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答えは森のなかにある?

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今日は校庭に、道具を入れておく倉庫をつくってみよう。

どれくらいの大きさで、どんな形がいいだろう。まずはみんなで、紙にイラストを描いてみる。

イラストでは屋根の傾斜を60度にしたけれど、「80度でもいいんじゃないかな」という声も上がる。確かにそうだな。でもまてよ、角度が変わると何が変わるんだろう。

これは、来年4月に高知県で開校予定の「とさ自由学校」の授業風景を想像したもの。

ここは私立の小学校で、公立の学校と違って授業に決められた形はなく、活動場所も校内に限りません。

近所の森や川、畑。自然のなかで四季折々の野遊びや、農作業などの体験学習を通じて、必要な学力を身につけながら、人としての根幹を育む。そんな学校づくりを目指しています。

今回は、これからのとさ自由学校を一緒につくっていく先生の募集です。小学校なので、教員免許が必要になります。

自分が育った環境と違いすぎて、戸惑ってしまう人もいるかもしれません。

私も、実際に取材に伺うまではそうでした。まずはこの学校のことを知ってほしいです。



JR高知駅から車で15分ほど。賑やかな中心街から住宅地へと入っていく。

待ち合わせは街のコミュニティスペースのような場所。

最初にお話を伺ったのは、とさ自由学校の設立準備をすすめる学校法人日吉学園の理事長であり、脳神経外科医でもある内田さん。

なぜ自然のなかで活動を行うのか、自らの体験も交えながら話してくれた。

「私は愛媛の生まれで、育ちは高知なんです。昔は公園に行けば歳の違う子も、誰とでも遊んだものでした」

「大きな自然を前にしたらケンカが強いとか弱いも関係ない。木登りができる子はできない子がおれば助けるし、できない子は自分もできるようにと努力をする。助け合うことも自然のなかでは当たり前にできるんです」

自然の中にはすでに完成されたものはない。一つひとつ自分たちで考え、行動するきっかけが溢れている。

生きものの感触や匂い、育てることの大変さ。どれも経験した本人以外にはわからないことで、すべてが自分の糧になる。

そういった感性を育むには、幼児のころの教育がとても大切だと考えていた内田さん。ひょんなことから学校法人日吉学園の理事長を任されることなり、新しく自然保育に取り組む幼稚園づくりをはじめた。

それが、今回の小学校の運営母体にもなっている「認定こども園 もみのき幼稚園・めだか園」だ。

幼稚園では毎日のように園バスに乗って野外へ繰り出し、虫や葉っぱや土、水に触れる。

「最初はうちの子は体が弱いから、外に出さないでと言われたこともありました。だけど短い時間から少しずつ慣れてもらって。子どもたちは帰ってくると目を輝かせて今日あったことを話し出す。親も子どもの変化を感じて、少しずつこの教育法が受け入れられたように思います」

20人しかいなかった園には、今や200人もの子どもたちが通い、経営も順調なのだそう。

せっかく自然のなかで育った子どもたちが、園を卒業後、規制の多い小学校の中で生活を送るのはもったいない。10年近く子どもたちに向き合い培ってきた経験を活かして、小学校をつくることにした。

自然のなかで送る小学校生活。普通の教育現場とはきっと違うものになると思う。

一緒に働くなら、どんな人がいいでしょう。

「何か特技を持っておれば非常にいいかな。水泳でも歌でも、なんでもいい。何かに熱中していたということは、その人の感性が磨かれていたということだと思うから。きっと子どもたちと接するときにも、役に立つと思います」



内田さんと別れて、とさ自由学校設立準備室を訪ねます。校舎があるのは、市街地よりも緑豊かな“いの町”という地域。到着すると、たくさんの車が止まっている。

「とさ自由学校では廃校を再利用し、一学年20名、全校で120名の生徒の受け入れを予定しています。開校に向けて、老朽化した校舎の改修と増築が急ピッチで進められているところです」

そう話すのは、2016年に立ち上がった準備室の創立メンバーである難波さん。開校後は、先生として一緒に働くことになる。

ささっと紙とペンを取り出し、図を書いてわかりやすく説明してくれた。普段も子どもたちの良き兄貴分として、輪の中にいる姿が想像できる。

そんな難波さんは学生時代、ひたすらサッカーに没頭していた。

5歳のころから習いはじめ、高校ではチームのキャプテン。大学でも、もちろんサッカー部。けれど、ここで大きな挫折を経験する。

誰よりも練習していたつもりが、レギュラーメンバーに選ばれることはなかった。

「大学までは、努力すればなんでもできると思っていたんです。でも努力すればするほどしんどくなる。このままやり続けたら、僕に残るのはサッカーしかない。全然幅がない自分に気づいて」

自分の違った一面も見てみたい。思い切って、イギリスへの短期留学を決める。そこで出会ったのは、のびのびと自由に自分の気持ちを表現する人たちだった。

「人と関わっていくときには歳も言語も関係なく、想いが一番重要なんだなって。僕も失敗しないように取り繕うんじゃなく、もっと表現してみたいなとすごく刺激を受けました」

帰国後は、人と人が関わり合う場をつくることに興味を持つ。

対話のなかで、自分の考えを振り返ることや、相手の意見から新たな考えを知ることにもつながる。そうやって互いに考え、生み出されていくものが大切なんじゃないか。

それは、大人と子どもの関係性も同じこと。とさ自由学校では、お互いに知っていること、知らないことを共有しながら、フラットな関係性を築けたらと考えている。

具体的には、日々どういうことをするんだろう。

「たとえば、まずは畑を耕すことからはじめたいですね」と難波さん。

畑には、何を植えようか。どのくらいの間隔で植えるのがいいだろう。1メートル間隔って、何センチなんだろう。

教科書に載っている例題を解くのではなく、体験の中で考え、計算する必然性が生まれる。

なかでも大切にしたいのは、答えを教えるのではなく、大人も子どもも一緒になって考えていくという姿勢。

「ほかにも、校内の活動を取材して本にする出版屋さんとか、大工さん。社会にあるものをヒントに、子どもたち自身がやりたいことを見つけていってほしいんです。僕らは活動と学習がつながっていくようにデザインできればいいかな」

とても楽しそうに聞こえるものの、あたらしい挑戦をするときには一筋縄ではいかないことのほうが多いんだとか。

準備室が立ち上がったばかりのころは、ゼロから収支計画を考え、法律の勉強もした。今も県に提出する資料をまとめているところ。

「どれも経験のないことばかりでした。煩雑なことが増えると、正直もうしんどいと思うこともありますよ。でもやりたいことをやるためには必要なことなんです」

一方で、子どもたちの姿が何よりの原動力になっているという。

準備室では、開校準備と並行して「森のがっこう活動」を行っている。週に1回、高知市内の小学生が集まり、野外で遊びや炊事などを経験。役割分担や活動のルールも子どもたち自身で決めていくそうだ。

新しく入る人も、まずはこの活動に参加することから。そこで「自分ならどんな授業にできるだろう」と考え、少しずつ学校運営に落とし込んでいけるといい。

「ケンカをすると、必ず手を出してしまう子がいたんです。でもこの前は、地面を殴りながら必死にこらえて、想いを言葉にしようとしていて」

「これが本当の関係づくりなんだって」

本当の関係づくり。

「言葉だけじゃなくて体全体で表現している。きちんと気持ちがその人に向いていて素敵だなって」

ほかにも、ADHDという障害を持つ多動な子が、森の中ではものすごい集中力を発揮したり、いつもやんちゃな子が年下の子に優しく接していたり。

いろんな一面が見えて、胸が震える。なんだか泣きそうになる日もある。

「こういう場がもっと必要だと思うし、僕もこの輪の中にいたい。僕らはもっと複雑だし、グレーだし。一面だけでは測れない。そういうことも知っていくほうが、人生は豊かになるんじゃないかなと思います」



もう一人紹介したいのは、この春からとさ自由学校で働きはじめる端野さん。

もともと先生になることが夢だった。

大学1年生のときに、自然体験活動を通した教育を行うNPO団体に参加。活動を通じて、教育のあり方に疑問を感じたといいます。

「何十人もの生徒をひとりの先生がまとめようとすると、『あれはやっちゃだめ』とか『こうしなさい』と指示をしないといけない。自分はそういうことを言いたくないなぁと思ったんです」

けれども、同じ教育学部の友人たちは当たり前に公立の学校を受け、採用されていく。自分も同じレールに乗っていいのだろうか。

「じゃあどうしようかとネットで『小学校 ユニーク』と検索したら、ここを見つけて。子どもたちへの規制も少なくて少人数制で、自分のやりたいことに一番近いと思いました」

新卒で、金沢からやってくる。実際に入ることになって、今どんなふうに感じていますか。

「正直、すごく不安です。やることがまだ明確に決まっていないところにポンと入って、やっていけるのかなって。でも僕みたいに不安にならずに自分で考えていける子が育ったら、社会でたくましく生きていけると思う」

「だからこそ、この学校をつくりたいです。公立の先生だと安定していると思うんですけど、こっちのほうがワクワクするかなって」

現在は、夏に子どもたちと行くキャンプ会場の下見に同行したり、難波さんの仕事ぶりを見ながら学んでいるところ。

先日は森のがっこう活動にも参加したという。一緒にお昼ごはんをつくった男の子とのエピソードを話してくれた。

「ある子が、調理師さんの見てないときにバナナをつまみ食いして。そのとき僕のほうを見たんですよ。普通は怒られることかもしれないけれど、この日は頑張っていたしいいんじゃないかなと思えたから、自分も笑顔を返したんです」

すると、その子もとびきりの笑顔を見せてくれた。身振り手振りを交えながら、端野さんはそのときの様子を本当にうれしそうに話してくれる。

教育の枠にとわられず、端野さんが自分なりに考えて行動したからこそ起きた出来事だったんだろうな。実際に教えた経験はなくても、たぶん本当に必要なのはこういう気持ちなんだと思う。



どんなふうに学校を運営していくか、そのヒントは自然のなかの活動で見つけられたとしても、明確な正解はないのかもしれません。

子どもたちと向き合いながら、ずっと考え続けていく。手探りで道をつくっていくのは、きっとしんどいことも多いでしょう。

でも、二人の言葉に迷いは感じられませんでした。

子どもたちにとって必要なことを一緒に考え、形にしていきたいと思えたら。ぜひ応募してみてください。

(2018/2/23 取材 並木仁美)

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