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幸せになるための家具

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

手のひらに吸い付くような手触りで、使い込むほどに飴色に変化していくヒノキの家具。

針葉樹であるヒノキは、広葉樹よりも柔らかく、伐採されたあとも200年間強度を増し続けるといいます。

株式会社キシルは、そんな日本の木を使って、学習机を中心に家具をつくっている会社です。

本社と工場のある静岡県浜松市は、全国でも有数のヒノキの生産地。

そこで丸太を調達し、製材、生産、加工まですべての工程を自分たちで手がけ、浜松、東京、松本、そして名古屋に構える直営店で販売しています。

今回募集するのは、各店舗の運営サポートを担うスタッフと、会社や家具のことを世の中に伝えていくブランドディレクター。

どちらも、この秋オープンする東京オフィスで働くことになります。

訪れたのは、都内のキシル深川店。

門前仲町駅を降りてゆっくり10分ほど歩いたところ、ちょうど富岡八幡宮の隣にお店を見つけた。

木の香りが漂う店内には、家具とランドセルが並んでいる。

小さな机で遊ぶきょうだい、両親とランドセルを選びにきた女の子、学習机を前に話し込むお母さんたち。

平日の昼間にもかかわらず、多くの人でにぎわっていることに驚いた。

「家具って新しい生活をはじめるときに買うものだから、笑顔の人が多いんです。これはほかの方の受け売りなんですけどね(笑)」

そう話しかけてくれたのは、キシル代表の渥美さん。

やわらかな物腰と優しい目元が印象的。こちらの話をにこにこと頷きながら聞いてくれる。

学生のころは週末に一人で家具屋を巡るほど、家具のある空間が好きだったという渥美さん。将来は自分も家具屋に勤めるはず、と思っていたそう。

一方で、当時は家具の造り付けマンションが増え、家具業界が縮小しはじめたころだった。

「このままだと、もしかしたら家具屋もなくなっちゃうかもしれない。世の中がどう変わっていくのか知らないまま、家具に携わるのは怖いなと悩んだのを覚えています」

まずは世の中の動向を知ろうと、さまざまな企業と関われるIT業界に就職する。

そこで出会ったのが、まだ駆け出しだった通信販売業界。インターネットを使って販売すれば、自分も家具に携われる予感がした。

とはいえ、家具に関してはほぼ素人だった渥美さん。知識を蓄えるために全国の家具工場や材木屋、それに森林組合など、思いつくままに訪ねて話を聞く。

日本の山には、戦後に植林された針葉樹林がたくさんあること。一方で、海外からより安い木材が流入したり、コンクリート建築が増えるうちに、山の木が使われず余ってしまったこと。

とある森林組合で聞いたこんな話が、渥美さんの方向性を決定づけることになる。

「山で保留状態になった木は、土砂崩れなどを引き起こす恐れがあるし、何よりせっかくの資源がもったいない。これは日本のみんなに関わる話だなって」

「じゃあ日本の針葉樹で家具をつくったらどうだろうと思ったんです」

当時、日本の針葉樹を使った家具づくりを手がける会社はほぼゼロ。針葉樹は広葉樹に比べて加工に手間がかかる上に、外国産の木のほうが一般的に人気も高いのがその理由で、たとえ奇跡的につくれても売れはしないだろうという意見が圧倒的だった。

「でも、だからこそ自分がやる意味を感じて。ぼくらが日本の木でみんなに喜んでもらえるものをつくれたら、日本の林業の一つの答えになるかもしれないって思ったんです」

そして2002年、日本の木を使った家具づくりを掲げてキシルを設立。

未来を担う子どもたちのために、まずヒノキを使った学習机をつくることに決めた。

ところがいざはじめると、木材が手に入らないという思わぬ壁にぶつかってしまう。

実は、木材として流通するヒノキは建材用で、家具に使えない。建材用の丸太は切ってから数週間ほど乾かせば使えるのに対して、家具用は半年もかかる。どの製材所にも「うちにはできない」と門前払いされてしまった。

なんとか使えそうな材を見つけても、いざ切ると乾燥不足で破裂していたり、出荷待ちの間に商品が割れてしまったりすることが相次ぐ。

一方で、これまでなかった日本の木の家具を求める声は日に日に高まり、ECから実店舗を構えるようにもなった。ところが納得できる材料が手に入らず、お客さんが増えるペースに生産が追いつかなくなってしまい、主力の学習机は10ヶ月待ちに。

「それでもぼくらにお金を預けて待ってくれるお客さまもいらっしゃって。この気持ちに応えるために工場をつくろう、丸太の切り出しから販売まですべてぼくらでやろうと決めました」

創業から13年目で、丸太を山主から直接仕入れ、製材や生産まで自社工場で行う体制がととのった。

「ただ正直、そんなに甘い話ではありません。工場のある浜松でも3ヶ月に1件のペースで製材所がなくなって、ついに年明けにはヒノキの製材所はうちだけになりました。収益の見込みがあると言っても、不安は拭えません」

「でも工場は絶対に必要だった。数年の儲けより、ずっと世の中に求められるもの、安さや流行とは違った価値観をつくり続けられる会社にしたかったんです」

今では家具の製造以外にも、フローリングなどの建材やヒノキを使った家具部品の開発など、広く日本の木を使ったものづくりに挑戦する場にもなっているというこの工場。

安定した商品供給も可能になり、直営店も少しずつ増やしてきた。

「実は、創業から一つだけ気をつけていることがあって。お店を訪れるお客さまには、日本の森林の課題とか、山の現状とか、難しい話をするのはよそうってことです」

どういうことでしょう。

「能書きのように説明すると、商品を押し付けてしまう気がして。そうじゃなくて、幸せな生活の一部として家具に出会ってほしい。日本の山にいいことだということは、結果としてついてくればいいかなって」

「ぼくらは、背景まできちっと保証できる商品をつくって『わたしはこの家具がほしいから買う。環境とか課題とかは、きっと裏でキシルが考えてくれているんでしょう』って思ってもらいたい。生半可なブランドにはしたくないんです」

お店も、キシルだからこそできる体験を提供する場でありたいという。

「スタッフと話しながら商品に触れたり、今まで知らなかった木を匂いや手触りで体験したり。そこで知ったお客さまの声を商品に反映できれば、日本の山を取り巻く環境も変わっていくかもしれません」

今回、お店の運営サポートを専門とする役職を新設したのも、そんなふうに会社の思いとお店をよりスムーズにつなぎたいから。

「まだお店も少なかったころはぼくが直接現場の声を聞けたんだけど、今はなかなか難しくて。新たに仲間になってくれる方には、まずお店を回ってもらいたいと思っています」

「こう表現すると上司のようだけど、そうじゃなくてパートナーでいてほしい。お店の困っている様子や要望、それに感じたことなどを社内で共有してほしいですね」

そのためには、どんな人が向いているでしょうか。

「そうですね。お店では思いもよらなかったこともしょっちゅう起こるので、いろいろと考える仕事になると思います。受け身では難しいかもしれない」

大切にしてほしいのは、お店やお客さんの立場に立って考えること。そのため現時点での専門知識はとくに問わないそう。

「明るくて素直で、勉強しようという思いがある人であれば、ぼくはどんな人でもいいなと思っています」

そんなキシルのお店で働く一人が、深川店の店長である藤川さん。

気さくでかざらない雰囲気をまとった方で、子どもとも、大人とも楽しそうに話す姿が印象的だ。

キシルで働く前は、10年ほどアパレル会社で販売員やマネージャとして働いていたそう。まったく違う業界を選んだのは、どうしてだろう。

「ぼくはとにかく人が好きなんです。ただ、服は数年で好みが変わってしまうので、長くお付き合いできる環境がなかなかつくれなくて。寂しいなという思いがありました」

自分の気持ちを満たせる仕事はないかと探していたときに、偶然キシルを見つけたそう。

「正直、家具にはまったく興味がなくて(笑)でもやっていることは面白いと思った。面接でも、お客さまと長く付き合える関係性を築いてくれって言われて。これだ!と感じたのを覚えています」

キシルの直営店では、家具やランドセルのほかにも、各店の雰囲気や客層に合わせて小物も置いている。これらは店舗スタッフ自ら選んだもので、商品の木を使った工作ワークショップではその講師も務めているそう。

なかでもお店をまとめる藤川さんたち店長の仕事は、消耗品の購入から事務作業といった裏方から、スタッフ教育や店内レイアウトの考案まで幅広い。

悩んだり、困ったことがあれば、すぐに店長同士でアドバイスし合っているという。

「お店があるので難しいんですけど、本当は各店の店長全員で話したいんです。運営をサポートしてくれる方には、ぼくらをつないでもらえたらとても助かります」

藤川さんがお店を運営する上で悩むのは、どんなときでしょう。

「たとえばレイアウトですかね。季節によって商品の位置や照明の当て方を変えるんですけど、どうしても売れ筋を意識してしまって。そもそもこの並びは格好いいのか?って不安になるときもあります」

「やっぱりずっとお店にいると、客観性がなくなっちゃう。だから一歩引いてお店を見てもらったり、相談に乗ってもらえたらとてもうれしいです」

今回の募集で、本社とお店がもっと深くつながることができればいい、と藤川さん。

「以前、レジの方法が変わるときに、書面で連絡をもらったことがあって。忙しいなか時間を割いてまで細かく入力する理由が分からなくて、納得できずにいたんです」

本社に理由を問い合わせたところ、経理上どうしても細かく入力する必要があると教えてもらった。

「直接話せば、なんだそんなことかってすぐに解決することだった。お店と本社とのコミュニケーションは大切にしたいなって感じた出来事でしたね」

今回募集する運営サポートのスタッフも、きっとそうしたお店と本社の調整に入ることも少なくないはず。とくに慣れない最初のうちは、苦労するかもしれない。

「そうですね。でもすぐに何でもできるなんて思っていません。ぼくらスタッフも積極的に話しかけたいし、それが今いる人間の役目だとも思っています」

「何より、家族みんなが笑顔で帰っていくお店ってすごく幸せなんですよ。そんなお店を一緒につくってくれる人に会えるのがぼくは楽しみです」

日本の山とも、お客さんともいい関係でいられるように。

そんな願いを共有しながら、一緒に歩んでくれる人をお待ちしています。

(2018/6/14 取材 遠藤真利奈)

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