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学びがつなぐ町の未来

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生まれ育った町の暮らしがなくなってしまうかもしれない。

少子高齢化や人口流出など、課題の先端にある中山間地域や離島で、町の未来を次世代に手渡していくためには何が必要だろう。

教育を通して、町に点在している人たちがつながっていくと、視野はひらけていくんじゃないか。そんなことを考える取材でした。

舞台は、広島・神石高原町。

町内に唯一存在する油木(ゆき)高校は、2009年から地域の課題解決に向けた実践的な学習に取り組んできました。

さらに2017年度からは、全国各地の離島中山間地域で魅力ある高校づくりに取り組んできた株式会社Prima Pinguinoと協力し、高校魅力化プロジェクトをスタート。

今回はこの取り組みを加速させていくため、高校魅力化コーディネーターを募集します。

これまでどんな取り組みをしてきて、この先どんな未来を思い描いているのか。油木高校の魅力化に取り組んできた方たちに会いに行ってきました。

 

新幹線で広島・福山へ。福山駅からはバスに乗り、神石高原町へと向かう。

市街地から離れ、山道を上っていくと、のどかな田園風景が広がる。

バスに揺られること1時間半ほど。油木停留所に到着した。

迎えてくれた神石高原町役場の矢川さんが、油木高校に案内してくれることに。

矢川さんは、油木高校の卒業生でもある。

「今って子どもたちはバスで通学しているんだけど、僕らのころは、家から学校まで5km歩いて通ったんです。その間に四季折々の自然を見たり、おじいちゃんおばあちゃんの話を聞いたりすることもあって」

「今思えば、地域を見るということを通して、愛着が育まれていたのかもしれません」

矢川さんは、8年前からまちづくり推進課の職員として移住・定住政策などに取り組み、高校魅力化プロジェクトにも深く関わっている。

「残念ながらこの町はこれまで、人口流出に歯止めがかかりませんでした。根本にあるのは、子どもたちの町に対する誇りの空洞化だと思うんです」

学校教育の中では、地域の人と関わる機会がほとんどない。家庭では「町には何もないから」と、都市部に移り進学・就職することを親から勧められる。

「そういうことが積み重なって、町への愛着や誇りが育まれにくくなっている。再生させていくためには、地元の人たちの暮らしや仕事、考え方を学ぶ機会が必要なんです」

 

油木高校は町内唯一の高校。もともとは農学校として設立され、今は普通科と産業ビジネス科からなる。

それぞれ1クラス30〜40人ほどで、現在は3学年合わせて191人の生徒が在籍している。

年々生徒数は減少しており、このまま高校の存続が難しくなれば、さらなる人口流出は避けられない。

そこで町と学校が協力し、油木高校の魅力を高め、町内外からの入学者を集めることに力を入れてきた。

たとえば、生徒の学力向上のために公営の学習塾を設置したり、通信教育の仕組みも導入している。ほかにも海外での語学・農業研修など、全部で10ほどの取り組みを行っていて、町が積極的に支援しているそう。

なかでも特徴的なのは、地域課題に向き合う取り組み。

学校におじゃまして、池田教頭先生に話を伺う。

「今から10年ほど前まで、産業ビジネス科では、インターネットで調べものをしたり、フラワーアレンジメントをするといった授業が行われていました」

「その様子を見て、赴任してきたある先生が言ったのは、『何もつくっていない』という言葉だったんです」

何もつくっていない。

「地域に目を向ければ、担い手不足で田畑は荒れている。それなのに子どもたちは、真似ごとしかしていないんじゃないかとおっしゃって」

神石高原町は農業が盛んなものの、高齢化によってすべての農地の約3割が耕作放棄地となっていた。

課題の真っ只中にある町の高校だからこそ、実践的な学びのプログラムをつくっていけるはず。

そんな想いを起点にして、2009年から耕作放棄地の再生・活用に向けたプロジェクトがはじまった。

その1つが、ナマズ養殖プロジェクト。

ナマズは泥水の中でも生息でき、耕作放棄地を活用して池をつくれば養殖できる。あまり手間をかけずに済むし、ナマズ料理などの特産品を開発すれば、収益を上げられる可能性がある。

油木高校の先生と生徒たちは、校内にコンクリート製の池をつくるところからはじめ、養殖を開始。

当初は購入した稚魚を養殖していたものの、持続可能な活動にしていくために研究を重ね、2014年には孵化に成功。

育てたナマズは、生徒たち自ら包丁で捌き、フリッターやかき揚げ丼などに加工して、学園祭や広島市内のフードイベントで販売するところまで行っている。

開発したナマズ料理は食のコンテストでグランプリを受賞したり、メディアに取り上げられるなど、評価も伴ってきた。

そんな生徒たちの姿を見て、草木(くさぎ)という地区では、地域の若い世代が自分たちでナマズの養殖をはじめ、特産品づくりにも乗り出した。

「生徒と先生たちの活動が共感を呼び、地域内でもプロジェクトが自走しはじめている。打てば響く地域だと思います。課題意識をもって、みんなでなんとかしようというエネルギーがある」

このプロジェクトは、産業ビジネス科の授業内で行なわれているもの。

今後は普通科の生徒たちにも、課題発見解決型の学びを通して、社会で生きていくために必要な力を培ってもらいたい。

今回募集する高校魅力化コーディネーターは、3年間かけて、学校の先生たちと一緒に「総合的な学習の時間」のカリキュラムをつくりあげていく。

また、チームで地域の課題発見・解決に取り組む中で、生徒一人ひとりが掘り下げたいテーマや課題が見えてきたら、放課後に自主ゼミを開いて個別にサポートしていくことになる。

どちらを進めていくうえでも、まずは地域を知ることが大切。

「実は『日本書紀』に地名が残っている地域もあるんです。亀石という地区で、1000年前から米づくりをしてきたとされています。ところがあまり知られていなくて。それではもったいない」

「地域には、この町の歴史や農村文化に詳しい方が点在しています。そういう人たちとつながることができたら、面白そうだと思いませんか?」

 

高校生たちと地域の人たちを「つなげる」ということを大切に、地域おこし協力隊として活動しているのが、貫洞(かんどう)さん。

貫洞さんは、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの「地域おこし研究員」という役割も担っていて、大学院に所属しながら活動している。

「大学院でソーシャルイノベーションという講義を受講するなかで、神石高原町を拠点に社会貢献活動をしている国際NGOピースウィンズジャパンの代表に出会って。それがこの町を知る最初のきっかけでした」

その後さまざまな機会が重なって、神石高原町に関わるように。2017年10月から地域おこし協力隊として、油木高校の魅力化に取り組んでいる。

働きはじめた当初は、戸惑うことも多かったという。

「仕事の範囲が決まっていなくて。地域の草刈りを手伝うこともあれば、町役場の人と一緒に戦略を考えることもある。いろんな幅のタスクと地域課題があって、何から手をつければいいのかわからない状態でした」

手探りするなかで切り口として見つけたのが、ドローンだった。

神石高原町は、労働人口およそ5000人のうち約2000人が林業や農業、建設業、採掘業に従事している。どの産業も、ドローンが関わる余白があるという。

実際、町ではすでに、広大な農地に農薬を散布するためドローンを使用する事業者がいたり、町と大手企業がタッグを組んでドローンを使った荷物の空輸をはじめるなど、導入事例が生まれている。

「じゃあ、ばらばらに仕事をしている人たちの間に、ドローンを活用する高校生が入ったらどうなるか。高校生と一緒に仕事をつくったり、町の将来について考えたりする流れにもっていけるんじゃないかと思って」

「人をつなぐメディアとして、活動の軸にドローンを据えたんです」

貫洞さん自身、ドローンの操作を覚えるところからはじめて、最初は「総合的な学習の時間」を使って高校生に操作を体験してもらった。

2018年4月からは週に一度、自主的に集まったメンバーで活動し、ドローンを使っている地域の事業者も交えて、町の風景の撮影に出かけたりしているそう。

最近では、神石高原町の農産物を卸している市街地のスーパーから、食材のPR動画を流したいという依頼が。

担当者にヒアリングするところから、絵コンテの作成、動画の撮影・編集や納品にいたるまで、生徒たちが手がけているという。

「誰に向けての映像なのかを考えて、見せ方・伝え方を積極的に提案してくれる生徒もいます。それに対して、そもそも自分たちが町の食材を食べたいと思っているかな?と疑問を投げかける子もいて。議論を重ねる場面が多くなってきました」

貫洞さんは、ドローンの活動と地域課題とを絡めていくことで、生徒たちが将来、町で働く方法を自分なりに考えてもらいたいと話す。

「当初、『町に残りたいけど仕事がないよね』という声が生徒から聞こえてきました。でも最近になって、人の流れを変えるために地域の人が集まれる場所をつくりたいと伝えてくれた子がいたんです」

「もともと限界集落で働いてみたいという思いを秘めていたみたいで、それをほかの生徒にも共有してくれた。自分の将来や町について話したり、考えを引き出していくきっかけになったのは、うれしかったですね」

やりがいを感じる一方、生徒たち一人ひとりのやりたいことも考え方も違うなかで、どうゼミを組み立てていくかを考えるのは、難しいという。

貫洞さんはどんな人が向いていると思いますか?

「古くから伝わる文化や歴史もあるし、特徴的な産業もある。多様な組み合わせを生み出せる町だと思っています。思わぬ出会いや新しい変化をいとわない人がいいですね」

「ただそれだけだと、ときには軸がぶれてしまうこともあるかもしれません。なので、自分の価値観を持っている人だとさらにいいと思います」

油木高校魅力化プロジェクトの目指していくことの一つに、先端技術を地域に取り入れ、町の資源と掛け合わせることで、地域づくりの新機軸をつくっていくことが挙げられる。

これから加わる人にも、その視点を持って活動に取り組んでほしいとのこと。

 

神石高原町ではこれまで12名の地域おこし協力隊が活動してきて、定住率はほぼ100%なんだそう。

その大きな要因は、協力隊1年目は必ず、地域を知るということに重きをおいているからだと、町役場の矢川さんは話していました。

協力隊員同士で情報交換の場も設けているから、地域を知るための第一歩は踏み出しやすいと思います。

この町でなら、自分ごとの学びをつくっていけるように感じました。

(2018/04/23 取材 後藤響子)

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