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※今回は販売スタッフのみの募集となります。
たわし。漢字で書くと束子。
みなさんはたわしにどんなイメージを持っていますか?
茶色くてゴワゴワ。にぎるとちょっぴり痛い掃除道具。
学校の流しの隅っこにちょこんと置いてあったことや、テレビ番組のゲームコーナーでハズレの品として扱われていたのを覚えている、なんて人が多いかも。
誰もが知っているはずなのに、実際に家庭で使っている人をあまり見たことがないような気もする。なんだか不思議な存在です。
そんなたわしがこの世に誕生したのは明治のこと。その元祖となったのが亀の子束子西尾商店のたわしです。
今年で創業110年を迎えた亀の子束子西尾商店では、谷中の直営店とWEBショップのスタッフをそれぞれ募集しています。
JR日暮里駅から、のどかな路地を歩くこと15分ほど。
観光客が集まる谷中の商店街から少し外れた住宅街にあるのが亀の子束子谷中店。つい前を通り過ぎてしまいそうなほど小さなお店だ。
店内に入ると、色も形もさまざまなたわしが可愛らしくディスプレイされている。よくあるイメージどおりの丸くて茶色いたわしもあれば、白いもの、細長いもの、今まで見たことのない形のものも。世界中どこをさがしても、こんなにたわしだらけのお店はきっとないはず。
びっくりしていると、マーケティング担当の鈴木さんが打ち合わせを終えてやってきた。
4年前にスポーツ用自転車の部品メーカーから転職してきた鈴木さんは、これまでずっとマーケティングを専門にしてきた方。亀の子束子で働いていた父親の紹介で入社を決めた。
「入る前はたわしと言えばフレンドパークのハズレのイメージがあったよね。父親はたわし屋だったけど、たわしのイメージはそれ以上でもそれ以下でもなかったな」
特別なものじゃない。多くの人にとってたわしはそういう存在なのかもしれない。
「で、入社してから本社の裏にある工場を見に行ったのね」
「そしたら、こんな1個のたわしにも何十個も検査項目があって、毎日毎日検品をしている人がいるんですよ」
おどろくことに、年に数百万個も出荷される亀の子束子の一つひとつが、工場で働く15人ほどの担当者によって検品されているのだそう。
「この丸みをたわしのおしりって言うんですけど、ここの毛の密度が薄いとだめ、ほんのちょっとでも歪んでたらだめ。それを一つひとつ全部見ているの。だめなものは全部弾かれて、市場に出ないんです」
「それを見て思いましたよ。亀の子束子はハズレではないんだなって」
使うとすぐに毛が抜けてしまう安いたわしもあるなか、「うちのは違う」と鈴木さん。
亀の子束子はパームヤシや棕櫚(しゅろ)といった天然の植物の繊維を主に使っているから、扱いがむずかしいそうだ。
ぎゅっとあつめた植物の繊維を芯になる針金の間にすき間なく詰めて、ぐるぐると巻いていく。“たわし巻き”は微妙な手の感覚が必要で、手作業でしかつくれない。
創業から100年以上。その製法はずっと変わっていません。
「たわしって手を抜こうと思ったらすごい手を抜けるんですよ。でもやらない。うちはすごく正直なものづくりをしていると思います」
そんな亀の子束子、実は日本の三大発明品の一つなのだそう。
鈴木さんいわく掃除以外にも野菜や身体を洗ったりいろんな使い方ができるのだとか。
名前は知っていたはずなのに、いろんなことが初耳です。
「これまでは問屋さんに納品しておしまいだったけど、最近は実際に使っていただくユーザーさんともコミュニケーションをとって、使い方やストーリーを伝えていくという会社に変わっているところなんです」
谷中店もそんな方向性を示す場所。“たわしの再発見”をコンセプトに3年前にオープンしました。
「だから、ここではお客さんと話せないと駄目なんですよ。商店街から少し遠いのも、お店が小さいのもじっくりスタッフと話をしてほしいからなんです」
ここはお客さんに直接たわしを伝えていく場所なんですね。
どんなふうにたわしの魅力を伝えているのだろう。
すると鈴木さんが紹介してくれたのが、谷中店店長の志垣さんです。
キャラクター版権の仕事の合間に靴販売のアルバイトを始めたところ、めきめきと才能を発揮。あっという間に数店舗の店長を任されるようになった方。
亀の子束子のスタッフがたまたま志垣さんから靴を買った縁で、引き抜かれてきました。
お話ししてみると納得のお人柄。大きな身振りで楽しそうに話す姿がとってもチャーミングです。
志垣さんはたわしに興味があったんですか?
「全然。母もおばあちゃんも使っていなかったから、学校や職場の洗面台にある真っ黒いかわいそうなイメージだけがあって。だから、たわしで身体を洗えるって聞いたときは『ええ!』って、驚きました(笑)」
勧められるまま最初は3日に1度の頻度で恐る恐る使い始めたのがいつしか毎日に。マッサージ効果で、疲れの取れ方が全然違うと実感した。
「私もそうだったけど、たわしは物が傷つくんじゃないか、肌はボロボロになるんじゃないかとか、たわしへの固定概念がすごくあるんです」
繊維の種類や加工方法によって、硬さも色もまったく違ってくるのがたわしのおもしろいところ。
だから、ここに来たお客さんには論より証拠。まずはいろいろ触ってもらうという。
「湯呑みが傷つくのが不安という方には、ディスプレイにあるコップにたわしを入れてもらうんです。ほらやってみて!」
志垣さんに手渡された棕櫚のたわしを、ディスプレイされていたコップに入れてみる。すると、意外にも柔らかい棕櫚の繊維は底のカーブに合わせてくにゃっとしなる。
こんなにフィットするんですね。見た目からは想像できないです。
「でしょう?リンパマッサージができると言っても『私は乾燥肌で敏感肌で身体をこするのは絶対に無理よ』ておっしゃるような奥さまもいるんです」
「でもその方もしばらく店頭で触ってもらっていたら『痛くない、たわしでこすっていた手だけつるつる!』って驚いてくれましたよ」
ご近所の奥さんが感動して、たくさん買ったたわしをお友だちに配ってくれるなんてことも。たわしについて1時間も質問攻めにしてくるお客さんもいるのだとか。
「触ってもらうとみなさん表情が変わります。そこから歴史やつくり方、使い方をお話したり。それぞれすごいと感じるポイントが違うので、一概に接客方法を決められないんです」
物や肌に当てたときのしっくりする感じは、亀の子束子の繊維がそろっていて密だからこそ。
いろいろ発見はある場所だけれど、なかでも志垣さんが一番伝えたいことって何なのだろう。
「亀の子束子は100円均一のたわしとはやっぱり違うという印象は残しておきたいです。ここで買ってもらえなくてもいい。質の良さを信じてもらえるまでは根気強くやらないといけないですね」
入ったらまず何をすることになるのかも知りたいです。
「しばらくは、私がたわしのことやお店のことをお話しする研修をして。でも、割と早くデビューになると思います」
独り立ちまでは早いんですね。
「いざとなったらパンフレットやホームページを見せてしまっても全然大丈夫。一応簡単なマニュアルもありますし、業務のチェックシートも用意しておきます。不安だったら様子を見に来ますよ」
小さな場所なのでお店に立つのは基本1人。戸締まりやレジ金のチェックに商品の棚出しも行なう。ノルマはないけれど、前年月の曜日売上を参考にはしている。
「ここはすっごくお客さんとお話しします。お話ができるようになるためには自分でも使ってみること」
「たわしって知れば知るほど、本当にどんどんおもしろくなるんです。モノや人に興味を持てる人に来てもらいたいな」
ちなみに谷中は昔ながらの人情のまち。ご近所さんもよく来てくれるから、通りで会う人にはきちんと挨拶をしてほしいそう。
そして今回は、谷中のお店からバスで30分のところにある本社でも、webショップのスタッフを募集しています。
こちらはスタッフがまだいないそうです。どんな仕事になるのか、ふたたび鈴木さんに聞いてみます。
「オンラインショップの出荷全般の作業を担当してもらいます。注文が来たら伝票をつくって、送り状や出荷済みの連絡をする。ワードとエクセルとメールがある程度できれば大丈夫でしょう」
あまり高い技術は求めていない。ただ、やる気やスキル次第ではwebショップのマネージャーになってもらうことも視野に入れているとのこと。
「まずは任せるからやってみよう!という感じ。失敗することに対してうちの会社はものすごく寛容なんですよ」
谷中のお店も本社も「とにかくやってみよう」という雰囲気が感じられる会社だと思う。
今年で110年目。これからの亀の子束子ってどうなっていくのだろう。
「うちは右肩上がりで売上を伸ばしていって、お店をどんどんつくっていきましょうという会社ではないんです」
「一番大切なのはマインドを伝えていくことだと思っていて。亀の子束子を信頼して求めてくれる人の期待に応えるということを、100年変わらず愚直にやっている。何年先でもきっとたわし屋をしてます、としか言えないな」
そう話しながらたわしを見つめる鈴木さんのまなざしの優しいこと。
たわしがお好きなんですね。
「いいものだよ。人の思いがつまってる。そういうものって何かある。じゃなかったら100年も変わらず続くわけないと思う」
「胸張って『たわし屋です』って言えるね」
想いがつまったモノを、誤解されることなく誰かに届けたい。
お話をうかがったお二人から、まっすぐなたわしへの愛情が伝わってくる時間でした。
取材をすることになるまで、正直言ってたわしのことなんて考えてもみなかったけれど、取材が終わる頃にはすっかりたわしが好きになっていた。
気になった方は一度谷中のお店を訪れてみてください。同じようにたわしが好きになってくれればうれしいです。
(2017/04/17 取材、2018/10/12 再掲載 遠藤沙紀)