第2回 20代のトンネル〈後編〉

こんにちは。日本仕事百貨インターン生の野村愛です。 これから、わたしはどんなふうに働いて生きていきたいんだろう? 就職活動をする中で、そんなことを考えはじめました。 自分に素直に働いて生きるおとなを訪ねて、20代のヒントを得たい。 そんな思いから、コラム「20代のトンネル」を企画しました。 20代のときにどんなふうに自分自身と向き合い、働いてきたのか。 その道のりを紹介していきます。

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わたしが進路で悩んでいたとき、望月さんからこんなことばをいただいた。 「誰かと比べて、焦ってもしょうがないじゃない。素直に良いな、好きだなって思うものに向かっていいんだよ」 「就職活動」という大きなレールの上を歩き始めていたわたしにとって、その言葉は心に鋭く突き刺さった。自分に素直に、ひとつひとつ丁寧に生きて働く。望月さんの生き方・働き方はそんなふうに思える。でも、自分に素直にいることは、自信がないとできない気がしてしまう。彼女の生き方・働き方をつくる、今までの道のりを伺いました。

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ーー 最初は写真を仕事とすることにこだわっていなかったということですが、どうしてフリーランスのフォトグラファーという現在の働き方になったのでしょう?

望 月 仕事の立ち位置で写真を続けるなら、心の底から自分がなにをしたいのかを考えたときに、環境に良いことやひとの助けになることを写真で伝える仕事がしたいと思って。そのために何が出来るだろうと思っていたら、社会課題に対しておもしろいアクションをデザインしている会社と出会って一年弱働いたの。社内でディレクションの仕事をやりながら、フリーランスで受けている写真の仕事と両方できる環境を与えてもらって。

ーー 写真を仕事として働くことを意識的にスタートされていたんですね。

望 月 そうだったのだけど…。 叶えたかった色んな機会が近くにあるのにうまくいかなくて、どうしたらいいのか分からなくなってしまった。もう30歳を過ぎて、年齢に対する焦りもあったのかも。でも何よりも、自分で選択したことなのに続けられないなんて…と、すごく落ち込んでた。

ーー やりたいことができているはずなのに、どうしたらいいのか分からない。

望 月 苦しくてもうなにもかも、全部辞めたかった。(自分の中に)なにかしたいって沸き上がる気持ちがなにもなくなってしまったの。がむしゃらに突っ走って写真と向き合っている状態から、そのとき初めて、「自分の内側で本当は何が起こっているのか」、それを見つけるためにやっと立ち止まれたんだと思う。そして、これを機に写真を辞めてもいいかなって初めて思った。ずっと陶芸に興味があったから、どこか地方にある窯元へ修行して陶芸家にでもなろうと思って、ネットで調べたりもしてたの。でも、それは今思えば、とりあえず現実と距離をおきたかったんだろうね。 もちろん、仕事を辞めるときの不安はあったんだけど…。でも、何故こんなに「なにか成し遂げないといけない」って自分自身を苦しめているんだろうと思って。当然のように自らプレッシャーをかけて、長い間受け止めてきたことにそのときはじめて気が付いた。

ーー 自分とどんなふうに向き合っていたんですか?

望 月 体を壊してはじめて、心からなにかしたいと思うまで、なにもしなくていいって自分に対して思えた。毎日寝たいだけ寝て、食べたいときに食べたいものを食べて、会いたいひとにだけ会って。体の声を基準に過ごしているうちに、長年お付き合いがあった会社から写真の仕事で声をかけてもらったんだ。最初は断ろうかとも思ったけど、引き受けてみた。その後も写真の仕事に声をかけてもらえる機会が続いて、気づけば3年近く経ってた。だから、フリーランスでやっていこうと思って独立したんじゃなくて、いったん立ち止まって自分に自由を与えたら、そういう機会に恵まれるようになったんだ。

mochi_3 (未だ見ぬしらない土地に、日常を離れて訪れる価値をとても深く実感した、北欧の旅での一枚。)

 

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ーー 望月さんは、いままで何度か転職を経験されていますが、写真との関わり方を少しずつ見つけてきた道のりのような感じがします。

望 月 ずっと写真とどう向き合ったらいいのか分からなかったけれど…。上手くないし、続けたい理由もわからないし、お金を稼げないんじゃないかって、不安もあった。他の仕事と並行することで、自信がないことへの言い訳にしていたのかもしれない。写真と向き合うのが怖かったんだよね。

ーー 自信がなかった…。

望 月 自分の写真を肯定できなくて、ずっと切羽詰まってた。だから不安を上回るために目的を持って、それに向かっていかにがんばれるかで自分を評価していた。そういう生き方ができたことは、今となっては幸せだったなぁと感じているけれども、苦しさもあったなぁって。

ーー 現在はどうですか?

望 月 だいぶ楽になったよ。プレッシャーではなくて、みんなに喜んでもらいたい気持ちで仕事と向き合えるようになったのかもしれない。必要なものはちゃんともたらされるし、思い通りのものじゃなかったとしても、どんなことでもちゃんとそこから学びたいかな。 立ち止まってみて、あらためて写真はとても大事なものだなって気がついた。生きる糧をもらうための存在ではなくて、もっと広くて深い意味で自分にいろんな恩恵をもたらしてくれるものだなと思う。ずっと自信がなかったけれど、私なりに写真を続けていいんだって感じられる示唆を与えてくれるようなひとたちがたくさん現れて、なんだか不思議だなって思う。

mochi_4 (友人の、大切な人たちとの尊い時間の記録。飛騨で行われた、白石ご夫婦の結婚ピクニック(2013))

ーー 自分に自信を持てるような示唆を与えてくれるようなひとたち。  そういう人とのつながりや機会をどうしたら掴んでいけるのでしょうか。

望 月 掴みにいったんじゃなくて、自然にもたらされたよ。それを光だと感じるのは、悩んでいることにリンクしているから。思いがなかったらなにも感じたりしないと思う。純粋な思いを描き続けて、少しずつでも行動していれば、チャンスを掴みにいこうとしなくても、そのときがやってくるのかなぁ。

ーー 最後に、トンネル期の自分に向かってメッセージをお願いします。

望 月 純粋に、心地よくいられる生き方を怖がらずに選べばいいと思うし、ひとりじゃないから信じて生きていってほしい。24歳というタイミングで、表現を通して生きる事や、命がある意味を実感して、生きてきた気がするんだよね。若いときは時間は永遠のように感じてしまうけれど、人生が終わるタイミングを自分の意志で選ぶことはできないものだから。未来をいつも描きながら、今、大切だと感じられることを、思いやりを忘れず大事に生きていきたいです。

mochi_5 mochi_6 (誰かのために写真ができることは何だろう。いつも心にある問い。写真の力が添えられるインパクトが、新しい広がりを創る一助にもなり得ると教えてもらった、それぞれのプトジェクトから。「椿/東日本大震災で被災した地域での産業復興事業『気仙椿ドリームプロジェクト(2014)』「国際会議『Asian Women Social Entrepreneurs Seminar 』(2014/タイ)」Project by 一般社団法人re : terra」)
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〈Information〉 望月さんの写真をもっとご覧になりたいかたはこちら。
・web site : http://sayakamochizuki.tumblr.com