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シゴトヒト文庫ができるまで2

この夏、シゴトヒト文庫第2弾が出版されました。

シゴトヒト文庫の特徴の一つは「編集、デザイン、印刷がチームとなって一冊の本をつくりあげていく」こと。

たとえば、デザイナーや印刷会社は、出版社(編集者)とは顔を合わせても、著者と顔を合わせる機会がなかなかありません。

けれど、著者の思いをカタチにするのが本づくりという仕事ならば、もっとみんなでつくりあげていくこともできると思うんです。

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シゴトヒト文庫は、その制作過程においても新しい本づくりのあり方を提案したいと考えています。

そこで、制作に関わった人に話を聞いていこうと思いました。

今回は、編集・デザインを手がけるniwa no niwaさんを訪ねました。
(写真と文:大越はじめ デザイン:吉尾萌実)



niwa no niwaは、エディトリアルデザイナーである三村 漢さんと山下リサさん、そして編集者の田村知子さんからなるデザイン・編集事務所です。

シゴトヒト文庫の制作をお願いしている漢さんと田村さんに話を聞きました。

東京・目黒区緑が丘。古民家を改装した事務所は、住宅街にひっそりとたたずんでいました。

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—niwa no niwaはどうやってはじまったんですか?

漢:タム(田村さん)とは、僕がはじめてデザインをした本で、一緒に仕事をしたのが最初です。それがきっかけでよく遊ぶようになって。僕は当時、アートディレクターの父のデザイン事務所で下積みをしていて、仕事を覚えるにつれ、だんだんやりたいことが見えてきて、これから先どうしようって考えるようになりました。

ちょうどそのタイミングで、尊敬しているデザイナーから「うちの会社に来てほしい」って声をかけてもらって。一方で、独立して自分で好きな仕事をしていきたいという気持ちもあって。ぐらぐら揺れていた。

僕が30歳の誕生日にタムと福岡の先輩を訪ねたときのこと。その迷いを相談したら、「やりたいことがあるのなら、真っ直ぐやりきれ!後悔はナシ」と言われ、その日に事務所設立を決めました。次の日には、自分に足りないものを持っている山下リサに「一緒にやってほしい」って電話しました。

—どうしてリサさんと?

僕とは、ものさしが似ています。単純に気が合うし、興奮するものが近い。一方で、つくりあげるデザインは違う。僕とは違う毒性があります。そのことがとても大事でした。センスは似ているけど、デザインは違うから、2人でやることで何倍もいいものがつくれると思った。僕は、一緒に仕事するならリサしかいないと決めていました。

—名前の由来は?

もともと「庭」という言葉の響きが好きで。リサと僕で二羽というイメージがありました。

僕がつくりたかったのは、いろいろな才能をかけ算してモノとコトをつくりあげる場所、にぎやかで人が集まれる場所でした。

当時読んでいた中沢新一の『虹の理論』*1という本に、庭についての件りがあったんです。まさに考えていたことが書かれていて。それが決め手となって、niwa no niwaにしたんです。

—そのとき田村さんは入らなかったんですね。

田村:当時は一人で活動していました。1、2年経ってから漢くんに「来ない?」って声をかけられて。だからいまはniwa no niwa=二羽の庭だけど三羽。三羽でサンバにしたほうがいいかな(笑)。

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—うーん、悩ましいところですね。編集とデザインが一緒にやる形態って、あまり聞いたことがなくって。制作にはどんな意味があるんですか?

漢:本って、著者の思いを形にして伝えていくものです。編集とデザインが、著者と同じ方向を見てつくることで、読者にもより思いを届けていける。編集とデザインがお互いをわかった上で、顔を合わせられる関係は大きいんです。

最近では、「編集からデザインまでお願いします」と依頼をいただく仕事も増えてきました。

—そもそも、本づくりにおけるデザインと編集の役割って、どういうものなんですか?

漢:デザインは、書店に並んだときに、読者が思わず手にとりたくなるように。編集は、読んでその人にどう入ってくるか、ということを心がけています。だから、一緒にやるということは、読者が手に取るところから、読んだ後まで提案していけるんです。



—シゴトヒト文庫の話も聞きたいです。どうしてこのチームで仕事をすることに?

田村:2011年にMAD Cityの殿塚くん*2とわたしで、生き方・働き方についての本をつくりたいなと思っていました。それでインタビューしたい人のなかにケンタくんと友廣くんが挙がって。ケンタくんは、殿塚くんから紹介してもらったんです。友廣くんは、西村佳哲さんの『みんな、どんなふうに働いて生きてゆくの?』という本で存在を知って、話を聞きたいと思いました。

—ケンタさんには連載を担当している雑誌でもインタビューしたんですよね。

田村:そう。一方友廣くんは、東日本大震災が起きた直後から、石巻で復興支援の活動をしていたのだけど、共通の友人を介して、東京での活動報告会に参加させてもらって。数週間後には、わたしもその会に集まったメンバーと一緒に石巻に行くようになったの。

それから2人が奈良でシゴトヒトフォーラムをやることになって、友廣くんに「もしかしたら本にするかもしれない」って相談されて。フォーラムにも興味があったし、本にするなら現場の雰囲気を知っておきたいとも思って奈良に向かいました。

その後、実際に本にすることが決まって、漢くんにも参加してもらうことになったんです。

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—そこから本づくりがはじまったんですね。それぞれの仕事はどうでしたか?

田村:いまの続きで言うと、フォーラムに参加してよかったな、って思いました。それには2つ理由があります。

読者にはその場にいるような気持ちも味わってもらえたらと思ったんですけど、自分も参加しているから、会場にはどんな人がいて、どういう雰囲気で話が進んでいったかということを意識できました。

それから、もう一つ。わたしの仕事は、その人が話したかったことを伝えること。人って、ほんとうに伝えたいことを思い通りに話せるわけではないでしょう?文章を書きながら、話しているときの表情を思い出しては言葉の裏にある微妙なニュアンスを補ってみる。「きっと、こういうことが言いたかったんだろうな」って。

5 「あきらめたヒト」トーク開始前のミーティング。

—印象的だったのは、田村さんが書いた原稿を読んだゲストの方からの一言でした。「たぶん、私はああいう風には言ってなかったんですけど、伝えたかったことを書いてもらって。読んでいいなと思いました。」って。

田村:あれはうれしかったです。

—後は本を読んでいるときに、田村さんが手をくわえた箇所が、全然わからなかったんです。印象的でした。

田村:それは編集者冥利に尽きますね(笑)。手を入れたことを感じさせることなく本を読んでもらうのが仕事ですから。言ってみたら、編集って黒子なんです。



—装訂・デザインはどうでしたか?

漢:シゴトヒト文庫は今後、続いていく本になります。いろいろなカテゴリーの内容が出版されるなかで、印象に残る装訂を心がけています。たとえば、オビの高さや全面写真は統一して。ただし、表紙の色は巻ごとに、タイトルのタイポグラフィはカテゴリーによって変化していきます。一冊の装訂としてはもちろん、シリーズのなかでのデザインを楽しんでもらえたらうれしいですね。そこを狙っています。

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—デザインをする上で大切にしていることはありますか?

漢:装訂には、二つ意味があって。まずは、その本の魅力を見た目に訴えかけること。本を読むのは、出版社でも装訂大賞選考委員でもなくて「読者」なんです。手にとってもらわないと買ってもらえません。表紙にその本の魅力を盛り込めなければ、所有してもらえない。奇をてらう本にもできますが、多くは基本に沿って装訂・デザインをしていきます。

買った人が、ストレスを感じない文字組みや色味の絶対的な基盤があって、そこにほんの一滴だけ毒を盛る。見た人に「なんか違う」という違和感を与えるんです。

—引っ掛けるというか。

漢:そうそう。そこが自分のポイントかな。すべての人に気づいてくださいとは言いません。一つひねる。

そうすると、内容も装訂も、その人の心に残るようになるんですよね、不思議と。

—今回はどこに毒を?

漢:読み終わった人だけに教えます(笑)。

—みなさんもお楽しみに。ところで、もう一つの装訂の意味ってどこにあるんでしょう。

漢:著者と自分がいかに心を通じ合わせて、装訂を決めていくか。僕はそのことがすごく楽しいんだよね。著者の「こうしたい」という思いをまずは引き出します。その上でデザイナーとして「それならば、こちらの方がよいですよ」という提案をして装訂という形にしていきます。

今回は著者、編集者、デザイナー、印刷会社が一緒に本づくりを進めていったでしょう。普段は、デザイナーが著者に会うことは少ない。ミーティングを重ねて、少しずつ着地点を見つけていけたのは、ほんとうに楽しかった。ありがたい経験です。

—表紙については、漢さんとケンタさんがデザイン案を見て、最後まで話し合って決めましたよね。一緒につくっている感じがすごく伝わってきました。

漢:印刷に立ち合えたのもよかったね。シゴトヒト文庫でカラーを使ったのは表紙とオビだけでしょう。その1枚のためだけに藤原印刷の松本工場に行くことはまずないよね。でも、その方がちゃんといいものができる。後悔はしたくないんです。

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田村:わたしも仕事というよりは、やりたいからやるっていう気持ちの方が大きかったな。みんなの距離が近くて。一緒につくることができてよかったです。

漢:そうそう。こういう感じだよ、もっと遊んでいきたいんだよ(笑)。この間タムと「このメンバーならもっといろいろなことができるんじゃないの?」って話したんだ。きっと仕事って、もっと楽しくできるものなんだよね。

—そう!なんだかわくわくしてくるんですよね。いまは、どんなことを考えているんですか?

田村:一つはね、自分たちから発信する仕事もやっていきたいと思っているの。詳しいことはまだ内緒。

漢:僕はくだらない企画が大好きで、ずっと続けています。この間は一人一品発酵食を持ち寄りで「臭いんだョ!全員臭合」パーティをしました。後は、大の大人が80人、新宿御苑で西部警察&悪役商会コスプレして本気「ドロケイ」とか、今度はバス貸し切りでバスガイドさん呼んで、「大人の修学旅行」をやります(笑)。ちょっとわくわくするでしょ??

—なんだかわからないけど面白そう!

漢:遊びも本気でやろうと思ってる。そこで繋がった仲間との仕事、いいものできるよー。リトルトーキョーとも一緒になにかやれたらいいな。

—ぜひぜひ。なにができるかな。

漢:企画をつくるので、ぜひこの記事を読んでくれた人も一緒にやりましょう。まずは今年のシゴトヒト文庫を手にとってみてほしいです。

第1弾と見比べても楽しいと思います。さてと、来年はどうしよっか?

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*シゴトヒト文庫はこちらで取り扱いをしています。
インタビューの舞台となったniwa no niwaの事務所(隔日でヴィーガンマフィン屋七曜日も営業)でも販売中。ぜひ訪ねてみてください。




*1虹の理論:中沢新一著。作庭家の手記内。ハードカバーでP108~116
*2MAD Cityの殿塚くん: JR松戸駅西口駅前を「マッドシティ」と称し、展開。クリエイターやアーティストなどによる創造的なコミュニティづくりを進め、より魅力あるエリアに変えていく、まちづくりのプロジェクト「MAD City」。殿塚さんは、個性的な不動産を紹介する「MAD City不動産」担当。

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