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市民がつくる横浜

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少子高齢社会や貧困による格差、地球温暖化による環境問題など、現代の日本社会には数多くの課題が存在しています。

神奈川県・横浜市。活気ある印象のあるこの街でも、状況は同じ。まちが抱える課題を解決すべく結成されたNPO法人は、1510団体にものぼるそうです。

認定NPO法人 市民セクターよこはま」は、そんな市民活動団体の人たちが活動しやすくなるための役割を担っています。活動の相談にのったり、情報発信をしたり、時にはセミナーやフォーラムなどを開催することも。

はじまりは20年前、草の根の市民活動をしている仲間の思いがかたちになって生まれたNPO。

今回募集するのは、プロジェクトの運営や相談対応を行うコーディネーターと、冊子やHPなどのデザイン全般に関わるデザイナー、事務・窓口業務を行うスタッフ。

より良い社会をつくるために活動する市民を、サポートしていく仕事です。

 

桜木町駅から歩いて5分ほど。横浜の象徴の1つ、みなとみらいコスモワールドの観覧車を臨む通りに「横浜市市民活動支援センター」があります。

ここは、市民セクターよこはまが横浜市市民局と協働契約書を締結して、対等な関係で運営を行う場所。

中に入ってまずお話を伺うのは、朗らかな笑顔が印象的な吉原さん。市民セクターよこはまの事務局長を務めている。

「NPOって、一般の方は馴染みがなくてわかりにくいでしょう」

そう言って、ゆっくりと丁寧に話してくれる。

「私たち『市民セクターよこはま』は、ネットワーク型のNPO法人です。横浜市内で活動する団体同士をつないだり、行政や企業と関係を築きながら、中間支援の立場で地域課題の解決に向けたとりくみをサポートしています」

横浜市内には、認知症の方のケアや障がい者の雇用促進、子育て支援など、さまざまな活動を行うNPO団体が存在している。中間支援とは、彼らが活動をしやすくするように、ハードとソフト両面でサポートしていくこと。

吉原さんたちの働く市民活動支援センターは、活動を行う市民が集まることができる場所。ミーティングなどを行う場所を提供するだけでなく、活動について職員に相談することもできる。

「9年前の公募に手を挙げて、運営を任されることになりました。単なる運営委託ではなく、横浜市と何度も話し合いながら、NPOの視点でセンターの中身をつくってきました」

行政とNPOが協働することで、市民にとって必要な活動を当事者の立場から実現できるようになった。

仕事には、このセンターで市民をサポートすることだけでなく、法人が自主事業として取り組んでいることもある。

自主事業は、市民セクターよこはまが自ら企画をする。安定経営のために収益につながる事業を行なうとともに、自分たちが必要と感じる活動は収入に関わらず継続してきた。

たとえば、自治会や町内会などの地域活動を行う市民が集まり学ぶ“地域づくり大学校”や、地域で行われるさまざまな集いの場を応援する事業など。

活動を通じて市民や地域のなかで、ネットワークが生まれていく。

その実感を持てることが、市民セクターよこはまの原動力になっている。

ネットワークづくりの事業に力を入れる理由のひとつは、市民セクターよこはまが現場の声からはじまった団体だから。

20年前、団体発足のきっかけとなった研究会を呼びかけたのが吉原さんだったそう。

「そのころ勤めていた横浜市ボランティアセンターで、暮らしに課題のある方々を“たすけあい”の理念で支援する女性たちと出会いました。まだ介護保険のない時代に、彼女たちは、要介護者の方やそのご家族を採算度外視で支えていて」

「行政や企業のとりくみを待っているだけでは、自分らしく生きられる社会をつくることは難しい。もっと市民の声、活動の現場と政策がつながっていかなければ、と強く感じました」

そこで「市民セクター構築のための研究会」が立ち上がり、生の声を集めてまとめ、行政に提案を行っていった。個人や1団体では聞く耳を持ってもらえなくても、いくつもの団体の声を集めれば、状況は動く。

みんなでつながれば、世の中を変えることができる。

これまでの実績が認められ、行政の審議会や委員会に呼ばれることが多くなった現在でも、根本的な考え方は同じ。

「汗をかいて当事者の方を支えている、現場にいる人たちが何より大切なんです」

「私たちは、団体の方々が活動しやすいように、多くの人たちに当事者の声が届くように、心を砕く立ち位置です。前に出る代表のように思われることもありますが、私たちは常に現場の下支えでありたいと思っています」

現場には、自分の人生をかけて活動している人たちもたくさんいる。そんな人たちと相対するから、職員は常に本気で仕事をすることが求められる。

きっと強い想いを持った人たちが多いんでしょうね。

「想いはもちろん大切です。ただ、それだけではやっていけない仕事でもあるんです」

行政との仕事も多いから、きちんと納期を守ったり、正確に資料をまとめることも大切。自主事業運営では、全体の予算を俯瞰する視点も求められる。想いだけが先行して全体の経営が成り立たなければ、事業が継続できなくなってしまう。

「残念ながら、過去にはNPOならゆったり働けるとか、自分の思い通りに仕事ができるというような理想を抱いてきた人が、短期間で離職してしまったこともありました」

あくまで中心は問題の当事者や、そのそばで支えとなる人たち。自分たちは彼らの下支えであるという意識が常に必要で、相手の視点に立った対応が求められる。

とはいえ、自分たちの考え方には軸も必要。絶妙なバランス感覚で、入れ込みすぎず離れすぎないコミュニケーションを取っていくんだそう。

「管理職の1人に、もともと一般企業で役員まで務めた女性がいます。スピードを持ちながら人間らしい心のこもった仕事もできるっていうのを彼女が体現してくれて」

「これから入る方も、NPOでの経験はなくてもいいんですよ」

 

今年の4月からコーディネーターとして働く嶋田さんも、一般企業から転職をして来た1人。

「大学時代からまちづくりや空き家活用に興味があったり、障がい者の方の介助をするアルバイトをしていたり、地域や社会の問題解決に興味を持っていたんです」

新卒では不動産関連の会社に就職。その後調査会社に転職し、全国を周って仕事をした。

1つの地域に根付いて、人と深く付き合う仕事をしたいと考えていたときに、市民セクターよこはまを見つけたんだそう。

「面接に3時間かかったのには驚きました。一般企業の面接って、使いものになるかを見ることが多いと思うんですけど、うちの面接では、とにかく私自身のことを知ろうとしてくれているのが伝わってきたんです」

「入ってからは、スタッフ会議に3時間かけることにも驚きました(笑)。今は、一人ひとりが考えていることを、表現し合うのを大事にしているからだと納得しています」

入職後1、2ヶ月は支援センターの窓口業務研修を行う。管理・運営業務を一通り覚えると同時に、市民の声がダイレクトに入ってくる窓口で、OJT形式で対話の手法を学んでいく。

入ったばかりで相談対応をするのは、難しそうに感じます。

「正直、まだ相手の話を聞くことに必死です。単純に知識だけでは相談にのれなくて、さまざまなケースに柔軟に対応したり、自らNPOで活動してきた経験が必要なときもあります」

相手の話にわからない部分があれば、「教えてください」と正直に言っていい。真剣に向き合う姿勢が大切で、すぐに答えられないことがあったら一緒に学びながら考えていく。

新人でも責任のある業務を任されるのが、特徴のひとつ。嶋田さんもすでに研修を終えて、職員のシフト作成を任されている。長年興味を持っていた空き家活用の事業も提案し、進めているところなんだとか。



次にお話を伺うのは、入職8年目の薄井さん。

情報発信担当として、HPや情報誌の作成にも携わってきた。デザイナーとして働く人は、薄井さんとの仕事が多くなる。

薄井さんは、もともとは理系の大学で新薬の研究をしていたそう。どうして分野の異なるNPOで働くことになったのだろう。

「大学時代、研究ばかりだったなかで、あるとき患者さんに会いに行く機会がありました。そのときに、研究室に閉じこもっていることが、なんてつまらないんだろうって思っちゃったんですよ」

フラストレーションを感じていたころ、ある企業のCSR広告が目につき、自分のやりたいことは社会課題の解決なのだと気がついた。大学院を辞め、社会ビジネスを学ぶ専門学校に入学、その後自分でNPOも立ち上げた。

「自分でNPOをやっていたときに中間支援の大切さを痛感して、勉強をしようとここに入りました。ステップの1つだと思っていたのに、いろいろなことに挑戦させてもらえるのが面白くて、気づいたら8年もいましたね」

現在、薄井さんがもっとも力を入れている事業の1つが、市内の全NPOや地域貢献型の企業に配布される情報誌“animato”(アニマート)。

「自分たちでテーマを決めて、取材や編集もします。自分の足で現場に飛び込んで、生の声を聞いてくる。社会課題に向き合う辛さはあっても、大学時代に研究室で感じていたもやもやが解消されていくというか。やっぱり僕は現場が大好きなんですよ」

「animatoをつくることで直接的に課題が解決するわけではありません。でもこの冊子が、直接活動に携わっている人の応援になることで、希望を感じられるんです」

一般の方から「これを読んで、自分には関係ないと思っていた“自治会”に興味を持ちました」という声が届いたことがある。まず多くの人に手にとってもらうことを目指しているから、その言葉がとてもうれしかったんだそう。

「新たな表現方法を持ったデザイナーの方と一緒に、もっと裾野を広げていけたらいいですね」

実は、現在の拠点である市民活動支援センターは、数年後に移転が決まっている。

これから転換期を迎える市民セクターよこはま。新しく加わる人も、仕事を覚えながらも、新たな事業を構築していく。それを面白いと感じてくれたらいいなと思う。

それに事業内容が変わっても、大切にする考え方は同じ。

「社会的な課題は、NPOに行政、企業とさまざまな立場の人が力を合わせないと解決できないので、僕たちが接着面のような役割を果たせたらいいなと思っています」

取材を終えて、吉原さんの「バランスが大切」という言葉を思い出しました。

真面目なことも面白いことも、いいバランスで話してくれた、市民セクターよこはまの皆さん。普段から年齢や立場をこえて、さまざまな人とコミュニケーションを取っているから、相手とのちょうどいい距離感がわかるんだと思います。

そんなバランス感覚を持って市民と向き合う人がいることで、少しずつまちが変化していくように感じました。

(2018/06/19取材 増田早紀)

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