私たちは日本仕事百貨の取材を通してさまざまな方たちと出会い、いろいろな生き方・働き方に触れます。
2017年も、心の込もった言葉たちにたくさん出会いました。
スタッフそれぞれの印象的だった言葉を聞いてみると、どこか共通点もあるような…。
そこで、もう少し話してみることにしました。
全3回でご紹介する「大切にしたいことばたち」。2回目となる今回は、ナカムラケンタ、中嶋希実、並木仁美による鼎談形式でご紹介していきます。
理屈じゃなくて。『あなたが言った通りだったからまた買いにきたの』とか『美味しかった、またくるね』って言われたらすごくうれしい。自分が何かやるよりも、人が笑顔になったり楽しそうなのがすごく好きなの。
神楽坂プリュス/安さん 「関わりを編む店」より
神楽坂プリュスは、店内は全て棚貸し、スペース貸しで運営されている雑貨店。アンテナショップのように、全国から様々なモノや人が集まるんです。ワークショップなども開催されて、人とモノ、まちがつながる拠点になっています。
中嶋:どんな雰囲気の場所なの?
並木:お客さんと働いている方の距離感がとても近い気がします。
ケンタ:距離が近いんだ。
並木:たとえば、スタッフの方が自主的に自分の出身地である大分県の食事を紹介する「大分食堂」という企画をやっていて。ご近所さんも、初めてお店に来たお客さんも一緒に食卓を囲んだり、実際に大分県民がよく食べているという”かぼす胡椒”をつくってみたり。
店長の安さんも、モノの先にある想いや価値観を伝えようとしていて。取材した日にはお客さんと、プリュスに並んでいる100ミリサイズ瓶のお醤油の話をしていました。
それは醤油愛の強い男の子が、全国の醤油蔵を一つ一つまわってつくったもの。まずは100ミリサイズで試してみて、おいしいと思ったら醤油蔵を訪ねて大きい瓶を買ってほしいという試みだそう。そういうことを、またお客さんとの会話で紹介していました。
中嶋:商品を丁寧に説明してくれるっていうこと?
並木:商品説明、という感じではなくて。なんていうんだろう…友だちと話している感じに近いかな。話している相手のことをよく見ているし、知ろうとしていて。その人に合わせて、自分でも本当にいいと思うものを話している。
なんか素直で、丁寧な関わり方なんですよね。
ケンタ:なんでそんなお店をつくろうと思ったんだろうね。お店を始める前から今のイメージがあったのかな。
並木:お客さんの声から、お店がつくられているそうです。安さんは以前、神楽坂にある陶器メーカーで働いていて。毎日お店に来る地元のお客さんから「もっと気軽におもしろい商品に出会いたい」とか「おいしいごはんが食べたい」という声を聞いていた。
モノを売るだけじゃなくて、人とモノ、人とまちをつなぐお店をつくりたいと思ったそう。それで大切にしているのが「会話」だった。
たとえば、京都の餡子屋さんが持ってきたお菓子をプリュスの常連さんたちが食べて「パッケージがイマイチ」「味はもっと変えたほうがいい」と意見をフィードバックすることもある。
その声をきっかけに、餡子屋さんもホームページからパッケージのデザイン、それに味も一新したそうです。
ケンタ:へぇ、会話を中心にお店がつながっているんだね。
会話と言えば、群言堂もそう。まず大切にしているのが掃除で、それをしっかりしているとお店の空気もよくなって、お客さんが入ってくる。
そのあとに大切にしているのが会話だった。
掃除以外には、お客さまとの会話を大切にする、ということもあったかと思います。会話を教えてもらったわけではないんですけど、いろんなご縁があるお店で。お客様も好きなものが同じ方が多いですし、お洋服を買いに来たわけじゃなく、百貨店の地下に食品を買いにいらしたついでに寄っていただいたりとか。
群言堂/横浜店店長 高田芳子さん 「人が吸い込まれるお店」より」
群言堂は洋服や雑貨、それに最近では化粧品なども販売しているお店。島根県の石見銀山に本店があり、今では全国にお店がある。古民家や旧駅舎を改装したところもあれば、百貨店の中にも入っているところも。
並木:お店ではどんな会話が起きているんですか?
ケンタ:あるとき高田さんは、ジャケットを購入したい方の接客をしたことがあって。その方はウールの素材のものが気に入ったそうだけれど、どうしても他の素材のものをオススメしたくなったみたいで。
それは一見すると地味で、敬遠されることもあるみたいなんだけど、着てみると上品に見えるそうで。高田さんも「私、こちらも好きで。えこひいきなんですけど、ぜひ着てみてください」って話したら、お客さんも笑いながら着てくれたみたいで。結局、おすすめしたほうを買っていただいたそうです。
「接客」というより「会話」をしている感じなんだよね。
並木:これはもう一つの素材のほうが似合うと思ったからおすすめしたのか、素材の良さを知っていたからぜひ、と思ったのか。どちらだったのでしょう。
ケンタ:どちらもあるんだろうね。お客さんのことも考えてのことだろうし、自分の好みもあるかもしれない。でも普段、友だちに話すときもそうだよなあ、と思って。相手のことも考えつつ、自分の意見も言うような感じ。
関係性がなめらかだよね。
中嶋:関係性をよくするには、なにも褒め合うことがいいとは限らないと思う。
フードハブ・プロジェクトの料理長をしている細井さんは、いいチームはただの仲良しだとは思っていなくて。プロフェッショナルの集まりであるために、お互い指摘し合える関係をつくろうとしている。
いいこともダメなところも、ちゃんと指摘しあって次につなげていける関係が、いいチームなんだと思うんです。
フードハブ・プロジェクト/細井さん 「料理が人を人たらしめる」
フードハブ・プロジェクトは徳島の神山町で、地域の農業を次の世代へとつないでいく取り組み。有機栽培で行う農業に加えて、地域の食材を使った食堂やパン屋、加工品づくりや食材の販売、そして食育。さまざまなことが並行して動いている。
中嶋:ものすごいスピードでプロジェクトが動いているなかで、強いチームをつくる必要がある。
お互いに指摘しあえる関係というのを、細井さんは「探究心のあるチーム」という言葉でも表現していて。相手のこと、チームのことを考えた、愛情のある行為だなって。そう簡単にできることではないと思うんだよね。
並木:なるほど。神楽坂プリュスでも、常連さんたちが忌憚ない意見を言うことで、良い商品づくりにつながっていました。いいことだけじゃなく悪いことも話せると、結果的に良い循環が生まれるように思います。
ケンタ:日本仕事百貨も同じスタンスだよね。いいことばかりじゃなくて、仕事の大変なところもちゃんと伝える。群言堂さんも同じだと思うし、相手のことを考えているから、そうしているんだろうね。
中嶋:そうすると信頼できるし、通いたい場所になるのかな。
ケンタ:群言堂の日本橋にあるコレド室町店の店長である六浦さんはこんな話をしていた。
この前、すごくにぎやかな日があって、すべてのお客さまとお話しできないくらいで。そこにおなじみの方がいらっしゃったんですけど、『私は全然大丈夫よ、一人で見るから』とおっしゃっていただけて。そしたら他のお客さまのことまで気にかけて話しかけて下さったんです。そのあとおなじみの方と話しかけられた方のお包みをしながら三人でお話して。最後に『またどこかで』とお二人はお話していたんです。
群言堂/COREDO室町店店長 六浦さん 「人が吸い込まれるお店」より
ケンタ:通いたい場所ができると、それはもう自分の場所になっているのかもしれない。そうなると、お店が混んでいるときに、お客さんが代わりに接客する、なんてことも起きるんだろうね。ぼくも自分が通っているバーで同じようなことがあったら接客するだろうな。それって、もはや「お客」じゃなくてお店の「味方」という感覚。
先日、登壇したアーツカウンシルのオープンフォーラムで、世界中から領域を横断してコミュニティをつくっている人たちが来たんだけれど、「参加→会話→即興」ということが起きるといい場所ができると話していた。まず参加して会話をしていると、お互いに信頼関係が生まれる。そうすると参加者も当事者になっていき、その人がまた何かを起こして、そこに参加者が集まる。
並木:自分たちはそういう関係性を築けているのかな。
中嶋:私たちも、日本仕事百貨やしごとバーなどでご縁のある人たちと、そういう関係性をつくっていきたいですね。
ケンタ:今夜もそんなこと考えながら、カウンター席で飲もうかな。正直に話し合える関係は大切だよね。そういうバーは好きだな。
いい場所やチームをつくるために大切なことは、会話やコミュニケーションのあり方なのかもしれません。
ほかにもたくさんの素敵な言葉たちに出会えました。
2018年もどうぞよろしくお願いいたします。