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時間と、空間のデザイン

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「オリジナリティにこだわるより、素直に相手の期待にこたえたい」

株式会社東京建築プラスの代表・中里さんは、デザインや建築に関わる仕事について、そんなふうに話してくれました。

相手の気持ちに素直にこたえるには、少し自分から離れて、客観的に物事を見る必要がある。

そのために大切にしているのが、仕事をしている自分から、ちょっと距離を置く時間を持つこと。

働く時間と日々の生活。

一人ひとりのワークライフバランスは、一緒に働く人同士が理解し合うことで実現できます。

いい仕事をするために、自分の時間も大切にする。

この会社には、そんな考えで働いている人たちがいます。

店舗の内装を中心にデザインと施工を提案する東京建築プラス。

今回は、クライアントの要望を聞いてイメージを形に起こす空間デザイナーと、施工管理担当を募集します。



東京・東日本橋

東京建築プラスの事務所は、馬喰町の駅から5分ほど。布地の問屋街が広がる大通りから一本路地へ入ったところにある。

細い階段を上がった2階にある事務所は、中里さんの友人の会社とシェアオフィスになっている。

ミーティングスペースも共同なので、お話は近くのカフェでゆっくり聞かせてもらうことに。


中里さんはお店の全体を見渡せる場所に座ると、ぐるりと店内を眺める。

「普段からカフェやお店に入ると、席数とか働いている人の数とか、お客さんの動きとか見るようにしています」

内装のデザインより、人の動きが気になりますか?

「広さに対する人の配置とか、空間のバランスを見ます。空間づくりを考えるときも、動線上に変な場所がない、違和感がないっていうことが大切なんです」

不自然なデッドスペースによるストレスがないこと。資材の角と角がぴったり合うように設計すること。

違和感なく過ごせる空間をつくることを、中里さんは一番に考えている。

東京建築プラスで受ける依頼の多くは、店舗の内装。

メンテナンスや改装はもちろん、空っぽの状態からつくる新装のこともある。

「僕らはお客さんの頭の中にイメージとして存在している空間を、建築で実現するのが仕事なんです。だから、ここで必要なのは、個性的なデザインを考えることではなく、相手の考えを引き出していくような力だと思います」

自分がかっこいいと思っていたものも、相手にとっては過剰なデザインになることもある。

中里さんたちが心がけているのは、まず最初に問題点を見つけること。それがクライアントの希望を探るヒントにもなる。

「この前、和菓子屋さんの看板の取り付けをやりました。デザインの方向性は、ロゴとかブランドイメージで決まっている。僕らが考えるのは、それをどうやって空間と調和させるか、ということです」

設置場所は商業施設のフロアの中にある。狭い通路に面した入り口は暗く、メニューなどの掲示も控えめで見えにくかった。

そこで中里さんたちは、看板がサインとしてだけでなく照明の役割も兼ねるデザイン変更を提案。

老舗らしい高級感や、落ち着いた雰囲気は残しながら、視認性が良くなるようにデザインを考えていく。

「僕らの仕事の多くは、なんとなく不便に感じていたことを解消することが目的だから、自分のオリジナリティを前面に出す必要はないんですよ」

それよりも、隠れた違和感を一緒に探しながら、「何とかしてほしい」という声に的確にこたえられること。

この会社のクライアントの多くが、リピーターとして付き合いを続けていくのは、そんなふうに、期待にこたえてくれる安心感があるからだと思う。

新装開店からはじまって、メンテナンス、改装、さらに別の店舗を出店するときにはその新装など、長期的な付き合いができる。

そんな信頼関係が見える気がした。

デザインに関わる上で、譲れないことは何もないという中里さん。「怪我なく終わるのが一番いいですよ」と笑う。

「こだわりすぎない、という意識はどこかにあるかもしれない。すべてにおいてちょっと引いて見ているというか」

必要以上に固執しない姿勢は、とても軽やかに思える。

「仕事にのめり込みすぎて、視野が狭くなるのはよくないよね。それより、自分の中に仕事以外に切り替えられるチャンネルを持っている方がいいんです」

チャンネルを変える。

「家に帰ったら家族と過ごすとか、帰り道に漫画を立ち読みするとか。なんでもいいんです」

仕事か生活、どちらかを優位に考えるのではなく、それぞれチャンネルを切り替える時間を持つ。それは、仕事をしている自分を一歩引いたところから、客観的に見ることでもある。

今は、それを明るく話す中里さんも、会社員として働いていた20代のころは10年後がイメージできずに不安だった。

「そのころは、時間をお金に変えているだけだったんですよね。そうやって過ぎていく時間が怖いなと思っていました」

30歳のとき、独立を視野に入れて内装の会社に転職。その後、東京建築プラスを立ち上げて、今年で5年目になる。

以前のように、時間が過ぎていくことへの不安が少なくなったのは、本当に必要とし合えるクライアントと仕事ができるようになったから。

「自分ができることでお客さんのやりたいことが実現できる。お互いに納得する方法で、共感できるっていうことが、仕事をする上での幸せなんじゃないかと思うんです」

仕事の時間も、生活の時間も、同じように充実したものになるように。

時間の使い方を工夫できるようになったことで、不安は解消できたと中里さんは言う。

「会社としてそれを実現していくために、そういうことを一緒に話して考えていきたい。これから入る人とも、お互いにフラットな関係性でいたいんです」

「必ずしも同じ考えでなくてもいい。全然違う考えの人が入ってきて、議論ができたほうがいいですね」


今の中里さんにとって、いい相談相手でもあるという空間デザイン担当の戸田さん。

会社に入って2年ほど。現在は中里さんと、もう一人のデザイナーの3人で分担して仕事をしている。

「うちには、『何時までに何をして』とか細かい指示を出す人はいないので、常に自分で考えて動く必要があるんです。その分、仕事や予定を自分できちんとコントロールできる人なら、ワークライフバランスを考えられる、いい環境だと思います」

戸田さんは仕事以外の時間で、服づくりをしている。

普段自分が着るものから、ダンスの衣装まで。戸田さんにとってはライフワークのようなものだ。

「スケジュールを調整するのに、業務とプライベートの垣根があんまりないんです。仕事と生活の時間のバランスを、自分で裁量しながら働いている感じで」

仕事以外の用事であっても、中里さんと相談して調整できれば、変則的に休みを取ることもある。

以前は大手のゼネコンで働いていた戸田さんにとって、それは大きな変化だった。

「サラリーマン時代は、仕事の予定に自分を合わせていくような毎日だったから、時間がなくてやりたいことを飲み込んでいたんです。最近は、土いじってみようかなとか、ちょっと興味がある程度のことも挑戦できるような余裕が出てきましたね」

時間の使い方のほかにもうひとつ、変化があった。

それは、エンドユーザーであるクライアントと直接話ができるようになったこと。

戸田さんにとって特に印象的だったというのが、東京・三田にある補聴器屋さんからの依頼。

新しくお店がオープンするときに、内装を丸ごと担当したという。

「僕も自分では補聴器を使ったことがないので、最初は何が必要なのか分からなかったんです。だから、クライアントさんに直接話を聞きながら進めていきました」

補聴器屋さんには、眼鏡屋さんと同じように診察スペースが併設されていて、ともすれば病院のような冷たい雰囲気にもなりがち。

だからこそ、なるべく温かみのある雰囲気に仕上げてほしい。

クライアントからは、そんなリクエストがあった。

年配のお客さんも多いので、段差をなくしたり、車椅子が通れるように幅を考えたり。年齢を問わずリラックスして過ごせる空間になるように、木の素材で店内の雰囲気を統一した。

完成して引き渡したとき、戸田さんは恐縮するほど感謝の言葉をもらったという。

「今まで、右から左へ、仕事をただパスするような気持ちで働いていたので、そういうリアクションを直接もらえてうれしかったですよ」

相手が見える仕事。一緒に仕事をする人の存在が刺激になることも多い。

「僕は、100%自分のやりたいことだけでデザインを完成させたいわけじゃなくて、誰かがやりたいことにちょっと自分のアイデアを添えるくらいのバランスがいいと思うんです。じゃないと、誰かとつくってる意味がないと思うから」

「ときには予定どおりに進まないことも、誰かと一緒に働く楽しみじゃないかな。それを楽しめる余裕があってもいい。もちろん、納期に影響するほど遅れると困りますけど(笑)」

中里さんと戸田さん。

仕事へのやりがいはそれぞれに垣間見られる一方で、必要以上にこだわりすぎない姿勢はとても軽やかだ。


最後に中里さんが、これからの会社の計画について話してくれた。

「実は、年内に事務所を移転して、本屋さんを併設しようと思ってるんです。建築の本がたくさん置いてあって、路面店でふらっと立ち寄れるような」

「これから入る人が本に興味がある人だったら、選書とか、そういう話も一緒にしたいですね」

建築事務所でありつつ、本屋。

意外な組み合わせにちょっと驚きながら、その理由を尋ねる。

「本屋ってボーッとしていても視界にいろんなものが入ってきて、好きなんですよ。不意に答えが見つかることがあったり、こんなにいろんな考えがあるんだって実感できたり。事務所と一緒になっていれば、打ち合わせのヒントにもなりそうだし」

自分が好きなものと、仕事。

どちらかを我慢したり、無理して両立させるのではなく、バランスよく実現できる方法を一緒に探していく。

それが、東京建築プラスらしい働き方なのかもしれません。

(2018/5/24 取材 高橋佑香子)

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