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”おもしろさ”を届けたい
原点回帰の出版社
ミシマ社の生命線

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

なぜ本は読み続けられているのだろう。

知識を得たい。物語の世界に没入したい。気分転換をしたい。

きっといろいろな理由がある。

でもどんなにテクノロジーが進化して、その流通や形態が変化しても、本を読む理由というのはそう変わらないように思う。むしろ、原点に回帰しているようにも感じる。

出版社であるミシマ社の三島さんに、なぜ本を出版するのか聞いてみた。すると次のように答えてくれた。

「著者が持っている”おもしろさ”を、一人でも多くのひとのところへ届けたい。だからといって売れりゃいいっていうわけでもなく、楽しけりゃいいわけでもない」

実はぼくもミシマ社から本を出版したばかり。

あらためてこの出版社に思うことは、たしかに売上や楽しさよりも切実に伝えたい何かがあり、それはたしかに届いているんじゃないかということ。

今回はそんなミシマ社の京都オフィスで働く営業事務の募集です。

ミシマ社は全国500店ほどの本屋さん一つひとつに直接販売しているので、受発注や請求業務などに多くの時間をかけている。営業事務は、まずそんな仕事を担当することになる。仕事量も多いし、正確性も求められる。コツコツ続ける仕事になると思う。

それができた上で、さらにこの仕事をもっと効率よくできる方法も模索してもらいたい。もし実現できたら、ミシマ社の伝えたい”おもしろさ”はより世界に届けられるだろうし、出版業界に新しい風を吹かせることになるかもしれない。



京都駅からバスに乗って河原町通りを進んでいく。にぎやかな四条のあたりを過ぎたら、河原町丸太町のバス停で下車。

そこから少し歩いた住宅街の中にある一軒家が、ミシマ社のオフィス。

ドアを開けて「ごめんくださーい!」と挨拶したら、すぐにちゃぶ台のある和室に案内された。

まず話を聞いたのが、ミシマ社の代表である三島さん。

「僕らは直取引という、書店に直接卸すというやり方をしているんです。そこの受注と、発送していく伝票づくり、数字の管理、請求業務っていうのは日々のルーティーンとしてあるんです」

普通の出版社は「取次」という流通業者を介して、全国の書店に本を送っている。ただ、大量の本や雑誌を発売日に一斉に全国の書店に並べる、ということには最適化しているシステムだけど、多様な本を流通させるには弊害もある。

そこでミシマ社は全国の書店と直接取引することを選んだ。

「本屋さんとしては本当に売りたいものを売りたいし、出版社や著者にとっては本当につくりたい本をつくりたい。とにかくおもしろいことをやりたいんです」

「流通の制約によって、クリエイティブが阻害されることも実際あるので。少なくともミシマ社においてはそういうことが全然ないんですよ」

本って、もともとは「これを多くの人に読んでもらいたい」という純粋な衝動が形になった結果だと思う。

でもだんだんとシステムのほうが肥大化して、人間がそれに合わせて動いてしまっているようなこともあるかもしれない。

たくさんの本を出版する。売上を上げる。流通しやすい形にする。でも本をつくるということの本来の目的は別なんじゃないか。

そんななか、ミシマ社は原点に回帰して、出版社のあるべき姿を提示していると思う。

とはいえ、全国の書店に直接本を届けることは大変なこと。どのようにしているのだろう。

営業のリーダーを務めている渡辺さんに、営業事務の仕事について話を聞いた。

「まずはお店からの受注を一件一件積み重ねていくところからはじめます。納品するときは納品伝票をつくって、返品があったら返品伝票をつくります。そして1ヶ月の取引を請求書にまとめます」

もともと営業事務の担当者がいたものの、産休に入ってしまい、リーダーである渡辺さんが直接担当しているのが現状。

サッカーで例えるなら、点取り屋のストライカーが自陣にまで戻ってゴール前で守備をしているという状況かもしれない。ストライカーには本来の場所で働いて欲しい。

しかも、業務はそんなに単純なものではなく、量も多いし、正確に進めなければいけない。

最も驚いたことは、エクセルやアクセスなどのソフトを使いながら、コツコツと改良を重ねてつくりあげた仕組みをずっと人力で運用しているということ。

「自分も取次会社にいましたし、ミシマ社で積み上げてきたものもあります。以前に比べたら随分楽になっているんですよ。でもこんなに世の中が便利になったから、もうこんなふうに人力でやる時代じゃないと思うんです(笑)」

たしかにそうですね。

でももしかしたら、ミシマ社が積み重ねてきた12年には本を流通する新しい時代のヒントが詰まっているようにも思います。それに今あるテクノロジーを加えたら、まったく新しい価値をつくることができるかもしれません。

たとえば、すでにある既存のクラウドサービスを駆使してもっと効率的なものがつくれるかもしれないし、多様な本を全国に届けるミニ取次みたいな仕組みをつくって、ほかの出版社と仕組みを共有することもできるかも。

「そうですね。蓄積してきた経験がありますから、とても可能性を秘めていると思いますよ。そもそも取次だって悪いわけじゃないし、直取引だって必ずしも書店から歓迎されているものでもないんです。手間が増えていることは間違いないので」

「ミシマ社と直取引して自分たちもよかったとか、おもしろかったとか。そういうふうに思ってもらえるから実現していると思うんです」



ミシマ社が届けている”おもしろさ”とはどういうものなんだろう。

そんなことを考えていたら、仕掛け屋チームの長谷川さんの話が興味深かった。

仕掛け屋とは本のPOPを作成したり、フリーペーパーなどの編集したりする部署のこと。長谷川さんはそんなチームのエースとして、銭湯に本屋をつくるなど新しいことにも挑戦している。

「もともと絵を描くとか、図工なども好きでした。ミシマ社に入ったのは、偶然本屋さんでミシマ社コーナーを見て、それがちょうど前の仕事辞めた次の日だったんです」

「調べてみたら仕掛け屋の求人がたまたま募集していて。切ったり書いたり貼ったりして、それでお金もらえるならいいなと思って。バイトの募集だったんで軽い気持ちで応募したんですよ」

課題がPOPづくりだったので、ミシマ社で出版している本の中でも、最も読みやすそうなものを急いで読んでPOPを製作。

三島さん曰く「送られてきたPOPが圧倒的」だったこともあり採用されることに。

働いてみると、また違った会社の面を見ることができた。

「ホームページにほがらかな出版社って書いてあるし、面接を待っているときも、座布団とお茶を出してもらって、ちゃぶ台に座って、のんびりした印象だったんですよ」

「でもビシッとやらなきゃいけないところはビシッとしている」

たとえばどんなところでしょう?

「本のタイトルを決めるときは、みんなで一緒に考えるんです。意外だったのは、こういう人に届けたいからこういう言葉のほうが刺さるんじゃないかとか、漢字にするのかひらがなにするのかとか、1つ選ぶだけなのにこんなにみんなでいろいろ考えるんだと思って」

印象に残っているタイトル会議ってありますか?

「そうですね… 『シェフを「つづける」ということ』っていう本、すごいタイトル会議が難航したんです。たぶんみんなの琴線に触れて、みんなめっちゃ読み込んできて。だから思い入れがありすぎて決まってないみたいな感じだったんですよ」

「一緒にその本を出させてもらう私たちも、著者とかデザイナーと同じくらい覚悟を持って本をつくっているんだ!と思いました」



覚悟を持って届けたい”おもしろさ”のことを、三島さんは「おもしろマグマ」を呼んでいる。

それはどういうものなんだろう。あらためて三島さんに聞いてみる。

「そうですね。たとえば『ちゃぶ台』という雑誌があるんですけど、2015年の10月に第一弾を出したんです。でもその2週間前までは、雑誌は絶対に出さない、とメンバーにも伝えていたんですよね」

それでも出したのはなぜなんでしょう?

「もともと雑誌って期間限定の読みものだなって思ってました。絶版をつくらないっていう方針でやってきたし、ずっと読み継がれる本をつくりたい、と言い続けてきました。でも雑誌をつくる必然性を見出したんです」

2015年の春に、瀬戸内海に浮かぶ周防大島を訪れることがあった。

そこでは農家さんや蜂養家さんが自分たちの手でマルシェを運営していて、人口1万5000人の島に1日2000人呼んでいることを目の当たりにする。

「この熱量を伝えたい、これは新しい時代の種だ、と思いました。でも本をつくるには何年もかかります。ケンタさんの本だって5年かかったし、今年毎日出版文化賞特別賞をとった『うしろめたさの人類学』は11年」

「周防大島で出会ったことは、小さいけれども、これからの時代に風穴を開ける可能性がある動き。できるかぎり早く共有したい、この小さな動きを待っているひとがいると思ったんです」

きっとミシマ社をやっていると「雑誌つくってみたら?」という話もあるはず。でもそういう順番ではなくて、まず「おもしろマグマ」があって、それが噴火してはじめて形になるのがミシマ社なんだと思う。

そんなふうにして生まれた「ちゃぶ台」という雑誌はたしかにおもしろい。

たとえば、台割、つまり全体の構成をあらかじめつくるのではなく、つくりながら考える。だから目次は本を作り終わって、最後のページに掲載する。

あとは背表紙がむき出しになっているのも特徴の1つ。だからこそパカッとフラットにページを広げて読むことができる。

「高校生の女の子が遊びに来てくれたことがあって。「ちゃぶ台」を読んで周防大島に翌週行きましたって言ってくれて。そもそも「ちゃぶ台」はなんで手に取ったの?って聞いたら、本屋さんの本棚で背がかっこよかったからって言ってくれて」

これが既存の流通だったらどうだったろう。背表紙がむき出しだと、不良品ということで取り扱いが断られていたかもしれない。

今回、募集する営業事務も、この”おもしろさ”を届けるために大切な役割を担っていると思う。

「出版不況といわれがちですが、これまでのやり方が通用しなくなったというだけのこと。僕らの本は年々届いていってるなという実感があります」

ミシマ社が届けたいおもしろさは確実に届いている。そのために営業事務が担う役割が大きい。

ただ、新しい仕組みを構築するためにも、渡辺さんの仕事を引き継ぎ、まずはこれまでのやり方を地道にできるようになることが欠かせない。

はじめは出版界の知識がなくてもいいとのこと。それよりも経理経験や、経理的センスがある方を望んでいる。何より大切なことはミシマ社のことが「おもしろい!」と思えて、それを支えたい、という気持ちだと思いました。



(2018/12/5 取材 ナカムラケンタ)

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