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北の果て
塾がなかったまちの
新しい放課後

その土地でしか見られない景色、味わえない食べもの。

それと同じように、その土地だからこそできる教育があるんじゃないか。

最寄りの都市から車で3時間、人口7500人の小さな町で、新たな挑戦が始まっています。

北海道枝幸町(えさしちょう)。ホタテや毛ガニをはじめとする海の幸が豊富で、冬には流氷がやってくる港町です。この町唯一の高校では、3 年前から「ふるさと教育推進プロジェクト」が始まっています。

生徒は全員、地元で生まれ育った子どもたち。高校生のうちにこの町でたくさんの経験をしてほしいという考えから、町の大人と対話するプログラムや、生徒一人ひとりの進路実現をサポートする公営塾がスタートしました。

今は土台ができて、さらにステップアップしようというタイミング。今回は、プロジェクトの中心的な役割を担っている塾で働く講師を募集します。


羽田空港から旭川空港まで、およそ1時間半。そこから車でさらに3時間北に向かう。

時折エゾシカやキタキツネとすれ違いながら、道路をひた走る。枝幸町の中心部まであと少しというところで、目の前がぱっとひらけてオホーツク海が見えた。

漁業がさかんな枝幸は、漁港を中心に町がコンパクトにまとまっている。

役場でお会いしたのは、まちづくり推進課の札場(ふたば)さん。

「6月の今も最高気温が10度に届かなくて、毎日ストーブを焚いています。桜も今見ごろですよ」

枝幸を訪れるのは2年半ぶり。前回は、ふるさと教育推進プロジェクトの立ち上げのタイミングだった。

プロジェクトの舞台は、北海道枝幸高等学校、通称「枝高(えだこう)」。町にただ一つの高校だ。

「枝高の特徴は、生徒全員が枝幸で生まれ育っていること。枝高生はほぼ全員が幼なじみです」

地域の子どもの受け皿となっている枝幸高校には、大学を目指す子もいれば、小中学校の勉強からやり直す子も、卒業してそのまま家業を継ぐ子もいる。

「枝高は、都会の高校とはずいぶん違うと思います。ファストフード店も塾もないこの町では、高校生活も学校と家の往復で終わってしまうんです。ほかの地域から離れていることもあって、枝高が唯一の選択肢だったという生徒も少なくありません」

「枝高生には、いろいろな経験をしてほしくて。地域の大人と関わることで、『自分はこのために学校に行くんだ』と生徒自らやる気スイッチを押して、将来の選択肢を増やしてもらおうというのがこのプロジェクトです」

プロジェクトの柱の一つが、町の大人と高校生が関わるオリジナルのプログラム。

前回の取材では、「枝幸の魚介が抜群においしいのはなぜなのか、地元の漁師さんと一緒にホタテを食べたりしながら話したい」というアイデアもありましたよね。

「はい。新しい取り組みは2年前からスタートしました。1年生の総合的な探究の時間を使って、漁業や酪農の見学、東京の大学生と一緒に町の観光を考えるワークショップなどをおこなっています」

今はまだ社会科見学の色が強いけれど、将来的には、高校生と大人が直接かかわる機会を増やしていきたい。

「町にも、高校生と一緒に何かをしたいという方はいて。たとえば鮮魚店のオーナーは、枝幸の魚介類を使って料理をして、その動画でお店を広報するというアルバイトを提案してくれました。高校も今年からアルバイトが解禁されたので、形にしていきたいです」

昨年末には、高校と商工会、役場による協議会も発足。メンバーの力を借りながら、少しずつ活動をブラッシュアップしていこうとしている。

そしてもう一つの柱が、高校生のための公営塾。

生徒一人ひとりの学習支援やキャリア教育を目的にオープンした塾は、今年4月に一周年を迎えた。

「生徒が勉強に集中できる環境が生まれたこと、放課後も夜までいられる場所ができたことは大きな変化でした。講師2人が生徒のためにいろいろと工夫してくれているので、ぜひ様子を見に行ってみてください」



塾のオープンにあわせて高校へ向かう。4階の教室をのぞくと、生徒たちの声が聞こえてきた。

「90点でした!」「英語の学年一位って誰だったの?」

テストの結果を話しているのかな。

「今日は中間テストの返却日だったんです。ここで赤点をとると、せっかく解禁になったアルバイトもできません。表情を見たら結果が分かると思います」

そう話すのは講師の浅野さん。日本仕事百貨の募集をきっかけに、おととしの秋に着任した。

枝幸に来るまでは、関東の大学院で数学を専攻していた。もともと公営塾は知っていて、ほかの地域の塾を見学したこともあったそう。

「高校生と対等な立場で話す講師のあり方がいいなと思っていました。そんななかで枝幸の募集を見て、『町の大人を巻き込んで、生徒のやる気スイッチを押したい』という言葉にピンときたんです」

塾では自学自習が基本。教科は英数で、わからないことがあれば浅野さんたちに質問することができる。ときには生徒が先生役になって、授業をおこなう日もあるのだとか。

塾には全校生徒の4割である55人が通っている。これだけ多くの人数が通うのは、全国の公営塾のなかでも珍しいという。

「進学希望ではない子も通ってくれています。部活終わりで疲れていても、真面目に机に向かっていて。勉強したい、もっとわかるようになりたいと思っている子がこんなにいることが新鮮でした」

「今は講師が2人なので、通塾もひとり週2回に制限しているんですけど、本当はもっと来れるようにしたいし一人ひとりに時間をかけてあげたい。講師が増えれば、生徒たちも喜ぶと思います」

昨年度は国公立大学に4名進学するなど、目に見える成果も出てきた。

「最近はもっと勉強に親しんでもらえるような企画も始めていて。あさのの挑戦状といって、数学の特別問題を用意しています」

たとえばこの日は、「貯金箱には610円入っていて、全部で小銭が16枚です。10円玉、50円玉、100円玉は何枚?」というお題。

謎解きクイズのようで、つい紙とペンが欲しくなってしまう。

「数学が苦手な子が多いんですけど、これなら数学っぽくなくて、頑張ったら解けそうですよね。数学は納得いくまで考えるのが醍醐味だと思うので、じっくり考えている姿を見るとうれしいです」

生徒と年齢が近いからか、取材中もときおり生徒から「ちょっと、浅野さん!」と笑いながらつっこまれていた。生徒たちにとって、塾は大切な居場所にもなっているんだろうな。



一年間かけて、学習支援の場をつくってきた公営塾。

塾長の齊藤さんは、次のステップを模索している。

以前は、東京の民間塾の教室長を務めていた齊藤さん。

塾に通いながらも、どうしても勉強を頑張れない子どもたちがいることが気にかかっていた。

「朝から学校に行って、放課後塾でも勉強する一日のなかで、自分はやっぱりできないんだと思う瞬間が一体何回あるんだろうと思って。自分自身で勉強する理由を見つけられないと、勉強はつらいだけなんじゃないかという危機感がありました」

「そのタイミングで枝幸の募集記事を見て、『勉強を頑張る理由を見つけるサポートをしたい』という表現に惹かれて。立ち上げというのも面白そうだったし、どうせやるのなら北か南、行けるところまで行ってやれと(笑)。そこで何かができたら本物だと思ったんですよね」

枝幸の高校生と会話して、どんなことを感じましたか。

「こうしなきゃいけないと考えている子が多い印象です。先生にいつまでに進路を決めろと言われたから決めなきゃとか、親に大学に行っちゃだめと言われたから大学に行かないとか。でも本当は職業なんていっぱいあるし、転職したっていい」

「塾ではもっと多様な生き方に触れるきっかけもつくりたいんです。ただ勉強を教えるだけでも感謝してもらえるかもしれないですが、それだけだとふるさと教育は実現できないと思っていて」

今、齊藤さんが企画しているのが、3カ月間のキャリア講座。

「尊敬している人は誰?」「自分が好きなこと、得意なことは?」と自己分析をして、商工会や役場の方など、地域の大人とも会話する場を設けたいと考えている。

身近にいる大人は、高校時代どんなことを考えていたんだろう。悩みはあった? 枝幸で働いている理由は?

親や先生だけではない大人の声を、直接たずねてみてほしい。

「プロジェクトは、将来枝幸に戻ってくる人を育てるという目標があります。そのフックになるのは、やっぱり地元の人だと思っていて。地元の子どもが通う枝高だからこそ、高校生のうちから大人と触れ合う意味は大きい。公営塾はこれから高校生と地域をつなぐハブの役割も果たしていきたいです」

枝幸は、都会の高校生ほどめぐまれた学習環境があるわけではない。

けれど、高校生と大人が間近にかかわりながら学んだり、一緒に進路を考えたりできるのは、この小さな町ならではかもしれない。

「都市部の高校を真似ても意味がないと思っていて。僕らは違うところで抜きん出なくちゃいけない。その抜きん出るものが一体何なのかを見つける仕事なんだと思います。一体あと何年かかるんだという話ですが(笑)」

「塾の方針や取り組み内容も、かなり自由に決められる環境です。いわば第二の立ち上げ期なので、北の果てで挑戦したいという方にぜひ来ていただきたいです」



高校の先生は、塾のことをどう思っているんだろう。塾と学校をつなぐ窓口を担っている佐藤先生にも、話を聞いてみる。

「これまで枝高生の放課後は、部活か進学希望者向けの講習の二択でした。そこに塾が加わって、さらに予想よりもかなり多くの生徒が通うようになって。部活に入っていないけど友だちと過ごしたい、進学は考えていないけど勉強したいという生徒がこんなにも多かったんだと、僕ら教員も驚きました」

「僕もときどき塾を見に行くんですけど、みんな頑張っています。枝高生にとって、塾は高校生活とは切り離せない場所になっているんじゃないでしょうか」

講師の事務室が学校内にあるため、授業のあいまに情報交換をおこなうこともある。

枝幸高校の先生は、塾講師の二人と同世代の方が多いこともあり、フラットな関係をつくれているという。

「授業のオンライン化やアルバイト解禁、塾の開設など、枝高はこの数年で大きな変化を迎えています。今後は、これらをさらに良くしていくために何をすべきか考える段階だと思っていて。お互いの視点を尊重しながら、子どもたちの『自分を伸ばしたい』という気持ちに応えたいと思っています」

北の小さな港町。町に新しい風を吹かせた塾は、これから座学以上の経験を届けようとしています。

この町の高校生にどんなことができるだろう。

どのような体験も、この町の高校生は吸収してくれると思います。

(2022/6/6取材 遠藤真利奈)
※ 撮影時はマスクを外していただきました。

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