コラム

移り住む人たち − 福井編 −
第2回「舞台に上がった人」

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いつか理想の地に移り住みたい。

東京で暮らしながら、ときどきそんなことを思います。

でも、どこに住むのかはっきり決めるのって難しいです。生きていくための仕事が必要だし、どの地域にも自分にとっての一長一短があります。

実際に移住した人たちは、何をきっかけに移り住み、その地で生きていくことにしたのだろう。

今回は、福井県を訪ねました。

はじめは数年で出て行くつもりだったけれど、7年を経て会社を立ち上げることになった人。大企業を退職して離れていた地元に戻り、ゲストハウスをはじめた人。そして、陶芸家を目指してその土地にたどり着いた人。

3人のお話を、全3回でお伝えします。

>>第1回「面白がれる人」
>>第3回「等身大な人」

第2回は、福井駅東口エリアにあるゲストハウス「SAMMIE’S」のオーナー、森岡咲子さんです。

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ついつい、みんな長居しちゃうんですよ。ゲスト以外の人は22時までって決めているのに、昨日も夜中の1時まで盛り上がっちゃって。

安居(あご)の出身です。ここから車で20分くらいの福井市内の地域で。私はUターン組なんです。昔は帰ってくるなんて思ってもみなかった。こんなド田舎、絶対に帰らないって(笑)。

昔はすごく妄想が好きな子どもで、すぐ社会とか世界についての話をしていて。ちょっとませていたんですよね。中高もそれなりに楽しかったけど、家と学校の往復で全然刺激がない。外の情報は入って来ないし、大人たちもすごく停滞しているように見えて。自分のことを分かってくれる人はいない。とにかく都会に出れば面白いことがあると思って。

親から国立大学だったらいいよって言われたので、勉強好きだし頑張ろうって。先生にそそのかされて東大を目指すようになり、たまたま入れました。東京はめっちゃ刺激的でした。人は多くて面白いし、行くとこ尽きないから毎日飽きない。渋谷とか新宿でよく遊んだし、眠らない街ってこうなんやって。でも、勉強のほうで疲れ果てちゃって。私より頭いい人が腐るほどいるんです。競争するのがイヤになって、旅に出るようになりました。

大学では国際関係について学びたいと思っていて。もともと世界のことを知りたいと思っていたからで、それなら自分の目で確かめなきゃいけないなと。その話をバイト先の人にしたら「日本人が海外へ行ったら何を聞かれると思う?日本のことを聞かれるんだよ」って。そっか日本のこと全然知らないやと思って、青春18切符で日本を一周したんです。

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日本の駅前ってどこも一緒だなとか、アートでこんなふうにまちづくりをしてるんだなとか。実際に体感して回って。それで、建設業や不動産業がつくったような目に見えるものが、知らず知らず自分たちの意識にすごく影響しているんじゃないかと思って。ちょうど就活の時期と重なっていたので、これは仕事にするしかない。つくる技術を持っているところがいいなと、ゼネコンに就職しました。

1年目が東京で営業、2年目から4年目が埼玉で現場事務、そのあと名古屋に。全部で6年10ヶ月勤めました。埼玉にいたとき東日本大震災があって。世界がすごく変わったのを見て、いろいろ考えました。当時はワーカホリックで、生活のことは全部お金で解決していたんです。ご飯をつくらずに外食するとか、洗濯できなければクリーニングに出すとか。すごく歪んでいる。人間関係に悩んでいたこともあって、関東から離れたいなって。

正月になっても福井に帰らなかったくらい固執していた「都会」がふと抜けちゃって、いっぺん地方で働きたいなって。でもやっぱり仕事は充実していたいから、地方都市にしようと名古屋に。

転勤してから気づいたんですけど、いままで男として働いてきたんだなって。男がつくった仕組みの中で男として働いていたから、知らないうちに背伸びをしていたし、気の抜けない働き方をしていた。このまま働き続けたら結婚なんて考えられないし、子どもが欲しいと思えない。

これからどうしようと思っていたときに『福井人』っていう“人のガイドブック”をつくるプロジェクトを知りました。「うわぁ、こんな人らいるんや!」と思って、自分も力になろうとクラウドファンディングに参加して。それから福井に何度も帰るようになったんです。

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しばらく福井を離れていたけれど、どんどん面白いことになっている。TSUGIさんとかフラットプロジェクトの方々の動きを見ていたら、だんだん「あぁ帰りたい!あぁ福井!」ってなっちゃって(笑)。

それで『福井人』を持って旅しようと思ったとき、福井にはゲストハウスがないことに気づいたんです。人を紹介するガイドブックなんて、ゲストハウスと組み合わせたら最強のコンテンツになるのに。誰かやらないかなと思っていたら、ふと「自分でやったら面白そう!」と思ってしまって。

思っちゃったらやるしかないじゃないですか。やらずに後悔するのもイヤやし、ほかの人に先を越されてもすごくイヤやし、ずっと悶々としているのもイヤ。じゃあ自分でやるしかないって。

まず『福井人』の制作メンバーに伝えたんですよ。そうしたら、福井でまちづくりをやっている人とか、いろんな人に私を紹介してくれて。私はただ「よろしくお願いします!」と言っているだけでよかった。まだゲストハウスの物件すら決まっていない状態なのに、彼らは私のことをすごくポジティブに捉えてくれていて。ステージに上がって来なよって、引っぱってくれたんですよね。

「やります!」って言い続けているうちに、1年後に物件が見つかりました。それからは名古屋で勤めながら、月に2回福井に帰って改修工事をしていました。実は、福井に帰っていることを会社には内緒にしていて。けど、幸いにも帰りまくっていたから、じわじわとバレて。「帰り過ぎじゃない?何してんの?」「へへっ、実は古民家買っちゃって」って(笑)。辞めるときには、みなさんポジティブに送り出してくれたんですよね。退職後も、そのときの上司がわざわざ福井まで見に来てくれて、福井の業者さんを紹介してくれたりしました。

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2015年の8月末に「SAMMIE’S」をオープンしました。来てほしいと思っていた層がドンピシャで来てくれます。私、妄想が好きって言ったと思うんですけど。他県出身で、福井大学に通ったけどほかで就職しましたっていう子。その子が社会人3年目になって、福井にいる旧友に会いに来る。でも、その友だちの家に泊まるのはちょっとあれだから、一緒にSAMMIE’Sに泊まろうみたいな。

自分もそうだったんですけど、社会人3年目って道に迷う時期というか。仕事が分かってきたけど、とくに女性は結婚や出産を考える時期。そんなときに福井で旧友に再会して、うちに泊まって私と喋って。たとえ得るものがなくても、何か満たされた気持ちになって帰ってほしいと思っていて。

そういうことをしていたら、だんだんまちの人生相談所みたいになってきたんです(笑)。地元の子が暗い顔で入ってきて、たまたま居合わせたゲストさんと盛り上がって友だちになったりとか。このあいだも銭湯大好きな地元の男の子2人が台湾人のゲストたちと仲良くなって、一緒に銭湯に行ったりして。そういうのが本当にうれしい。後ろ姿を見ながらすごくほっこりしています。

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「まちづくり頑張っているね」「偉いね」ってよく言われるんです。すごく強い意志でやっているように見られがちなんですけど、そうじゃなくて。ただ楽しそう、面白そうって思う方向に向いていった結果なのかなと思います。改修作業していたころはすごくしんどかったけど、それでも必死にやっていたのは、早くオープンして儲けを出さないと私が暮らしていけないと(笑)。

福井は保守的で、標準以外のことをやる人を受け入れづらい風土があるんです。私はUターン組だけど、独身でゲストハウスをはじめたってことで、完全に別世界の人だと思われている感じがあって。きっと同じように窮屈に感じている人がいると思う。私はそういう人とつながりたいです。別にいいじゃん、面白いことを勝手にやろうよって。

ちょうど昨日も考えていたんですよ。空き家にシェアハウスをつくりたいなって。住むところを提供するかわりに、タダで働いてもらったりして。住むところと働くところを提供できれば、移住したい人たちへのアプローチになるかなって。そのまま定住してもいいし、べつに出て行ってもいい。SAMMIE’Sの中だけじゃなくて、どんどんエリアに広げていきたい。住んでも楽しくて、働いても面白い場所にしたいです。

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いま福井には勢いが出てきているけど、人の面白さではまだまだ足りてないと思うので。ぶっ飛んだ人に、この面白い流れに一緒に乗っかってくださいと言いたいです。

もちろん福井出身の人も、いっぺん帰ってきて喋ろっさ!あかんかったらまた戻ればいいが。

(聞き手:森田曜光)

 

福井に興味があったり住んでみたいという方。福井で開催されるツアーがあります。コラムに登場する方々にも会って話すことができるので、ぜひ参加してみてください。

後

【日時】
平成28年 3月19日(土)・20日(日)

【集合場所】
京都駅発
※集合場所までの交通費は各自負担

【参加費】
大人お一人様5000円、お子様(小学生まで)お一人様3000円

【定員】
10名

【内容】
3月19日(土)
9: 00 京都駅発
11:00 若狭おばま魚センター
12:00 小浜西組まち歩き&交流会・昼食
14:30 福井県海浜自然センター
16:00 かみなか農楽舎にて交流会・夕食
19:00 農家民宿にて宿泊
3月20日(日)
9:30 空き家リノベーションモデルハウス朱種(しゅしゅ)
12:00 越前陶芸村にておろしそばの昼食
13:00 越前陶芸村にて陶芸体験
16:50 京都駅到着

【お問い合わせ】
参加ご希望の方はFAXまたはメールで、参加日時・参加者のお名前・住所・連絡先 をお知らせください。
TEL:0776-25-7201(平日のみ)
FAX:0776-25-7202
E-mail:kuwabara@right-stuff.biz
株式会社ライトスタッフ 担当:桑原

【応募締切】
平成28年3月4日(金)まで

*福井への移住に興味のある方は、下記もご覧ください。
「ふくい移住ナビ」
「ふくいUターンセンター」