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市内のあちこちから岩手山が眺められ、清水を汲める場所もたくさん。市街地には、歴史の深い建築や町屋が並び、風情を感じさせる。自然と街が調和する、岩手・盛岡の地で、南部鉄器は生まれました。
重厚感や佇まいに惹かれつつ、「日常的に使う場面を想像しにくい」という人も多いかもしれません。
そのイメージを変え、南部鉄器の可能性をもっと広げようと、さまざまな挑戦をしているのがタヤマスタジオです。
タヤマスタジオは、鉄瓶の制作から販売、アフターサービスまで一貫して手がけている会社。自社ブランド「kanakeno(カナケノ)」を展開するほか、南部鉄器を身近に感じてもらうためのイベントや講座なども開催。
来年初夏には新たな試みとして、食と絡めたコンセプトショップをオープンさせます。
どの取り組みにも共通してあるのは、「盛岡という街を、新しいことにチャレンジできる場所にしたい」という思い。
新しくつくるお店は、南部鉄器を通じて、人と人が出会うタッチポイントのような場にしていきたいそう。
この場所を一からつくっていく、店舗マネージャーと調理スタッフを募集します。
東京から東北新幹線に乗って、2時間ほどで盛岡駅に到着。
向かったのは、車で20分ほどのところにあるタヤマスタジオの工房。
「東京からですか?朝早かったでしょう。今日はよろしくお願いします」
声をかけてくれたのが、代表であり職人でもある田山貴紘さん。ハキハキとした口調で親しみやすい方。
作業を進める隣で、これまでの話を聞かせてもらうことに。
大学進学を機に地元・岩手を離れ関東へ。そのまま東京で就職し、営業の仕事に励んだ。
「20代後半になるにつれ、自分にしかできないことってなんだろう?と内省するようになって。身の周りにあるものごとを整理するうちに、目を向けはじめたのが父の仕事でした」
田山さんの父・和康さんは、南部鉄器の現役職人。技術を受け継ぐ若手は減り、業界全体が後継者不足という課題を抱えていた。
そんな状況を知り、田山さんは南部鉄器に関心を寄せるように。
そのころ、東日本大震災が起こる。
「復興ボランティアに足を運びつつ、東京で仕事を続ける日々。地元に貢献したいと強く思いながら、自分にしかできないことは何かと問い続けていった先に、南部鉄器業界を盛り上げていくという答えがありました」
当時は扱い方も知らなかったそう。
そこから職人となり、父から学んでいくうち、南部鉄器に可能性を見出すようになる。
「南部鉄器って、この地域で採れる素材を使ってつくられているんです。たとえば元となる型は、川で採ってきた砂と粘土汁を混ぜてつくる。鉄自体、昔は砂鉄を採取して製鉄するところから職人たちが手がけてきました」
「盛岡の自然がもたらしてくれる恵みと、職人の知恵を掛け合わせてつくっていく。約400年前から受け継がれてきたこの価値は、いくら機械化したってつくり出せない。これからの時代に高まっていくものだと思うんです」
南部鉄器の価値に気づいていった田山さん。
一方で、改善すべき点も見えてきた。
「この業界って、まだまだ手つかずの部分が多くて」
たとえば、商品をつくって販売した後のサポート。
南部鉄器は素材が鉄だから、水に弱い性質。タヤマスタジオでつくっている鉄瓶も、使ううちに「金気」と言って、湯を沸かすときに渋が出てくるそう。
ただ、使う人の多くはそうした知識を持たないから、疑問に思ったり心配になったりする。
「どうしたらいいかお客さんから問い合わせがあったときの対応の仕方も、この業界はまだ、お客さん目線に欠けたところがあるように思って」
手入れの方法に、金気やさびが出てくる背景まで、丁寧に伝える。そうすることで、使い手の受け止め方は大きく変わるはず。
「さびは使うからこそ出てくるもの。大切に付き合っていけば、何十年と一緒に歳を重ねられます。それに鉄瓶でつくった白湯は、角がとれて味がまろやかになり、なおかつ鉄分が補給できる」
「一見ネガティブに思えることでも、受け入れてみてはじめて、手に入る喜びがある。そういうことを南部鉄器は語っているんじゃないかなと、僕は思っていて。同じ感覚で話せる人がもっともっと増えていったら、楽しいなと思うんです」
業界を活気づけていくために、まだまだできることはたくさんある。
臆せず新しいことにチャレンジしていきたいという思いは、2013年の会社立ち上げ当初から変わらない。
これからつくっていく、食と絡めたコンセプトショップは、業界全体を見渡してみても前例がないんだそう。
「南部鉄器を紹介するギャラリーはあっても、敷居が高くなりがちです。飲食店という形にすることで、いろんな人が集まりやすくなる」
「そこで、鉄瓶で沸かした白湯を飲んだり、鉄器のフライパンで焼いたお肉料理を提供したり。南部鉄器を体感してもらう。そんなふうに少しずつ、使う人たちとの距離を縮めていきたいです」
今度は、新しくつくるお店がある、盛岡の市街地へ向かう。
街なかには、明治時代に建てられた銀行の建物や酒造、昔ながらの喫茶店などが並び、情緒を感じる。
タヤマスタジオのコンセプトショップは、そんな街の中心地にあった。
もともと写真館だった建物の1階を、これからリノベーションしていくところ。ちなみに2階には、すでに別のバーが入っている。
お店の中に入ると、前後に奥行きのある空間が広がる。
入り口付近は洋風の空間で、靴を脱いで上がった先は15畳ほどの和室空間。
いちばん奥には縁側があって、小さな庭も眺められる。
「洋風と和風2つの空間をつなぐように、モダンなカウンターをつくって。そこでは、一見さんとまちの人とが近い距離で会話を楽しめる。あるときは、たくさんの人を集めて縁側でにぎやかに過ごす。そんなふうに、いろんな縁が集う場所にしたいねとメンバーで話し合って、お店の名前は『engawa』に決まりました」
そう話すのは、プランナーの伊藤大介さん。タヤマスタジオの広報・PR業務や、企画全般を担っている方。
東京でのエンターテイメント業界の仕事を経て、東北で復興の中間支援に携わった。そのなかで田山さんと出会い、2016年から一緒に仕事をするように。
「前まではよく、東京で白湯の飲み比べのイベントを開催していました。そのとき『鉄瓶と電気ケトル、どっちで沸かしたものか…。こっちかな?』というようなコミュニケーションが生まれる場面に何度も立ち会って」
今度は、鉄瓶で沸かした白湯でコーヒーを淹れたら、違いがあるのか試してみよう。そんなアイデアから、ビストロを貸し切ってカフェスタイルでお客さんをもてなす企画も行った。
「知り合いが友だちを連れてきてくれたり、たまたまお店の前を通りかかった方がふらっと入ってくれたり。いろんなご縁が交差しているのを感じて」
「同じような場を盛岡にもつくりたいとみんなで話し合って、engawaをつくることになりました。理想を言えば、盛岡というまちへの愛着を育んでもらいたいと思っています」
まちへの愛着?
「たとえば、ここをきっかけに南部鉄器に興味を持つ人がどんどん増えて。そのうち自分が暮らす街にも目を向けるようになって」
「いつのまにか街の人なら誰でも、盛岡を訪れる国内外のいろんな人たちに、南部鉄器や街のことを紹介できる。そんなふうになったら、面白いなと思うんです」
店舗マネージャーになる人は、一軒のお店をどう運営するかという視点にとどまることなく、舵取りしてほしいと、伊藤さん。
そのためには、いろんなアンテナを張っていくことが大事になると思う。
「この街には、昔栄えていた映画館通りを元気にしようと活動している、まちの事業者さんたちもたくさんいます」
「それからこのお店の斜め向かいには、盛岡を代表する地ビールメーカーが運営するビアレストランもあります。一緒に街を盛り上げていくような存在になれたら、うれしいですね」
この場所で紹介したいと思うモノや、コラボレーションしたら面白そうな人を見つけてきて、企画を考えるのもいいかもしれない。
また、山や海の幸をはじめ、食材も豊富。南部鉄器を活かしたレシピづくりも開拓できると思う。
一般的な飲食店とは異なるから、最初からお店だけで利益を生んでいくことは求めていないそう。
「まだまだ体制が整っているわけではありません。お店の営業時間や料理の方向性についても、マネージャーになる人を中心に、調理スタッフや僕たちと相談しながら決めていくことになります」
一から考えていくなかで、大変に感じる場面も多いかもしれない。
でも、悩んだときは気軽に伊藤さんたちに相談してもいい。
「がちがちに計画してから実行するというよりも、どんどん僕たちメンバーに提案して、ブラッシュアップしていく。そういう進み方でいいのかなと思っています」
「可能性を狭めずチャレンジしてほしいですし、僕らもその気持ちに応えたいです」
田山さんからも伊藤さんからも、柔軟に挑戦していく姿勢を感じる。
「ここで働く人たちの雰囲気に惹かれた」と話してくれたのは、長瀬みどりさん。
事務やお客さんからの問い合わせ応対、商品梱包や発送、SNS発信などを行っている方。
「何かやりたいなと思ったことを伝えると、『やってみたら』と言ってくれる人が多いんです」
「たとえば、白湯の飲み比べイベントでは、どれが好みかをお客さんに投票してもらいます。以前までの投票の仕方は、シールを貼る方法で。それを見て、消しゴムハンコを押してみたら楽しそうだなとひらめいて、つくってみたんです」
実際、長瀬さんが手づくりした消しゴムハンコは大活躍。
自分でも気に入っているそうで、名刺に鉄瓶のハンコが押されていた。
入社してから半年ほど。南部鉄器について知っていくうちに、自分の興味の幅が広がっているそう。
「南部鉄器は、南部藩主が愛した、茶道の茶湯釜にルーツがあると言われています」
「それを知って、2週間前から茶道を習いはじめました。器やお花、今はお水の違いにも興味があります。私が感じているわくわくを、もっといろんな人と共有できたら楽しいだろうなと思う今日この頃です」
タヤマスタジオにはいろんなバックグラウンドを持つメンバーが揃っています。
なかには、岩手に移り住んだ人たちの仕事や暮らしをサポートするチームの一員として活動する人もいる。盛岡のまちについて知りたいと思えば、きっといろんなことを教えてくれる。
「知恵とかいろんな特技を持っている人が集まれば、世の中に対してできることがいっぱいあると思うんですよね」
田山さんは、最後にそう伝えてくれました。
挑戦する気持ちを楽しめる人なら、ここでのお店づくりは、大きな糧になると思います。
(2018/11/14 取材 後藤響子)