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「自分たちの手で何か変えていきたい。そう思う市民の人たちが、声を発して想いを形にしていく場を、ここから育てたくて」2018年7月、宮城県富谷市に『TOMI+(トミプラ)』というシェアスペースが誕生しました。
実は富谷市は、まちの人口が増えています。多くの地域が過疎化で悩むなか、恵まれているように感じるけれど、こんなまちだからこそ課題もあるんです。
今回は、TOMI+のコンシェルジュを募集します。
最も大切な役割は、地域の人たちの声を聞き、アイデアや課題を拾い上げること。
それを形にするところまで、一緒に歩いていく仕事です。
宮城・仙台駅。
近くのレンタカー店で待ち合わせしたのは、株式会社あわえの吉田和史さん。
あわえは、徳島県美波町に17社のサテライトオフィスを誘致してきた実績を持つ会社。今回採用する人は、あわえが雇用することになる。
吉田さんは、これからコンシェルジュとして働く人をサポートする方。気さくな人柄で、頼りになるお兄さんという印象。
まず聞いてみたのは、6ヶ月の契約期間が終了したらどうなるのかということ。
「TOMI+のプロジェクトは、1年2年と継続して受託していく予定で、そうなったらコンシェルジュとも契約を続けることが前提です。さらに、今後ほかの地域でも同じような事業をつくっていきたいので、そちらもぜひお願いしたい」
吉田さんはもともと東京のコンサルティング会社に勤め、企業への営業やコンサルティング、IT技術の導入サポートなどを行っていたそう。
「あるとき、あわえが特集されているテレビ番組を見たんです。そこでは、代表の吉田が外食事業経験のないところから、産直レストラン『odori』を運営していくまでの過程が映し出されていました」
「面白い。ここなら、自分で何か事業をつくるということに挑戦できそうだなという気がして。翌日には電話してましたね」
入社4年目。現在は、全国の自治体に向けて地方創生に関する事業のコンサルティングを行っていて、東京と地方を行ったり来たりする日々を送っている。
いろんな地域を見ている吉田さん。
今回のプロジェクトの特徴を聞いてみると、「ここには、ほかの地域にない課題がある」とのこと。
「過疎が進んでいるわけじゃないんですよ。仙台市のベッドタウンとして成長してきて、ここ最近、人口は増加を続けているし、若い世代も増えている。教育の水準も高い。ほかの地域からしたら羨ましいと思うくらいです」
「じゃあ何が課題か。それは、住民の入れ替わりが激しくてコミュニティが希薄化していること」
40分ほどで、車はTOMI+に到着。
TOMI+のあるこの地区は、もともと奥州街道の宿場町だったところ。辺りには古い住宅も多く見られる。
迎えてくれたのが、富谷市役所・経済産業部の今野さん。
さっそく、施設の中を案内してくれる。
旧役場庁舎をリノベーションし、シェアスペースとして生まれ変わったTOMI+。
1階は誰でも自由に出入りできる、ラウンジのような空間になっている。
「ラウンジにはカフェカウンターもあります。受け身で利用するだけでなく、たとえば、ちょっとしたスイーツなどを販売したいという市民の方に使ってもらえるとか。積極的に活用してほしいなと思って、どうしてもつくりたかったんです」
2階には、スタートアップの拠点にできる個室のオフィスやコワーキングスペースなどがある。
ネットワーク環境やテレビ中継できる機材も整えられていて、使い心地は良さそう。
すでに起業に関心を持つ地域の方たちから、この場所を使いたいと問い合わせが寄せられているという。
3階は大きな空間が広がっていて、イベントや研修会などにも利用できる。
最後に屋上へ上がると、辺り一帯が見渡せた。
「ここは、宿場町として江戸時代から栄えてきた地域でした。その名残で、うなぎの寝床みたいに縦長にずらっと一軒家が並んでいて。こういう土地の造りを見ると、宿場町に息づいてきた暮らしを感じますね」
富谷市は、平成28年に単独で市制施行するなど、年間1000人ほどのペースで人口が増える全国でも稀な地域。
ただ、よくよく見ていくと、5万人いる人口のうち2000人が転出して、3000人が新しく入ってきているような状態。人口は増えても入れ替わりが多いから、コミュニティが希薄になりやすい。
戸建て住宅を購入して富谷に暮らしながらも、市外にある職場と自宅を行き来するだけの人たちも多いという。
まちに対する愛着が育まれないまま時が過ぎれば、30年後には空き家ばかりになってしまうかもしれない。
「平均年齢は40歳と、県内でいちばん若いですし、子どもも多い。人口も増加している。そんな今だからこそ、市民の人たちが自分ごととしてまちづくりに参画できる基盤をつくろうと考えたんです」
自分ごと。
「そう、僕らがすべきことは行政主導で引っ張るのではなくて、市民の声を拾い上げて形にしていくこと。市民の人たちが『ここで声を発すると本当に実現できる!』と達成感を得られるような場をつくることが大事だと思っていて」
「そういうなかで、『このまちに住んでいてよかった』という愛着心を醸成させていく。その延長線上で、起業家が生まれていったら面白いと思うんです」
といっても、単に場所をつくるだけでは、想いを形にしていくことは難しい。
そこで立ち上がったのが、『富谷塾』。
これは、対話によって地域の課題を引き出し、解決まで目指す塾。
市民から塾生を集って、専門的なファシリテーターのもと、一緒に学んでいく。
ときには多様なノウハウを持つIT企業とつながり、市民自身がテクノロジーを活用して地域に仕事をつくっていくことも考えられる。
今回募集するコンシェルジュは、TOMI+に常駐しながら、富谷塾にも参加してもらうことになる。
具体的にはどんなことをしていくのだろう。
今度は、あわえの吉田さんに伺う。
「富谷塾でまず行うのが、『対話会』です」
対話会?
「富士ゼロックス株式会社によるファシリテーションのもと、地域に何が必要でどんなことをしたいのかを、塾生同士で対話しながら考えていきます」
対話を通して見つけた課題やアイデアを拾い上げるのが、コンシェルジュに最も期待されていること。
そして解決へと導いていくため、課題解決にふさわしいIT技術を持つ会社とつながり、塾生たちに紹介するところまでもっていってほしい。
ただ、どんな技術や会社があるか、はじめは知らなくても大丈夫とのこと。
吉田さんに質問してみれば教えてくれるし、東京であわえが主催するイベントに参加して、地方に進出したい企業とつながる機会もある。
「企業さんが持っている技術、それに市民の方がしたいこと。その2つを事前に把握した上で、どういうふうに動けばいいか考えてもらいたい。今野さんや僕に相談してほしいですね」
ほかにも、イベントや講義の企画、当日の運営から後片付けなどもあるかもしれない。
「市民の方、企業の方、行政の方。多様な方々と関わることになるので、いろんなことを理解することが必要になってきます。でも、いきなりすべて身につけるのは無理ですよね。わからないところがあればどんどん聞いてもらって、一つひとつ覚えていってもらえばいいと思っています」
吉田さんはどんな人と働きたいですか?
「そうですね。市民の方から『ちょっとあの子に会いに行こう』とか『漠然とした悩みだけど相談してみよう』って思ってもらえるような。気軽に相談できて、相手の考えを受容してくれる人がいちばんかな」
吉田さんや今野さんのほかにも、相談できる人がいる。
今野さんと同じ部署で働く菅原さん。場の空気をからっと明るくしてくれる方。
「富谷塾という言葉はあるんだけど、中身はまだまだこれからつくっていくところ。でも、“何かやりたい人たちが集まる場”というイメージは変わりません」
「仕事をつくり出していく道のりを一人で考えるよりも、何かいいアイデアがないか、みんなで対話していきたいですね。いろんな人が積極的に声を出して、活躍していける場所になったらいい。きっかけがあれば、もっと多くの人が行動できると思うんです」
富谷塾の募集をしたところ、すでに38人も集まっている。
この場所は、行動したい人たちのきっかけになりつつあるのかもしれない。
中には面白いアイデアを持っている方もいるとか。
たとえば、オートバイメーカー・ハーレイダビットソンに勤めている市民の方は、シェアサイクルならぬ、シェアバイクのサービスができないか考えている。
シェアバイクサービスに、インバウンドの仕事を絡めることで、バイクの需要が減少している状況を変えたいとのこと。
市内にはツーリングにぴったりの地域もあるそうで、ツーリングコースをつくることができたら面白い仕事になるかもしれない。
ほかにも、ネイリストやスポーツインストラクター、和菓子屋さんなど、多様な職種の人たちが関心を寄せている。
市民同士をつなげることで、いろいろな化学反応も起こっていく可能性もある。
「それぞれの塾生さんの話を聞きながら、アンテナを張ってみる。この人とこの人のアイデアを足してみたらどうだろう?というように、何か思いついたら、どんどんつなげてみてほしいです」
ちなみに、『TOMI+』という愛称は、市民の方からの公募によって決まったのだそう。
「提案してくれた方は『+』という部分に、いろいろな意味を持たせられると考えていて」
富谷をちょっと良くする。富谷市に足りないものを足していく。
「『できるようにするためにはこうしたらいいんじゃない?』っていろんな人のアイデアを足し算していく。コンシェルジュの人も、積極的に自分の意見を言ってくれるといいな。そうやって一緒にトライアンドエラーしていきたい」
「それから、富谷はすでに元気があるまちだから。今より面白くしていこうぜってくらいの感覚で楽しんでほしい。そういう人と働きたいですね」
菅原さんが言っていたように、この場所はまだ生まれたばかりで、これから育てていくところ。
手探りしながら仕事を進めていくことになると思います。大変なこともたくさんあるかもしれない。
それでも、皆さん笑顔だったのが印象的でした。
(2018/06/26 取材 後藤響子)