コラム

2014年、大切にしたい言葉たち

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明けましておめでとうございます。日本仕事百貨のナカムラケンタです。

2014年もいろいろな生き方・働き方に触れました。

求人の原稿を書くために取材するのですが、取材しているぼくもまた、たくさんの影響を受けています。毎回、1冊の本を読むようです。

そんな取材の中から印象的だった言葉を3つご紹介します。

何しろ悔いがないように、ってことですよね。出来るところまで絶対にやりきりたいっていう。そもそもクリエイティブってことは、時間を売る仕事じゃないんですよね。
ブリュッケ/伊藤佐智子さん「毎日がビジョナリー」より

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ブリュッケは衣装をつくる会社です。

NHKの『八重の桜』やTOYOTAのドラえもんのCM、大塚製薬のイオンウォーターの人魚。ほかには映画『空気人形』だったり、ドラマ『白州次郎』、舞台『マクベス』など、CMのスタイリングから、映画、舞台の衣裳制作までを手がけています。

デザイナーである伊藤佐智子さんのお話に、こんな印象的なものがありました。

ドラマ「白洲次郎」にて、中谷美紀さんが演じる白洲正子さんの喪服を考える機会があったそうです。はじめは着物の依頼だったのですが、伊藤さんは考えます。

「でも白洲正子だったら着物よりも洋服だっただろうって。画が見えてしまうから。」

言われたことをそのまま形にするのではなく、まだ相手は見えていないけれども、ほんとうに必要としていることを提示する。こういう仕事を自分もしたいと思います。

「何時間労働したらいくら」という働き方もあるし、それは否定されるものではありません。けれども、とことん自分が納得出来ることを相手に贈り物をするように働くことは、とても気持ちのいいこと。

伊藤さんがおっしゃるように「クリエイティブってことは、時間を売る仕事じゃない」。納得できるものをつくることだと思います。だから時間をかければいいわけでもない。

でもそうやって働いている人は、また必要とされるんです。次の仕事が来るかどうか保証されないフリーランスでも、組織で働く人であっても、相手がほんとうに必要なことを形にできれば、また声がかかるし、出世していくように思います。

コーヒーをつくることはミュージシャンとも同じなんだ。正確性が問われるし、何度も何度も同じことを繰り返して、最善を保つ。ほかのことを忘れてひとつのことに集中するっていうことも、自分に合っていたのかもしれない。
ブルーボトルコーヒー/ジェームスフリーマンさん「おいしさ一杯一杯」より

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いよいよ2015年、日本に上陸するブルーボトルコーヒー。

その代表のフリーマンさんはもともとクラリネット奏者でした。

「10歳~11歳ぐらいのときは、ほんとにミュージシャンになりたくて。それでミュージシャンが嫌になったときに思いついたのはコーヒーだけだった。」

音楽を続けるなか、趣味でコーヒー豆を焙煎していたフリーマンさん。

まずは180平米ぐらいの小さな工場を借りて、コーヒーの焙煎をはじめる。そしてファーマーズマーケットで販売し、一杯一杯自分の納得するコーヒーを淹れつづけた。

「そうやっていたら、事が少しずつ進んで、今こうやって東京にお店をオープンさせるところまで来たんだよ。」

よく仕事に必要なこととして、「will=自分がしたいこと」、「can=自分が提供できること」、「must=求められていること、やらねばならぬこと」が重なるところ、というような言い方をしますけど、ぼくははじめはwillだけでもいいのかなと思います。

canやmustはあとからついてくる。

フリーマンさんの話を聞いていると、そう感じました。

ちなみにブルーボトルコーヒーの募集は2014年の日本仕事百貨でも、もっとも多くの応募者を集めたものでした。東京にオープンするお店が楽しみです。

自分の心から好きなものじゃないと。みんな、そうだと思うんですよ。病は気からって言うように、教える人の気持ちって大切だと思います。
和から/坂本 昌夫さん「ゆかいな数学」より

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和からは大人に数学を教える数学教室です。「大人に数学を教える塾なんて需要あるのかな?」と思って取材に伺ったのですが、あるんですね。小学校の算数を教えることもあれば、仕事で高度な数学を使っている方もたくさんいらっしゃるとのこと。

坂本さんは、この教室で教える先生のひとり。もともとは生徒として通っていたそうです。

取材中、ずっと目をキラキラさせながらお話しているのが印象的でした。

「私は証券会社に勤めて、半導体の設計開発をしたり、IT企業に行ったり、プラントの蒸留装置の輸入をしたりしてきました。どれもバラバラで全然つながらないと思いますよね?でもすべて数学なんですよ。」

たとえば、証券会社ではブラックショールズ方程式、半導体ではフーリエ解析というように、まったくバラバラの仕事のようで、数学を使う、ということは共通していた。

そんなときに、教えることの楽しさを感じることがあったそうだ。

「社内で数学を教える機会があったんですよ。そのときに『高校時代に教わっていたら、もっと数学が好きになった』って言われたんです。」

どんな授業をされるんですか?

「私は統計が多いです。歴史的にこういうふうに統計は使われていましたよとか。」

「たとえばニューディール政策。ルーズベルトの時代に大恐慌になりまして、すごい失業率だったんです。ルーズベルトは何を思ったか、数学とか統計ができる人をたくさん採用したらしいんですよ。何をやらせたかっていうと、分析するんですね。当時のアメリカには、1億2000万人ぐらい人口がいたんですが、そのわずが0.5%、約60万人のデータだけで分析したんですよ。議会は『そんな少しのデータじゃしょうがない』と反対だったんですけどね。後世に確認したところ、かなりの精度で正しかった。」

ほかにもいろいろな話が続く。たしかに面白い。

「好きなことを仕事にしたほうがいい」「いや、好きなことは仕事にしないほうがいい」というように、意見が分かれるところですが、ぼくはできることなら好きな仕事をしたいと思います。

ただ、ここで気をつけなければいけないのが「好き」の定義。

どちらかといえば好き、というような程度のものではなくて、心の底から自分が求めているようなものだと思います。

もしくはだれかに求められているもの。自分の存在を他者から強く求められているからこそ、好きになることもあります。

どちらも幸せな働き方だと思います。坂本さんの場合は両方な気がするけれども。

ほかにもたくさんの素敵な言葉に出会えました。ありがとうございました。2015年もよろしくお願いいたします。