※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
「技術や知識はベーシックに持っていなきゃいけないもの。企画力や交渉力は磨いていくもの。自分たちが大切にしているのは、入居者が本当に求めているものを発見すること。そうすれば大家さんにも満足してもらえるんです」これはバリューレイズの代表、石田さんの言葉です。
建築や不動産に関わる人たちの仕事の幅は、かつてなく広がってきていると思います。建築家だからって設計だけをしておけばいいわけじゃないし、不動産の仲介もインターネット上で完結してしまうかもしれない。
建築や不動産のプロは、建築のことも、不動産のことも、法律も、お金のことも、マーケティングも、あらゆることを理解しなければいけなくなった。
こんなふうに領域を横断して活躍している人たちは増えています。
特に世の中で注目されているのは、センス良く情報を発信して、コミュニティビルディングしている人たち。
でもそういったことは、比較的独学でも学ぶことができる。ある意味ではやったもの勝ちの世界です。
それなら、これからはどういうことが求められるのか?
それは柔らかいことも固いことも、建築や不動産のすべてを把握して、強みを発見し伸ばしていくこと。
バリューレイズはまさにそんな会社です。
日本仕事百貨もバリューレイズの石田さんがいなければ生まれていなかったかもしれません。それくらい公私ともどもお世話になっています。
得意な物件は中小ビルなどの「お悩み物件」。事務所ビルの経営代行をしながら、個人オーナーが抱えている課題を解決しています。
毎日の仕事は地道なことが多いけど、経験を積めばきっと独立して働くこともできるだろうし、大家さんになることもできると思います。
今回はビルの経営を担当する正社員と、営業補助の募集です。
西麻布の交差点の角。そこにあるビルの7階に上がると、目の前に車が走り抜ける首都高速道路が見えた。
ここはバリューレイズが運営しているシェアオフィス「テイショク西麻布」。バリューレイズのオフィスもこの一画にある。
もともとオーナーが持て余していたスペースを借り受けてリノベーションした場所。
代表の石田さんは、建築を学んだあと、ずっと不動産の世界で生きてきた。
社会人になってマンション開発の仕事を担当、その後は出向先に転籍。不動産を整理して販売する「処理部隊」として働く。
そんな中、今の仕事につながるエポックメイキングな不動産の相談があった。
「石炭屋さんだった人から、ある土地の相談があって。はじめは全然話を聞いてもらえなかったけど、次第にいろいろな物件を見せてくれて」
するとどれも借金だらけだった。このままでは3年以内に会社が潰れてしまうこともわかった。
「あるとき、隅田川沿いの駐車場を見せてもらって。眺めのいい場所で、昔はここで船から石炭を荷揚げしていたんです。でも細長い土地だから普通に設計すると、すべての部屋が川に面することができない」
「だから自分で設計して、メゾネットがあるような物件を描いて、設計事務所に送ったの。そしたら本気になってくれて、徹夜で設計してくれた。今でもその建物が建っています」
大家さんは当時、70代のおばあさん。それまでは不動産オーナーなんて、悩み知らずの幸せな人たち、という印象だったけど、オーナーだからこそ困っていることがあることがわかった。
そんな「悩み」を知った経験は、今の仕事につながっていく。
その後、石田さんはあらゆる不動産の仕事を担当することになる。まだ当時はほとんど誰も知らない「信託化」や「ノンリコースローン」のプロジェクトにも関わったし、不良債権処理の特命チームにも入った。外資系証券会社とともにアセットマネジメントを担当することも。
その後、独立してバリューレイズを立ち上げる。この会社がターゲットにしているのが、中小ビルなどの「悩ましい物件」。
「マズローの5段階欲求説というのがあるんだけど」
生理的欲求からはじまり、安全の欲求、社会的欲求、承認の欲求、そして自己実現の欲求というように、人間は成熟していくにつれて、欲求の質が変化するというもの。
「住宅はオフィスの先を行っていると思っていて、すでに自己実現の領域にまで及んでいる。事務所はまだそこまでいってないんだけど、社会が成熟してきているから変わっていくはず」
「リノベーションもその一つの手段だと思うけど、もっとできることがたくさんあると思うんです」
たとえば、入居者のことを考えれば、水光熱費は定額でもいいんじゃないか。中小企業なら固定費のほうが毎月のコストが読めるのでありがたいかもしれない。
あとは原状回復しなくてもいい内装とか、クレジットカード決済にするとか。
ほかにもオフィスの敷金は住宅より高いけど、保証会社を使うことで抑えることができるし、それならオーナーも滞納を心配する必要もなくなる。
「いろんなことを当たり前に思わないで、疑問を持って考えることが大切なんじゃないか、って思うんです」
「でもシンプルに考えれば、大家さんが求めていることは空室を埋めること。そのためにできることはまだまだたくさんあると思うんです。何もお金をかけなくても」
空室を埋めるにはどうしたらいいだろう?
必然的に行き着くのは、入居者が本当に求めていることを、とことん考え抜くこと。商慣習だからといって見過ごしていることもたくさんあるだろうし、潜在的なニーズを掘り起こすこともできるかもしれない。
ただ、中小ビルはそんなにお金もかけられない。
そこで大切にしたのが、マイナス部分を補うのではなく「強み」を発見して伸ばしてあげること。
たとえば、バリューレイズを設立して間もないころに相談があったのが、三越前駅から徒歩3分の物件。裏通りにあって、全体で150坪ほど。これをサブリースすることになった。
サブリースとは大家さんから一括で借り受けて、それを転貸し、差益で経営していくというもの。
担当したのが山田さん。バリューレイズの黎明期から会社を支えている人。
実は今でこそ大人気の物件だけど、はじめは鳴かず飛ばずだった。そのときのことを山田さんに振り返ってもらった。
「建築家と組んで、内装の仕上げとかすべて撤去してスケルトンにしたんです。でも仲介会社に相談に行っても、ほとんど門前払いだった。なぜならエレベーターやOAフロアがある、普通のオフィスと同じ賃料だったから。もっとスペックが良いのに安い物件もあった」
「今、思い返すと、普通の人はスケルトンのオフィスがあっても使い道がわからない。たとえば、スケルトンだと、リノベーションしやすい、みたいなのはあるけど、OAフロアがなければまず貸せない、と仲介さんは思っていたから」
きっとこの物件を求めている人はいるはず。でもまだ仲介会社の人たちには、その価値に気づいてもらうことができなかった。気づいてもらえなければ、情報は届かない。
そこで変わった物件を扱ったり、個性的な物件を仲介する会社に相談することに。
「だんだんとヒットが出てきて『まさにこれを探していました!』という建築家が現れました。『17物件見ても、自分の理想はここにしかなかった』と話してくれたり」
「今では人気物件ですね。空きが出たら、すぐ埋まる。ツボがわかってからはうまくいくようになりました」
そんな山田さんは、もともと大学では造園学科で学んでいた。
なぜ不動産が仕事になったのだろう?
「入学してから気づいたんですけど、造園業界って、全然儲からなくて。まだ実家が造園業だったらいいけど、自分はそうじゃない。そんなときに不動産業界へ進んだ先輩たちの話を聞いたら面白そうで」
不良債権再生事業をやりたくて、不動産会社に就職。そこで現実が見えてきた。
「建築を再生することに面白みを感じて入社してみたら、ボロボロの物件ばかりなんですよ。しかも可能性のある物件はほとんど出なくて、駅からだいぶ歩くし、角地でもない。使い道もないし、味わいもないみたいな物件ばかり」
「それをどうにかして売るんですけど、そこには”知恵と工夫”が必要になってくるんです。よく見れば、どんな物件にも強みがあるんです」
強み?
「そうです。ほんの少しの光を見つけて、そこを伸ばしていくんですよ」
たとえば、と紹介してくれたのが月島の築20年のオフィス物件。
「周辺は住宅ばかりだし、オフィスのイメージはない。駅から離れているし、大通り沿いでもない。これを一般的なやり方で入居者を募集すると、全然反響がない」
この物件の強みはなんだろう?比較的新しい物件だけれど、それだけでは新築には勝てない。
とことん考えて、見つけたことは「川沿い」に立地していること。
「隅田川沿いにあって、スカイツリーと東京タワー、どちらも見える場所なんです。とくに夜景が素晴らしくて。内見してもらうと、その価値に気づいてもらえるんです。だからこそ、まず内見してもらうにはどうしたらいいか考える」
「物件の資料には、ビルから見た隅田川の写真を載せました。ビルのオーナーさんって、自分のビルだから外観を載せたがるんですけどね」
他にももんじゃストリートから近いとか、東京駅も車ですぐだとか。そういう強みを丁寧に拾っていく。
「あと地元にニーズがあったりするんです」
地元?
「築地に近いので築地関係の需要はあるし、月島に住んで、職住近接にしたい人とかいる。外資系の企業には『環境がいい』ということで入居していただいたこともありました」
なんだか成功体験ばかりになってしまったけど、日々の仕事はとても地味です。コツコツ続けているからこそ、知恵と工夫が活きるのかもしれない。
どんな仕事なんでしょう?
「賃貸管理なので、請求書を作成したり、報告書をつくってオーナーに提出したり。あとは日々、クレームがあるので。雨漏りしていますとか、エアコンがつかないとか。そういうときは提携している会社に連絡します。毎日起きることではないんだけど」
「あとはやっぱり空室を埋めること。そのためにも物件のことをよく知らなければいけないし、マーケティングには力を入れています」
小さなビルだからこそ、できることはたくさんあるはず。だからこそたくさんの経験も積めると思います。
もっと深く不動産を学びたい。そしていつかは自分の場所を持ちたい。独立したい。そういう人に合っている仕事だと思いました。
(2018/3/22 取材 ナカムラケンタ)