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森が家になるまで -切り出す編-

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こんにちは。日本仕事百貨の並木仁美です。

みなさんは林業に対して、どんなイメージを持っていますか。

仕事がきつくて危険、若者がいない、給料が安い。斜陽産業といわれて久しい林業に、私が漠然と抱いていたイメージはこんな感じでした。

一方で「林業女子」という言葉や、林業研修に参加する若者を主人公にした映画「WOOD JOB」の公開など、新しい動きも感じます。

だけど考えてみると、山のことも、そこに関わる人たちのことも私はよく知りません。

たとえば、葉を見てもそれがヒノキか杉か区別できないくらい。

でも身近には木でできているものがたくさんあります。私の実家も木造です。

どうやって家が建てられているか、もちろん知らなくても暮らしていけるけれど、なんだかそのまま遠ざかってしまうのは、ちょっともったいないような気がする。

そこで、林業の現場で何が起きていて、どんな人たちが関わっているのか訪ねてみることにしました。

向かったのは岐阜県・東白川村。なんと村の91%が森林です。

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東白川村では、今も林業が基幹産業として人々の暮らしを支えていて、東濃ヒノキと呼ばれる良質な木材の産地としても知られています。

多くの人が木に関わりながら生活を営む一方で、後継者不足が深刻な課題にもなっている。ぜひ村の現状と取り組みを多くの人に知ってほしいという村の要請で、今回のコラムが実現しました。

東京から電車で4時間ほど。

名古屋で新幹線を降りたら、東海道本線で岐阜へ。そこから2両編成の高山本線に乗り換え。緑が濃くなりつつある季節で、車窓からの景色が美しい。1時間ほどで白川口という駅に降り立ちました。

森が家になるまで。まずは木を切り出す山へと向かいます。


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東白川村の山主さんたちは、その多くが東白川村の森林組合に加入している。昔は、自分の山は自分で手入れするものだったそうだけど、今は高齢化も進み、手入れは森林組合に雇われた作業員さんたちが担っているそうだ。

ほとんどの山は戦後から高度経済成長期、急増した木材需要に応えるために植えられた杉やヒノキに覆われている。

お話を聞くために、森林組合の方と一緒に山の中へと続く作業路をのぼっていく。

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ごつごつとした大きめの石で覆われた道は歩きにくく、思っていたよりも急で息が上がる。時折チェーンソーの音と、ガシャンガシャンと機材を動かすような音が響いてきた。

大きめの声でこんにちは!と声をかけると、手を止めて笑顔を見せてくれたのが、作業員の渡辺さん。

「俺は見てくれがこんなだから…こいつ本当に都会からきたの!?って思われちゃうかもしれないなぁ(笑)」

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たしかに、なんだかこの村で生まれ育った人みたいに山にも馴染んでいる。人懐っこい雰囲気で話しやすい人だ。

「自分は大田区の出身で。うちは蒲田です。じいちゃんは装飾ボタンの工場をやってて、親父は普通にサラリーマン。親父がバリバリ背広を着て仕事してたんで、兄弟3人それを見ていて嫌だったんでしょうね。誰もスーツを着るような仕事には就かなかったっすね」

「最初は庭師になろうと思って、宮崎の大学に行って。そこで造園の勉強をしてたんですけど、美的センスがないことに気がついた。学校には親父もじいちゃんも庭師、みたいなやつも多くてそりゃ勝てないよとも思いました」

そのとき、同じ下宿に暮らす友人に岐阜の関市出身の人がいた。岐阜県は林業が盛んだという話を聞きながら、冗談みたいにかけられた一言で、渡辺さんは林業に就くことを決める。

「庭が向いてないなら、1本の木じゃなくて、何百本もの山の木を見ろよって。それを本気にして岐阜県中の森林組合調べて。ここを選んで来たんです」

岐阜も広いけど、東白川村を選んだのはどうしてなんだろう。

「ここが一番“山仕事”っていうのをやっているような感じがして。村に来た瞬間、目の前に迫る山のすごい圧迫感っていうか。本当に山のなかっていう感じだったんで」

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作業員は決して一人では山に入らない。大体4人一組で入るのが基本だ。

先輩の作業員さんについて仕事をはじめたものの、最初は山を歩くことすらまともにできなかった。

「細い木を切って間引いていく切り捨てっていう仕事があるんですけど。それを山のてっぺんまで歩きながらやったのが一番しんどかったなぁ。チェーンソーとか、燃料とか弁当も全部、20キロ近くある装備を背負って登ったんすよ」

「まぁ木の種類もわかんなかったし、ちょっとした道具の名前も一切知らなかった。たとえば『トビ、もってこい』って言われてもどれなのかわからない。あれじゃない、これじゃないって結構怒られて。最初はもう、謝ってばっかりで」

作業員の仕事は、なんとなく木を切り倒しているイメージが強かったけれど、実はもっといろいろある。

渡辺さんも話してくれた切り捨てや、夏に木の生育を妨げる雑草などを刈り取る下刈り。太く、表面に節のない木を育てるために枝を落とす枝打ち。

伐採された木は山から運び出されて、材種や等級ごとに土場(どば)と呼ばれる場所に並べられる。そこでは市場のように競りが行われて、材木問屋や工務店に丸太が買われていく。

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「土場にはいい木もわるい木も並ぶんで、同じ木なのになんでこんなに値段が違うんだとか、この木はこう切ったほうがいいんだとか、ちょっと上の人を呼んで勉強会をやったりもしましたね」

「覚悟はしてたつもりだったけど、俺ここでやっていけんのかなぁって。でもなんだかんだで今年で9年目ですね。まともに一人でできるようになるには5年くらいかかりました」

やることは年間を通して山ほどあるし、村から補助金も出るので暮らしていくのに困ることはないそう。

正直なところ、山仕事だけで食べていけるのだろうか?と心配していたけど、そこはまったく問題なかった。

途中でくじけそうになったことはないですか。

「続けられたのは、たぶん森林組合の中の人間関係がよかったからだと思うんですよね。聞けばみんな教えてくれるし、怒られたって休憩のときや仕事終わってからは、普通に冗談言い合うような人ばっかりなんすよ」

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どんな冗談ですか?

「たとえば、落ち込んでたら『これ食べれるんだぞ』って変なきのこを渡されたりとか。知らないから、はじめは信じちゃったけど、すぐに『ごめん、嘘』って言われたり(笑)」

「たまに一番年上の先輩の家に呼んでもらって、みんなで飯食うこともあります。それだけ気心知れた仲なんで、何言われても嫌だと思ったことはなかったです。それは、ほんとよかった」

今日やった仕事の成果が目に見えることや、自分で切った木がいくらで売れたのかわかることも励みになった。

それと、何よりの楽しみは、山で食べるお昼ごはんだという。

「春は、ちょっと仕事を早めに切り上げて山菜取りにいくんすよ。ここは“コンテツ”って呼ばれる山菜が生えてて。自分もこっちきて初めて食べたんですけど、フライが一番うまいっすね」

「冬は冬で、お昼ご飯が毎日バーベキューになるんです。フライパンと、一品ずつ魚とか肉とか持ち寄って…なんか食べものの話ばかりっすけど。特別なことがなくても、やっぱ体動かして山の上で飯食うのは、事務所で食べるのと比べものにならないくらいうまいんですよ」

この日も、日陰に腰をおろして各々お弁当を広げると、あっという間にたいらげてしまった。

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一息つくと鳥の鳴く声、水の流れる音。どこかで小さな動物が動くような音。静かだと思っていた山にはいろんな気配が感じられる。

「あといいのは、残業がないことかな。朝は6時半前に起きて、飯食べながら弁当つくって。7時過ぎには森林組合に入って、その日の段取りとか準備をします」

「暗くなったら作業はできないから、16時半には山を降りて組合に戻ってくる。そのぶん雨が降ったり体調を崩すと危険だから作業できないし、給料は日当制なんでそういう不安定さはありますよ。でも日が出ている間働いて、帰って飯食って寝る。それは精神的にもすごい楽です」



お昼ごはんのあと、実際に木を切り倒すところを見せてもらうことに。相手は、直径60センチ以上ある杉の木だ。

渡辺さんたちは、むやみやたらに木を切っているわけじゃない。どの木を伐倒し、どの木を残すかの判断はとても難しいそう。

立地と枝ぶりなどを見ながら、まがっている木から切って、これならと思える木を残していく。将来、大木にするために。

「最初に、倒したい方向に受け口っていう切り込みを入れるんです。その向きと角度が悪いと、思ったほうへ木が倒れなくなる。受け口でだいたい全てが決まるんですよね」

受け口をつくったら、カーン、カーンと楔を打ち込み、いよいよチェーンソーで切っていく。

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ずぅんとお腹に響くような、鈍い地響きとともに木は倒れた。

すると隣で見ていた先輩が、「うまい」と声をあげて渡辺さんの話をしてくれました。

「渡辺も入ったときは、右手と右足が一緒に出るような、そんなタイプやったよ。あんなふうに木を切るようになったんやなぁ。びっくりしたよ」

「最初からできるやつなんか、なかなかいない。ダメでも、こっちで育てていけばええんや」

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ちょっと照れくさそうな渡辺さんを横目に見ながら、まるで自分のことのようにうれしそうだった。焦ったって木は育たない。同じように、人の成長もおおらかに見守るあたたかさがこの村では感じられる。

木を切り終えて落ち着いた渡辺さんが、森の手入れの大切さを教えてくれた。

「山の手入れって、高値がつくようないい木を育てるだけが目的じゃないんです。間伐をすると山に陽が入るようになって植物が育つから、災害にも強い山になるし、いろんな動植物が生きられる。東白川では景観整備の意味もあって、風景がきれいに見えるように整えているんです」

今は間伐が中心だけど、いずれは植林もしていかなければいけない。大切なのは、山がうまくサイクルするよう手を貸して、いい状態の山を維持すること。そうやって自然が保たれる。

森林組合では、作業員がなるべく同じ山を手入れし続けていけるよう配慮している。渡辺さんもまた10年後、20年後にこの山の手入れをするそうだ。

山を手入れしていくことで、自然と山主さんや地域の人たちとも関わり合いが生まれていく。

とはいえ山が変わるのは、50年もあとのこと。私には途方もない時間に思えてしまう。

そんな時間軸の中で、目の前の仕事に取り組んでいるんですね。

「そうやって育てても、木材の価格って今はすごく安い。この木でも1万円くらいかなぁ。東白川は高いほうですけどね。今、お金にならなくとも数十年後に切る木が良ければいいっていう人もいれば、多少は今からお金もらわないとっていう人もいますし」

「いくらでも手間をかけることはできるんですけど、かけたら赤字になることもある。今でもどうすりゃいいんだって悩むことはあります。でも自分たちは、いい山にするっていう思いがやっぱり一番にあるんです」

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自然相手の仕事は、人の思い通りに進まないことも多いと思う。だけど今日の仕事が、確実に何十年も先の、未来の山をつくっていく。

スケールが大きくて、だからこそ大変そうで、すごくおもしろい。

明日は、製材所へと向かいます。


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山での仕事に興味をお持ちの方は、お気軽に東白川村役場産業振興課までご連絡ください。メールでのお問い合わせはこちらから。
507sanshin@vill.higashishirakawa.gifu.jp



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