コラム

2015年、大切にしたいことばたち(第4回)

新年コラム04

全4回でご紹介してきた「大切にしたいことばたち」。最終回となる今回は、代表のナカムラと編集スタッフの並木が、2015年に出会ったことばをご紹介します。

 

 

ナ:去年印象的だった言葉はなんだった?

並:私が印象的だったのは、株式会社NENGOで空間ディレクターとして働く和泉さんのことばです。

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NENGOは“100年後の美しい街つくり”をキーワードに不動産・建築事業に取り組んでいる会社です。和泉さんはもともとファッションを学んでいたんですが、お子さんができたことなどをきっかけに、経験はないまま不動産・建築の世界に飛び込んだ方でした。

「やることは不動産売買の仲介なので、お客さんに本当によい物件を目利きしてあげることです。『本当によい』というのはその人の生き方をちゃんと聞いて、本当の意味でその人のためになるもののこと」
株式会社NENGO /和泉直人さん 「垣根をなくす」より

ナ:なぜこのことばを選んだの?

並:このことばを聞いたときに、和泉さんは「本当の意味でそのひとのためになるもの」をお客さまと一緒に考えているけれど、自分はそんな働き方ができているかな、と考えたんですよね。たとえばこれは前職での経験なんですけど。

ナ:前職はシステムエンジニアだっけ。

並:はい。たとえば、システムをつくるときに「もっとこうしたらいいのに」と思っても、上司に「できない」と言われたらすぐに諦めたり、アイディアを具現化するいい方法が見つからないときは楽なほうを選んでしまったり。

「ここまでしかできない」って仕事の枠を自分で決めてしまっていた気がするんです。

ナ:なるほどね。僕も前職では稟議とか決済がきらいで。誰しもあるよね。組織の中での制約上、諦めなきゃいけないこと。でも和泉さんはそういうことないのかね?

並:もちろん和泉さんも100%自分のやりたいようにやっているとは限らないけど、ちゃんと自分のやっていることに納得して働いている感じがしました。

ナ: 納得っていうのは、そもそも自分にあったことを仕事にしているから納得しているのか、どんなことも自分次第で納得できるものなのか、どっちなんだろうね。

並:会社と自分の、働き方のスタンスが合っているというのもあると思うけど、自分でそういう働き方をつくっているような気がします。

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ナ:そうなんだ。なんで並木さんは前の会社ではそれができなかったんだろう?

並:本当の意味で目の前の人が困っていることを知ろうとか、関心を持とうとしていなくて自分本位になっている部分があったのかも。

ナ:一つひとつ深く考えずに「これでいいだろう」と決めつけすぎていたのかな。すでにある引き出しの中からしか考えていなかったりすることもあるかも。

だけどお客さんが求めていることはケースバイケースで、そこをじっくり考えていくことはとことん考えなきゃいけないから大変なんだけど、仕事のおもしろさでもある。

並:そうですね。本当に向き合えていたら、些細なことでもできることはたくさんあった気がします。ケンタさんはどんなことばが印象に残っていますか?

ナ:僕は、カフエマメヒコの代表である井川さんのことば。

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マメヒコは渋谷や三軒茶屋にあるカフェ。本当に食事も一つひとつおいしいし、居心地の良い空間なんだけど、もともと代表の井川さんはテレビの番組などをつくる仕事をしていて、全然カフェの業界にいたわけじゃないんだ。でもまったく新しいことをやりたいということでカフェをはじめたんだよね。

「来た道を戻りたくないから、バス停がちょっと遠くても、手前のバス停で降りて歩くし。それはやっぱり、常に新しいものを見たいんだね。つまり目的地に着くってことが目的なんじゃなくて、常に新しいものを見て歩くことが目的だから」
カフエマメヒコ /井川啓央さん 「考えるカフェ」より

ナ:和泉さんは相手のために仕事をするってことだよね。井川さんは自分の未知なる部分に挑戦している。別の話のようだけど、共通している部分もあるような気がして。それは経験にとらわれずに仕事をするってことなんじゃないかなぁ。

並:経験にとらわれない。

ナ:うん。井川さんの場合は、この記事のタイトルにも「考えるカフェ」ってあるように、マニュアルがないというかね。

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一つひとつ考えていく。どうしてそういうお店が成り立ったかというと、こんなことを言ってて。

「テレビの仕事も自分のオリジナリティーに対してオファーがあったらいいけど、会社が大きいとか、安く仕上がるとか、そういうことに注文が殺到することに嫌気がさしたのかな。やっぱり表現したい、役割を担いたい、と思っていたんです。つまり社会に対して役立っている実感がほしかった」

ナ:つまりテレビの仕事をしていたときには、だんだん井川さん自身にレッテルが貼られていたのかもしれない。

並:レッテル?

ナ:これは想像だけど「井川さんだったらこういう仕事でしょ」「いつもこうでしょ」っていうふうに仕事が決まりきってきちゃったのかもしれない。それを崩すために、あえて経験がないことに挑戦して、ルーティンワークじゃなくてゼロから自分で考えていきたいと思っているのかなって。

並:うん。長くやっていることだと井川さんのようにまわりからレッテルを貼られてしまったり、慣れてしまってそれ以上自分の視野が広がらないこともありますよね。

ナ:すでに持っている引き出しの中で仕事をするって楽だけど、一方で自分にしかできないことをしたい、という思いもある。本当に自分にしかできない仕事をするには、引き出しにとらわれずに、一つひとつの仕事に向き合っていくことなのかなって思うよ。

並:そうですね。私もそんなふうに一人ひとりに向き合いながら取材をしていきたいし、その想いをしっかりと届けられるような記事を書いていきたいです。

 

 

2015年もたくさんの素敵なことばに触れることができました。2016年もよろしくお願いいたします。

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