフという出演者をどう配置して、どうストーリー展開させるか。いかに滞在という体験を演出するか。稼動が少ない日には積極的に地域に出てみるのもいいと思います。里山ホテルという舞台装置をどう盛り上げるか、地域の魅力にどういう形でお客様に触れてもらうかを一緒に考えていきたいです」

  

一緒に働いているスタッフも、積極的に企画や運営に関わってくれる人が多いんだそう。

「とどける係」の藤岡さんは農業や食への関心が強い方。

「本当はもっとクリエイティブな提案をしたいと思いつつ、日々の業務に追われることが多くなってしまって。里山ホテルらしい企画を生み出すことと宿泊施設を運営すること、両輪を回すことの大変さを実感しています」

インターンとして関わりはじめ、そのまま新卒で入社した藤岡さん。就職してみて、どうでしたか。

「この3年間は、駆け抜けてきた感じがありますね。菜園やグランピングができたり、レストランの営業が始まったりたりして。ゼロからイチをつくるものばかりでした。新しい挑戦に、飛び込んではもがき、へこたれては立ち上がり(笑)」

繁忙期には目が回るほどいそがしいホテルの仕事に加え、お客さんに伝えたい里山の魅力がたくさんある。

目の前の仕事に追われていると、自分自身も自然のそばで働いていることを見失いそうになってしまうこともある。

レストランでホールを担当しているときも、現場を回すだけで必死になってしまうこともあるそうだ。

「土づくりからこだわっている農家さんのお野菜を、シェフが熱を込めてお料理に仕上げてくれる。その流れの先で、お客さまにお出しするのは私なんだと気がついて」

「どんな人が育てたどんなお野菜なのかご説明しながらお届けできる。これって農業につながってるよなって思えるようになりました」

レストランから宿泊のレセプション、体験の企画や運営まで。日々さまざまな仕事を行っている藤岡さん。

今は里山ホテルの仕事以外にも、ライターとして個人で仕事を受けていくことに挑戦したいんだとか。

「県北地域って新しい働き方というか、個性を生かして等身大で仕事をしている人と多く出会える気がしています。そういう風が吹いてるところなので、私も生き方を柔軟に考えてみたいと思っています」

  

最後に藤野さんが、里山ホテルが見ている未来について話をしてくれた。

「日本って里山と言われる環境があちこちにあって、どこも同じ課題に直面していますよね。ここで蓄積している苦労やノウハウは、全国でも活用できる可能性があるんじゃないかって」

「加えて日本の里山や田舎という環境は、一大コンテンツとして世界に発信できるものだと思っているんです。大変な場所で、大変なことにチャレンジしているからこそ、社会的な価値が提案できるというか。残せるものは大きいと自負しています」

里山を歩くのに、気持ちのいい季節がやってきます。

挑戦したいと思えたら、まずは里山ホテルを訪れてみてください。

(2018/2/9 取材 中嶋希実)

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