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この町の子が
憧れる高校をつくろう

副業やリモートなど、柔軟な発想で関係人口を迎え入れている地方都市、豊かな森林資源の循環型活用に取り組む町、ゴミを出さないゼロ・ウェイストを宣言した町など。

全国各地を訪問していると、「あそこは面白い」とよく名前を聞く場所があります。

今回紹介する北海道厚真町(あつまちょう)もそんな自治体のひとつです。

サーフィンのメッカであり、最近ではローカルベンチャーが活躍している厚真町。この町唯一の高校を舞台に、高校魅力化プロジェクトが本格的に始まろうとしています。

地域の大人を巻き込んだサーフィン部や陸上部、生徒それぞれの学力や興味にあわせて学べる公営塾など、「厚真でしか体験できないこと」にこだわるこのプロジェクト。

その核となる塾のオープニングスタッフを募集します。



新千歳空港で飛行機を降りると、キンと冷たい空気に包まれる。2月末の東京はコートもいらないくらい暖かい日もあるけれど、こちらは昼間も氷点下でまだとても寒い。

空港で車に乗り換えて、厚真へと向かう。あたり一面真っ白で、遠くに森や馬の姿も見える。ああ、北海道に来たんだなあと実感がわいてきた。

景色を眺めながらドライブすること30分。厚真の教育委員会をたずねると、課長の宮下さんが迎えてくれた。

宮下さんは今回のプロジェクトの中心人物であり、厚真の波に惹かれて移住してきたサーファーでもある。

「厚真には、浜厚真(はまあつま)っていうサーフィンのメッカがあるんです。年間6万人が訪れる一大スポットで、ぼくも夏は週5で波に乗っています。サーフィンしてから出勤するのが気持ちいいんですよね」

冬でもサーフィンをするというパワフルな宮下さん。

厚真に引っ越してくるまでは、子どもたちの野外活動プログラムを企画運営する仕事をしていたそう。

その経験を活かして、厚真でも子どもたちの放課後教育に関わってきた。

たとえば、小学校の校舎でおやつづくりや工作、野外活動などをして過ごす「放課後子ども教室」。地域の大人と子どもが一緒に遊具やウッドデッキをつくり、自分たちで遊び場を生み出す「冒険の杜プロジェクト」など。

森で馬と一緒に遊んだり、薪を割って焚き火をしたり、新雪の急斜面をそりで滑ったり。宮下さんが見せてくれる写真からは、子どもたちのドキドキやワクワクが伝わってくる。

「もともと厚真町営の学童保育は、ビデオを見て親の迎えを待つような場所だったんです。これだけ豊かな資源があるのに、子どもたちに届いていない。なんとかできないかと思って、場づくりを始めました」

「厚真っていいところだったよねといつか思ってもらえるように、ふるさとの匂いや記憶を、経験としてどんどん埋め込んでいきたいと思っています」

その想いは、4月から本格的に準備が始まる高校の魅力化プロジェクトにもつながっている。

舞台となるのは、北海道厚真高等学校。町唯一の高校だ。

「この10年で、厚真高校に入学する地元の子の数はガクンと減っています。要因はいろいろあるんですけど、そもそも厚真の子どもや親御さんたちが、厚真高校にあまり魅力を感じていないことが大きいんじゃないかと思っていて」

人口4500人の厚真町。小さいころから同じメンバーで過ごすため、「広い世界を見たい」と、隣の苫小牧市に進学する子が多いそう。

町も高校を支えようと、生徒に支援金を給付。入学者数はいっとき増えたものの、途中で退学する生徒も多かった。

「目標や希望がないまま進学しても、生徒自身が苦しい。子どもたちの外に出たいという気持ちもわかるんです。ただ、厚真じゃ広い世界に出会えない、というのは違うんじゃない?と思っていて」

「これからは経済的な支援だけじゃなくて、根本的に学校を変えていきたい。『厚真高校に行ったらあんなことができるかも』って希望をもてる学校にしたいんです」

町が主体となって立ち上げる厚真高校の魅力化プロジェクト。

その軸となるのが、厚真にこだわった体験や学習の場のデザインだ。

「厚真高校は、生徒数の減少と比例して部活動も少なくなりました。授業が終わったらすぐに帰る生徒も多い。充実した時間を過ごせるようにいろんな仕掛けを用意していきたくて」

「その一つとして、新しい部活動をつくりたいと思っています。陸上部とサーフィン部です」

厚真には砲丸投げの元トップ選手が住んでいて、その方を中心としたスポーツ少年団が活発に動いている。このチームに高校生も迎え入れていきたい。

そしてサーフィン部。宮下さんはじめ有志の大人がコーチとなって、高校生と一緒に波に乗れたらと考えている。

どちらも学校の先生ではなく、地域の大人がコーチになる。部活動というより、地域クラブに近いかもしれない。

「厚真の大人と高校生とのかかわりを何よりも大切にしたくて。田舎でもできることじゃなくて、厚真だからできることにこだわりたいんです。プロジェクトのもう一つの肝になる塾も、それを体現していく場所になると思っています」



続けて話を聞いたのは、同じく教育委員会の南部さん。厚真高校のOBで、宮下さんいわく「役場でいちばん高校に通っている」方だそう。

「厚真高校の生徒さんとは、一緒にボランティア活動や農業体験をしていて。みんな素直で一所懸命で、すごくいい子たちです」

「だから『厚真高校には行きたくないから、苫小牧に行けるように頑張る』という今の風潮がすごく悔しくて。高校の魅力になるような塾をつくりたいと、ずっと思っていたんです」

高校の魅力になるような塾。それってどんな場所だろう?

「もちろん学校の予習や復習もしますが、それだけではなくて。厚真にかかわる大人と高校生をつなげる場所にしていきたいと思っているんです」

厚真は、地域で自ら仕事をつくる人をサポートする事業「ローカルベンチャースクール」をきっかけに交流人口が増加し、5年連続で人口が増えている全国でもめずらしい地域。

起業家や地域おこし協力隊、移住者など、さまざまなバックグラウンドをもつ人が日本中から集まっている。

一方で、高校と町の中心部が離れていることもあって、今は高校生と大人たちとの接点はほとんどないのだそう。

「これだけ面白い大人がたくさんいるのに、すごくもったいないなと思っていて。高校生って学生ですけど、もうすぐ大人の世界が待っているじゃないですか。そういう子たちにとって、大人になっても夢に向かってチャレンジし続けている人たちとの出会いは、良い影響を与えてくれると思うんですよね」

目指すのは、大人たちと日常的に関われる環境づくり。今回募集するスタッフは、ここに力を注いでもらいたい。

まずはスタッフ自身が町の大人たちとつながり、塾に遊びに来てもらったり、授業をひらいてもらったり。いろいろな方法が考えられる。

「構想はあるんですけど、具体的にどうしていくかを決めるのはこれからで。役場と高校、塾スタッフで話し合いを重ねていきたいです」

教育関係の資格や経験については、どうですか。

「とくに求めません。勉強を教えられる人というより、生徒の拠り所になってくれるような方がいいですね。いろんなバックグラウンドをお持ちの方に来てもらえたらうれしいです」

スタッフは地域おこし協力隊として採用される。現時点では未定なものの、3年間の任期満了後も、コーディネーターのような立場で関われるような仕組みをつくっていきたいと、宮下さんと南部さんは話す。

塾は、2022年度のオープンを目指している。

オープンまでの一年間は、「打ち合わせだらけになるはず」とのこと。全国で公営塾の運営をサポートしている民間のコンサルタントとも連携しつつ、少しずつ土台を整えていく。

「高校の先生にもぼくたちの考えを説明して、厚真高校を変えていこうという空気を少しずつつくっているところです。腹を割って話してくださる先生もいらっしゃって、この人たちとなら面白いことができそうだなと感じています」

宮下さんも話を続ける。

「厚真高校は一学年40人しか枠がありません。ある意味では、ちゃんと一人ひとりと向き合える環境がここにはある。40人いたら40通りのやりたいことや興味関心に応えていけるような、そんな場所をつくっていきたい。ぼくらと一緒に、そんな夢を見てくれる人を求めています」



取材では、こんな大人を高校生に紹介したいなと思う方にも出会った。その一人が、厚真でベンチャー企業を立ち上げた成田さん。

成田さんはお隣の千歳市出身で、自動車大手のトヨタに勤めていた。今はその経験を活かして、地域の人が運転手となって「乗りたい人」を支えるモビリティサービスを開発している。

昨年からは、厚真出身の仲間とともに交流拠点『イチカラ』を運営したり、厚真に関わる起業家たちと新会社を立ち上げたりと、厚真に新しい風を吹かせているみたい。

「東京でバリバリ仕事をしてきた起業家、馬やキノコなど厚真の資源をつかって新しいビジネスをつくろうとしている経営者、地域で起業したい人を支えるメンター、役場の課長。そういう大人たちがイチカラに来て作戦会議をするんです」

「で、その隣で地域のじいちゃんばあちゃんがコーヒーを飲んで、中学生がキャッキャとおしゃべりしている。普通に生活していたら出会わないような人たちが隣り合うのが面白いですよね」

塾も将来、こんなふうになっていけばいいだろうなと想像してみる。

時々やってくる大人を「何をしているんだろう」と眺めたり、子どもの会話に大人が入っていったり。その先で想像もしていない出来事が起こるかもしれない。

成田さんは厚真にかかわる大人として、これから生まれる塾をどう見ているんだろう。

「今って、ツールさえ整っていれば一通りの勉強はできるじゃないですか。これからの教育に必要なのはむしろ、ヘンな大人のサンプルを増やすことだと思っていて」

ヘンな大人のサンプル。

「たとえば、聞いたことのない仕事に就いている人とか、この人いつも遊んでそうだけど、どうやって飯食ってるんだ?って人とか。厚真にはそういう大人がめちゃくちゃいるので、こんな人生もアリなんだって背中を押されることもあると思うんです」

「たとえば『実家のハスカップ売るにはどうしたらいい?』という問いに対して『そうだねー、まず資本主義の話をしようか』って会話が生まれたら面白いじゃないですか。そこから勉強って楽しいじゃんとか、大人っていいじゃんって思ってもらえたらいいなと思います」

この町の自然や大人に囲まれて育つ子どもたちは、将来どんな大人になるだろう。

ともに思い描く人を、厚真の人は楽しみに待っています。

(2021/02/27取材 遠藤真利奈)
※撮影時はマスクを外していただきました。

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