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普通のスーパーでもない。高級店でもない。自然食品店でもないし、激安店でもない。
デザインもかっこいいし、店内のものをすぐ買って食べることもできる。食に関する学びの場もある。お店の中にはいろいろなコミュニケーションが用意されている。
いろんな先進的なことをしているお店にある、根っこの部分が見えてくる取材になりました。
六本木一丁目駅の真上にできたのがアークヒルズサウスタワー。今から30年近く前にできたアークヒルズの南側に新しくできたビルだ。
アークヒルズ自体は成熟した「まち」になっていて、長年住んでいる人たちも多いそうだ。同時に最近は周辺にオフィスも増えている。

店内に入って、まず目につくのが色とりどりの青果。さらに店内を歩いていくと、素材そのままの味が楽しめる生ソーセージだったり、店内で焼いているパン、それにおはぎもあった。
中身はいつもの福島屋と変わらず安心した。本当にいいものを日常で使える値段で販売している。
お店の中にあるテーブルに座って、社長の福島由一さんと話をする。
どうしてこんなお店になったのですか?
「ニューヨークのイータリーに行ってすごく感動して。形もスケールも全然違うけど、とてもいいなと思ったんです。」

たしかに福島屋で買い物すると、なんだか築地などの市場に行ったような楽しさが感じられる。
「でも予想と違ったこともあって。たとえばみかんを一つひとつ積み上げるように販売していたんですけど、あまり売れなかったんです。だから袋詰めのものにしたらよく売れました。」

そうですね。たしかに一つひとつの商品はいつもの福島屋のような気がします。美味しそうなおにぎりもありますね。
「たとえばおにぎりは全店で一番売れますよ。うちのおにぎりはしょっぱいと言われるんですね。コンビニのものは中身の具材の味が強いので。うちはちゃんと塩を入れた田舎むすび。海苔の風味を大事にしている。あとは榊ないの?って言われます。この辺りはお寺も多いですからね。仏花も売れるかもしれません。その一方でロマネ・コンティが売れたりしますよ。」
このあたりにはロマネ・コンティを置いてある高級スーパーは多いけれども、それらと福島屋は何かが違う。
そんなことを考えていると、由一さんがこんな話をしてくれた。
「結構スーパーマーケットって労働集約型なので、朝から晩まで気づいたら『作業』しかしてないんですよ。」
たしかに。スーパーは作業が多そうな気がします。
「でも福島屋はコミュニケーション型スーパーなのかもしれない。考えることとか、ミーティングにも時間をつくります。部門ごとに縦割りではないし。普通のスーパーだったら、青果は青果のことだけ、精肉は精肉のことだけ。お互いに部門の中だけで、踏み込まないんです。」
踏み込まない。
たしかに福島屋は「踏み込むスーパー」だと思う。各部門は横のつながりがあって、必要とあれば柔軟に店全体で対応する。たとえば、あるお弁当がなくなったら、みんなで追加を対応したり。

生産者たちやメーカーとも密に関わりながら商品をお店に並べようとしている。もし商品化されていないいい食材を見つけたら、自分たちのプライベートブランドとして売り出してしまう。
店頭ではお客さんとの様々なコミュニケーションが行われている。たとえば特に安全性の高い商品には二重丸が付いていたり、調理の仕方を教えてくれたり。
一人ひとりが踏み込んでいる職場なんだろうな。
すると由一さん。
「ぼくサッカーしていたんですけど。オープンしてからしばらくは、子どものサッカーみたいでした。ボールがポーンといけばみんながこっちに、あっちいけばみんなであっちって。だからもちろん、ある程度のシステムだって必要だと思いますよ。」
「ただ、システムと言ってもコピーペーストはだめです。福島屋はハンドメイドでつくっていくスタンスなので。だから店舗ごとのやり方はあると思います。この六本木店にだってね。」

今度は六本木店の店長になった高橋さんに話を伺いました。
2年前に取材させていただいたときには、家の食事はほとんど福島屋の食材しか使わないというのが印象的だった方。
今も福島屋のものしか食べないんですか?
「そうですね。うちの奥さんが買っています。この2年の間に子どもも生まれましたよ。」

「9月にはじめて声をかけてもらって参加して。最初は惣菜のことで打ち合わせをしていたんですけど、12月に辞令がありました。」
オープンしてから1ヶ月。どうでしたか?
「体力的な大変さもそうだし、自分は店長なんだというプレッシャーとか。あとはさっき社長が言った、良い意味で予想と違ったことがありました。大崎店も2年くらいやっていたんですけど、あそこはお昼が終われば静かに夜を迎えるんですけど。」

「六本木はお客さんが途切れないんですよね。そして19時過ぎにまたたくさんいらっしゃって。節分のときもたくさんいらっしゃいましたよ。」
恵方巻きに豆まきですか。
「そうですね。恵方巻も足りなかったんですよ。小さいお子さんがいらっしゃる方からたくさん問い合わせいただきましたね。お彼岸のおはぎも売れています。」
高橋さんにとって、福島屋ってどういうお店なんでしょう?
「うーん、高橋家的に言うと。ちょっと出かけて自然食品屋があると興味あって入るんですけど、たいてい買いたいと思うものがなくて。でも福島屋は安全性もしっかりしていて自然食品にこだわっているけど、日常でも使えるんです。」
その違いはなんでしょう。
「まずこだわるお店はすごく高かったりします。でも福島屋は日常的な価格で美味しい。一言で言えないけどそんなイメージなんです。」
たしかに高級スーパーも自然食品店も、なんだかお客さん不在なときがあることを感じます。コンセプトはしっかりしていても、それにとらわれてしまって、その先に誰もいなかったり、お店側の顔も見えなかったり。
「福島屋はコミュニケーション型マーケットですね。お客さまと生産者とスタッフ間もそうですし、お店の中も縦割りじゃない。たとえば八百屋の仕事が終わったら、総菜の品出しを手伝ったり。」

さらに言えば、働いている人たちの時間にもオンオフがないように思える。それは残業が多いというよりも、働き方や生き方のお話。
「18時から来る片付けだけの人がいるんですよ。やる仕事は片付けだけなんですけど、昨日初めて話をして。『普段何やってるんですか』って聞いたら、実はこの前、羽村本店に車で行ったんですって。『パンとクッキー買ってすごく美味しかった』って。」
「立春朝搾り、というお酒があって、それも予約したそうです。羽村本店で購入したようなので、『六本木店に送ってもらいますか?』と聞いたら、『いいんです。また本店行って、ここにないもの見て買ったりするのに興味があるんで』って。」

「やっぱり、ふと仕事目線になってしまう自分がいますね。このから揚げ弁当の鶏肉は何を使ってるんだろうとか。」
食べるとわかりますか?
「わかりますね。我が家は、ほとんど福島屋の食材なんです。結婚して8年経つんですけど、たった1回だけ隣のスーパーの豚肉を買ったことがあって。豚しゃぶのサラダを食べたときに、『あれ?これ福島屋で買った?』って言ったら、『なんでわかるの』って。ちょっと獣臭がしたんですよね(笑)」
最後に青果を担当している福島大補(ふくしまだいすけ)さん。由一さんの弟さんだ。
どんなふうに仕事をしているのか聞いてみる。
「お客さまとは青果のことだけじゃなく、世間話もしますよ。『お元気ですか?』と声をかけてみたり。逆に『どうしたの?顔色悪くて』と声をかけられてみたり。

「今日は静岡の三ヶ日ミカン。この時期で少し中の皮は固めなんですけど、甘みが強くて。他のミカンはこの時期は味がボケてて水っぽいんですけどね。」
話していると、本当に世間話が続く。
「普通のスーパーだと『これが今日はお買い得だから』と話すだけでしょうけど、うちのお店にいらっしゃる方は『この商品があるから』というよりも『この人がいるから』と来てくれます。やっぱりコミュニケーションが強いお店なんです。」
店頭でマニュアル化した会話しかしなかったらどうだろう。それは相手の領域に踏み込まないことだけれども、どうにも機械的に感じてしまう。
でも世間話は、不必要なようでとても人間らしいもののように感じる。そして、人間らしいところにこそ、仕事の喜びや新しい発見があるように思う。
取材を通して福島屋がほかのお店と違うところがなんとなくわかったような気がする。
それはただ高級なだけでも自然派なだけでもオシャレなだけでもない。もっと言えば、こだわりがあるお店というのも違う。
ただただ、一人ひとりの生活者がそれぞれの「美味しい」を考える機会をつくっているお店なんだと思う。どんどん踏み込んで考えて形にしていったら、今の形になったのだろうな。
一緒に踏み込んでみませんか。それは面倒なことと紙一重かもしれません。でも楽しいことだと思うんです。
(2014/4/2 ナカムラケンタ)