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85人目の住民に

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

ぽっかりと浮かんだ雲に、青々とした山々。ふもとには棚田が広がり、そっと寄り添うように、瓦屋根の家々が立ち並ぶ。

夏は蛍が飛び交い、冬はあたり一面が雪景色に変わる、四季の表情が豊かな里山。

そんな、どこか懐かしい山村が今回の舞台です。

福岡県・東峰村は、竹(たけ)集落。

「日本の棚田百選」にも選ばれたこの集落では、現在84人が生活しています。

今回募集するのは、この集落で新たにオープンするゲストハウスの立ち上げスタッフです。

ゲストハウスの立ち上げに加え、ツーリズムの整備など。一緒にやりたいことはたくさんあるからこそ、なにより優先して考えてほしいのは「ここで一緒に暮らしたい」と思えるかどうかだと、竹集落の人は言います。

単なる労働力を求めているのではありません。あくまで同じ場所に住む一人の隣人として、関わりを編みながら、地域を編集していく人を待っています。


福岡市内を出発したバスは、繁華街を抜けて次第に山間に入っていく。

黄色に色づいた木々を横目に1時間半ほど揺られると、東峰村に入ったことを告げるアナウンス。

バスを降りて、来た道を振り返ると、村を囲むように山々がそびえている。

東峰村は、12年前の合併で誕生した村。

杉の生い茂る山々の間を、清流がぬうように走るこの村では、現在2200人ほどが生活している。民藝運動をきっかけに全国区となった「小石原焼」も、ここ東峰村の名産品だ。

まずは待ち合わせ場所の役場に向かい、今回の募集を担当する職員の方と合流する。

中に入ると、「あら、こんにちは」という声をあちこちから掛けてもらう。村の雰囲気を少し知ったようで、あたたかい気持ちになる。

しばらく待っていると、約束をしていた企画政策課の梶原さんが声をかけてくれた。

「遠いところありがとうございます。では、さっそく竹に行きましょうか」

村の中心にある役場から車に乗って5分ほどで到着したのが、竹集落の棚田を一望できる展望台。

あたり一面広がった棚田に、日本瓦の家々が数軒ずつまとまって建つ光景は、昔話に登場する里山の風景そのものだ。

棚田を囲う石垣は、なんと古いもので室町時代まで遡るそう。およそ400枚もの棚田は、限られた土地を活かすための古くからの知恵でもある。

澄んだ空気に、思わず深呼吸する。

「ね、気持ちのいいところでしょう。田植えが終わった6月には火祭りがあるんです。暗闇にともる火がまた美しいと評判で、村の内外から1000人近くが集まるんですよ」

この日もよく晴れていて、棚田をたたえる水がよく日光をはね返していた。一通り風景を満喫してから、ベンチに腰を下ろして話を聞く。

「今回の募集のきっかけは、この竹地区をどうにか未来に繋げたいという思いでした」

竹集落は、33世帯、84人が生活する小さな地区。

美しい棚田だけでなく、1600年前に建立されてから多くの山伏が修行を重ねた「岩屋神社」に、国定公園。豊かな自然を誇る村内でも、とりわけ美しい地区として知られている。

さらに集落は、18年前に国の「棚田百選」に選ばれてから、全戸で「竹地区棚田景観保全委員会」を組織。住民たちの自身の手で景観を守りつづけてきた。

「ただ、美しい自然を持つとはいえ、集落に食事処や観光施設はありません。観光客は来るけれど、展望台から棚田の風景を眺めて『きれいだね』と帰ってしまうんです」

棚田の維持には、当然手間もお金もかかる。ただ、現在はほぼ委員会のボランティアによって成り立っているのが正直なところだそう。

働いたぶんがきちんとお金となり、得られたお金を集落のために使える仕組みはつくれないだろうか。

そんな思いから今回新たに立ち上がるのが、ゲストハウスを拠点にした竹地区の再生プロジェクトだ。

まずは長らく空き家となっていた明治時代の空き家を改修し、ゲストハウスとして蘇らせる。

あわせて、観光客の訪れる展望台付近には土産もの店や食事処もつくり、竹集落の観光拠点として整える。

宿のスタイルは、滞在型ゲストハウス。他県の好例や旅行会社のアドバイスをもとに、ドミトリーではなく一棟貸しで、一人あたり1万~1万5,000円くらいを想定している。

現在は2018年11月の完成に向けてリノベーションがはじまるところ。欄干や大黒柱、扉細工などの伝統的な部分はそのままに、水まわりや傷んだ部分、外観などは思い切って変える予定だ。

さらに、2017年7月の豪雨で村内の宿泊施設が全壊してしまった東峰村にとって、このゲストハウスは村唯一の宿泊施設となる。

同時に、竹集落内のキャンプ場の改装も進めていく予定。

完成するのは2019年とのことだから、新しく入る人も、いずれは古民家とキャンプ場の2つの拠点を行き来することになりそうだ。

ゲストハウスの運営にあたって必要となる費用は行政が担うけれど、実際の運営は竹集落の人々と、今回新たに募集する人で行なっていく。

観光客には田舎暮らしの体験の場として、移住希望者にはお試し住宅として。村内外から人が集う場をつくれば、集落のハブになるはず。

そんな目標がありつつも、ゲストハウスをどう進めていくのか、さらに竹集落をどうPRしていくかは、まだ具体的には決まっていない。

そのため新しく入る人は、プロジェクトの立ち上げメンバーとして、新しい竹集落の仕組みづくりにも携わっていくことになる。


竹集落には、どんな人が住んでいるのだろう。

お会いしたのは保全委員会の会長の伊藤さん。竹集落生まれで、大阪で電機メーカーの社員として長く働いたあと、竹に戻ってきた。

優しい眼差しと穏やかな雰囲気で、心をほぐしてくれるよう。

「親が農業をやれなくなって、跡継ぎが必要になったんですね。僕は長男坊だったから、戻ってきた。竹の男性たちは、皆そんな感じです」

反対に、女性たちは外からやってきた人が多いそう。

「ただ、ここは昔から団結力が強くてですね。棚田百選に選ばれてからは、皆でお金や知恵を出し合って棚田のある風景を地道に守ってきました。春には田植え体験、秋には稲刈り体験。8年前には火祭りもはじめた」

ときには距離が近いあまり喧嘩をすることもあるけれど、困ったときには一丸となって助け合う。そんな、家族にも似た集落だという。

「まあ、あまり怖がらないでください(笑)たとえ口は悪くても、気が悪い人はいない。新しく人がやってくるのは楽しみなことですから」

どうやら、閉鎖的というわけではなさそう。

新しく入る人も、まずは地域の集まりに参加することから関係をつくっていけるといいかもしれない。

「ただ、これからは自分たちのできることを地道に続けるだけでは先が見えないと思いはじめてね」

先が見えない?

「そう。地道に保存していった棚田も、私たちが高齢化していくと守れなくなって、集落もどんどん小さくなってしまうんじゃないか、と。危機感があるんです。竹集落全体が変わらないといけないし、この新しい取り組みを機に、変わっていこうという決意もある」

一方で、期待と同じくらい不安もある。何か新しくはじめようという思いがあっても、集落はまだ経験が乏しく、はじめ方が分からないためだ。

竹の人も、岩屋神社と棚田を繋げた観光ルートをつくれたらいいとか、自分たちが育てている野菜をうまく観光資源に使えたらいい、などといった思いを持っているものの、まだ具体的な形になっていないのだという。

そのためゲストハウスのスタッフも、竹集落全般の観光やこれからを一緒に考えていくことになる。

ただ、何もかもやってくれる便利な人を探しているわけはない、と伊藤さん。

「何でも屋がほしいのではないんです。それよりも、まずは竹の人と一緒に過ごしてほしい。私は、そんな竹の仲間になってくれる人と出会いたいです」


ここで、「いやあ、お待たせして悪かったね!」と元気よく登場したのが、同じ竹地区の光春さん。

「手帳にも書いちょったのに、すっかり忘れてしまった。いやあ、すみませんね!」

光春さんもまた、竹生まれ竹育ち。東京での税理士勤めのあと、竹に戻ってきた。

快活な喋りが印象的で、はじめてゲストハウスの構想を聞いたときのことも正直に話してくれた。

「いやあ、なんて大変な仕事なんだって思ったよ。運営していくからには、お金も仕組みも考えないといけないからね。ゲストハウスだけじゃなく、集落全体のことも考えていかないといけない」

単に風景がいいことを売るだけでは、これまでと変わらない。そのため現在は、宿泊に合わせて棚田を利用した野菜収穫体験や、竹集落のお母さんたちの手料理を振る舞うことも考えているところ。

軽食として棚田でつくった田舎そばを用意したり、コーヒーを楽しめる場所もつくっていきたいという。

「ここでしかできないことが、何よりの贅沢になると思う。塩くじらに筑前煮、がめ煮にダゴ汁。母ちゃんたちがつくった田舎料理を食べてもらいたいね。新しく入る人とは、竹の田舎暮らしを共にしながら、一緒に田舎ならではの贅沢を提供していきたい」

とはいえ、すでにできあがっている地域コミュニティに入っていくことは、デリケートな部分もある気がする。

そのことを伝えると、光春さんは笑ってこう答えてくれた。

「たしかに竹は小さいから『昨日どこに行ってたね』なんてことはすぐに伝わるんだ。でもそれは田舎で暮らすにはしょうがないし、気にしすぎないほうがいい」

「特別なことは望まないし、新しく来てくれる人に丸投げするつもりなんて毛頭ない。まずは一緒に祭りをやったり、酒を飲んだり、生活を営んでくれたら本当にうれしいな」


竹集落は、ゲストハウスをきっかけにして可能性を広げようとしています。今までこじんまりとしていたからこそ、残っている風景やつながりもある。

その一部になりながら、地域に根ざして生きていく仕事だと思います。何より、竹の人たちが新しい人が来るのを楽しみにしていたのが印象的でした。

竹で生活することは、仕事と暮らしが繋がっているようなイメージかもしれない。この日お会いしたお二人も、新しく来る人をうんと可愛がってくれるはず。

九州に縁がない人も、縁ができるいい機会。もし気になる人はぜひ一度訪れてみてください。

竹の人たちは、きっと喜んで迎えてくれると思います。

(2017/11/16 取材 遠藤真利奈)

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