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はじまりの学び舎

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「1年だと長いし、1ヶ月では短い。地域にまず飛び込んでみる期間として、3ヶ月はちょうどいい長さだと思うんですよね」

新潟県三条市で行われている滞在型職業訓練プログラム「しただ塾」に参加した人たちは、そんなふうに話してくれました。

ぼく自身、移住というものを体験したことがないのだけれど、なんとなくその感覚はわかる気がします。

地域で暮らすことに興味がある。何か自分の環境を変えるきっかけを探している。そんな人たちが一歩踏み出すフィールドとして、3ヶ月間のしただ塾はちょうどいいのかもしれません。

昨年一昨年と、過去2回開催されたしただ塾。今回は3期生を募集します。

具体的には「農業・6次産業化」をテーマに、座学や経営者講話、フィールドワークや企業実習など、さまざまなカリキュラムを通じて地域の仕事と暮らしを体感していくことになります。

テーマや新潟県三条市という土地に惹かれた方はもちろん、自分で何かはじめるきっかけを探している方も、まずはこの取り組みを知ってほしいです。


東京駅から新潟・燕三条駅へは、上越新幹線で約2時間。

そこから南東に向けて車を走らせる。

だだっ広い平野のまっすぐな道を進むこと40分。三条市の中でも山間に位置する下田(しただ)地区に入ると、4年前に閉校となった旧荒沢小学校の姿が見えてきた。

しただ塾はNPO法人ソーシャルファームさんじょうが運営する滞在型職業訓練プログラムで、この校舎を拠点にしている。

しただ塾生になると、3ヶ月の間、多くの時間をここで過ごすことになる。

まず出迎えてくれたのは、代表の柴山さん。

お会いするのは3回目。率直な言葉で話してくれるから、こちらも正直に思ったことを話せるなあ、と会うたび思う。

そんな柴山さんは、今から3年前、「人づくり」を軸に掲げてソーシャルファームさんじょうを立ち上げた。

しただ塾は、まさにその根幹をなすような取り組みと言える。

「一番大事なのは、外から企業や何かを持ってくるんじゃなくて、ここにいる人たちを育てること。自分たちが影も形もなくなった100年後の下田を見据え、力を入れるべきは人づくりだと思う」

とはいえ、定住者を増やすことを目指しているわけでもない。

しただ塾を卒業した人たちの中には、三条市の地域おこし協力隊となって引き続き地域に残ることを選ぶ人もいれば、ここで学び得たことを別のフィールドで活かしたり、地元に持ち帰って新しい取り組みにつなげたりする人もいる。

「今回でいえば農業・6次産業化がテーマだけれど、3ヶ月学んだからって農業や6次産業の従事者になれるかっていうと、まったくわからない」

「学ぶことはあくまできっかけで。それを通じて地元の人とコミュニケーションがとれたり、今まで知らなかった世界をわかっていくっていう。大事なことは、むしろそっちのほうかもしれないよね」

1日6時間のカリキュラムには、農作業体験や農業機械を使った実習のほか、6次産業化に向けた企画から販売、さらにはビジネスマナーの講習やマーケティングに関する座学など、幅広い内容が組み込まれている。

もちろん実践的な知識として身につくこともあるだろうけど、それよりも大事なことは、3ヶ月の生活の中から自分で何かを掴みとること。


たとえば、塾生に農業を教えてくれるお米農家の坂井さんの言葉や姿勢に、何を感じるか。

得られるのは農業の知識だけじゃないと思う。

話を聞いたのは、旧荒沢小学校から車で10分ほど離れた棚田の前。

「ここは20年ぐらい放ってあったの。それを協力隊の1期生が草刈って、鍬で土をおこして。そのあたりまで全部手作業。大変だったよ」

無農薬で育てたお米は、みんなで食べたり、地域のマルシェで販売したりする。

最初は柴山さんから「指導してほしい」と頼まれてはじめたという坂井さん。

どうして今も農業を教え続けているのだろう。

「わたしは若い人好きだから。はつらつとしてて、いいじゃない。楽しいのよ」

「逆に若い人から吸収したい。農業の大学や専門学校に行ってた人なら、こちらも勉強になるし」

農業の担い手が減っているなら、少しでも活きた田畑を増やしておこう。

作物がダメになってしまったら、また次の種をまこう。

坂井さんの笑顔を見ていると、前向きな気持ちが湧いてくる。

「芽が出てきて、大きく育って。実ったときは最高だよ。一面黄金色になる。純金だ。へっへっへ(笑)」

「だっけ、農業って面白いんよ。つくって育てる。それが楽しみ」


足元に生えたフキノトウを摘みつつ、同行してくれた協力隊の末宗さんにも話を聞いた。

末宗さんは、昨年11月からはじまったしただ塾第2期に参加したあと、協力隊になったそう。

現在はしただ塾の運営側にまわり、行政との連携など準備を進めている。

「今、こっちに来たときのことを思い出していて。ちょうど何十年ぶりかの大雪だったんですよ」

「よりにもよってなんでこの年に、と思いながら、それでも雪かきしなきゃいけないし、負けてらんないなと思って。精神的に強くなったし、明るくなったと思います。もとからこんな感じではあるんですけど(笑)」

地域活性の仕事には以前から興味があったという末宗さん。

都内の大学を卒業後、交通コンサルタントとして働いていたときに、たまたま日本仕事百貨で見つけたしただ塾の記事に目が留まった。

「わっ、これすごい面白そう!と思って。新潟には来たこともなかったし、社会人2年目で仕事をやめるなんて、自分の人生設計の中にはなかったんですけどね」

「2期生の募集ということで、未知数なところにも惹かれたんだと思います」

そういえば、過去のしただ塾卒業生のみなさんに話を聞いたときも、同じようなことをおっしゃってました。

前例があまりないからこそ、自分でつくっていけるというか。

「そうですね。もともと好奇心が強くて、気になったものにすぐ飛び込んじゃう性格なので」

しただ塾の期間中も、いろいろ挑戦したり?

「それがまだ、形にはなっていないんですが…。お土産をつくりたくて」

お土産。

「このあたりって、石碑(いしぶみ)が多いんですね。ある授業の中で双体道祖神という夫婦のお地蔵さんについて習ったとき、これを人形焼にしたらかわいいじゃんって思いついて。ぽろっと口にしたら、協力隊の人が面白いねって言ってくれて」

「下田のお米でつくった米粉や自然薯、あとはこのあたり水もきれいですし、卵もとれるので、全部をここでつくれたら。6次産業化につながりますし、下田を知ってもらうきっかけになると思うんです」

春なら桜、夏なら下田でとれる枝豆、秋はさつまいもというように、季節ごとに中身のあんこも変えたいと考えているそう。

6次産業化にあたっては、道の駅の店長さんをはじめ、さまざまな外部講師の方が商品企画や販路開拓、宣伝方法に関して座学や実習をサポートしてくれるという。


三条市内にあるkall will storeで地元の野菜を使ったスイーツをつくって販売している木村さんもそのひとり。

もともとは中華の料理人で、スイーツづくりは独学だった。

甘味料は使わず、米麹でつくる甘酒と野菜の甘さのみの無添加スイーツをつくっている。

「ソーシャルファームさんじょう主催の地域資源発掘コンテストでグランプリをとらせてもらって、そこから起業しました」

「地元がこっちで。サツマイモが有名だったので、それを加工して県外にPRしたいと思ったのがきっかけですね。何かいい方法はないかなと思ったときに、スイーツだったら老若男女受け入れやすいし、遠くに発送もできるし、いいんじゃないかと思ったんです」

かぼちゃとほうれん草とりんごのゼリーや、さつまいもとおからを使ったグルテンフリーのスポンジケーキ、しただ塾生のつくった大豆を使ったスイーツなど。

ガラスに入ったスイーツはどれもおいしそう。

木村さんは、とくに野菜嫌いな子どもたちにこのスイーツを食べてもらいたい、と考えている。

「ぼく自身、昔は嫌いな野菜も多くて、給食が本当に苦痛だったんですよね。でもあるときを境においしく感じたときがあって。味付け次第で野菜っておいしいんだ、と思えるようになったんですよね」

スイーツのメニューには、一つひとつ名前と性格がついているらしい。

今後は擬人化したスイーツが主役の絵本もつくろうと企画している。

「この土地で、しただ塾の方と一緒にいろんな野菜をつくり、商品まで仕上げて県外にPRしたいですね。都会の子どもたちと一緒に畑をつくりたいな、なんてことも考えています」

3期生も木村さんの絵本づくりに参加してみたり、スイーツのメニュー開発や材料となる野菜づくりで関われるかもしれない。

ほかにも、末宗さんの人形焼づくりのプロジェクトに関わっていくのもいいし、下田には500年続く大谷地和紙という丈夫な和紙づくりの文化があったり、協力隊の方が下田産の芋を使ってつくりはじめた「五輪峠」という焼酎のプロジェクトが進んでいたりもする。

もちろん、自分から新たな商品開発に取り組んでもいい。

木村さんのお話のあとで、再び協力隊の末宗さん。

「何かひとつお土産ができれば、そういえば自分もその地にいたなあとか、思い出せるじゃないですか。なんでしょう、うまく言えないんですけど…しただ塾2期生っていうものを形に残したくて」

末宗さんにとって、それだけ大切な時間だったんですね。

「そうですね。卒業してから、わりとみんなバラバラにはなっちゃったんですけど、それぞれやりたいことに向かっている人は多いと思います」

2期の卒業生は7人。佐渡で旅館の手伝いをしている人、新潟のゲストハウスで修行して下田に戻ってこようとしている人、長野でアウトドアのガイドをはじめた人など、進路はさまざまだ。

どんな人に参加してほしいと思いますか。

「農業や6次産業化にとくに興味がなくてもよくて。しただ塾は、環境を変えたい人のための場だと思うんですよね。だから、何かきっかけや飛び込み先を探している人」

「あとは、人に興味があるけれど、話すのが苦手な人。2期生でも、内向きだった人が自然とオープンになっていく過程がうれしくて。わたしは塾生さんといっぱいお話したいし、運営側としてその人が変わっていく姿を見たいなと思っています」

運営側、といっても、ちょっと前まではしただ塾生として過ごしていた末宗さん。

受け身じゃなく、お互いに学び合う姿勢で来てほしい、と最後に話してくれました。

帰りがけ、柴山さんに「ちょっと撮ってよ」と言われて協力隊の人と一緒に撮影した写真。校長先生と生徒のような、あるいは親子のような、しただ塾の雰囲気がにじみ出ている気がします。

何かがはじまるしただ塾の3ヶ月。

それは外から得られるものではなく、自分の内側から湧き出したり、一歩踏み出すことで見える世界が変わる、というようなことなのだと思います。

東京や新潟で事前の説明会も開かれるので、興味を持った方はまずそこへ参加してみてください。

(2018/4/12 取材 中川晃輔)