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“いい音”とは何か
音色を感じ
楽器と向き合う

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

頭で考えるより先に「いいな」と感じる。

人の心を魅了する音色とは、そういうものなのかもしれません。

弦楽器専門店シャコンヌの創業者・窪田さんは、40年以上、いい音の鳴る楽器とはどのようなものかを探り続けてきました。

目指したのは、17世紀に弦楽器職人ストラディバリによってつくられ、300年以上経った今でも楽器の名器と称される「ストラディバリウス」。

窪田さんはこれまでに550挺(ちょう)以上ものバイオリンを製作してきました。

「楽器の製作・修理・調整の仕事は、いいと思う音かどうかのせめぎ合いの部分を、自分の耳で感じながら手を動かし、はっきりさせていく。その繰り返しです」

働いている人たちに話を伺っても、いい音を目指して感覚を研ぎ澄ませていく姿勢が印象的でした。

弦楽器の製作から、修理・調整、販売まで手がけるシャコンヌで、店舗の技術職と営業事務職を募集します。

 
向かったのは、シャコンヌ本店のある愛知・名古屋。

名古屋駅からは地下鉄東山線に乗り換え、1駅隣の伏見駅で降りる。

白川公園方面へ歩くこと5分ほどで、シャコンヌのお店の入ったビルに到着する。

ビルの2階は、楽器の保管室兼展示ギャラリーと、お客さんが気軽に利用できるサロン。3階は店舗兼工房になっている。

2階で迎えてくれたのは、冒頭でも紹介した創業者の窪田さん。

実は窪田さん、もともとバイオリン製作を専門に学んできたわけではないという。自分で製作をはじめたのは、9年ほど前のこと。

「大学を出て貿易会社に勤めていたとき、ヨーロッパの弦楽器オークションについて知ったんです。経験も何もなかったけれど、とにかく音楽が好きで。どうしても楽器に携わりたいと、ディーラーになるためヨーロッパに渡りました」

何度もオークションに通ううち、弦楽器の製作者や修理者との交流も生まれ、鑑定する眼が養われていった。

安い値段で売られているものの中にも、「いい楽器」が隠れていることがわかるように。

たとえば、1600年代~1800年代初頭につくられたとされるオールドバイオリン。

窪田さんは、オークションでオールドバイオリンを仕入れては解体し、修復していく。

「余分に塗られたニスをはがした状態で楽器を鳴らしてみると、いい音が鳴るんですね。特に低い音は響くような感じがして」

「なぜだろう?と、試しにオールドバイオリンの板面を指の関節で叩いてみると、太鼓の皮のようなボンボンという低い音がする。同じように現代のバイオリンを叩いてみると、カンカンと高い音がする。すごく差があるなと感じたわけです」

現代のバイオリンのつくり方は、ストラディバリウスの形を真似て、板の厚みをミリ単位で計り、それに合わせてつくるのが一般的。

けれど、ストラディバリウスをはじめオールドバイオリンのほうが、いい音がする。単に形を真似ることよりも、もっと本質的なことがあるんじゃないかと、窪田さんは考えた。

「バイオリンは、ひょうたん型のような表板と裏板、横板の箱からなります。非常に複雑な形です」

「ストラディバリウスのつくられた時代に特殊な測定器はないだろうから、機械で測ってつくったとは考えにくい。自分の身の回りにある法則から学びながら製作していたと思うんですね」

そう言って、窪田さんはボールを例に挙げながら話を続ける。

「鞠やボールを最もシンプルな形の箱だとします。同じ強度でできているボールは、よく弾むもの。バイオリンという複雑な形をした箱も、すべての部分が振動しやすくなれば、音が響くようになるはずです」

「ではどうするかというと、木は年輪や節などによって強度が異なるので、板面を叩いたときの音程を合わせて、強度を一定にしていく」

ある理論に則って基準にする音程を決め、板面を叩いて音を聴き、基準の音程より高ければ削る。音程が合うまでそれを繰り返す。

さらに、木はしばらくすると削ったところが酸化して硬くなるため、時間をおいてはまた削り、音を合わせる。そうしてやっと、安定した響きを維持することができるのだという。

「どこを削っているか目で追いながら、音を感じて、耳でつくるという感じです」

 
もう一つ、大事な要素となるのが、ニス。

ニスを塗って乾いた面は、金属に近いような硬さに変化するから、少量でも音の差に大きな影響が出るのだそう。

シャコンヌでは、松ヤニを煮込み、それを油で溶いたニスを使用している。煮込む時間や油と混ぜる比率など、無限にある組み合わせからベストな状態を研究し、見つけ出したもの。

そのほかにも、改良を重ねてきた。

そして2017年4月、新しくつくりあげたバイオリンの音を研究者と協力して測定すると、なんとストラディバリウスの音とデータがほぼ一致するという結果に。

「遠くまでよく鳴るし、音色もいいし、力を入れなくても弾きやすい。自分でつくったものに対する信頼は、以前よりも安定してきているのかな」

「それでもやっぱり、未だに製作していると行き詰まって苦しいときもあって。ちゃんとやるということは、本当に時間のかかることだからね」

 
これからは、今までつくってきた楽器と同じレベルのものを、どれだけ多く世に送り出すかが重要だと、窪田さん。

そのためにも、技術を受け継いでいく人を社内で育てていきたい。

新しく技術職の一員となる人は、研修を経て、楽器の修理や調整を手がけていくことになる。

2018年2月に入社し、技術職として働く藤原さんにも話を聞かせてもらった。

北海道出身で、もともとはお客さんとしてシャコンヌのお店に足を運んでいた藤原さん。取材当時まで名古屋本店に勤務し、現在は札幌店で働いている。

「修理や調整の仕事をするようになって感じたのは、楽器を弾くだけだったときには想像もしなかった裏側の大変さというか。繊細な楽器だからこそ、とにかく正確さが求められます」

たとえば、それぞれのパーツにほんのわずかな形の歪みがあるだけでも、音色が変わってしまう。理想の高さや厚み、丸みへと仕上げるため、緻密に形を測りながら面を削っていく。

「駒と魂柱というパーツは、形の精密さはもちろん、取り付ける位置関係も音の鳴り方に大きく影響します。だから、楽器を叩いたときの音をきちんと確かめながら、いちばんいい音のなる位置がどこかを見定めていきます」

いい音というのは、仕事をしていくうちに分かっていくものでしょうか。

「音というのは目に見えるものではありません。だから、“何がいい音か”を理解するのは難しいです。でも、窪田会長の調整したバイオリンの音を聴くと、ものすごくいい音だというのが直感的にわかるんです」

「楽器の修理や音の調整をするときは、その音をイメージしながら手を動かして、わからないことがあればすぐに先輩に質問したりアドバイスをもらったりしていました。ベテランの先輩たちのレベルに達するのは難しいけど、少しでもいい音に近づけるようにと、日々心がけています」

きっと感覚や技術を磨き続けていくような仕事なのだと思う。

藤原さんにとって、毎日の支えになっているのはどんなことだろう。

「僕はもともと、バッハやハイドン、モーツァルトなど…ドイツ音楽がものすごく好きで。専門の学校には通っていませんが、高校生のころから個人教室の先生のもと、バイオリン演奏や音楽理論、音楽史、ドイツ語と、いろんなことを学んできました」

「これまで僕の中に蓄積されてきたことは楽器とともにあって。バイオリンを見ていると、音楽と一体になって感じられるというか。どんな仕事でもつらいことはあるけど、弦楽器に触れられること自体、ありがたい仕事だと思っています」

技術職と言っても、楽器の修理や音の調整をするだけでなく、お店での接客や事務仕事、営業も行う。

「お店にやってくるお客さんは、完成形の楽器を受け取ります。つまり、すでにいい音が鳴る状態になっている。でも、どういう仕組みでそうなっているかは知らないことがほとんどです。技術の仕事をしているからこそ伝えられることは、積極的に話すようにしています」

自分が手がけたものが、目の前のお客さんの手に渡っていくところまで関わる。実感を伴いながら働ける環境だと思う。

 
最後に紹介するのは、名古屋本店で営業事務職を務める松田さん。

「就職活動中に、自分のやりたい仕事がわからずにいて。そんなとき日本仕事百貨でシャコンヌの記事を見つけたんですね」

「小学生のころから大学入試に臨むまで、バイオリンを趣味に弾いてきたので。今からでも関わることができたらうれしいなと思って、応募しました」

昨年4月に新卒で入社。

基本の仕事は、来店したお客さんに楽器を紹介すること。

ほかにも楽譜の管理や電話問い合わせの対応など、さまざまな役割を柔軟に担っている。

「入社して少しずつ仕事を覚えながら、慣れてきたらどんどんやってみようという感じだったので。自分で仕事を見つけて動いていかないといけないなと、すごく感じました」

具体的にはどんなふうに?

「そうですね。楽器のことを知っていないと自信をもって紹介できないので。時間のあるときには製作された時代や土地、歴史についての資料を見たり、わからないことがあれば技術職の方に質問したり」

「それから、お店にある楽器を自分で弾いて、どういう特徴の音だなと考えながら、人に伝えられるように意識しています。たとえ経験がなくても、そういうことに興味を持てる人は向いていると思います」

来店するお客さんは、これから楽器をはじめるビギナーもいれば、プロで活動している演奏家もいる。

「初心者のお客さまだと、何を基準に選べばいいかわからないと思います。そのなかでも、これがいい!と思って買ってもらいたくて」

「どんな楽器か紹介しながら実際に触ってもらったり、必要であれば私が音を鳴らしたりしながら、お客さまの話を聞いていきます。楽器を購入したあとの調整や修理についてもご紹介して。その日買ってもらわなくても、シャコンヌを選んでもらえたらなと思って接しています」

普段のお店での業務に加えて、春と秋の年に2回、全国各地で開催する楽器の展示会にも数回出向く。

ほかにも、学生オーケストラやバイオリン教室をひらいている先生のところへ楽器の点検に行ったり、弦の販売に行くこともあるそう。

最初はわからないことも多いと思うけれど、身近に職人たちがいて、どうやって楽器がつくられているか、気になることはどんどん聞いていける環境だと思う。そうやって得た知識は、営業の仕事にも活かせるはず。

いい楽器と、職人の仕事に触れる。

そして日々学びながら、自分のものにしていく。

ここでなら、地に足つけて、いい音に向き合えると思います。

(2018/08/03 取材、2019/07/03 更新 後藤響子)

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