求人 NEW

この日、この場所を
訪れる意味
“一泊”の価値を考える

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

群馬県にある四万温泉。

平安時代から続く歴史深い温泉地で、その昔、四万温泉は10軒程度の旅館で成り立っていたといいます。

今回紹介する「ひなたみ館」はそのうちのひとつ。

2012年からは段階的にリニューアルを進め、新たなひなたみ館として生まれ変わろうとしています。

今回はここで、未来の支配人と料理長を募集します。

3ヶ年を基本計画として、どちらも1年目は料理リニューアルへの構想を練り上げ、それをもとに2年目は料理のリニューアル、3年目以降は現場全体と飲食全体の統括をそれぞれに担当します。

数年後の事業拡大を見据え、将来的にひなたみ館の柱となる人を求めています。

 

東京から高崎駅を経由して中之条駅へ。バスに乗り換えて山間の道を40分ほど進んでいくと、「四万温泉」と書かれた標識が見えてくる。

川に沿って約3kmも続く、長い温泉街。その最も奥地に、ひなたみ館が佇んでいる。

雨の中、玄関前で4代目の町田憲昭さんが待ってくれていた。

中に入り、さっそく話を伺う。

言葉を交わすと、謙虚で素朴な人柄が伝わってくる。いい意味で旅館経営者っぽさを感じさせない。

これまでの経緯について聞くと、「恥ずかしい話、全然サクセスストーリーではないんですよ」と町田さん。

なんでも、苦労の連続だったそう。

「僕が27歳のときに父を急に亡くしまして。長男である自分が戻ってきたんですね」

それまで東京の大手旅行会社に勤めていた町田さんに、跡継ぎとしての意識はあまりなかった。

突然任された旅館経営。経験や知識はまったくなく、人を雇う余裕もなかったため、頼れるスタッフは母親と板前の2人だけだったという。

「ただもう、どうしよう、どうしようと思いながら、ひたすらお客さまに対応するという。ダメな旅館の典型例みたいな感じでね」

「それでなんとか頑張ったら、2年くらいで売上が上向いてきて。これはいける!と思って2012年に建物のリニューアルをしたんですけど、そこからが一番のどん底で。大失敗だったんです」

たとえば、2階に新設した部屋風呂。

いざ温泉を流すと、なんと水漏れを起こしてしまった。部屋を使えない状態が長く続き、直すのに大きな手間と費用がかかった。

「後で知ったのですが、木造建築の2階に部屋風呂なんて、普通は怖くてやらないらしいです。そもそも設計をお願いした方は、旅館建築を一度もやったことのない県外の工務店。それも業界的にありえない話で」

町田さんはこのリニューアルで、昔ながらの和風建築から和モダンにつくり変えた。そういったテイストの旅館は四万温泉には一軒も存在していなかった。

「当時の私は、ほかの人がやってないことをやればいいんだろうっていう安易な考えだったのですが、これがまあウケなくて。結局、お客さんがまったく入らなかったんです」

「大きな投資をして売上が下がったって、シャレにならないですよ。まわりからは『おまえんち、やっちゃったな』って。すごい挫折感」

原因は単純で、建物自体は新しくなってもサービスは昔のままだったから。ソフトがハードに追いついていなかった。

その後、2年かけてサービス面を強化。

そして町田さんの結婚が、ひなたみ館にとっても大きな転機となった。

「うちの妻は経験がないがゆえにズケズケと言ってくるんです。何を見ても、厚みがないとか、表向きだけかっこよくしていればいいのか、とかね(笑)」

 

続いて、奥さんの町田あゆみさんにも話を聞いてみる。

あゆみさんは生まれも育ちも東京。もともとはフリーでインテリアスタイリストをしていた。

町田さんとはひなたみ館のリニューアルの際に仕事を通じて出会い、今は若女将としてひなたみ館で働いている。

「最初に仕事で夫と会ったときに言われたのが、オシャレに見せてくれればそれでいいですって。小物をセレクトするときも、おしゃれなカメラを飾ってくださいとか」

町田さんはカメラが趣味なのですか?

「いいえ、きっとどこかのお店で見たのかな… そういう感じで、基本的に影響されやすいんですよ(笑)」

「でも、そのぶん人の話をすごく聞きますし、まわりに助けてもらえるような性格もあるんでしょうね。それでいてどんどんやりたがるので、仕事は早い。やってみようってすぐ行動に移すのはいいなって思いますね」

料理の食器をセレクトしたり、花を活けたり。あゆみさんが細かなところを整えてくれるおかげで、旅館の質が徐々に向上した。

さらに、それまでハローワークが中心だった求人を有料媒体に切り替えたことで、気持ちのあるスタッフが集まり、サービスの質も格段に上がっている。

サービススタッフの竹内伸介さんは、3年前にここへやってきた。

以前は京都市の消防局で消防士として12年勤めていたそう。

観光関係の仕事に就きたいと考え、一度鹿児島の離島のホテルに就職したのち、理想の接客を求めてひなたみ館と出会った。

「宿泊業って大変な仕事なんですね。なかでもクレームが多かったりして。けど、ここではむしろお客さんの声に励まされることがほとんどなんです」

どんな声をもらえるのですか?

「毎日仕事が大変だけどここで癒されて、また明日から頑張れますとか、また来れるように仕事を頑張りますとか」

「お客さまも私たちと同じように毎日忙しく仕事をしていて、束の間の癒しでここへいらっしゃいます。同じ働く人間として、このようなお言葉にはとても勇気づけられると同時に、お客さまに必要とされる時間を提供したいという気持ちになります」

ひなたみ館は「明日につながる大切な一泊」というビジョンを掲げ、“THE DAY, THE PLACE”という言葉をサービス理念としている。

そこには、宿での一泊を通じてお客さまの日常を豊かにしたい、という想いが込められている。それを実現するために、現場では「この日、この場所にお越しいただく意味」を常に考え、サービスを磨き続ける。

こうした考えやサービスのあり方は、ここ数年で加わったスタッフたちとともに形づくってきた。

建物のリニューアルを終え、サービスも固まってきた。あとは、旅館の肝とも言える料理のリニューアルのみ。

これまで提供していたのはオーソドックスな和食。美味しいと評判だったけれど、そこに明確なコンセプトなどはなく、海のない群馬県なのに海産物の刺身を出していたりした。

そこで地産品を中心に取り入れ、全体のテイストも和モダンに。

今年5月には「上州牛たたきの握り寿司」や「麦豚と季節野菜の煮物」といった8品目の夕食が完成し、今後はこれを土台にして料理をブラッシュアップしていく。

ただ代表の町田さんは、「料理ありきで旅館のサービスを考えたくない」という。

それはどういうことだろう。

「単に料理だけを考えるのではなくて、旅館全体の視点から料理のことを考えたいんです」

旅館全体の。

「料理は旅館のメインコンテンツであることに間違いないです。けど、あくまで宿泊体験の一部であって、僕らは料理単体を売りたいのではなく、ここで過ごす時間を売っていきいんです」

「だから料理だけにフォーカスして、美味しさや豪華を追求するのではなく、地元の契約農家を開拓したり、この時期しか採れない食材を仕入れたり、群馬のお酒とペアリングしてみたり。料理も“食事”という体験として捉えれば、いろいろ改善すべき点があると思うんです」

ベースにあるのは宿のビジョンとサービス理念。料理を含めた宿泊体験全体を、この2つに沿った形でより良いものにしていきたい。

とはいえ、町田さんには料理の専門的な知識や技術があるわけではなく、これ以上力を注ぐ時間の余裕もない。

そこで今回、新たに人を募集することになった。

「料理のリニューアルをきっかけに“ひなたみ館らしさ”を一緒に考えていき、かたちにできればと思います。ただ、これには時間がかかりますから長期的な視点で宿全体のサービスを一緒に考えることができる人と働きたいです」

いわば町田さんの右腕となるような存在。

町田さんは、若くて業界未経験の人でもいいという。

未来の支配人と料理長。どちらも重要なポストなのに、経験がなくていいのだろうか。

「業界の中ではこれがスタンダードだっていうのが、僕は良くも悪くも関係ないというか。僕も妻もサービススタッフも、もともと旅館で働いた経験のない人間ばかりですから、そういうのにこだわってないんですね」

水漏れした部屋はリニューアルを経て今や一番人気の部屋になり、和モダンという建築様式も旅館がひしめく四万温泉の中で個性となった。

業界未経験者の多いスタッフたちも、未経験だからこそ気づいた点を改善しながら、日々サービスを向上させている。

失敗や苦労はたくさんあった。でもそれを糧にして進むことで、たくさんのお客さんに来てもらえる人気の宿へと成長することができた。

「そんなだから、旅館の経験がない人の意見を取り入れたり、一緒に働くことに抵抗がまったくないんです」

むしろ面白そうですね。

「うん。そっちのほうがワクワクしますよね」

「自分がベストだと思っていても全然そうでないっていうのは、いつも人から教わることで。僕も学びながら、新しい知恵をどんどん入れていきたいですね」

 

老舗旅館のあらゆるコーディネートに携わる。そこに未経験でも飛び込めるチャンスは滅多にないことだと思う。

とはいえ、責任は重大なので、はたして自分にできるだろうかと尻込みしてしまうかもしれない。

そこで安心してほしいのが、強力な助っ人がいるということ。

最後に話を伺ったのは、株式会社オアゾの松田龍太郎さん。

株式会社オアゾは東京に拠点を置き、神楽坂と横浜で「瑞花(すいか)」という八百屋を営んだり、キリンビバレッジから依頼を受けて午後の紅茶のポップアップカフェをプロデュースしたり。

事業企画やブランド開発など、あらゆる手法で“人と食のよりよい接点”を生み出す、とてもユニークな会社。

ひなたみ館では料理の監修だけでなく、それにまつわる求人の検討やサービスの改善など、多角的なコンサルティングという形で携わっていて、松田さんもいれば面白そうなことをいろいろ実現できそう。

「温泉街って日本中にありますよね。ひなたみ館は、数ある温泉街の中でブランドホテルでもない小さな旅館です。これからどう生き残って、さらに価値を上げていくか。実際には、まだまだ先の長い話なんですよ」

1万円の交通費をかけて地方へ行き2万円の宿泊をするくらいなら、東京の有名店で2万円のコース料理を食べたほうがいい、という考え方もある。体験を提供するという意味では、ライバルは同業他社だけではなくなっている。

数ある体験の中で、いかにひなたみ館を選んでもらうのか。

流行り廃りの激しい飲食業界を見てきた松田さんは、その厳しさもノウハウも知っている。

「ある意味、ここからスタートになると思うんですよね。もしかしたら和モダンの料理だけじゃない答えがほかにあるかもしれない。ただそれは僕から提案するというよりは、これから入ってくる人が中心となって、一緒に考えていきたいです」

ひなたみ館は、町田さんが出会った人たちと一緒につくりあげてきた旅館だと思います。

この募集でも、どんな人と出会えるのか、楽しみです。

(2018/9/20 取材 森田曜光)

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