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仕事をするからには、その道をとことん極めたい。目一杯努力した先にプロフェッショナルとしての自分を見つけられる仕事がいい。
そんな人に知ってほしい宿があります。
熊本県は白川温泉。名を、竹ふえと言います。
極上の贅沢と癒しを求めて、世界各国から多くの人々が足を運ぶこの宿。
竹林に囲まれた4000坪にしつらえられた客室は、わずか12室。上等な空間と一人ひとりに寄り添ったおもてなしは高い人気を呼び、連日満室を誇っています。
今回は、おもてなしスタッフや禅スパスタッフをはじめ幅広く人を募集します。
竹ふえのある白川温泉へは、熊本空港から車で1時間ほど。
小雪がちらつくなか、温泉街を抜けて静かな竹林の坂道を登っていく。その先にひっそりと佇む宿が、竹ふえだ。
入り口を抜けて、竹やぶの中の石畳を進んでいく。
小川のせせらぎが聞こえるほど静かな空間は、まるで映画の世界に迷い込んだよう。
たどり着いた部屋で待ってくれていたのは、支配人の村上さん。
柔らかな言葉遣いが印象的で、話しているとほっと安心させてくれるような方だ。
「竹ふえは18年前に別のオーナーが開館した旅館です。およそ10年前に私たちの会社が買い取り、リニューアルを重ねてきました」
コンセプトは、「いただいたお金以上の満足感と感動を提供する」。
小規模ながら高級志向に重点をおき、質の高いおもてなしを提供しようと、オーナー自ら世界各国のホテルや旅館を観て回り、感銘を受けた仕組みやサービスを落とし込んできた。
現在の宿泊料金は、一人あたり一泊4万円から15万円ほど。
ただ意外にも、リニューアル以前は一人あたり8千円の宿だったそう。
誰もが認める旅館への道のりは、決して平坦ではなかったという。
「たとえば、客室に備えた冷蔵庫の中身をすべて無料にするインクルーというサービスをはじめたときのことです。開始当初は、ほとんどのお客さまが中身をすべて持ち帰ってしまって」
「さすがにここまでとは想定はしていなくて、どうしようかと困り果てました。でもそれはお客さまがまだ満たされていない証、つまり私たちのおもてなしがまだ十分ではない証拠とも考えられた」
そこで竹ふえが取った手段は、サービスの停止ではなく価値の付加。
冷蔵庫のほか豊富な種類を楽しめるエスプレッソマシンも備え付け、廊下には特製アイスクリームやラムネ瓶も用意し、すべてインクルーとした。
「サービスを増やし続けるうちに持ち帰りもほぼなくなり、宿の評価も上昇していって。満足度を上げるために私たちが出来ることを、先回りして考えるようになりました」
ただ、施設やアメニティの充実だけでは片手落ちとなってしまう。
お客さんの心を満たすために何よりも欠かせないものが、おもてなしの心だ。
「当然こういう価格帯ですと、お客さまはとても期待してお越しになります。完璧なサービスが当たり前の世界ですので、到着からお帰りまで一切気は抜けません」
普段の生活では些細な入れ違いで済まされることが、竹ふえでは失態となることもある。
たとえば、あるスタッフが夕食時に母乳をあげていたお客さんを見て、手が触れてしまわぬようにと手元から遠くにコップを置いたときのこと。
その行為はチェックアウト後に「どうして遠くに置いたのですか。残念です」という声を受けてしまった。
「それは仲居の心遣いでした。けれどその考えを伝えずに行動してお客さまを失望させてしまった。プロとしてはまだまだなのです」
プロという自負があるからこそ、満足してもらえるサービスを提供できなかったと判断した場合には、お金をいただかないこともある。
ハードルが高く感じるかもしれないけれど、接客の難しさを誰よりも理解しているのもまた、竹ふえのスタッフだ。
「やはり人と人との関わりなので、どうしてもうまくいかないときはある。だからこそ、僕は周りの評価よりも一生懸命自分なりに重ねた努力こそ大切してほしい。その上でのクレームならば、落ち込む必要はまったくないと思います」
「僕らの仕事は、お金ではなくお客さまの満足をもらってはじめて終わる。その満足のため、日々お客さまとの関わりを磨いていくのがプロだと思うんです」
そんな竹ふえで働くのが、男女それぞれ5名のおもてなしスタッフの皆さん。
そのリーダーが、平山さんだ。
学生時代のアルバイトをきっかけに、食や料理に興味を持つように。いずれ自分のお店を持ちたいと考えていたところで竹ふえを知る。
「自分はこだわる性格なので、働く以上本物をきわめたかったんです。日々の接客は本当に忙しくて、目まぐるしく時間が過ぎていく。でも、ここほど接客をしやすい場所はないと思っています」
自分たちの目先の利益よりも、お客様の要望に応えることをモットーとする竹ふえ。
もちろん何もかも手放しに認められるわけではないけれど、周囲に相談した上でマニュアルにない対応をすることはよくあるという。
「ご要望をお断りしたり諦めたりすることが一番辛い。自分のしたい接客をできるのは励みになりますね」
そんな平山さんも、入社してしばらくは納得のいく接客ができなかったという。
「1年間くらいは、接客のたびに改善の余地があって。食器の置き方一つにしても、こう置いておけばもう少し取りやすかったな、などの反省を毎日繰り返していました」
ただ、失敗をゼロにすることだけを目指しているわけではない。
ミスを減らすよりも、お客さんにいちばん喜んでもらうにはどうしたらいいかを、常に考えている。
ここで、いちばん印象的だというお客さんについて教えてくれた。
「一昨年の冬、大雪で空港から竹ふえへの交通手段がなくなってしまったことがあって。その日は韓国からカップルのお客さまがいらっしゃる予定でした。急遽こちらから車でお迎えに上がったものの、到着は23時。とても苛立っておられました」
折しもその日は女性の誕生日。ケーキを用意するのはもちろん、いつも以上に誠意をもって接客をした。
迎えたチェックアウトでは、二人とも涙ながらに“I’m so happy”と伝えてくれたのだという。
「接客は諦めないことと誠意だな、とそのとき強く感じて。自分次第でどんなマイナスの状況もプラスに転じられる。それがこの仕事の醍醐味ですね」
ここで、新人スタッフの椛田(かばた)さんにも話を聞く。以前は、東京で金融関連のセミナー講師として働いていた方だ。
大勢の前で話すのは得意だったものの、一対一での距離感を掴むのが苦手だった。そんな自分を変えたいと思ったときに、以前訪れた竹ふえを思い出す。
「竹ふえのおもてなしは、すごく心の距離が近かったんです。あの宿で接客を学べたなら自分も何か変わるかもしれないって思って、入社を決めました」
まずは先輩スタッフの接客補助から仕事がはじまった。
少しでも早く客室まで料理を運べるようにお盆を持ちながら館内を走ったりするなど、体力勝負でもあるこの仕事。
空き時間には先輩やマナー講師から、接客作法の手ほどきを受ける。障子の開け閉めや歩き方はもちろん、お客さんへの言葉遣いも語尾まで入念にチェックされる。
たとえば竹ふえでは、お客さんを部屋へ案内するときに決して「お気をつけてお歩きください」や「ゆっくりで結構ですよ」とは言わないのだそう。
「気をつけなければいけないところはこちらが先回りして歩みを遅めたり、事前に危険を取り除く。歩くスピードも人によって様々ですし『結構』は失礼にあたります。『ご自分のペースでお歩きくださいね』とそっと言い添えるんです」
一見聞き逃してしまいそうなところまで気を抜かない。
とても大変そうだけれど、椛田さんは楽しそうに話してくれる。
「奥が深いですよね。おもてなしを突き詰めるのはすごく楽しいですし、ここまで考えられてこそ真のプロなんじゃないかなって思います」
実は、5日後に先輩のもとから離れ、独り立ちを迎えるという椛田さん。あらためて今の気持ちを聞いてみる。
「責任は重いですよ。でも、すごく健やかなんです。お湯も空気も人も気持ちがいいし、心と体のコンディションがとても整う。そんな環境で一生懸命に働いて、休日は存分に楽しむ。一生懸命仕事をしたいという思っている方にこそ、来てほしいですね」
最後に話を聞いたのは、3名の禅スパセラピストのうちの一人、井上さん。短大卒業後、エステ施術の講師などを挟みながら、セラピストとして働いてきた。
新しく入る人は、まずは井上さんから技術を教わることになる。
禅整圧は一般的なエステとは異なり、癒しではなく治療が目的。さらに、すべて手技で行われるのが特徴だ。
お客さんの体質を見極め選んだ和性オイルを使用し、体中の力を込めて強く圧をかける。筋肉をほぐして緩めて血流を流し、元の位置に整えていく。
1日2組ほどのお客さんに、1時間から3時間かけてじっくりと向き合うことになる。
「数時間で隅々まで体を整えなければいけないので、体力は使います。ただ、必ず一回の施術で、体はもちろん表情もガラリと変わるんですよ」
たった一回で、ですか?
「もちろんです。せっかく私たちを選んでくれたのだから、来て良かったと思っていただきたい。目の前の方に全力で向き合います」
そのためには、技術はもちろん心遣いも欠かせない。
はじめに言葉を交わしたときにお客さんの雰囲気を掴み、どのように話しかけるか、時間配分はどうしたら良いか、瞬時に判断する。
さらに肌寒さや喉の乾きなど、会話や所作から相手の状態を察して先回りして提案する。
最も気持ちの良い時間を過ごしてもらえるにはどうしたらいいだろう。そんな問いに向き合い続けるような感覚だという。
「腕だけ良くても、一人前とはいえません。技術を支える知識、お客さまとの会話、すべてをマスターしなければいけない」
技術に関しても、禅整圧はエステとは異なるので、経験者でも最低1ヶ月は研修を重ねる。
その先は本人次第で、すぐにお客さんの前に立てるかもしれないし、長い時間がかかるかもしれないとのこと。
裏を返せば、どれだけ腕を磨けるかもまた自分次第ということだ。
「これはセラピストに限らないことですが」と井上さん。
「いちばん大切なことは、まずは自分が楽しむことだと思っていて。そうでなければ続かない仕事だとも思います」
「だからこそ、せっかく竹ふえで働くからには、技術もおもてなしも存分に吸収してほしい。そうしてその先で、いつか自分の腕一本で生きていけるようになるんだと思います」
まずは先輩たちのおもてなしを学ぶ日々になると思います。そうして少しでも自分なりの正解を見つけ、近づけていく。
答えがないからこそ、自分次第でどこまでも突き詰めていける仕事なのかもしれません。
(2018/02/06 取材 遠藤真利奈)