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導かれた先にあったもの


これはしごとゼミ「文章で生きるゼミ」に参加された小田晋太郎さんによる卒業制作コラムになります。

文章で生きるゼミは伝えるよりも伝わることを大切にしながら文章を書いていくためのゼミです。2017年12月20日(水)まで、第4期生の募集しています。

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「自然との共生」、「自然との調和」。

いまや使い古された言葉で、誰もが一度は耳にしたことがあるかもしれない。
それはきっと正しいことだろうし、そうあるべきだと思う人も多いだろう。

でも、実際自分たちには何ができるのか、どうすればいいのか。

今回取材したヤクさんこと高畑将之さんの話は示唆に富んでいて、自然とのかかわり方のヒントが詰まっていました。ヤクさんの現在、過去、これからの話から見えてきたものをお伝えします。



見た目のわりに穏やかな性格の動物「ヤク」に似ているところから、そう呼ばれている高畑さん。

日本リバーSUP界を代表するトップライダーであり、東京・御岳のショップ「リバーベース Halau(ハラウ)」を運営しガイドとしても活動している。

SUPとはスタンドアップ パドルボードの略で、サーフボードより大きく安定性のあるボードとパドルと呼ばれる長いしゃもじのような道具を使って水上を移動するスポーツ。
海でのサーフィンやヨガなど色々な遊び方があり、川を下るリバーSUPもそのひとつ。

JR御嶽駅から徒歩5分にあるリバーベース Halauの目の前には多摩川が流れていて、ざあざあと聞こえてくる水音が耳に心地よい。ときに止まっては、丁寧に言葉をつなぐ独特の間合いでヤクさんは話をする。まるで川と同じリズムを刻んでいるかのようだ。



「SUPと出会ったのは、ハワイでした」

当時、カヌーの一種、アウトリガーカヌーのコーチの仕事をしていたヤクさんは、発祥の地ハワイでSUPの生みの親とも言われているサーファー、ブライアン・ケアウラナと出会ったことをきっかけにSUPを始めたそう。

はじめは海で漕いでいたが、ケアウラナ氏から「SUPを通して川のことを伝えてほしい」と言われ川に“戻る”ことになる。



アウトリガーカヌーのコーチの前、ヤクさんはラフトと呼ばれるゴムボートで川を下るスポーツ、ラフティング日本代表チームの選手で、2009年に開かれた世界大会で2位の成績を収め現役を引退していた。

その世界大会のときのことを話してもらった。

「1位を期待されていたにも関わらず、前日までの結果で自力優勝が絶望的になって、最終日の朝、怖くなって気分転換に宿舎の近くを散歩してたんです。タバコの吸い殻が多いことに気がついて、拾い始めたんですけど途中で疲れてそばにあったベンチでうたた寝してしまって。すると、突然あるイメージが頭の中に浮かんできました。丘があって、道があって、その道の先には太陽が照っていて・・・」

「その絵がバシっと見えたことで、恐怖心が消え落ち着いて試合に臨めました。うまく言葉にしづらいんですけど、その場所に導かれた、受け入れられたような感じがすごくしたんです」

そんなヤクさんの気持ちはチームにも伝わり、ライバルチームのミスも重なって最終種目では優勝、総合2位で日本に帰国したという。

「それまでは何がなんでも勝つという考えでした。でも、それがすべてではないとそのとき確信しました。この結果は与えられたものだと。そして、与えられたイコール返さないといけない、伝えないといけないと」

そもそもヤクさんが海外で戦い始めたのは、アメリカでの高校時代に「日本人は腰抜けだ」と言われたコンプレックスを払拭するためだった。

たとえば、山岳信仰のように自然に敬意を払う“日本人の精神性”を示して、日本人が活躍していない競技で勝負したいという目標を掲げていた。でも、試合や周囲の期待に応えることに集中するあまり、いつの間にか勝つことだけしか考えなくなっていた。ラフティングで2位になったことでその“初心”も思い出すことができたという。



川でSUPをやるために選んだ場所は、ラフティング時代の練習場所でもあった御岳。カヌーの元オリンピック選手や、御岳の地域おこしで活躍していたラフティング時代のチームメイトを中心に地元の人がすぐに興味を示し、好意的に受け入れられたという。そうして、2012年「リバーベース Halau」を始める。

日々の仕事は、川下りや湖でのツアーを企画してガイドを行うこと。

「お客さんには、『水と握手するように漕ぐ』、『流れを力で制するのではなく、水の力を借りて進む』といった説明をし、自分で漕ぐ体験をしてもらうことで自然の楽しみ方を伝えています」


Halauでの仕事に加えもうひとつヤクさんが大切にしているのが、海外で行われる大会に出場することだ。2012年から毎年アメリカ・コロラド州で開催されている「Mountain Games」という大会に参加し、レースに出場する一方、他の国の選手と交流する時間も大事にしている。

リバーSUPは、まだ歴史が浅く、多くの選手にとって手探りの部分がある。そのため、互いに情報を交換し合い、そこで得たことを持ち帰って日々の活動にフィードバックしてレベルを高めているという。

肝心のレース結果はどうなのだろう。

「成績はあまり気にしてません。試合結果よりも日々の活動が重要で、その延長線上に試合がある感じですね。1年間やってきたことを発表する場で、その川、その土地に受け入れられた結果として成績が付いてくるというイメージです」

この大会で上位争いをするトップ選手も同じような考え方をする人が多く、彼らが日々どのように自然と向き合って過ごしているのかを聞き、自分の“姿勢”を確認する目的のほうが大きいようだ。

とはいいつつも、今年は3つの種目に出場し、そのうち80人がエントリーしたレースでは優勝を飾り競技者としてもしっかり結果を残している。


日々自然と向き合い、漕ぐ。
その姿勢を持ち続けている限り、それがどこであろうとその場所に受け入れてもらうことができる。自然に包まれることで自分の小ささやつたなさを知り、自然とのつきあい方を少しずつ学んでいく。



「一生自然と関わっていきたい」

穏やかに、でもしっかりと前を見つめヤクさんはつぶやいた。

「いまは川にいますけど、もしフィールドが変わってもその場所でずっと対話していくんだと思います。やり続けることが大事なんです」

(2017/12/11 小田晋太郎)

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