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「おいしい」という感情は、なにから生まれているんだろう。素材そのものの味に出会うこと、食事をする空間の雰囲気、誰と食卓を囲むのか。

飲食店という枠にとらわれず、地元の食材をつかった料理を楽しめるダイニングに、こだわりの野菜や商品を集めたマルシェを併設。
今年からはゲストハウスもはじめます。
今回は、ここで一緒に働く仲間を募集します。
ホールやキッチン、ゲストハウスのスタッフと求める役割はさまざまですが、特に探しているのは料理をつくるシェフ。
実際に農家さんを訪ねて食材を探し、自分でメニューを考える。そんな環境で料理をつくることに、ワクワクするような人を待っています。
那須塩原から、宇都宮線で1駅となりの黒磯駅。
那須塩原に行ったことはあったけど、黒磯に降りたのはじめて。
昔ながらの商店街を抜けて大通りに出ると、雑貨屋さんやSHOZO COFFEEなどお洒落なお店が並ぶ。新旧が入り混じった不思議な街だなぁと思いながら10分ほど歩くと、一際目をひく倉庫のような建物が。

宮本さんが那須にきたのは、20歳のとき。
ホテルのアルバイトにやってきて、那須でお店を開くことは考えてもいなかった。だけど那須で出会った仲間によって考えががらりと変わる。

何もないところから、人の集まる場を生み出す面白さ。幸い那須は土地が安いし競合店も少なく、自分のやりたいことに挑戦しやすい土壌がある。
自分もやってみようと決めた宮本さんは那須に移住し、UNICOというハンバーガーショップをオープンする。
「せっかくなら地産の食材を扱いたいと思っても、地産のものだけでは食材を集めきれない。どうしてだろうと考えると、情報のなさが原因だったんです」
情報のなさ?
「農家さんは職人気質で畑と向き合っているから、人とつながることや商売が苦手で。なら電話一本で『こういうのがほしいんだけど』って会話ができるコミュニティがあれば、新鮮な野菜が常に届くようになるんじゃないかって」
「じゃあマルシェやればいいんだ!って勢いで(笑) Googleで『那須 農家』って入れて片っ端から電話しましたね」
10軒の農家さんに断られて、11軒目でとにかく話しにおいでと言ってもらった。そこから農家仲間を紹介してもらい、自分のお店の駐車場で10軒ほどの農家さんと那須朝市をはじめる。
牧場から牛乳を持ってくる人やジャムを売る人。野菜以外にも品数は増えていき、今では3000人以上が来場する恒例イベントになった。開催は春と秋の年2回。
協力してくれる地元の人も増え、来場者からももっと回数を増やしてほしいと言われるようになったものの、皆本業の傍らボランティアで朝市を運営しているので回数を増やすのは難しい。
そこから常設店舗の必要性を感じて、2015年1月にマルシェの運営メンバー7人と「Chus」をはじめたそうです。
「店名は那須5連山の茶臼岳からきてて。山の裾野の那須地域に暮らす人たちが、力を合わせてこの場所や街をつくるために集まる、シンボルのような場所になれば」

「たとえばカウンターで立って飲むことは、東京だとバルがあったりして普通の感覚だと思うんです。でもここらへんの人ってまず椅子が必要で、自分のスペースを確保してから話す。文化が違うんですよね」
「だからChusの立ち飲みスペースも、まだ使われていなくて。でも首都圏の人が当たり前に使う背中を見て、地元の人が自分もやってみようと思ってくれると、自然と街のシーンが変わってくる。地元と首都圏の人たちがゆるやかに交わることで境界線が滲んで、新しい文化が生まれたらおもしろいなぁ」

地元に寄り添いながら、新しい文化を広げていこうとしているんですね。
「やっぱりここに暮らす人たちが気持ちいい場所じゃないと。地元の人は地場産のものにあまり興味がないから、この前マルシェに無農薬の瀬戸内レモンを入れたんです。珍しいとすごく喜んでもらえて。地元と県外のバランスはこれからも大事にしていきたいですね」

「僕も東京からきたけれど、困ったら誰かが助けてくれるっていう感覚に慣れてしまっている。もちろんスーパーもあるし、暮らしていく上で必要なものは大体手に入る。でも雪が降ると本当に寒いし、都心に比べたらないものもたくさんあるんです」
コミュニティもお店も、ゼロからつくってきた宮本さんのように「ないなら自分でつくってみよう」と思えるような人がいいのかもしれません。
Chusでシェフとして働く中村さんにもお話を聞いてみた。

「東京では3店舗で働きましたが、食堂みたいなカジュアルなお店が多かったです。そのうちの一つに、有機野菜を扱うレストランがあって。そこでていねいに育てられた野菜の持つ旨みというか、ポテンシャルには気づいたんですけど」
「実際にどんなふうに野菜がつくられているかというところまでは、あまり意識できていませんでした。もっと生産者の方とじかに話ができる環境で働きたいというのが、ここに来た一番の理由ですね」
働いてみてどうですか?
「今日の野菜のできはどうだとか、一週間後にはどんな状態になるとか。そういうことを毎日、直に聞ける。やっぱり面と向かって話をすると、熱というか野菜に込める愛情が伝わってきますね」
「だから話していると、この人を裏切れないなぁと思うんですよ」
一方で、市場を絡めず農家さんと直接やりとりするからこそ大変な部分もあるという。
スーパーのように、地域を変えながら常に一定の種類が揃うように仕入れているわけではないので、その時々の旬の野菜しか手に入らない。降水量に左右されて、その日あてにしていた食材が入ってことないこともある。
「東京にいたころは考えもしなかったけど、自分で天気も調べるようになって。生産量が追いつくか予測しながら、常に代わりのメニューは考えておくようにしています」

メニューを見ていると、生姜焼きやアジフライなど、家庭的な料理が並んでいることに気づく。いつもどうやって考えているんですか?
「あまり洒落たものはつくらないようにしているんです。老若男女、いろんな人に食べにきてほしいから。気軽に注文してもらえるオーソドックスな料理を、誰もが安心して食べられるちゃんとした食材でつくる。シンプルな考え方だと思います」
「込められた愛情が、料理にあらわれると自分は思っています。農家さんから受け取った愛情を、料理を通してお客さんに渡していく。そう考えていると、自然といろんなことに正直に、素直にやっていくことになると思いますよ」
中村さんに話を聞いたあと、宮本さんに農家さんの畑に連れていってもらう。
「今日は大根あるけど、見ていく?」「いいね、見たい見たい」と、一つひとつ野菜の出来を自分の目で確かめていく宮本さん。

「これくらい大きいのが、本当は一番おいしいんだよ。でも、ここまで大きくしてしまうと店先に並べている間に花が咲いてしまう。そうすると売り物にならなくなるから、早い段階で切っちゃうんだ」
「それに当然、都内のスーパーに並ぶまでに鮮度は落ちるよな。本当においしいものを食べようと思ったら、その産地で採れたてを食べるのが一番なんだよ」
これでいいのかな?と疑問に思いつつも、与えられたものを受け入れてしまっている自分に気づく。自分の目で見て価値を知ることは、食べものと人との関係を見つめ直すきっかけになると思います。
もう一人、ホールで働く山岸さんを紹介します。

Chusにお客さんとして足を運んでいたことが、働くきっかけだったという。
「マクロビや自然食のイベントに参加したこともありますけど、絶対ここのほうがすごい野菜を食べられるって思います。何もごまかしてないから、自分も自信をもって正直に働けるというか」
ダイニングとはいえ、場の使い方はさまざま。たとえばアーティストを呼んでの音楽イベント。ウエディングパーティやワークショップをやることもある。

どんな人と一緒に働きたいですか?
「食べることが好きな人。あとはChusの考えに共感していれば、多様性があっていいと思います。いろんな顔を持つ人がまた違った顔のお客さまを連れてくる。そんなふうにつながりが広がったらおもしろいですね」
「人ありき」の場所だから、なにか自分なりの個性を持つ人が集まれば、面白い化学反応が起きるかもしれない。
最後に、宮本さんからメッセージを。
「Chusは自分で考えて行動して、失敗しながらもつくり上げていく場所。すごく考えなきゃいけないし苦しいかもしれないけど、人間性を上げていくにはいい仕事だなって僕は思うんです。ここで働きながら、自分の人生を楽しめる人に会いたいですね」

一度お店を訪れると、那須の大きな食卓で楽しそうに、ひたむきに働くみなさんの姿にきっと惹かれてしまうと思います。
(2016/1/15 並木仁美)