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幸せになるための家具

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手のひらに吸い付くような手触りで、使い込むほどに飴色に変化していくヒノキの家具。

針葉樹であるヒノキは、広葉樹よりも柔らかく、伐採されたあとも200年間強度を増し続けるといいます。

株式会社キシルは、そんな日本の木を使って、学習机を中心に家具をつくっている会社です。

本社と工場のある静岡県浜松市は、全国でも有数のヒノキの生産地。

そこで丸太を調達し、製材、生産、加工まですべての工程を自分たちで手がけ、浜松、東京、そして名古屋に構える直営店で販売しています。

今回募集するのは、POPやDM、WEBサイトのコンテンツ制作などを通じてブランドを発信する企画・制作スタッフと、2021年2月にオープンする横浜店で働く店舗スタッフです。


訪れたのは、都内のキシル深川店。

門前仲町駅を降りてゆっくり10分ほど歩いたところ、ちょうど富岡八幡宮の隣にお店を見つけた。

木の香りが漂う店内には、家具とランドセルが並んでいる。

小さな机で遊ぶきょうだい、両親とランドセルを選びにきた女の子、学習机を前に話し込むお母さんたち。

平日の昼間にもかかわらず、多くの人でにぎわっていることに驚いた。

「家具って新しい生活をはじめるときに買うものだから、笑顔の人が多いんです。これはほかの方の受け売りなんですけどね(笑)」

そう話しかけてくれたのは、キシル代表の渥美さん。

やわらかな物腰と優しい目元が印象的。こちらの話をにこにこと頷きながら聞いてくれる。

学生のころは週末に一人で家具屋を巡るほど、家具のある空間が好きだったという渥美さん。将来は自分も家具屋に勤めるはず、と思っていたそう。

一方で、当時は家具の造り付けマンションが増え、家具業界が縮小しはじめたころだった。

「このままだと、もしかしたら家具屋もなくなっちゃうかもしれない。世の中がどう変わっていくのか知らないまま、家具に携わるのは怖いなと悩んだのを覚えています」

まずは世の中の動向を知ろうと、さまざまな企業と関われるIT業界に就職する。

そこで出会ったのが、まだ駆け出しだった通信販売業界。インターネットを使って販売すれば、自分も家具に携われる予感がした。

とはいえ、家具に関してはほぼ素人だった渥美さん。知識を蓄えるために全国の家具工場や材木屋、それに森林組合など、思いつくままに訪ねて話を聞く。

日本の山には、戦後に植林された針葉樹林がたくさんあること。一方で、海外からより安い木材が流入したり、コンクリート建築が増えるうちに、山の木が使われず余ってしまったこと。

とある森林組合で聞いたこんな話が、渥美さんの方向性を決定づけることになる。

「山で保留状態になった木は、土砂崩れなどを引き起こす恐れがあるし、何よりせっかくの資源がもったいない。これは日本のみんなに関わる話だなって」

「じゃあ日本の針葉樹で家具をつくったらどうだろうと思ったんです」

当時、日本の針葉樹を使った家具づくりを手がける会社はほぼゼロ。針葉樹は広葉樹に比べて加工に手間がかかる上に、外国産の木のほうが一般的に人気も高いのがその理由で、たとえ奇跡的につくれても売れはしないだろうという意見が圧倒的だった。

「でも、だからこそ自分がやる意味を感じて。ぼくらが日本の木でみんなに喜んでもらえるものをつくれたら、日本の林業の一つの答えになるかもしれないって思ったんです」

そして2002年、日本の木を使った家具づくりを掲げてキシルを設立。

未来を担う子どもたちのために、まずヒノキを使った学習机をつくることに決めた。

ところがいざはじめると、木材が手に入らないという思わぬ壁にぶつかってしまう。

実は、木材として流通するヒノキは建材用で、家具に使えない。建材用の丸太は切ってから数週間ほど乾かせば使えるのに対して、家具用は半年もかかる。どの製材所にも「うちにはできない」と門前払いされてしまった。

なんとか使えそうな材を見つけても、いざ切ると乾燥不足で破裂していたり、出荷待ちの間に商品が割れてしまったりすることが相次ぐ。

一方で、これまでなかった日本の木の家具を求める声は日に日に高まり、ECから実店舗を構えるようにもなった。ところが納得できる材料が手に入らず、お客さんが増えるペースに生産が追いつかなくなってしまい、主力の学習机は10ヶ月待ちに。

「それでもぼくらにお金を預けて待ってくれるお客さまもいらっしゃって。この気持ちに応えるために工場をつくろう、丸太の切り出しから販売まですべてぼくらでやろうと決めました」

創業から13年目で、丸太を山主から直接仕入れ、製材や生産まで自社工場で行う体制がととのった。

「ただ正直、そんなに甘い話ではありません。工場のある浜松でも3ヶ月に1件のペースで製材所がなくなって、ついに2年前にはヒノキの製材所はうちだけになりました。収益の見込みがあると言っても、不安は拭えません」

「でも工場は絶対に必要だった。数年の儲けより、ずっと世の中に求められるもの、安さや流行とは違った価値観をつくり続けられる会社にしたかったんです」

今では家具の製造以外にも、フローリングなどの建材やヒノキを使った家具部品の開発など、広く日本の木を使ったものづくりに挑戦する場にもなっているというこの工場。

安定した商品供給も可能になり、直営店も少しずつ増やしてきた。

「実は、創業から一つだけ気をつけていることがあって。お店を訪れるお客さまには、日本の森林の課題とか、山の現状とか、難しい話をするのはよそうってことです」

どういうことでしょう。

「能書きのように説明すると、商品を押し付けてしまう気がして。そうじゃなくて、幸せな生活の一部として家具に出会ってほしい。日本の山にいいことだということは、結果としてついてくればいいかなって」

「ぼくらは、背景まできちっと保証できる商品をつくって『わたしはこの家具がほしいから買う。環境とか課題とかは、きっと裏でキシルが考えてくれているんでしょう』って思ってもらいたい。生半可なブランドにはしたくないんです」

今回募集するのは、そんなキシルの商品やメッセージを伝えるスタッフたち。

まず一つ目の職種は、企画・制作スタッフ。店頭POPやカタログ制作、そして自社ホームページのコンテンツやバナーの制作を通して、商品の特性やブランドメッセージを伝えていく。

商品やブランドの魅力を伝えながら、説明的になりすぎないように。どんな写真や言葉、イラストを使えばキシルの想いが伝わるかを考えながら、広報物を制作していくことになる。

そしてもう一職種が、2021年2月にオープンする横浜店の店舗スタッフ。

横浜店では、学習机はもちろん、ダイニングテーブルやベッドなど暮らしの家具も販売する。

内装は小部屋のような空間で、お客さんに部屋で過ごすひとときをイメージしながら家具を選んでもらいたいと考えているそう。

お店はお客さんとのタッチポイント。キシルだからこそできる体験を提供する場でありたいという。

「スタッフと話しながら商品に触れたり、今まで知らなかった木を匂いや手触りで体験したり。そこで知ったお客さまの声を商品に反映できれば、日本の山を取り巻く環境も変わっていくかもしれません」

大切にしてほしいのは、お店やお客さんの立場に立って考えること。そのため店舗スタッフは、現時点での専門知識はとくに問わないそう。

「お店では思いもよらなかったこともしょっちゅう起こるので、いろいろと考える仕事になると思います。受け身では難しいかもしれない」

「でも、明るくて素直で、勉強しようという思いがある人であれば、ぼくはどんな人でもいいなと思っています」


そんなキシルのお店で働く一人が、深川店の店長である藤川さん。

気さくでかざらない雰囲気をまとった方。子どもとも大人とも楽しそうに話す姿が印象的だ。

キシルで働く前は、10年ほどアパレル会社で販売員やマネージャとして働いていたそう。まったく違う業界を選んだのは、どうしてだろう。

「ぼくはとにかく人が好きなんです。ただ、服は数年で好みが変わってしまうので、長くお付き合いできる環境がなかなかつくれなくて。寂しいなという思いがありました」

自分の気持ちを満たせる仕事はないかと探していたときに、偶然キシルを見つけたそう。

「正直、家具にはまったく興味がなくて(笑)でもやっていることは面白いと思いました。面接でも、お客さまと長く付き合える関係性を築いてくれって言われて。これだ!と感じたのを覚えています」

キシルの直営店では、家具やランドセルのほかにも、各店の雰囲気や客層に合わせて小物も置いている。これらは店舗スタッフ自ら選んだもので、商品の木を使った工作ワークショップではその講師も務めているそう。

「お店のいいところって、やっぱり木や商品に直接触れられるところだと思うんです。せっかく来てくれたんだから、たくさん見て、触って、感じてほしい。その思いは、スタッフにもお客さまにも必ず伝えています」

「入店されたときから、木の香りに癒されている方もいるんですよ。こんなふうに五感で楽しめる家具屋さんってなかなかないと思うので、働いていても面白いですね」

お店を眺めながら話す藤川さん。お店に流れるやわらかな雰囲気は、藤川さんたちスタッフの「楽しんでほしい」という意識がつくりあげているんだろうな。

「お店の印象は、キシルというブランドそのものだと思っていて。たとえライト一つでも、どんなものを買うか、どんな角度で取り付けるかによってイメージが変わってくるんです」

そんな細かなところまで意識しているんですね。

「たとえば冬は、ほかの季節に比べて壁に照明を強く当てるんです。すると光の角度が変わって家具のぬくもりがもっと感じられるし、夜になるとウィンドウ越しにやわらかな色が映えて。木の良さがグッと伝わるんですよ」

へえ、見てみたいです。きっとすてきなんだろうなあ。

「ぜひ見てほしいです。細かいことかもしれないけど、新しい家具を買うときのお客さまの期待には常に100パーセントの力で応えたくて。その準備を念入りにするのが僕の仕事かなって思っています」

藤川さんの話を聞いていると、楽しみながらもストイックにお店づくりをしていることが伝わってくる。今回募集する店舗スタッフも、藤川さんのような姿勢が求められるのだと思う。

「新しく入る人が、すぐに何でもできるとは思っていません。店舗スタッフ全員でいいお店をつくることが大切です」

「家族みんなが笑顔で帰っていくお店ってすごく幸せなんですよ。そんなお店を仲間と一緒につくっていきたいという人に、ぜひ来てほしいですね」

日本の山とも、お客さんともいい関係でいられるように。

そんな願いを共有しながら、一緒に歩んでくれる人をお待ちしています。

(2018/6/14 取材 2019/9/25、2020/12/14 再編集 遠藤真利奈)
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