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暮らしを豊かにしてくれる、食。おいしさはもちろん、安心して食べられるかどうかも大事な要素だと思います。
今回紹介するのは、“おいしさ”と“安心”、そのふたつが両立するように、とことんこだわり抜いたものづくりを続けている人たちです。

10年前にこの工房を立ち上げた職人の山内啓輔さんが、2代目となる弟子を育てはじめたのが、2年前のこと。
今回は、その技術を引き継ぎ、無添加のものづくりをさらに広げていく人を募集します。
ハム以外にも、チーズなどのものづくり職も合わせて募集しているので、こだわりの食に関わってみたいという人はぜひ続きを読んでみてください。
(取材はオンラインで行いました。現地の写真は提供いただいたものを使用しています)
ハム工房古都があるのは、京都の南部。長岡京にほど近い、大山崎町というまちの一角だ。
代表の山内さんがものづくりを始めたのは、20年ほど前。親戚が趣味でやっていた、ハムやソーセージづくりを自分でも試してみたのがきっかけだった。
「料理が好きやったんで、最初からわりと上手にできたんですよ。これはいけるんじゃないかと思って、工房へ修行に行ったんです。その半年後に、親戚と一緒に大阪でお店を始めました」

ドイツの有名なコンテストで賞を獲るなど、質の高さが認められてきたとき、お店にある手紙が届く。
「『アレルギーのある孫においしいソーセージを食べさせたいと思ったけど、低添加でも症状が出てしまった。完全無添加のソーセージができるならつくってほしい』ということが書いてあって」
「自分自身がアレルギーに苦しんでいた時期もあって、食が大事というのは身をもって感じていたんです。手紙を読んで、低添加じゃだめだと。もっとみんなに喜ばれるものをつくらなあかんと思って、無添加にチャレンジしようと決意しました」
とはいえ、添加物を使わずに食肉加工品をつくるのは、業界の常識的にはかなり困難なことだった。
一緒にお店をしていた親戚には、むずかしいからと止められ、喧嘩をしてしまうこともあったという。そして山内さんは、独立して一からレシピを研究する道を選んだ。

それらは肉の味をよくしたり、日持ちを長くしたりなど、消費者のメリットになるようにと工夫して使われているもの。
使わないことによるデメリットも多く、無添加のレシピづくりはかなり困難だったそう。
「たとえば、通常は結着剤っていう、肉をほどよく固める添加物を使うんですが、無添加だとそれは使えない。すると加熱したときに、水分が外に出てボソボソした食感になってしまうんです。食感の表現には一番苦労しましたね」
肉と油を合わせる工程も、無添加で均一に混ぜることはむずかしい。
そのため、より質の良い肉を使い、なおかつ製造過程の温度を厳密に管理する必要があった。
企業秘密なところが多いんですが、と笑いながら話してくれているけれど、レシピを完成させるには数々の壁があったはず。
安定しておいしいものをつくれるようになるまで、5年ほどかかったそう。現在はイノシシやシカといったジビエのソーセージもつくるなど、無添加食品の可能性をさらに広げている。

そう考えていたときに出会ったのが、株式会社ありがとうサービスだった。
ありがとうサービスは、愛媛県の今治市に拠点を置き、モスバーガーやブックオフなど全国チェーンのフランチャイズ事業を中心に手がけている会社。
3年ほど前からは、すぐれた食や景観をつなぎ、地域全体の魅力を高めていく「しまなみサンセバスチャンプロジェクト」をスタート。愛媛周辺のチーズ工房や温浴施設などの運営も引き受けている。
「井本社長が偶然うちの商品を食べて、無添加でつくっていることに驚いて会いに来てくれたんです。サンセバスチャンプロジェクトも面白いと思ったし、話しているうちに、鉄分豊富なジビエのソーセージをアスリート向けに提供できたらいいんじゃないかとか、新しいアイデアも出てきて」
「サンセバスチャンプロジェクトでも、将来的に無添加のハムづくりをいくつかの地域でやりたいということだったので、じゃあつくり方を教えますよって、2年前から一緒に事業をすることになりました」
そこで、まずはありがとうサービスの社員が山内さんのもとへ弟子入りすることに。
抜擢されたのが、当時フード事業部にいた越智(おち)さんだった。

入社後しばらくは、フレンチの厨房で働いていた越智さん。サンセバスチャンプロジェクトのことは聞いていたものの、弟子入りの話を聞いたときは驚いたそう。
「最初はえっ!って思いました。ソーセージがあまり好きじゃなかったんですよ(笑)。スーパー行っても買わないし、味とか油が濃くて、あまりおいしいと思えなくて。でももしソーセージをつくれるようになったら、自分でお店をするときに強みになるなと。いい経験になると思って、京都に行くことを決めました」
「ここに来た最初の日に、山内さんが『食べてみて』って、ソーセージを食べさせてくれたんです。そしたら、今まで食べてたのとぜんぜん違う!って感じて」
どう違ったんでしょう?
「やっぱり味ですね。ぜんぜん違う。市販のソーセージは油もきつく感じるんですけど、古都のソーセージは何本でもいけちゃう。さっぱりしているけど、お肉の風味がしっかりあって、すごく優しい味がする。無添加でつくるとこれだけおいしいんだって、びっくりしました」
添加物を使用しないぶん、素材そのものの質がダイレクトに表れる。お肉は、甘みと柔らかな肉質が特徴の、京丹波高原豚を使用しているそう。

「手作業で腸に生地を詰めてひねるんですが、これがむずかしいんですよ。天然の腸を使っているので太さもバラバラだし、たまに破けてるのがあったりして」
「ひねる力加減も、強すぎると加熱後に破けてしまうし、逆に弱いとパリッとした食感にならない。ちょうどいい加減でひねるのがむずかしいですね。今でも破けてしまうことがあります」
月曜日から木曜日のあいだに加工し、金曜日にまとめて出荷するというスケジュール。パッキングもほぼ手作業で行い、保存可能期間が長くなるように加熱処理を施すため、工数は多い。
面倒に思えてしまう作業も、無添加だからこそ。ぶれずに続けていく気持ちが大切なんだろうな。

そのため、今回新しく来る人は越智さんに続く3代目として山内さんに弟子入りすることになる。また古都以外にも、ハムやチーズなど、ありがとうサービスと一緒にものづくりを進めているところがあるので、応募する人の希望に応じて働く場所は相談したいとのこと。
「なんていうのかな…気持ちの強い人がいいと思うんです。ただお金が欲しいから仕事をするんじゃなくて、思いを持ってがんばれる人」
「僕だったら将来的に自分のお店を出したいというのがあるし、山内さんのようにハムやソーセージを極めていくんだっていう人でもいい。なんの目的もなくただ就職したいっていう人はいやなんですよね(笑)」
すると、隣で聞いていた山内さんがこう続ける。
「越智くんはちがうからね。言ったことはきっちりやってくれるし、考え方もしっかりしている。彼には仕事も任せられるって、信頼してるんです。息子みたいな年の差やけどね(笑)」

実際にパッケージを見せてもらうと、思ったよりも大きな字で「山内啓輔作」と書いてあった。
いいものをつくれば、それはおいしさを保証する目印になるし、質を落としたり何か問題が起きたりすれば、責任がすべて降りかかる。勇気のいることだと思う。
「これから先、2代目3代目の山内啓輔を生み出したいっていうのが目標なんですよ。ものづくりを通して人を喜ばす。そんな人たちを増やしていきたい。越智くんには2代目山内啓輔って名乗ってほしいなと思っていて。これがどんどん続いていったら面白いなとと思ってるんです」

失敗を重ねながらも、山内さんがこれまで続けてこれたのはなぜだろう。あらためて聞いてみる。
「無添加でつくっているとね、『つくってくれてありがとう』って言われるんですよ。求めている人にとっては、ソーセージの概念がひっくり返るようなものを僕らはつくっていて」
「やっぱりその言葉があるから、10年間続けてこれたんです。それがなかったら多分続けられなかったと思う。単純につくって売るだけじゃなくて、喜んでくれる人がいる。だからこれからもつくっていく。そんな思いを一緒に持ってくれる人が来てくれたらいいなと思います」
後日、ソーセージを注文して食べてみました。
ふたりが話してくれたように、さっぱりとしながらもしっかりとお肉の味がする、優しい味わい。実際に食べると、余分なものが入っていないというのがよくわかる気がする。
添加物のことや、名前を継いでいくこと。もちろん真剣に向き合わなければいけないことだけれど、まずはこうして食べてみて、おいしいと感じる。その感覚さえあれば、未来へつなげていくための下地は、すでにできているように感じました。
ハム工房古都以外にも、ありがとうサービスではハムやチーズなど、こだわりの食に携わる人を求めています。
興味が湧いた人は、ぜひ応募してみてください。奥深いものづくりの世界でチャレンジできる環境が、ここにはあると思います。
(2021/1/18 オンライン取材、2021/9/17 更新 稲本琢仙)
※撮影時はマスクを外していただきました。