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移り住む人たち − 郡上編 − < 後編 >

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いつか、どこか理想のまちに移り住みたい。

日本仕事百貨を読みながら、漠然とそんなことを考えている方も多いのではないでしょうか。

でも、なかなか決心はつかないもの。仕事や暮らし、行政や地域コミュニティなど、いろんな要素を並べても単純には比較できないし、言ってみればどの地域にも一長一短があります。

実際に移住した人たちは、何をきっかけに移り住み、どんなふうに暮らしているのだろう。

これから「移り住む人たち」へ、一足先に移り住んだ人たちと、その地に根を張って暮らす人たちの話を前編/後編でお届けします。


>>前編では、郡上に55年続く建設会社「高垣組」のみなさんと、2017年春にオープンしたコワーキングスペース・シェアオフィスHUB GUJO(ハブ・グジョウ)を取材した。

数百年に渡って続く祭りや文化がある一方で、リモートワークなど先端的な取り組みもはじまりつつある郡上。

林業や農業、きれいな水を活かした食品加工などの産業は想像がつくけれど、食品サンプルやギターのピックなど、ちょっと意外なものづくりの分野でシェアを得ている会社も存在する。

続いて訪ねた郡上螺子(らし)は、医療や航空宇宙、自動車分野の精密機器に使われるような金属製のパーツをつくっている会社だ。

工場のなかには巨大な機械がずらっと並んでおり、合間に人の姿も見える。多くの人は20~30代だろうか。

ここで話を聞いたのは、第二工場長の高瀬さん。

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「ぼくはここが実家で、子どものときから手伝いはしてたんです。今でこそ工場が二軒あって、医療とか航空・宇宙の部品とかつくってますけど、以前は壁に穴の空いたような工場が一軒あるだけで、平均年齢は60歳手前ぐらい。絶対に継がないつもりでした」

東京の専門学校に進み、海外への留学も経験したあと、Tシャツのデザインやシルクスクリーンプリントを手がける会社に就職。ところが、お父さまの体調不良などもあり、すぐに引き戻されてしまったそう。

「嫌だと言っていたものの、郡上は嫌いではないし、長男というのも頭の片隅にきっとあって。本能的にはいつか帰るのかな、と思ってたのかもしれません」

偶然だけど、シルクスクリーンは郡上の名産のひとつ。さまざまな縁が高瀬さんを引き寄せたのかもしれない。

そして郡上に戻ってきた高瀬さんは、とにかく動いた。

「当時はぼくだけが20代だったので、自分が就職したい会社にしないといけないと思って。工場も建て直し、売上目標もクリアして、若い人材も入れて。今ぼく38ですけど、一個上が一番年長ですからね」

機械加工も独学で学び、丸型の単純な構造のものしかつくれなかったところから、精密機器の部品がつくれるまでに引き上げた。

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リーマンショックの年は、ちょうど第二工場の建設がかぶってしまい、1年間まったくの無給だったそう。

そんな時期を乗り越えて今がある。

「これは個人的な意見ですけど、田舎に住みたい人って、若干逃げ気味なこともあると思うんですよ。現状から逃げたいっていう気持ちがどこかにあるかもしれない」

「自分の描いた幸せ像がこの環境で実現できるから移住する、っていうレベルじゃないと、ここになんとなく住みたいっていうだけでは続かないと思うんですよね」

高瀬さん自身は、望んだものが最初からあったわけではないけれど、自らその環境をつくりあげてきた。

同じUターンでも、高垣誠也さんのようにすんなり帰ってきた人もいれば、高瀬さんのように葛藤しながら自分の居場所をつくってきた人もいるんだなあ。

方向性は違っても、おふたりに共通しているのは、今いる場所をよりよくしてきたということだと思う。

「戻ってくる前までは、とにかく嫌だっていうのが先行して、良いか悪いかを判断する頭がなかったんです。でも、東京や海外でいろいろ経験している間に、良いものは良いと思えるようにはなりました」

具体的には、どんなところが郡上の良さだと思いますか。

「うーん…。郡上って、何か大きな魅力が一個あるわけじゃないんですよ」

どういうことでしょう?

「小さなことがたくさん重なって、ぼんやりといいな、っていう感じなんです。水と空気がおいしいとか、こじゃれた店が増えてきたとか、人が親しみやすいとか。なので、郡上にいる間はすごく心地いいんですよね」

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なんとなく、わかるような気がする。何かをめがけてくるというよりは、木々の間から覗いた景色や、川霧のなかに浮かび上がる街灯や、買い物で少し言葉を交わしたおばちゃんの言葉尻だとか。些細なところに温かみを感じられるのが郡上の特徴かもしれない。

「昨日も、バックパッカーを1人乗せたんですよ。出身は岩手なのに、下呂に住んだことあるって言って。オードリーが好きすぎて、中京テレビでやってる番組が観たいから来たって。そんな理由もあるんですよ、郡上に来るのには(笑)。本当、何がひっかかるかわからないですよね」


1日がかりの取材もあっという間に夕方に差し掛かり、最後に明宝地区を訪ねる。

田んぼのすぐ横を流れる水路では、大人たちが網を片手にイワナを追いかけていた。

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「あ!そっち行った!そこ!」

獲れたイワナは、遠目からでもかなり大きいように見える。しばらく眺めていたら、こちらにピースサインを送ってくれた。

昼間に降った雨も止み、一面に気持ちのいい光景が広がっている。

そこへ、赤いシャツを着た人が。胸元と背中には「郡上のトマト」と書いてある。

この土地で野菜の生産・販売を行なっている、やがた農園の和田さんだ。

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このあたりでは、冬はスキー場でアルバイトをしたり、兼業で農家をしている人も多いなか、和田さんは専業農家として野菜をつくり続けている。

「郡上は、標高で言うと250〜1000mの高低差があります。日本を凝縮したような地形と気候なので、幅広い作物をつくることができる土地なんです」

生産量の大部分を占めるのは、畜産・大根・トマトの3つ。和田さんも、人参やスイカなど、さまざまな野菜づくりに挑戦しているそう。

なかでもやはり、自慢はトマト。郡上のおいしい水と涼しい気候を活かしてつくる。

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「温室栽培のイメージがあるかもしれませんが、郡上のトマトは夏秋の気候を活かして自然栽培しています」

「秋の空気になってきたなとか、トンボが増えたなとか、さっきみたいにイワナ獲ったりとか(笑)。四季の変化を感じながら仕事できるのはいいことですよね」

最近は若手農家を中心に、郡上おどりの会場で冷やしトマトを販売したり、新規就農希望者や学生に向けた「トマトの学校」をはじめるなどして、積極的にPRを進めているという。

「市場出荷の規格だと、基本的には見た目だけの判断で、味っていうのはなかなか反映されないんです。でもやっぱり、食べたときにおいしいと言ってもらえるようなトマトをつくりたい。なので、最近は直販の機会を増やしていますね」

取材を続けていると、お母さまがスイカを切って出してくれた。

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皮の白い部分のほうまで甘くて、ついつい夢中になって食べてしまう。

「今さりげなくスイカが出てきましたけど(笑)。とれたてのものをこうして食べられるのも、農家の良さなのかもしれません」

おいしいものがたくさんあることも、郡上の魅力のひとつと言っていいと思う。

野菜に限らず、鮎やアマゴなどの川魚もいるし、野を駆け回ったシカやイノシシのジビエもある。海はないけれど、山と大地の恵みには事欠かない。

「環境から勝負ができるっていうか。この間、地元で同窓会があったんです。名古屋に行った子もいたりして、そうしたらこのあたりはやっぱり星空がきれいやなって話になって。そういやこれも、都会じゃ見れんのやなって」

「都会には都会の良さがあると思いますけど、田舎にしかない良さもあると思うので。実際に来て、食べて、感じて、移住したいなと思ってくれる人が増えてもらえればいいかなと思います」


その晩、高垣組の昌幸さんとともに居酒屋「赤ちょうちん」へ。

祭りのこと、地域のこれからのこと、取材では語り尽くせなかった話をいろいろと話した気がする。

細かいことまでは、あまり覚えていない。でも、帰り際に忘れられない笑顔で送り出してくれた。

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郡上には、自分の居場所を楽しみながらつくっていく人がたくさんいました。

(中川晃輔)


興味が湧いた方は、10/14(土)にリトルトーキョーで開かれる移住セミナーと、その後のしごとバー「航空宇宙パーツナイト」にもぜひご参加ください。郡上からは、高垣組の高垣昌幸さん、高垣誠也さん、郡上螺子の高瀬さんが来てくださいます。

郡上のお酒を傾けながら、郡上のこと、仕事のこと、もっと漠然とした移住のことでも、気軽に話しましょう。

詳細は、郡上の移住・交流促進に取り組む「ふるさと郡上会」の下記HP、またはFacebookイベントページをご覧ください。11/2(木)には東京・新宿の「HAPON Shinjuku」で、11/12(日)は愛知・名古屋の「シェアカフェ ココロ」にて、それぞれセミナーを開催します。

>>セミナーへのお申込みはこちら

【セミナー情報】
◎10/14(土)@東京・清澄白河「リトルトーキョー」
ふるさと郡上会HP
複業研究家・働き方改革コンサルタントである西村創一朗さんの講演会も同時開催します。
Facebookイベントページ

◎11/2(木)@東京・新宿「HAPON Shinjuku」
ふるさと郡上会HP
Facebookイベントページ

◎11/12(日)@愛知・名古屋「シェアカフェ ココロ」
ふるさと郡上会HP
Facebookイベントページ

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