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地域づくりのこと
知りたいなら
まず、街の人になってみる

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

中野駅から歩いてすぐのところにある、大きな緑地。

夕暮れどき。ボールを追いかける子どもとそれを見守るお母さん、ジュース片手に盛り上がる女子高生たち、笛の練習をしているおじいさんもいる。

近くのベンチでは、スーツ姿のふたりが打ち合わせをしている。背後には大手飲料メーカーの本社が入るビルがあり、明日からここで看板商品を掲げたビアガーデンをオープンするという。

住宅街とオフィスビル。遊びと仕事。一見相容れないそれぞれの要素が、この場所では自然に交じり合っている。

警察大学校の跡地という空白地帯に生まれた「中野セントラルパーク」。

この場所のプロデュースに参画した株式会社PODは、エリア開発から施設運営・マネジメントまで、いわゆる「まちづくり」事業を展開してきた会社です。

2010年の立ち上げから実績を積み上げてきた一方で、代表の神河さんは「まちづくりを『仕事』とするには違和感がある」と話します。

外部から強い刺激を与えてまちを変えるのではなく、街の人が自分たちで自走できる仕掛けと仕組みをつくる。そのために大切にしているのは、現場に入り込んでマネジメントする「現代版家守」という手法です。

今回は、このPODが手がける新しい施設のマネージャーを募集します。将来、地域のプロデュースに関わりたいと思っている人には、学べることが多い仕事だと思います。


取材のために向かったのは、冒頭で紹介した中野セントラルパーク。

神田の事務所から代表の神河さんが駆けつけてくれた。

梅雨入り前の貴重な機会。せっかくなので、オフィスビルの前に広がる公園のテーブルで話を聞くことに。

都市開発や商業施設の運営、最近では行政の政策・施策づくりからコワーキングスペースの運営まで。場づくりの領域で幅広くプロデュースを手掛けているPOD。

今回の募集で入る人は、どんな仕事をすることになるんでしょうか。

「案件はいろいろあるんですが、ひとつは羽田に建設中の複合施設のマネージャーですね。もともとアメリカ軍が接収して空港としていた場所で、一部を大田区が取得して地域活性化に活用していくというプロジェクトなんです」

羽田空港跡地第1ゾーンと呼ばれるこのエリアは、2020年の運営開始を目指して、すでにさまざまな企業の参入が決まっている。

たとえば、Zeppの新しいコンサートホールや、最新の自動運転技術の試作開発・実証を行うデンソーの新拠点。文化やテクノロジーなど、多面的に日本の産業を発信できる拠点になっていく予定。
運営上のミッションとしてさらにもうひとつ、地域と連携して「羽田らしさ」を打ち出すという目標もある。

羽田というと、人が行き来するターミナルという印象が強いです。実際にはどんな人たちが「街の人」として関わることになるんでしょうか。

「ライブや、企業の発表・展示等に訪れる人はもちろん、多摩川沿いのサイクリストや、近接する緑地に遊びに来る親子連れ、目を凝らすといろんな人がいるんです。そういう人たちが一緒に過ごせる、空港都市(エアポート・シティ)になったら面白いと思うんですよね」

さらに、この施設には約6000人オフィスワーカーがいる。新しく約500室の滞在施設もできるので、フライトで日本に来た機長、操縦士やCAさんにとってのホームにもなる。

「ビルを建てて終わりではなくて、つくった施設を拠点に異なる立場の人たちが交ざり合い、新しい文化や産業が生まれるような仕掛けをつくっていきたいんです」

「僕は、まちづくりっていうのは本来、誰かが仕事でやることではなくて、街の人がやればいいことだと思うんです。補助金が無くなったら終わりじゃなくて、プロデューサーがいなくなっても自走していけるということが大切ですよね」

外側からの刺激だけでなく、内側からも文化やコミュニティを醸成できるように。だからこそ、地域の中で活動するプログラムマネージャーの存在は欠かせない。

PODではこの役割のことを「現代版家守」と呼んでいる。

家守というのは、江戸時代、地主に代わって長屋の管理・維持をしたり、借家人の相談を受けたり、地域の面倒をみるような仕事をしていた人のこと。

それぞれの街の人や、変わっていく状況。自身もその輪に入り込んでマネジメントをしていく。

すでに動き出している中野セントラルパークの場合は、どのようにプロジェクトは進んだのだろう。

「ここは近郊住宅エリアの駅前だし、おそらくマンションにすれば一番高い土地値段をつけられた。ただ、それでは街として何も変わらないかもしれない。地域になかった大型オフィスで企業を呼び込もうと、地元の方々の英断でそのような都市計画になりました」

「開発事業会社や協力する我々としては考えを受けて、単なるオフィスではなく大企業が本社を設けるような施設になれば、より中野の価値を高めていけると考えました」

都心の丸の内や新宿などに比べると、必ずしも便利とは言えない中野の街。

それでも大企業にとっては、ほかにはない価値を実感できる面もあると神河さんは言う。

「オフィスばかりの都心では、自らの顧客でもある住民を意識しにくいんです。その点中野は、BtoCのマーケティングスポットとして、とてもいい場所なんですよね」

たしかに、都心の一等地に住まいを持てるのはごく一部。全国の一般家庭をイメージしたときに、平均的なサンプルとは言い難い。

一方中野は、その人口動態が全国の中心市街地と似ているため、プロモーションやマーケティングの対象となる人たちが本社のすぐそばにいる。

その立地をフル活用しているのが、中野セントラルパークに本社を移した飲料メーカー、キリングループ。

「新製品のプロモーションイベントでプレスを呼んだとき、オフィス街だとニュースにスーツ姿の人しか映らないんですけど、ここでは公園のグリーンをバックに主婦や幅広い年齢層の人々の声を届けられる。マタニティの女性がノンアルコールビールを試飲する、みたいな画も撮れるかもしれない」

マーケティングに活用できるという企業側のメリットだけでなく、オフィスで働く人が商店街へ行き来したり、居酒屋で飲み会をしたりすれば、街のなかにも新しい人の流れが生まれる。

そんな未来の風景を思い描きながら、ときには必要な企業や店舗を誘致したり、その場所を活用したイベントを企画・運営したり、施設の価値を運営やPRで向上するのもPODの役割。

「これから日本の各都市は人口減少という問題に直面するので、普通に商業施設をつくっただけで利益を生み続けられる時代ではない。そんな厳しい環境のなかで、価値あるプロジェクトに仕上げていくのはとても難しいことです」

「ただ、それでもその難しさや、競争を受けて立とうじゃないかっていう、ビル同士、都市同士の気概が街や会社を成長させていくんだと思います」

目標が高いほど難しく、難しいほどまちづくりは楽しいと、神河さんは言う。

その姿勢をかっこいいなと思いつつ、街や企業という大きなものを相手に、自分だったらまず何から手をつけようか、迷ってしまう。

「最初は、すでに決まっている企画の制作や運営をきちんと遂行するとか、『言われたこと』『できること』からでいいんです。2、3年くらい現場でやっているうちに、目線が変わってきますから。それで世の中のことがわかってくると、複雑さが分かって、より不安になるんですけどね(笑)」

「何にせよ、現場がわからないと何もできないし、説得力もない。まちやビルのなかで働く『家守』こそ、地域のプロデューサーなんですよ」


2013年から3年間、この中野セントラルパークで家守として働いてきた岩崎さんにも話を聞く。今は、3つの現場のプロデュースに携わるスーパーバイザーだ。

2年前の取材では、家守の仕事はまず「無理のないところから」スタートして続けることが大切、と話してくれていた。

中野セントラルパークでは、オフィスワーカーのためのコミュニティづくりをしていたのだそう。

「ここで働いている方は、以前は都心で働いていた方が多くて。もちろん都心のほうが便利な面もあるんですけど、中野が暮らしやすい街なんだということを感じてもらいたくて、『中野探検隊』っていう町歩きの会をつくったんです」

同じビルで働く人たちが、一緒に街を歩き、飲み会で話をする。岩崎さん自身もその場に参加することで、オフィスワーカーや街の人たちと気軽に言葉を交わしていく。

何気ない世間話のなかに、新しいニーズを読み解くヒントが隠れていることもある。

「最近トイレでスマホを使う人が増えて、個室の待ち時間が長くなっているっていう声を聞いたんです。じゃあ、今度新しく建物をつくるときは個室数を増やそうとか、自席から使用状況がわかるようにしようとか、設計にフィードバックできることもありますね」

頭で考えるだけでなく、現場の肌感覚を鍛えることも、プロデュースにおいては重要。現場でこそ経験できる学びのチャンスはたくさんありそうだ。


岩崎さんから引き継いで、中野セントラルパークの家守を務めているのが本多さん。

取材の間も忙しそうに外と中を出入りしていた。「すみません!」と戻ってきたとき、両手に抱えていたのは重たそうなレンチ2本。

「明日からビアガーデンがオープンするんですけど、ちょっとヘルプでパラソルのネジを締めてました。結構力がいるんですよね」

屋外の緑地を中心とする中野セントラルパークでは、スペースを活用出来る4月から11月が繁忙期。

準備が間に合わないときには、設営などの力仕事に参加することもあるという。

「以前はIT系の仕事をしていました。地域活性化に興味があって、いろんなところに話を聞きに行ったんですけど、『ウェブ制作できる?』っていう話で終わってしまう。これから人口が減っていくところで、プロモーションとしてのウェブデザインだけをやっても仕方がない気がしたんですよね」

「この家守の仕事では、お店の人とか地元の人とか、いろんな人と直接話しながら企画を進めていける。ダイレクトに、地元に接しているっていう実感はありますね」

2年目くらいまでは、目の前の仕事で精一杯になることも多かった。最近は少しずつ、自分で考えて自発的に動かしていける企画も増えてきたという。

「仕事以外でも、地域の活動に参加しています。たとえば、去年は駅前の工事のために盆踊り大会が中止になりそうだったんですけど、なんとか実施できるように、地元のアーティストや踊りの師範の方に声をかけてまわりました」

サンプラザ前に移動して開催された盆踊り大会では、ボン・ジョヴィの曲に合わせて盆踊りを踊るという一幕も。それを見たジョン・ボン・ジョヴィ本人から「いいね」が届き、予想以上の波及効果があったそう。

「地域の方とオフィスの方の接点になれるっていう感覚が、仕事していてよかったなって思える瞬間なんですよね」

まちを“つくる”というより、まちが内側から動きだすための潤滑油として。

これから本当に必要とされるプロデュース力を身につけられる仕事だと思います。

(2019/5/31 取材 高橋佑香子)
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