みなさま、明けましておめでとうございます。
2015年もたくさんの人たちに出会い、いろんな生き方・働き方があることを知りました。
そんな中で印象的だったものを全4回でご紹介します。
いまになってだけど、みんなは機械で風船をつくっているから、ほかにできねえことをやるっていうのは面白いですよ。だから遊び半分で、テレビ番組で大きな風船をつくってみたり、ほかの工場で断られたっていう芸大の子の依頼を引き受けたりしてね。鉄腕DASHは面白かったな(笑)
マルサ斉藤ゴム/伊藤ふさおさん 「期待、膨らむ」より
千葉・銚子。
一面に広がるキャベツ畑を横断するように単線のローカル電車が走っている。海が近くて、5分も歩けばビーチでのんびりできる。
そんな心地いい場所で、ゴム風船をてづくりでつくっている人がいます。
日本で唯一のてづくりゴム風船職人、伊藤ふさおさん。
もともと伊藤さんは工場の一従業員でした。当時の社長が辞めることになり、それなら自分がやろうと、伊藤さんが引き継いだそうです。
「人が辞めるようなところなんだから、儲かるわけがない」
そんなことを言われながら、でもやっぱり苦労して工場を切り盛りしながら、伊藤さんは40年以上も職人を続けてこられました。
そんな伊藤さんが思う、ご自身のお仕事のよさって何なのだろう。
取材の終わりにふと浮かんだ質問に、ちょっと照れながら、うれしそうに答えてくれたのを覚えています。
職人の後継者不足。これは日本全国で起こっていることだと思います。
取材前も、一体どれくらいの人が応募してくれるのだろうと、正直不安でした。でも掲載してみると、たくさんの方々からご応募いただきました。
知る機会や接点がないだけで、日本中を探せば「やりたい」と言う人はいる。
そう思うと同時に、ご応募いただいた方々は、まさか自分が日本で唯一の職人になろうとするとは思ってもみなかっただろうな、と思いました。
きっと、伊藤さんもそうだったと思います。はじめはとにかく手に職をつけようという考えだったそう。
どんな仕事も自分の選択肢になり得る。これから仕事を探す人も、そんな気持ちで仕事とのよい出会いを見つけてほしいです。
(森田曜光)
人のことだけはよく見て、よく考えて、よくしてあげないと。この仕事はもうそれがすべてだから。
紀伊乃国屋/蛭田憲一さん 「喜びの巡る宿」より
千葉・房総半島に昨年オープンしたお宿「ゆうみ」。蛭田さんは、ゆうみのオーナーです。
はじまりは両親から継いだ旅館「紀伊乃国屋」でした。もともとは民宿で、ロケーションも施設もままならなかったそう。
蛭田さんは常に「どうやったらお客さんをよろこばせられるだろう」と考え、さまざまな工夫をします。たとえば水揚げされたばかりの魚を買い付け、リーズナブルな値段でお出ししたり。
相手のことをとことん考えた紀伊乃国屋は評判になり、新しいお宿の「ひるた」「紀伊乃国屋・別邸」ができ、昨年には「ゆうみ」をオープンすることになりました。
…ということを取材前に知って、お客さんに寄り添ったお宿なのだなと思っていました。
けどそれ以上に、実際に蛭田さんにお会いして「蛭田さんのつくりだす空間が心地よいから人が来るんだな」と感じたのを覚えています。
この記事で募集したのは、これから紀伊乃国屋へ入社する人たちをしっかりと見てくれるような人。
そこでお聞きしたのが冒頭の言葉でした。
「働いている人たちが楽しくないと、サービス業っていいサービスできないですから。見ている人がいないと、すごくかわいそうなことをしちゃう。責任ある仕事を任せながら、ちゃんと後ろから支える。そうすれば、ちゃんと育っていくと思うんです」
「うちで働いている江澤には、『上の人からお前が上だよ、と言われるのではなくて、下の人から認められるかが指標だよ』と言っているんです。彼にとっては大変かもしれない。けど、その代わりにお前の上にいきなり人をもってきたりしないよ、って」
蛭田さんとの話を聞いていたわけではないけれど、スタッフの江澤さんはこんなふうに話していました。
「あれやっておけよ、って放っている感じではなく、お前ならやれるから頑張ってくれよ、っていうニュアンスで教えてくれるんです。適度な責任を与えられることで、信頼されているなと感じますし、頑張ったら頑張った分だけ認めてくれる会社だと思います」
社長の人柄に惚れてますね、と照れくさそうに言っていたのが印象的でした。
自分たちが心地よく働けたら、お客さんのことも自然と笑顔で迎えられる。それでお客さんがよろこんでくれたら、もっとうれしい。
気持ちは巡って還ってくる。
それは働くことだけにとどまらないのかもしれない。自分のあり方まで考えさせられるような、素敵な言葉でした。
(倉島友香)
ほかにもたくさんの素敵な言葉たちに出会えました。ありがとうございます。2016年もどうぞよろしくお願いいたします。
>>第2回「2015年、大切にしたいことばたち」