貴舩森さんのお話

口永良部島に到着して、早速港にある建物に入った。まだ港からは島の全貌もわからない。早く島を見てみたい!という気持ちを抑えながら、これからの3日間について、事務的な話をする。

メンバーは島の若者で構成されている口永良部島未来創造協議会の面々。その一人でみんなのお兄さんのような存在である貴舩森さんに話を伺った。

貴舩森さん(以下、森):
まず、いまの現状として、人口150人で、過疎の一途をたどるなかで、この島をどう守るか。どう復活させていくか。一緒にそんな活動をしています。ところがこの島には仕事がありません。

中村:
就職口などはない。

森:
ありませんよね。住宅もない。そのなかで、どう人に来てもらうか、住んでもらうか、そこが課題だよね。

中村:
まず前提として確認したいのですが、来てもらわないといけないのですか?

森:
そうですね。とにかく、この島に、一人でも、一家族でも多く来ていただいて。やはり、学校の維持とか、そういったものもあるんですね。ついこの間まで、閉校、休校、そんな話もあったんです。

中村:
えっと、そういう意味では、いま、小学校はあって、中学校もある?

森:
あります。

中村:
何人くらいなんですか?

森:
いま16人いるんですけど、留学生でなんとか…。

中村:
あぁ、いわゆる、山間留学、山村留学ですね。都会の子どもたちが来ている。

森:
そうですね。でもとにかく、そういうものに頼る限界もある。じゃあ、どうするかといったら、まず家を建てて仕事をつくって、という順番が必要になるんじゃないのか。一緒に並行してやってかなきゃいけないです。で、どうしても我々だけではやっていけなくて、行政にお願いをしていかないといけないんですよね。でも、行政側の動きと、どうしてもうまく噛み合ない部分が出てくるのは、しょうがないことで。鶏が先か卵が先かというような。いつまで経っても前に進まない。だから、まず自分たちから動き出さないといけない。

中村:
まずはどこからはじめるのですか?

森:
まず住宅をつくるんですよ。まあ、一戸です。その家に入れるのは、募集をかけて、抽選になるんですけども。島民としてなるべく島外から来た家族…、子供連れの若い夫婦とか。そういった方に入ってもらえるようにしたい。

中村:
なるほど。子供はありがたいですからね。

森:
でも、職場がない、っていう問題が今度は出てきますよね。そこなんですけども、1つの収入だけで食べてる人は、実は少ないんですね。

中村:
そうなんですか。

森:
僕もそうですけど、もう色んなことを万屋としてやって収入を得てる。だから、ホントにやる気のある方であれば、食べていけるとは思うんですね。でも、その人の力だけでは、どうしてもやっていけないのでフォローしていく。だから我々の責任も重い。仕事はまぁ、たとえば、化成事業組合っていって、焼酎の芋をつくってるんです。まぁ、通称・芋組合っていうんですけど。そこのアルバイトがメインでしょうね。

中村:
それがまぁ、比較的、具体的な働き口としてあり得る?

森:
そうですね。年間通して、3ヶ月分の収入くらいには何とかなるでしょう。で、残りの分に関しては、たとえば、1ヶ月ぐらいであれば、私のほうで受けてる仕事がありますので。

中村:
どんな仕事なんですか?

森:
うん、環境省の仕事で、山のなかの整備や点検だよね。そういったもののアルバイトですね。で、まぁ、アルバイトといっても、賃金はいいほうです。

中村:
なるほど。そういうのがある。

森:
うん。あとはですね、自分の力でつくっていけるような人。僕らもフォローしていくけれど、自分の力で見出せる人が来てくれれば助かる。

中村:
そうですね。仕事の口っていうのは限られてるわけで。島の中の限られたパイですからね。自分で新しくつくり出していけるような人は大歓迎ですよね。

森:
そうですね。とにかく山が好きで、海が好きで…。まぁほとんど手つかずなので、そこで自分で1つ仕事をつくっていける、パイオニアになれる、チャレンジができるというような。楽しみとして、パワーのある人が来れば何かできるのではないかと。

中村:
まぁ最初は、いきなり一個だけではできないですよね、たぶん。いろんなことをやりながら。もしかしたら、その1つの芽が出て大きくなるかもしれないけれど。

森:
たとえばですね、僕、あのー、ヤコウ貝細工をしているんです。お土産物としてつくって販売をしてるんですね。で、実はこれ、結構売れるんです。だから、一年間通して、合間を見てつくってる範囲でも、3ヶ月分の収入にはなるんですよ。ヒマ見て遊びでやってるだけで、ですよ。で、ちゃんと職業としてやれば、半年以上の収入になる。だからホントは僕もそれしたいんですけど、あれこれやりすぎてるんで(笑)、できない状態っていう。屋久島にも出荷しているんですよ。

中村:
それは観光客の方々が買われるんですか?

森:
そうですね、観光客。でも、観光客で買われる方も多いんですけど、ここで仕事に来た方が買うことがとても多い。意外にもね。それも、土木のオジさんとか。奥さんにお土産っていう。僕としては若い女の子に買ってもらうイメージがあったのに。「オジさん?」っていう。

中村:
まぁちょっと予想外だけど、うれしい需要なんですね。

森:
で、そういう人、たがが外れたように買っていくんですね。都会では買えないんだよね、恥ずかしくて。でも、仕事で男ばっかり集まってきたときに、土産物ここしかないから見てきたって言ったら、「あっ」と思うんじゃないのかなぁ。結構誰かが買うと、つられてみんな買う。

中村:
それは島内にも売ってるんですか?

森:
売ってます。ホントに頑張れば、収入になります。

中村:
他にもじゃあ、そういうのがありそうですね。

森:
だから、そうやって、1つ1つ自分で探ってつくっていく楽しさもあるんですね。あと、自給自足で、自分たちで辛抱しながら見つけて、コツコツと…。この島の生活を楽しみながら発見して、つくりあげて。一人一人がそういうことをやっていく姿が見えると、やっぱり、島に活気が出てくるんです。僕がヤコウ貝やりだしたら、オジさんが一人ね、ヤコウ貝細工を始めてるんですよ。そして屋久島にも広がって。

中村:
あ、こんなこともできるんだ!って思いますね。可能性が感じられる。

森:
あとは、ブルーベリーを屋久島に出荷したりとか、パッションフルーツをつくって地元で販売したりってこともしてます。だから、そういうことで、小遣いちょこちょこ稼ぐと、実はお金貯まるんですよ(笑)。

中村:
お金が貯まる?たしかに自給自足して生活費は減るかもしれないし、収入も積み重なっていくと、そうなるのかもしれないなあ。

森:
そう、だから、たとえば、色んな役をするじゃない?消防隊員だって、上半期、下半期でそれぞれ3〜4万ずつ入るでしょ?そういうのが他にもたくさんあるから、いつの間にか、ちょこちょこ入ってくるんだよね。でも、普段ここに生活してると、お金を使うことがないのよ。まぁ缶コーヒー飲んだりとか。そんな程度のもんだよね。

中村:
そうでしょうね。なんか、趣味みたいなのはあるんですか?

森:
まぁ釣り…、海だったり山だったりしますよね。

中村:
釣りいいですね。

森:
うん、釣りっていうのは趣味であって、食べるものを捕るという意味もある。で、捕れすぎた魚は、お爺ちゃんお婆ちゃんにあげると、野菜に代わるわけですね。だからお金使うとしたら、せいぜい米買って調味料買って、ですよね。だって、お肉も鹿がいるんでね。まぁそんな、おいしいところもありますよ。でも、来てすぐお金が貯めれるなんて話はないからねぇ。

中村:
森さんはもともと島出身の方なんですか?

森:
小さい頃に住んでいました。そのあと東京大阪で仕事してて。この島に帰ってくるキッカケになったのは、阪神淡路大震災ですね。あれに遭って、ボランティアに2週間ほど神戸のほうにいました。でまぁ、なんでしょうね、自分がドップリはまってた世界を見た。

中村:
自分がはまっていた世界…

森:
都会での生活は大好きだったんです。物質的なものにまみれた世界。物欲ですね。あれも欲しい、これも欲しい。そこにドップリはまってたんですよ。

中村:
阪神大震災で気づいたんですか?

森:
ボランティアをしてて、横の公園にですね、粗大ゴミがあったんです。冷蔵庫やテレビがどんどん山積みにされていく横に、みんなテントを張っていくんですね。我々ボランティアは、来た物資を全部仕分けして配っていく。すると被災した人たちの要求がどんどん変わってくる。1週間、2週間で。はたと我に返ったのが、「いつテレビはつくんだ?」とか「いつ冷蔵庫はもらえるんだ?」とか。そういうものがないと生活が不便だ、と。で、「いや、それはちょっと…」って思いますよね。

中村:
うん。それでなぜ口永良部島を選んだのですか?

森:
やはり、小さいころ育ったっていうことで、この島のなかをよく知ってたからっていうのもありますよね。いろんな地域をまわって、景色が良かったり、安心できる場所はあるんですけども、どうしても島と違って陸続きじゃないですか。

中村:
島って、そこは違いますよね。当たり前なんだけれど、大きな違い。

森:
うん。それで他の島にも行ったんですけども、今度は山の魅力が欠けてたりとか。

中村:
島ではあるけど山の魅力はなかった。

森:
うん、なにかね、しっくり来ない。そうそうそう。ただそれだけのことですよね。

中村:
しっくり来ない。

森:
うん… ホントは、この島イヤだったんですよ。親父がいるから。親がいるから、兄弟がいるから、なんか抵抗があった。なんか、自分の世界をべつにつくりたいから、この島にはなるべく帰りたくないって思いはあったんです。でも、なんだろうね、癒されるんだよね、ここ。結局。落ち着くんだよねぇ。他の島はね、海がキレイだったりとか、すごいいいとこ、いっぱいあるんだけど。住めない。なぜかね、住もうと思うものがない。

中村:
なぜなんだろう。

森:
なんか、よく言うんですよ。この島に来る人がね、パワースポットだって言うんだよね。オレなんかには、よく分かんないんだけど。修験道の修行の場ではあったみたい。

中村:
何かこう…、人の心に響く何かがある。

森:
まあ… 人によるんじゃないかな。「この島をパワースポットとして売るべきだぁ〜」とかさ、「ここはいいとこだぁ〜」ってさ、すごいそういうのを感じ取るって言って帰る人もいればさ…。

中村:
この島に住む不安はなかったんですか?

森:
まぁ、僕の場合、この島に帰ってくるときには、独り身だったので。まったく、そういうものはなかったですね。

中村:
まぁ、独り身だったら。でも家族四人とかなら…

森:
よほどの覚悟がないとね。

森:
僕が小さい頃はこの島に300人いたんですよ。いまの2倍ですね。その当時、よく覚えてますけどね、余所者…、まだそういう言葉がよく使われてて。親父は結構あの…、いわれたらすぐ、つっかかるので。親父には行かなったですね。お袋とかに、すごい、イジメの手が入ったっていうか。よく覚えてますね。余所者扱いで。つまりホントに、「お前は余所から来た人間なんだ。ここでエラそうな顔をするな」と。そんな世界でしたよね。

中村:
そういうこともあるんですね。

森:
たとえば漁師の人が「魚を食うか?」って言って、ウチのお袋が「ありがとうます」っていうと、魚を側溝のほうに投げてポンッと落とすわけですよ。「拾わんか、ほれ、拾わんか」って、やってみせるわけ、うん。ちっさいころ、よく、そういうの、よく見てました。お袋は黙って「ありがとうございます」って、やっぱり、そこから拾って出すわけですよね。もうイジメですよね、こんなの。そういう世界でしたよ。

中村:
でした?

森:
うん。その頃は。で、そういう人たちがいなくなっていって、過疎が進んで。若い人間が、僕とかこの島で育った者が少しずつパラパラ帰ってきますよね。それではたと、「この島、10年後20年後どうなるんだろう?」って考えちゃうわけですよ。もう、そういう人もいない。300人いた頃の活気もない。とにかく、人に来てもらわなきゃいけないし、地元の人にこだわって、余所者扱いなんか思ってもできやしない。「お前ら余所者だから、口出しするな」なんてことは、まったくない。とにかく。余所者、若者、バカ者、大歓迎。とにかく、そういう人に入ってきてもらって力を貸してもらわないと、どうにもならない。子供がいなくなっていくわけですからね。自分が育った学校がなくなることの哀しさとか。ホントに考えられない。なくなっては、絶対にいけない。どうにかして、この島の学校を守って、存続して。昔のように、300人とか、いきなり、そういう目標とか言ってもしょうがないんで。とにかく少しずつ。なんとか。

中村:
なぜそこまで島のことを思うのですか?

森:
いや自分でも、はたと思うんですよね。なんでこの島にこだわるのか、これからどんどん人口が減って50人くらいに落ちてもね、この島はなくなるわけでもないし。まぁ、公共事業だとかはなくなってくるのだろうけど。人が住んでいる以上、見捨てられることはないんじゃないかなんていう、妙な考えもある。なのに、なんで、人を維持して、子供を増やして、やっていかなきゃなんないんだって。なんでオレは思うんだろう?

中村:
うん。

森:
なんででしょう。

中村:
確かにもっと人が少ない島とかもあります。

森:
他の島行ったらもうちょっと少なくて、学校も…、一人二人とかね。「それじゃダメなの?」ってよく問いかける自分もあるわけ。そういう世界だって、ちゃんと存在するのだけど。それは何かこう、想像できない。この島には。やはり、子供たちが沢山いて、まみれて、そこで成長していって、自分が小さい頃のようにあってほしいという。この島が、とにかく、いろんな人がいて、いろんな職業があって、そこのなかでうまく循環ができるような社会がほしい。

中村:
50人になったときに、どうなっちゃうのかってイメージがあるんでしょうね。だから150人とか200人とか、1000人は要らないけど、いたほうがいいんじゃないかという直感なのかな。

森:
この島の100年後を考えたときに、それは人それぞれ違うと思うんですよ。どうしてお前は、人口もう少し増えて、子供が増えて、そんな世界が必要だと思うんだ?と言われると少し困るけれど、理想はあるんです。200人ぐらいいて、子供もいまの倍以上いて、30〜40人いて。床屋もあって、居酒屋もあって、夜は飲めるお店もあって。この島で、漁業を生業にしている人が、いま3〜4人だけども、15人くらいいる。あと、畜産も15人くらいいて、とかさ。そうすると、活気のある島、以前の島が戻る。小さい頃育った環境を求めているのかな。

中村:
森さんの場合は、小さい頃に良いイメージがあるんでしょうね。

森:
あるんだろうね。すごくね。しかもイジメもないだろうし。

中村:
活気はあるけど、イジメもない。昔よりいいかもしれない。

森:
まぁでも、人に来ていただく材料が少ないから、ホントに。仕事はない、家もない。まぁとりあえず言えるのは、今年一戸建てますってこと。それも募集だから、入れるという保証はない。

中村:
なるほど。話は変わりますが、もし森さんが島を出て行くとしたら、どんな理由が考えられますか?

森:
そうだな。嫁がね、もう、この島ではやっていけない、ホントにやっていけない、出て行きたいんだ、っていったら、考えちゃいますね、私だって。まぁ、ケンカが理由っていうのはないよね。この島のいいところは、一晩待たないと、船来ないんですよ(笑)。一晩寝れば、さめちゃう。どうでもよくなるみたいでね。