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小さな花が
世界を変えるまで

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

休日の朝、いつもよりゆっくり花に水をやる。

休みが終わらなければいいのになと思いながら、土が水を吸い込む様子を眺める。

枯れた花がらを摘み取ろうと、濡れた葉をかき分けると、小さな蕾を発見。たったそれだけでも、休みの後に続く日々が、少し楽しみになる。

植物はそうやって、日常のいろんな場面で、人の気持ちをちょっとずつ前に向かせてくれる。

満開の桜に圧倒される気持ちや、柔らかそうな新芽、ふと鼻に届く香り。自分が植えた花も、知らないうちに誰かの心を和ませているのだろうか。

庭から、通りへ、街へ。花を通して、優しい気持ちの連鎖が生まれたら、それは社会を変える、大きな力になるかもしれません。

今回紹介するのは、そんな循環のスタート地点、花の種を蒔き、育てる仕事です。東京・東久留米にある秋田緑花農園で、花苗の生産に携わる人を募集します。

市場に卸すための苗生産だけでなく、自分たちの直営ショップに並べたり、近所の人が立ち寄れる庭をつくったり。今は、農園カフェや果樹園をつくる計画を温めているところ。

新しい品種の開発や、農薬を減らすための益虫の試験など、ここ数年、農園では新しいプロジェクトが続々動き始めていて、人手が足りていません。

植物の育成については、頼れる先輩たちがいるので未経験でも大丈夫。大切なのは、花が増えて、街やコミュニティが豊かになる未来を、一緒に思い描けることだと思います。



秋田緑花農園に行くのは、3回目。

西武新宿線の田無駅から路線バスも出ているけど、私は家が近いので、いつも自転車で行く。

大きなトラックに注意しながら、東京郊外の都道を走る。農園に続く角を曲がると、急に景色が変わり、青々とした麦畑が見えてきた。歩道の境には、きれいな紫色のラインが走っている。

あれはなんだろう。

近づいてみると、一つひとつは小さな花。シバザクラというらしい。

この麦畑は、秋田緑花農園が管理していて、初夏には近所の子どもたちと一緒に刈り取りのワークショップなどに取り組んでいる。

きっと農園のみんなが「畑で麦を育てるだけじゃなく、そばに花が咲いていたら、通りがかる人も楽しいよね」なんて話しながら、植えたのだろう。

春爛漫、いろんな花が咲き乱れる農園のなかに、農園の12代目で代表を務める秋田茂良さんと、共同代表の小森妙華さんを見つけた。

小森さんはもともと福岡で「ハナモミジ」という花屋さんを営んでいて、この農園から花を仕入れていた。

そんなふたりが数年前からタッグを組み、生産の現場から直接、花の楽しみを伝える仕掛けづくりに取り組んでいる。今は、農園にあるひとつの事務所のなかに、ハナモミジのオフィスも同居して、まさに二人三脚の経営。

そうやって並ぶと、ご夫婦に見えますね、と言うと「私たち、最近結婚したんですよ」とのこと。どうりで…!

3年前、はじめて取材に来たときは、まだ秋田さんと、ご両親、少人数のスタッフだけのこぢんまりとした農園だった。今は、秋田さんのお姉さんや、ハナモミジのスタッフ、小森さんが開くブリコラージュフラワー教室の生徒さんも農園に通うようになり、かなり賑やかに。

「そうだ、うちのケヤキって見たことあります?」と、秋田さんが母屋の裏手に案内してくれた。

「これはうちの家族がここで農業をはじめた当時からある木で、樹齢は200〜300歳くらいだと思います」

「ご先祖さまが、僕たちの仕事ぶりをいつも見ているみたいで、僕はちょっと緊張します(笑)。この木、僕が農家を継いだころは、あまり元気がなかったんだけど、最近、農園の井戸を使う頻度が増えて、地下水の循環が良くなったせいか、以前より生き生きしているんですよ」

家族経営だった時代は、秋田さんが一人でほぼすべての業務を掌握しなければ生産が進まなかったけれど、最近は少しずつスタッフに管理を任せ、新しいプロジェクトにも取り組めるようになってきた。

これから特に力を入れようとしているのは、花の育種。

「市販されている園芸の花は外国産の品種が多いんですよ。海外のライフスタイルに合わせて開発された花だから、日本人の感覚からするとちょっと派手に感じるところもあって。もう少し日本の四季に馴染む色味の花をつくろうとしているところです」

秋田さんが開発中の花はどれも、微妙なニュアンスの色合いで、柔らかく深みがある。並べるとたしかに和の色見本帳みたいだ。

とはいえ相手は生き物。人間の思い通りの色はなかなかできない。一つひとつ手作業で受粉させる地道な作業を続けながら、数年かけて、品質を安定させるのだという。

「植物って、元気がよければ美しいかというとそうではなくて。そこにある勿忘草も、普通に育てると、葉が茂りすぎて野暮ったい印象になる。だから、蕾がつくまでは水や肥料を控えめにコントロールしているんです」

「生産に携わる一人ひとりも、『こういう花があったらいいな』『将来こんなふうに育ったら、きれいだな』っていう美意識は持っていてほしいですね」

この農園に来ると自然と心動かされるのは、ただ花がたくさんあるからではなくて、細部まで秋田さんたちの意識が行き届いているからなんだなあ。

今後は、ハウスの中だけでなく、母屋のそばの畑で果樹や切り花の栽培に取り組み、さらにそれをワインやジャムなどに加工する仕組みをつくっていきたいという。

「あとは今、苗の直売所の隣にカフェを設ける計画も進んでいて。これから農園全体を大きな庭のような空間に仕上げて、近所の人が安らぎを得られるような場所にしていきたいんです」

公園とも、植物園とも違う。言うなれば、東京の隅っこにぽっかり現れた裏庭みたいなこの農園。

ここで草花と触れ合うよろこびを知り、自分の庭にも植えてみたいという人が増えれば、街全体に花が広がっていくかもしれない。

一方で、農園では慢性的な人手不足。女性スタッフが多いため、土を運ぶなど力仕事の大変さを痛感することも。

日々の業務には、水やりや消毒、草取りなど、細かい作業もあれば、スケジュール管理など視野を広げて考える仕事もあったり、ときにはトラクターを運転したりと多岐にわたる。

植物の様子を細かく観察する集中力と、全体を俯瞰して仲間と協力する視野の広さ、そのバランスが大事なんだと思う。



今、秋田緑花農園の主戦力として、出荷など全体のマネジメントを担っているのは、2年前に入社した野中さん。1年ぶりに、心境を聞かせてもらった。

「去年の今ごろは、『とにかく、頑張るぞ!』って、やる気に満ちていたんですけど、1年やってみて、頑張るぞ!だけではうまくいかないこともよくわかりました(笑)」

もともとは病院の栄養士として働いていた野中さん。植物の扱いは、ここで一から身につけると同時に、アプリを導入したスケジュール管理など、前職の経験を生かして業務の効率化にも精力的に取り組んできた。

一方で、スタッフの入れ替わりや、新事業の立ち上げなど、現場の環境が変わるたびに体制を整え直さなければいけない難しさもあったという。

「まだまだ組織としては未完成だし、新しいプロジェクトも次々にスタートする。ルーチンワークはありません。自分の仕事はここまで、って線を引いてしまうと業務が回らないし、かといって、なんでも自分が巻き取ろうとすると、苦しくなってしまう」

「大所帯になった分、確認や共有のプロセスも複雑になって。私も一時期は、いろんなことを自分一人でやろうとしすぎて、なんで自分ばっかり、いつになったら楽になるんだろう、って落ち込んでいたこともありましたね」

その気持ちに、どうやって折り合いをつけたんですか?

「どんな仕事にも大変さはある。だったら、自分が置かれた環境のいいところに目を向けようって決めたんです。農園の人はみんないい人ばかりだし、社長も誰かのミスを頭ごなしに叱ったりはしない。なにより、朝、花たちに水をあげる時間はすごく気持ちいい。心が和ぐ瞬間ですね」

一口に農園のスタッフと言っても、役割はそれぞれの適性によっていろいろ。農園全体の様子を見ながら、得意なことを活かしあえるといい。

「今はとにかく人手が足りないし、新しく入る人に期待する部分もありますが、背負いすぎると身がもたないと思うので、多くは望みません。とりあえず変化を受け入れる柔軟ささえあれば、一緒にやっていけるんじゃないかと思います」



変化の多い環境を楽しみながら働いているのが、広報担当の宇賀神(うがじん)さん。もともとは「ハナモミジ」のスタッフとして福岡で働いていたのだけど、この春から農園の一員としてこの東久留米にやってきた。

移住ですか。

「というか、転勤ですね。私は飽き性なので、変化も楽しいですよ。広報やデザイン周りなど、ハナモミジのときと同じ仕事をしているはずなのに、こっちに来てからはいつも土まみれで、手に傷が絶えないんです(笑)。今、ショップの改修で、ものを運ぶ作業が多いからかな」

小森さんたち「ハナモミジ」チームが連携するようになってから、写真や農園のSNSも強化された。以前は素朴な納屋のような雰囲気だった事務所には、素敵な撮影ブースができていた。

日々の様子を写真に収めるのも、宇賀神さんの仕事。

「ハナモミジは花屋だったので、花を旬の状態で見ることが多かったんですが、農園ではこんな小さな芽から数ヶ月かけて、育てていく。スタッフ一人ひとりが根気強く愛情を注いでいて。秋田さんのところの苗が元気で可愛い理由が、よくわかりました」

「ただ、花を愛でる気持ちが強すぎると、苦しい仕事なのかもしれませんね。商品として出荷する以上、どれだけ健気に咲いていても、形が悪いものは処分しないといけないから」

宇賀神さんと話している後ろのハウスでは、ブリコラージュフラワー教室の生徒さんたちが着々と作品を完成させていく。

“小森先生”は、細かい指導をすることなく、それぞれが思い思いの花に手を伸ばしながら寄せ植えづくりを楽しんでいる。

「私も小さいころ、母が花を植えていた光景をよく覚えています。たぶん、そこの麦畑の風景も、近所で育った子たちにとってはかけがえのない思い出になるはず」

「秋田さんたちは、『花を通して地域をよくしたい』っていつも口にしていて。それは私も、すごく共感します。花が人の心に与える影響は大きいし、それは究極、世界平和につながっているんじゃないかなって思います」



「花よりだんご」という諺もあるけれど、こんな時代だからこそもう一度、花が持つ力に目を向けていきたい。

花がある日常の豊かさを、一緒に広げてくれる人を探しています。

(2022/4/8 取材 高橋佑香子)

※撮影時はマスクをはずしていただきました。

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