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町工場の可能性

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「どんな会社でも、どんな人にも可能性はあると思うんです」

そんな言葉を投げかけるのは、加藤数物の晶平さん。

加藤数物は愛知県豊川市にある小さな町工場です。金属をプレスして加工し、主に自動車部品を製造しています。

言ってしまえば、よくある末端の下請け工場。けど、そんな工場にもできることはあると、晶平さんは自社商品の開発やイベント出店に取り組んできました。

そんな活動に共感し、今後さらに町工場の可能性を広げていけるような仲間を探しています。


豊川駅から車で15分ほど。

田畑が広がるのどかな場所で「ガッシャンガッシャン」という音が鳴り響いている。

加藤数物の工場はここだろうか。そう思って建物に近づくと、後ろから「こんにちは!」という声が聞こえてきた。

道の向こうからやってきたのは取締役の加藤晶平さん。この会社の4代目にあたる人だ。

加藤数物が創業したのは今から約85年前。ずっとこの豊川の地で形を変えながら様々なものづくりをしてきたという。

「僕のひい爺さんはもともと手先が器用で、木工をやったり農機具をつくって売ったりとかしていたらしいんです。それで数学と物理の教材を製造する会社をつくったから、社名は『加藤数物』。だから最初は木工のコンパスとか定規とかを製造していました」

その後、多種多様な金属加工の仕事を請けるようになり、昭和45年以降は自動車部品を中心に建材部品や農業設備器具などを加工・製作してきた。

そんな加藤数物に今から12年前、新たな風が吹き込んだ。

当時新卒で入社した晶平さんだ。

「この会社を継ぐってことは昔からあまり考えてなくて、それよりも会社を経営することに興味がありました。まずはどこかの会社に勤めてみようと就職活動もいろいろとやったんですけど、結局この会社に入ることにして」

「それで入ってすぐに思ったのは、とにかく遅れているなって」

遅れている?

「昔からずっと下請け体質なんですよ。自分たちでコストコントロールはなかなかできないし、利益はすごく薄いところでやっている。最近は元請けのメーカーが海外での現地調達化を進めたりしていて、市場もどんどん小さくなっています」

「ただ、そういう状況を変えるのは難しい。これはもう今までやってきたことを捨てて、新規事業をやるしかないと入ってすぐに思ったんですね」

どんな事業ですか?

「介護です。これからの時代に必要だろうと。すぐに東京へコンサルタント会社に相談し行って、土地もおさえようとしたんですけど、社長に『お前は相談もせずにいきなり何やっているんだ!』って言われまして」

相談していなかったのですね(笑)

「あまり細かいことは…(笑) それで結局、まずは足元を見ながらやるしかないなと。まあこの会社をどうにかできないならどこへ行っても何もできないだろうなって思って、まずは地道に仕事を覚えることからはじめました」

日々現場で作業をしながら、自分に何ができるかを考えてきた。

入社当時から気づいていた生産性のわるさは、整理・整頓・清掃といった基本を徹底しスタッフの意識を変えることで改善。

また加藤数物の特徴は何なのか、そこから新たな展開を生み出せないか、常に探ってきた。

「よくテレビで、1ミクロン単位でものをつくる町工場が登場するじゃないですか。ああいうことは僕らには真似できない。うちの会社なんて大したことないと昔から思っていたんです」

「けど、うちはうちの良さがあるんだと少しずつ分かるようになってきて」

きっかけのひとつがスタッフへのヒアリングだった。

会社のことについてベテランのスタッフに話を聞いてみると、昔は会社に大変な時期があり、その度にみんなで頑張って仕事をして乗り越えてきたのだという。

「そういうのって自分は全然知らなかったことで。創業85年という長い歴史があって、今はこうして働いてくれている社員がいる。それって特出したことではないかもしれないけれど、すごく素晴らしいものなんだなって気づきはじめて」

会社が遅れている、市場が縮小しているからといって簡単に切り捨てていいものではない。この会社をもっとよくしていきたいという想いが、晶平さんに芽生えていった。

加藤数物でつくるものは基本的に何かの部品になるものだ。納めた製品は一部品として組み立てられ、いくつかの会社を通して完成品となり、販売される。

そのためこれまではエンドユーザーとまったく無縁の会社だった。

日々機械と向き合うだけではなく、お客さんとの関係性を築くことが、スタッフのやりがいや職場環境の向上につながっていくのではないか。そう考えた晶平さんは自社商品の開発を目指して、まずはお客さんとの接点をつくろうとした。

「自分が小さいときは家族で毎年キャンプに行っていたんですね。社会人になってからも自然学校のプログラムにボランティアで参加したりして。そういう経験があったので、年齢とか性別を超えた人たちが体験から学ぶようなものをつくれないかなって」

試行錯誤の末に完成したのは、プレスしてかたどったアルミや真鍮の板をお客さんがカナヅチで叩いて、オリジナルのマイスプーンをつくる体験型のワークショップ。

ただ、はじめはどこで開催すればいいのか何も分からなかった。

「一番最初は地元の銀行が主催している物産展に出ました。それもスーツを着て」

スーツを?

「ええ、出店して早々にこれはおかしいと自分で気づきました(笑)本当にもう試行錯誤で、最初はとにかくいろんなイベントに出ましたね」

お客さんからまったく興味を持たれないこともあったけれど、次第にお客さんは増え、いろんな人からオススメのイベントを紹介してもらえるようにもなった。

最近よく出店しているのはアウトドア系のイベントだ。お客さんからは大好評で、出店中は休みが取れないほど行列が続くのだという。

「この間はマルシェに出ました。料理研究家の人と共同で出店して、うちがつくったスプーンでカレーを食べるんです」

小さな町工場でもお客さんによろこんでもらうことはできる。

次第に自信も経験も身につけていくと、今度は子ども向けに金属の性質を学ぶ実験講座を開発。トヨタ産業技術記念館をはじめとした様々な施設で、ものづくりを体感する情操教育型の講座を開くようになった。

「今後のことを考えてもっといろんな接点を持とうと、学生インターンや工場見学の受け入れもはじめました。豊川市役所からお話をいただいて、来年度は豊川の子どもたちが社会科見学に来るんですよ」

無名の町工場がここまでやれるとは、晶平さん自身も想像していなかったという。

「いつも行き当たりばったり」と謙遜するけれど、経験のないことにも恐れずとにかく行動してきた結果なのだと思う。

「僕は昔から負けず嫌いなんです。何でも負けたくなかった」

「それはこの会社に入ってからも同じで、自分の置かれた状況に負けたくなかったし、ナイものねだりで『できない』とは言いたくなかった。どんな会社でも、どんな人にも可能性があると信じてやってきました」

そんな想いから、念願の自社商品も誕生した。

『k+ MINI SPOON』というスプーンだ。

「うちは85年間ずっと町工場としてものづくりをしてきたわけですけど、もっと生活に寄り添ったものをつくれないかと。すごく画期的なものというよりは、日常の中でちょっと便利で楽しいと思える、そんなコンセプトでつくろうと思って」

「まず何ができるかを考えたときに思い浮かんだのが、やっぱりスプーンだったんです」

商品やパッケージのデザインはすべて晶平さん自らが考え、試作を何百回と繰り返し、完成させたという。

熱伝導率がよく手の温度がスプーンに伝わるので、とくにアイスを食べるときにはちょうどいいそうだ。

今は自社のオンラインショップと浜松にある『ニューショップ浜松』で販売している。お客さんの中には贈り物として購入する人がいるそう。

「やりはじめたときは、どうなるんだろうって。もしかしたらひとつも売れないかもしれないなと思っていたので、買ってよかったというお客さんの反応があるのは本当にうれしいですね」

今後は、これまで培ってきた“アウトドア”や“教育”関連の経験を活かした新ブランドの立ち上げを計画していて、商品開発も含めて外部デザイナーと企画している最中だという。

「金属加工という本業の技術があるからこそ自社商品やワークショップができるので、これからも本業を継続して改善していって、お客さまに提供できるサービスをもっと最大化していきたいと思っています」

従来の金属加工の仕事に比べて、自社商品やワークショップなどで得られる利益はまだ雀の涙ほど。

将来的には全体の売上の5割を占めることを目指している。

「お客さんと実際に接して、よろこんでもらえるものをつくるのは面白い。そういうのを一緒に面白がってくれる人が来てくれるといいなと思っています」

今いるスタッフさんの反応はどうですか?

「正直、そこまでなんです。イベントに出店するのは土日だから、スタッフに頼みにくくて。だからつい自分でやっちゃうんですけど、これからはもっと話を振って興味を持ってもらう努力をしなきゃいけないなと思っています」

今回募集する人には製造や管理といった日々の業務に加えて、ワークショップや自社商品開発にも携わってほしいという。

製造の業務はシンプルなものから経験や知識が必要なものまでさまざま。基本的には誰でもトレーニングすればマスターできる内容なので安心してほしいという。本人次第では、どんどんステップアップして複雑な業務もこなしていける環境だ。

新規事業に関してはまだまだ成り立っていないので、勤務時間の多くを割くことは現状難しい。晶平さんと同じように基本的には残業時間を使って取り組むことになりそうだ。

スタートアップと似た環境かもしれない。

充実した環境とは決して言えないけれど、自分の頑張った結果が見えやすい仕事だと思う。晶平さんは今回の募集で右腕候補を探したいという。

「これをやらせてくれ!ってガツガツ言ってくれる人だと面白いですね。そういう根性のある人ならどんどん任せたいな」

この会社の一番いいところは晶平さんがいることかもしれない。静かに熱く語る姿を見て、そんなことを思いました。

年齢や社会人経験の有無は一切問わないといいます。商品開発や販売の経験があればすぐに活かせることがあると思います。

まずは晶平さんと話してみてください。この会社の可能性が広がる先に自分の活躍の場も広がっていくと思います。

(2018/3/19 取材 森田曜光)

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