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探究する老舗
革新の香り

店先にふわりと漂う、甘い線香の香り。

引き寄せられるようになかに入ると、昔ながらの線香とともに、色とりどりの箱に収められたお香やキャンドル、フレグランスオイルが並んでいる。

古くからの伝統と、今の時代性を汲み取った革新。薫玉堂(くんぎょくどう)のお店からは、その両方の要素を感じます。

株式会社負野薫玉堂。京都に創業し、香りをさまざまな角度から探究し続けてきた日本最古の香老舗です。

425年の長い歴史を持つ老舗は5年前にリブランディングを決断。香りの総合ブランドとして、新たな歴史を紡ぎはじめています。

今回募集するのは、東京のKITTE丸の内店をはじめとする首都圏店舗の販売スタッフ。あわせて、京都本社の営業スタッフと、工房の製造スタッフも募集します。



よく晴れた、初夏の京都。

京都駅の改札を抜けて大きな通りに出る。梅雨の湿った空気に汗ばみながら15分ほど歩くと、やがて西本願寺が見えてきた。

薫玉堂の本店は、国道1号線を挟んだその向かい側にある。

玄関に置かれた香炉からは、涼しげな香りが漂ってくる。これは白檀の香りかな。

ゆっくりと店内へ歩いていくと、「お久しぶりです」と柔らかな声が聞こえてきた。

迎えてくれたのは、ブランドマネージャーの負野千早さん。お会いするのは昨年の取材ぶり。

前回の取材は、東京丸の内のお店がオープンする前のことでした。

「そうでしたね。東京のお店も無事に始まって、おかげさまで1周年を迎えて。新しい方たちも入社してくれましたし、社員の間でもリブランディング商品が浸透してきたように感じます」

「本当に少しずつだけれど、変わってきているのかなって。今日は、今の薫玉堂を伝えられたらと思っています」

文禄3(1594)年に、本願寺出入りの薬種商としてこの地で創業した薫玉堂。以来、日本最古の香老舗として、主にお寺に向けた線香をつくり続けてきた。

一方、近年は宗教離れが進んでいる。線香は、お寺はもちろん、毎日お仏壇に手を合わせる習慣によって支えられてきたものの、今はお仏壇のない家庭も多い。業界全体として、下降の一途をたどっているという。

「何かを根本から変えなければ薫玉堂は助からない、ずっとこのまま小さくなってゆく、って。本当に危機感がありました」

そのなかで出会ったのが、工芸に携わる企業の経営やブランディングを広く手がけてきた中川政七商店。この出会いをきっかけに、2014年、薫玉堂はリブランディングに取り組みはじめる。

「まずは自分たちが何者かということに立ち返って考えていったんです。社員にも一緒に考えてほしいって声をかけて、自分たちの強みと弱みを書き出していきました」

たどり着いたのは、『香りの総合ブランド』という言葉。

「薫玉堂は古くから『御香調進所』と看板に掲げてきました。お客さまお一人おひとりにふさわしい香りをあつらえて、体裁を整えてご用意できるのが、薫玉堂の強みです」

「薫香という限られた世界でのものづくりにこだわるのではなく、“香り”というより広い土俵で勝負してみよう。これからは、日本最古の御香調進所として舵を切っていきましょうと決めました」

数百年にわたって培ってきたお寺とのつながりを大切にしながら、これまで線香や香りに触れてこなかった人も足を運びたくなるような薫玉堂へ。

そんな目標のもと、新しい商品の開発にも取り組みはじめる。

「いろんなシーンでの香りという視点で展開していこうと考えていて。気分やシチュエーションによって香りを選んでいただけたら、と思っています」

天然香料を主とした伝統の調香レシピを紐解き、現代の生活にも馴染むように仕上げた部屋焚き用の線香。

さらには、京都で採れる季節の素材を使ったハンドクリームや、草花の香りをイメージしたバスソルトなど、洋風の商品も手がけるように。

新しい取り組みに、最初は社内でも戸惑いの声が上がったという。お客さまから「薫玉堂は変わってしまった」と思われるかもしれない、という不安もあった。

「けれどリブランディングから5年が経って、社員も自信を持って薫玉堂の取り組みを紹介できるようになったと思います。リブランディング後の香袋を法衣に入れていると教えてくださるお寺さまもいらっしゃって」

「悩みは絶えないけれど、少しずつでも、前に進んでいると感じています」

そんな積み重ねのなかで、昨年の4月、丸の内の商業施設KITTE内に新店がオープンした。

『香りを誂える(あつらえる)』というショップコンセプトのもと、自社商品のほかにもスキンケア商品やルームフレグランスなど、香りを選べるアイテムを国内外から広く集めている。香袋や線香など、オリジナルの香りをつくる調香体験も人気なのだとか。

丸の内店は、薫玉堂の今をかたどったフラッグシップのようなお店。

来年には、丸の内店に続く新店舗が、横浜駅の周辺商業施設にオープンすることも決まっている。

今回募集するのは、これら首都圏の店舗で働くスタッフ。千早さんは、どんな人に来てほしいですか。

「何より笑顔がいい方に来ていただきたいですね」

「香りが好きで、商品が好きで… 拙くてもいいから、一所懸命に伝えてくださる方なら、お客さまとの関係をすてきに構築していけると思っていて。いつか『あのスタッフから買いたい』とお客さまに信頼いただけるようになったら、とても嬉しいですよね」



丸の内店で店長を勤める柴田さんは、まさにそんな方だと思う。

京都本店で販売スタッフとして働いたのち、企画部でリブランディングに関わるように。今は企画部と兼任する形で、月の半分ほど店頭に立っている。

「曜日や時間帯によっていろんなお客さまがいらっしゃいますが、20代から40代の女性の方が多いですね。若い方はお香に興味は持ちづらいかなって想像していたんですけど、蓋を開けてみると、楽しんでくれる方もたくさんいらっしゃいました」

丸の内店では、気になった線香を試し焚きすることができるのが特徴。その香りにつられて入店する方も多いのだそう。

私も、以前お店を訪れたことがある。

気になる香りを試したり、線香ごとの特徴を聞いたりしながら商品を選んでいくのは、新鮮な体験だった。

「覚えるべきことはかなり多いですね。商品知識はもちろん、素材一つひとつの特徴からお香の歴史、ご進物のときの体裁も。最初は大変かもしれません」

「でも、知識は必ず接客で生きてきます。自信を持って堂々とお伝えできると、まさに香りのスペシャリストとして見ていただける。お香に詳しいお客さまから質問をいただいたときも、さらりと答えられたらとても格好いいし、信頼も深まると思うんです」

2年目を迎えた今年の目標は、お客さまの満足度を上げ、お店全体の売上を伸ばしてゆくこと。スタッフ間でお互いにアドバイスをしながら、スキルアップをはかっているところだという。

「とくに初めてのお客さまは、どの香りにしようか迷われる方が多いです。長い時間悩まれてそのまま帰られたときには、『どんなお声がけをしたらよかったかな』『今度はこんなふうにおすすめしてみたら?』って話し合うようにしていて」

「香炉一つとっても、色や形だったり、作家さんが込めた想いだったり、その方に響くものが何かしらあるんです。こちらのひと言がきっかけで『これにするわ』と言っていただけたときは嬉しいですね。自分の接客がどう生かされたのか、目の前でわかる面白さがあります」

丸の内店では、お客さま一人ひとりに声をかけて、気軽に体験してもらうようにしている。週末などお店が混雑して忙しいときも、声かけは怠らない。

そうした関わりのなかで、最近はスタッフ一人ひとりにファンがつきはじめているのだとか。

「この間接客してくれた店員さんですよね、って声をかけてくださる方や、なかには私たちの名前を覚えてくれる方もいらっしゃって。自分の接客が目に見える形で評価いただけるお店だと思います」

「1年お店を運営してきて、今が一番いい雰囲気です。お客さまへはもちろん、スタッフにも思いやりを持って接する。そんなことが自然とできるお店であり続けたいですね」



丸の内店と新店が新しい薫玉堂を伝える場だとすれば、京都本店はこれまで重ねてきた歴史を守り継いでいく場だと思う。

「たしかに首都圏のお店とここ本店では、同じ接客販売でも雰囲気がまったく異なると思います」

そう話すのは、本店で働く販売スタッフの河井さん。

服飾雑貨や輸入食材の販売スタッフなどを経験し、薫玉堂に入社したのが1年前のこと。日本の伝統的なものに関わる仕事がしたいと転職を決めた。

「本店には、観光客の方、海外の方、常連のお客さま…いろんな方がいらっしゃいますが、主なお客さまは長くお付き合いのあるお寺さまです」

「ご来店いただいてから選ぶというより『毎年この時期にお線香を買っているのだけれど』とお声がけいただいて、体裁を整えてお渡しすることが多いですね。老舗ならではだと感じます」

商品はきちんと包装紙で包み、のしを巻く。水引の色によって表書きの墨色を選んだり、用途ごとに文字の大きさを変えたり。

ときには、「薫玉堂さんなら」と商品の選択や体裁などを一任されることもあるという。

「今まで働いていたお店がカジュアルな雰囲気だったこともあって、こんなにきっちりとした接客は初めてでした。京都の老舗ということである程度想像はしていたんですけど、それ以上に覚えるべき知識やマナーが多かったですね」

今は知識や経験を蓄えている真っ最中。日々の接客のほか、会社が主催する聞香体験にもアシスタントとして参加していて、お手前を学んでいるという。

首都圏のお店とは、また雰囲気の異なる本店。それでも大切にしていることは変わらない。

「薫玉堂は今、変化を迎えている時期です。昔ながらの伝統も大切にしつつ、新しいものを生み出していく。そんな変化も受け入れて前に進める、柔らかな方と一緒に働けたらと思っています」



取材を終えて、『京のせせらぎ』という線香を買って帰ることに。

寝室で焚いてみると、どこか懐かしく、甘い香りが漂う。深く息を吸い込むうちに眠気がやってきて、穏やかな時間を過ごすことができました。

後日、スタッフの方からいただいたメールには「湿気の多い時期には香りがたつので、私は梅雨が好きです」というひと言が。なるほど、そんな季節の楽しみ方もあるんだな。

人々の生活やお寺の日常をそっと彩る、京生まれの香り。薫玉堂はこれからも、心地よい時間を届けていくのだと思います。

(2019/06/28 取材、12/05 再募集 遠藤 真利奈)

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