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「自分たちはたわしの元祖だから、いつか世の中でたわしが必要とされなくなったとき、その最後の一個をつくれるメーカーでありたい。少なくともその日までは、会社を存続していかないといけないんです」たわしが必要とされなくなる日。それはどのくらい先の未来なんだろう。
いつかは博物館で「昔の道具」として紹介されるだろうか、あるいはロボットアームの先にもたわしが握られているだろうか。
とりあえず今日の日本では、たわしはまだまだ必要とされ続けています。

単純な構造だけど、ほかの道具ではしっくりこないと、プロアマ問わず愛用者は多い。一方で、たわしを使ったことがない世代も増えてきました。
そこで、たわしの元祖である「亀の子束子西尾商店」の人たちは、その魅力を知ってもらう場をつくろうと、東京の下町にフラッグシップショップをオープンしました。
今回はここで働くアルバイトスタッフを募集します。
実物のたわしはもちろん、たわしをプリントしたTシャツや、亀の形のお菓子などいろんなものがあって「この人たち、亀の子束子が好きすぎる…!」と、ニヤニヤしてしまうお店です。
これから入る人はまだ「たわしマニア」である必要はありません。最近はサウナ好きのためのプロジェクトもはじまったようです。気になったら読んでみてください。
根津駅から交差点を渡り細い路地に入ると、昔ながらの商店街。店先のお惣菜に気をとられながら歩いていくと、すぐに大きな煙突が目に入る。

新しく店長を務めることになったのが、入社3年目の早戸さん。これまでは営業やオンラインショップの運営に携わっていた。

たわしと一口に言っても、素材やサイズによって用途はさまざま。
ツルツルした素材には不向きだけれど、ザルやまな板の傷など細かい隙間の汚れをかき出すにはとても優れている。子どものころ上履きを洗うのに、たわしを使った経験がある人は多いはず。
また長年、規格や構造が変化していないという特性から、精密機械の製造や伝統工芸の現場でも活躍してきた。100人いれば100通りの使い方があるといっても過言ではないほど。
なかには体を洗えるほど柔らかい素材のたわしもある。
「たわしで体を擦るって、最初は驚かれるんですけど、ランニングや立ち仕事でむくんだ足をマッサージするとすごく気持ちいいし、洗い上がりのトゥルトゥル感がもう…。それにタワシでマッサージをしてから入浴すると代謝も上がるみたいで。私たちはそれを『たわしング』と呼んでおります!」

すっかり、たわしにはまっていますね。
「SNSを見ているとたまに『すごくたわし愛のある接客を受けた』って、お客さんが投稿してくださっていて(笑)。コミュニケーションを楽しむ感覚はスタッフにも大事にしてほしいなと思います。お客さんから教わることも多いですし、まずは自分が好きなポイントを伝えられたら充分です」

「コーヒーを飲みながら、私たちの会話が耳に入るんでしょうね。帰りしなに、『さっき話していた“健康たわし”って、どれ?』って、買って帰られる方もいます」
レジカウンターには、サブレやラスクなどのお菓子も置いてある。近くのお菓子屋さんやパン屋さんとコラボレーションした商品で、亀の形がかわいい。たわしを買わない日にも、足を運びたくなる気持ちはよく分かる。

「そうですね。今年はサウナハットやタオルなどお風呂用品が新たに加わりました。それがきっかけで、温浴施設とコラボーレションすることになって。また新しい層の方たちにも亀の子束子を知っていただく機会ができたと思います」
お風呂用品、ここがもともと銭湯だったからですか?
「まあ、それもあるんですけど…。直接のきっかけは部長の鈴木が今年、サウナにどハマりしたことだと思います!」
なんて個人的な理由(笑)!ちょっと鈴木さんにも話を聞いてみよう。

「当然向こうは『えっと…、たわし屋さんですよね?』みたいな感じで驚いていましたけど、最終的には面白そうだから一緒にやりましょうって実現して。お店のみんなには『サウナハットをつくります。なんなら、もう発注している』って、ほぼ事後報告でした」
ところがショップスタッフは、ほぼ全員サウナ未経験で商品説明ができない。
そこで鈴木さんは館山の貸切サウナに、スタッフを招待。自らタオルを振りながらサウナの魅力を伝えたという。ちなみに鈴木さんは、この1年でサウナ熱波師の資格も取得済み。

「うちはたわし屋だけど、必ずしもたわしだけを売らなきゃいけないわけじゃない。みんなにも『たわし屋って、そんなことまでやっていいんだな』って、感じてほしいんです」
コーヒーを飲みに来たついでに、たわしを買って帰ったり、サウナという入り口から亀の子束子の存在を知ったり。
長い目で見れば、それがたわしをつくり続けることにつながっていく。

そのときにショップを含む販売部から出てきたのが、「圧倒的で素晴らしい亀の子束子体験を提供する」というテーマ。それをもとに、どうすればお店でお客さんに喜んでもらえるか、日々試行錯誤を続けている。
一方、現場から出てきたアイデアが実現するまでには、一筋縄ではいかないやりとりがあるよう。
「たとえば今年の1月からインスタをはじめたんですが、早戸がやりたいって言いはじめてから運用開始まで、2年かかったんですよ。僕がずっと却下し続けていて」
それはまた、どうして?
「インスタって、はじめたら更新し続けないといけないから、現場が潰れるのが目に見えていた。最近やっとメンバーも揃ってきて、これならできそうだっていう道が見えたので、やりはじめたんです」

決して理不尽な理由でやらせてもらえないわけじゃない。だからこそ早戸さんたちも、ほかのスタッフと相談しながら、あの手この手で鈴木さんに挑み続ける。
鈴木さんが壁のような存在になることで、現場の団結感が生まれているのかもしれない。
今は、お店でポイントカードを導入するかどうかをめぐって、せめぎあっているという。
「やりたい人にはやりたい理由があるし、僕にはやらせない理由もある。どちらかが100%正しいわけじゃなくて、答えはその中間あたりにあるんでしょうね。だから、僕の言いなりにならずに、ちゃんと意見を言ってくれる人が必要なんです」

ある日、お店に立ち寄った鈴木さんは、「たわしクリームパン」を2つ、スタッフが裏に下げるのを見かけた。
「理由を聞いたら、“はるかちゃん”の分だっていうんです。この店の常連さんに、保育園の女の子がいて、以前クリームパンが完売して大泣きしちゃったらしいんですよ。それで、取っておくと。頼まれてもいないのに」

もし来なかったらロスになるかもしれない。えこひいきをしたら上司に怒られるんじゃないか。
そういう心配よりも、まずお客さんを喜ばせたいという思いが先に立って、現場で判断して動いていることがうれしかったと鈴木さんは言う。
「やっぱり人と接することに関しては、現場の彼女たちのほうが長けているわけで、僕は敵わない。そうやって凸凹な人たちが集まってチームをつくるほうが面白い。最初から仕事ができる人なんかいないんだから、ちょっと企画を潰されたくらいで潰れるなよって思います(笑)」

お互いにストレートな言葉で意見を交わせる関係性は、さまざまなことをともに経験するなかで生まれたもの。
谷中店のオープン直前は、夜遅くまでみんなで準備をして、文化祭さながらだった。早戸さんは、そのときの差し入れのお漬物やサンドイッチが忘れられないという。
「お店はオープンしたけれど、まだこれからの部分は多いので、新しく入る人も一緒に『どうする?どうする?』って、現場で考える楽しさを味わってほしいなと思います」

その真ん中にあるのが、たわし。という状況がちょっとシュールで、やっぱり面白いお店だなあと思います。また近いうちに、来よう。
(2021/11/9 取材、2021/12/22再募集 高橋佑香子)
※撮影時はマスクを外していただきました。