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街と共に紡ぐ

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昔ながらの木造建築に、商店街のにぎわい。寺社の醸し出す落ち着いた雰囲気。

谷中という街には、独特の風情があります。

そんな谷中に昔からある木造アパートをリノベーションして、5年前にHAGISO(ハギソウ)は生まれました。

カフェやアートギャラリー、ホテルの要素を持った“最小文化複合施設“。HAGISOは、街の一部としてこの場所に息づいています。

今回募集するのは、HAGISO内のカフェをはじめ、運営会社のHAGI STUDIOが経営する各飲食店で働くスタッフ。

HAGISO、そして谷中という街の一員となって、この地域の歴史と温度を感じてみてください。

 
日暮里駅と千駄木駅のちょうど真ん中あたり。谷中銀座からすぐの静かな通りにHAGISOはあります。

この場所の歴史について、HAGI STUDIO代表の宮崎さんに話を聞いてみました。

「もともとここは“萩荘”っていう、築63年になる木造アパートでした。戦後につくられて、風呂はないしトイレも共同。学生時代に友人とそこに住んでいたんです」

東京藝大で建築を学んでいた宮崎さん。萩荘は学生たちが集まる、住居兼アトリエになっていた。この場所が気に入って、卒業後に建築事務所で働きはじめてからも住み続けていたそう。

転機が訪れたのは、2011年の東日本大震災。

「この地域もけっこう揺れて。将来同じような災害が起きたときに責任が取れないからって、大家さんが建物の取り壊しを決めたんです。それで僕たちも出ていくことになって」

宮崎さんも、より自分の身近なことに目を向けたいと、震災を機に退職。ボランティアなどをやりながら、考えていたのは萩荘のこと。

「建物って、いざ取り壊されて空き地になると、そこにもともと何が建っていたかってあんまり思い出せないんですよ。建物だけじゃなくて記憶も無くなっていくんです」

「それって、人と同じだなと思って」

誰の記憶にも残らずに孤独死していく人と、いつの間にか忘れられていく空き家。そうやって人生を終わらせるのは、建物であっても可哀相なことだと思った。

「それで、建物のお葬式をやろうということになって」

震災からちょうど1年経ったころ、藝大出身の仲間たちと萩荘でアートイベントを開催した。口コミで噂が広がり、1500人もの人が集まったという。

「大家さんがそれを見て、思っていた以上にこの建物が価値を持っているって気づいて。壊しちゃったらもったいないかもねって」

その話を聞いた宮崎さんが、HAGISOの事業計画をつくって大家さんに提案をした。リノベーションの設計から施設運営まで自ら引き受け、2013年3月にオープン。

「最初の2年くらいは、HAGISOっていう敷地の中でどれだけのことができるか実験をしていたんです。カフェとギャラリーを中心に、パフォーマンスイベントとかコンサートとか、いろいろなことをやりました」

地域との関係に変化があったのは、宿泊施設hanareをはじめてから。

「一通り実験できたところで、このHAGISOが価値を保てているのは、谷中っていう街の価値があるおかげなんだなって気づいたんです。それで、もっと街全体にアプローチしたいなと考えて」

そこから「街全体を1つの宿に見立てる」というコンセプトでhanareがはじまった。

HAGISOのレセプションでチェックインし、100mほど先にある宿泊施設へ。お風呂は近くの銭湯、夕食はおすすめの飲食店で。朝ごはんはHAGISOの中にあるHAGI CAFEで食べてもらって、商店街でおみやげを買う。

そんなふうに、谷中の街を移動しながら、1つの宿を堪能していく。

「地域とのつながりがすごく密になりました。最近は、自分たちも宿の一員になりたいと言ってくれるお店も増えているんです」

HAGISOから個々のお店がつながり、街に新たな文化が育まれているように思う。

今回募集する人も、そんな地域のなかで仕事をすることになる。

HAGI CAFEに加え、働く場所はすべて徒歩圏内。

たとえば、TAYORIというお惣菜を売る飲食店は生産者とお客さんをつなげたい、というコンセプトのお店。奥まった場所にあり、地域の人に訪れてほしい、という思いがあるそう。

ほかにも今度運営を引き継ぐことが決まっている、15年間続くハンバーガー屋さんもその1つ。

「HAGISOみたいに古い建物を再生するのと、15年やってきたお店を引き継いでいくのって同じことだと思うんです」

「今まで蓄積されてきた価値とかストーリーを僕らが引き継いで、またいずれは誰かにそのバトンを渡していく。リレーをやっているようなものなんです」

宮崎さんは、自分たちの色を押し出すのではなく、地域と共存していくことに意味があると考える。谷中という街が持つ、長い歴史の一部になるという感覚。

「僕らはその歴史に支えられているから、過去は絶対に無視できなくて。だからHAGISOの5周年も祝うけど、萩荘の63歳も祝うんですよ」

建物が生まれて63年、HAGOSOになって5年。だから3月に行ったHAGISO5周年の企画展は「5/63」と名付けられた。

これからも6/64、10/68というふうに、分子も分母も同じように増え続ける。

そうやって、今までの歴史と共にこれからも歩んでいく。

 
今でこそ、HAGISOは地域に根付いているけれど、はじめた当初は苦労したそう。

宮崎さんの奥さんで、HAGISOを一緒に立ち上げた彬彬(ピンピン)さんが当時のことを教えてくれました。

「最初は、この場所がどういう立ち位置なのかを示すのが大変で。地元の人が自然と立ち寄ってくれる公民館みたいな場所を目指していたんですけど、実際に来てもらえるようになるには2年くらいかかりました」

「子ども向けの企画とか、まちづくり交流会とかをやっていくことで、ただのおしゃれなカフェじゃなくて、みんなのリビングみたいな場所なんだっていうのがだんだん浸透していきましたね」

5周年のパーティーでは、たくさんの地元の人がHAGISOを訪れてくれた。自分たちが思っていた以上に、街の人がこの場所を愛してくれてきたとわかったそう。

「わたしも2歳の息子をよくここに連れてきます。スタッフに面倒見てもらいながら仕事したり、ご飯食べさせてもらったり、子育ても一緒にしてる感覚。スタッフは年齢も幅広いし、ずっと一緒にいるから、大家族みたいなイメージかな」

ここで働くスタッフは、単純に飲食店で働きたい人ではなく、HAGISOという場所に惹かれて来る人が多いそう。そうすると、必然的に個性豊かな集まりになる。

「みんな個性的で、カメラとか手芸とか、自分の特技や楽しめることを仕事にも生かしています。好きなことが会社の役に立つのは、働くモチベーションにもなるみたい」

それぞれが能力を持ち寄って、1つのHAGISOをつくっているイメージ。小さい組織だからこそ個々の影響力は大きいし、人間関係も密になる。

「1日の半分は一緒にいるんで、半分プライベートみたいな関係になりますね。年に何回かはトラブルみたいなのもあったりして」

そんなときもみんなで1つ1つ話し合って乗り越えてきた。そうやって築かれたHAGISOは、共同体のようなもの。

そんな場所だから、自分の仕事だけを淡々をこなしていくわけにはいかない。

「スタッフには、自分の仕事だけでなくHAGISO全体を見て仕事をするように心がけてほしいです」

会社には、飲食と宿泊、それに設計の部門がある。飲食の担当でも、ホテルのレセプションへお客さんを案内したり、設計部門に大工仕事の依頼をしたりする。

自分の仕事が他部門とどう関係して、それがHAGISO全体にどう影響していくのか、興味を持って取り組んでいくことが大切なんだそう。

「お客さんは誰がどの部門のスタッフかなんてわからないから。HAGISOっていう1つの大きなものとして見られるので、常に全体のことを考えていてほしいですね」

 
次にお話を聞いたのは、飲食部門のマネージャーを務めている北川さん。これから入る人と一緒に働く、直属の上司になる。

「初めて飲食店でバイトしたときに、天職だなって直感で思ったんです」

「やっていくうちに楽しくてしょうがなくて、一生続けてもいいなって。中途半端にやるのが嫌だったんで、大学もやめてこの世界に入りました」

その後、地元世田谷区の飲食店に就職。数年働くうちに、だんだんと危機感が生まれてきたんだそう。

「お客さんも知り合いが多いから、環境に甘えちゃっていました。知り合いに対してだと、実際自分がどれだけ接客技術を持ってのるかもわからないし」

「自分のお店が出したいっていう夢もあるのに、実現できるのか不安になっちゃって。もっと厳しい環境で鍛えられないとダメだと思って、地元を離れて初心に帰ろうと決めました」

将来は、長年やっていたバスケなど、飲食店と新たな要素を組み合わせたいと思っている。そういう複合的なお店で経験を積みたいと思ったけれど、やっている人はなかなかいなかった。

「そんなときに偶然HAGISOを見つけて、『やってる人いるじゃん!』って。ここで勉強したいっていう気持ちがすごく強かったので、応募するときにその思いを手紙に書いて送ったんです」

将来出したいお店のことや、ここでやりたい接客のこと。その真剣な思いが宮崎さんたちの心に響いて、若くしてマネージャーとして採用された。

そのとき書いた文章は、今でもスマホに保存してあって、すぐに見られるようにしている。

「いつでも原点に帰れるように持ってます。こういう気持ちって忙しいと忘れちゃうんですよ」

「やることがいっぱいあって頭がパンクしそうだと、何のためにこの仕事やってるんだろうって思っちゃう。そういうときに見て、初心を思い出せるようにしています」

楽しい場所だけど、飲食の現場はなかなかハード。日々の業務のなかで自分を見失ってしまうスタッフも多い。こんなふうに原点に帰れる場所や、自分をリセットできるような趣味を持っている人は、楽しく働き続けられているそう。

たしかに大変な部分はある。でもそうやって本気で働くからこそ、感じられる清々しさもある。

「街を歩いていて挨拶できるのって、すごい気持ちいいんです。買い出しで毎日会うパン屋さんとか八百屋さんもいて。連休中はどのお店も忙しいから『今日もがんばろうね』『お疲れさま』って声をかけ合ったり」

それは、谷中という街の一部になるような感覚。

「自分のことだけ、HAGISOことだけを考えている人はうちにはいなくて、みんなで谷中を盛り上げて行こうって思っています。街の人みんなで一緒にがんばってる感覚ですね」

 
この場所に積み重なってきた、一つひとつの歴史。

そこに個人が集まってHAGISOとなり、それがまた街の歴史の一部を担っていく。

この場所を、共に紡いでいきませんか。

きっと、心震える瞬間があると思います。

(2018/3/16取材 増田早紀)

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