こんにちは。日本仕事百貨の中嶋希実です。
徳島の南側を選んで暮らす人を訪ね、話を聞く旅。いよいよ最終回です。
向かったのは海陽町(かいようちょう)。ここでは、藍染めとサーフィンの文化に出会いました。
とうとうこの旅も最後の町へ。まずは腹ごしらえに、ボリュームたっぷりの海鮮丼をいただきます。
おいしい海の幸がある海陽町。ここに120年前からつづく肌着メーカー、トータスがあります。
トータスで営業や広報の役割を担っているのが、永原レキさんです。
「肌着は第2の皮膚。人の健康のために肌着をつくってきました。人にいいものを考えて突き詰めていくと、土や水、空気など自然環境に配慮したものをつくることにつながっていきます」
徳島は古くから藍染めが盛んだった地域。肌着をつくる中で「染める」という行程を考え、トータスでも藍を取り入れるようになった。
農家さんたちの協力を得ながら、今では無農薬で藍を育てるところから自分たちで取り組んでいる。
「この色は微生物が発酵することで生まれるんです。生きものを育てるような植物由来の染料文化なんですよ」
専務の亀田さんとレキさんが藍染めをする様子を見せてもらう。布を丁寧に浸しては、空気に触れさせる。これを繰り返していくことで、きれいな藍に染まっていく。
ところで、レキさんはどうしてここで働くことになったんでしょう。
「親父がプロサーファーでこの町に移住してきました。でも僕が4歳のときに出ていったんです。いやな思い出があったから、海にも近寄りませんでした」
「けど気がついたらサーフィンにはまっていたんですよね。閉じた心を開いてくれたのがサーフィンやって。自然の雄大さ、オーガニックに生きることの気持ちよさ、お金じゃない価値。サーフィンを通して、たくさんのいい文化に出会うことができました」
大学時代にはサーフィンの大会で何度も優勝。プロの道には進まず、サーフィン文化を伝える役割を担おうと考えた。海を離れ、勉強のために音楽業界で働いたこともあるんだそう。
「でもやっぱりサーフィンがないと俺は生きていけんってわかって。海とバランス良くやっていく道を見つけたいと思い、オーストラリアに行きました
サーフィンが国技であり、環境に配慮した生活をしている人が多いと言われるオーストラリア。ここで過ごす中で、レキさんは離れてしまった地元のことを考えるようになる。
「”Think global, act local.”という言葉に出会ったんです。大きなものに目が行きがちやけど、グローバルはローカルの集合体でしかない。自分が目の前の大事なものを大切に生きていけば、世界はよくなっていくんだと理解しました
帰国後すぐ、海陽町に戻る前に立ち寄ったイベントで偶然トータスに出会います。
「海を通じて自然を大切にするっていう感覚が、専務から聞いた藍への考え方につながることが多かって。歴史や宗教、衣食住の文化。藍やサーフィンを通して、地元に大切にしたい文化がたくさんあることを学ぶ8年間でした」
レキさんは1つ1つ、まっすぐ丁寧に話をしてくれる。出会った縁を、ちゃんとつないでいくことのできる人なんだろうな。
「今日は波がいいからちょっと海に行きたいなと思っとって。一緒にどうですか」
海に入る準備をしながら、今考えていることを話してくれた。
「お遍路文化をつくった空海さんが、修行していたときに見た景色っていうのが海と空やったそうです。僕がサーフィンで波待ちしているときに見ている景色と一緒なんですよね。人が生きていくために必要な太陽と水、空気。外に外にと求めなくても、全部ここにあるんですよ」
レキさんは藍染めやサーフィンの文化をより多くの人に伝えるため、次の4月に独立することを決めている。
海辺に藍染め体験ができる場所をつくったり、ワークショップをする旅に出たり。地元や家族、足元にある大切なものに気がつける人が増えるような活動をしていきたい。
「自分にできることが増えてきた。つなげるべきことは何かわかっているので、あとはやり方しだいやと思うんです」
「大変ですよ、田舎で暮らすのは。続けていくために、自分も、そして周りにいる大切な人たちも幸せにできるよう、頑張っていきたいと思っています」
オススメの場所を聞いてみると、紹介してくれたのは「轟(とどろき)の滝」という場所だった。
山を紹介してくれるなんて、意外です。
「つながってるんです。海も山も」
レキさんがサーフィンをしている姿を見せてくれたのはKAIFU POINTと呼ばれ、世界的に有名な大会も行われる場所。そこに流れ込む川を遡っていくと、轟の滝にたどり着く。
「いい波がたつのは、川から土が運ばれてくるからなんです。山からのエネルギーが入りこむ河口があるおかげで、栄養が豊富な漁場もできる。漁師さんも轟の滝に感謝する祭りに参加しとるんですよ
「俺が海外に行って学んできた価値観を、とっくに知っている人が地元におることに気がついた場所でもあります
海からは車で40分ほど、ゆったりとした川沿いを走っていく。そこで待っていたのは、とても美しい滝でした。
清々しいい気持ちになったところで、今回の旅はおしまい。
ちょっぴり寂しい気持ちになりつつ歩いていた帰り道、農作業をしていたおばちゃんが声をかけてくれた。
「どっから来た。これもってけ。はやとうりって言ってな、ベーコンと炒めるとうまいから」
ありがとうございます!とっておきのおみやげができました。
ガイドブックやウェブサイトをのぞいてみると、たくさんの情報があふれています。見ていると、それだけでいろいろな地域のことを知った気分になるかもしれません。
けれど実際にその場所を訪ねて、暮らす人たちの話を聞いてみると、町の印象はそれまでとまったく違うものになりました。
仕事を探すときも、移住先を考えているときにも。いい予感がしたら、まずは会いに行ってみるのがいいと思うんです。
よかったら次の旅先候補に、四国の右下も入れてみてください。
今回旅をしたことで私にとってここは単なる旅先でなく、暮らす人の顔を思い出す場所に変わりました。またゆっくり、会いに行きたいです。
海陽町では地域おこし協力隊を募集しています。詳しくはこちらから。
また、2017年1月15日に東京ビックサイトで開催される「JOIN移住・交流&地域おこしフェア」に海陽町の移住者募集ブースが設置されます。詳しくはこちらから。
このイベントは終了いたしました。
今回のコラムでご紹介した地域の情報は「四国の右下移住ナビ」でも随時更新されています。よかったらご覧になってみてください。
(2016/12/26 中嶋希実)
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